ヒノモトノタビ

イチ

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7話:司書蟲

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2人を追い越していく帝国の車両。すれ違う警備兵。

2人は、ガスマスクを着け東宮御所沿いの道を歩いていた。


「さあ、この道を通って、あそこを右に曲がるぞ。四ツ谷駅まではすぐに着く。」
「分かりました。」

車両が巻き上げる粉塵を拭き取りながら、シンヤが話し始めた。

「ところで、ここ『東宮御所』はな、神皇の…」

すぐにユウが遮った。

「フィルターは1秒でも長く使いたいです。話は地下で。さっさと行きましょう。」
「お、おう。」

ーーーーーーーーーーーーーーー
神歴33年4月10日


現在地:市ヶ谷駅


 地上でも四谷駅でも、シンヤさんは少し喋り好きすぎる気がする。地下ならまだしも、外ではフィルターの減りを早め、敵にも気づかれやすくなる等悪いことが多い。ただし、恐怖を紛らわすには、有効だとは思う。
 結局、今日は四谷駅から一駅次の、市ヶ谷駅に泊まることになった。うまく寝床を確保できたのは幸運だ。
明日も上手くいくとは限らないが…


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「東大前駅」から地上へ出た2人は、『東京大学』を目指していた。


「あの駅、本当に書物だらけでしたね。さすが『学問駅』、と揶揄されるだけあります。」

「そうだな。この先の『東京大学』ってとこが本の出何処らしい。
だから、俺たちも持てるだけ持って帰れば、旅費の足しになる!はずだ!」

「もう、取り尽くされてそうですけどね…
そもそも、大学って一体なんです?」

「うーん、学問所というか…勉強をする場所だったとよ。特にここ『東京大学』は有名だったとか。」

「なるほど…と、ここは…図、書…館か。入りましょう。」


入り口付近はガラスが散らばっており、歩くごとにジャリジャリと音を立てた。
図書館の中は薄暗く、不気味な雰囲気を醸し出していた。

一瞬、何か動いた気がした。


「…えらく本が残ってるな。意外と、蔵書漁りは危険なのか?」

「どうします?何か動いた気がしましたが…戻ります?」


いや、行こう。と、ベネリM3を構えながらシンヤは歩を進めた。


自分たちの足音以外、何の音もしない事を変に意識してしまうユウ。

この妙に寒気立つ空気に、ユウは不安を覚えた。


シンヤに、再度戻る事を提案しようと口を開く。

その瞬間、 何かが視界の端から伸び、シンヤの持つM3を挟んだ。

「なっ…!?」
「シンヤさん!耐えて!」

ユウは日本刀を抜き、崩れた棚の下から伸びる「何か」を斬り断った。

「うおっ」

反動でシンヤが尻餅をついた。
ベネリM3に引っかかった「何か」を見る。

「なんですかこれ、ペンチ…爪?」

二股の鉤爪のような、鋏状の爪だった。

「やっぱり、ここ危ないですよ。離れましょう。」

声を潜めるユウに、ズンッと振動が全身に駆け巡った。
見ると、脇腹に鋏状の爪が突き刺さっている。


「クソっ!」

咄嗟に刀を振るう。案外、簡単に切り離せた。

その爪の出所に目を向けると…

蟲型の獣蟲が、暗闇に佇んでいた。この伸びる鋏状の爪は、奴の顎だったのだ。


「二股…伸びる…鋏状…そうだ、『地ヤゴ』だ…!
ユウ、傷は!?」

「ジャンパーのおかげで傷は浅いです…!それよりこいつ、なんです?地ヤゴ?」

「ああ、傷付けられたか!マズイ、
説明は後だ!とりあえず出口まで走れ!」

訳も分からず、ユウは出口に向かって走り出した。


…地ヤゴ
その姿や、瞬時に伸びる下顎から、トンボの幼虫「ヤゴ」の変異とされ、この名が付けられた。

しかし、伸ばした下顎で獲物を引き込み捕食する「ヤゴ」とは異なり、「地ヤゴ」は牙に毒を持つ。
顎は破壊されてもその日のうちに生えてくるため、その日の食料たる生物に噛み付く事が出来れば、破壊されようが問題無いのだ。

「グッ…?」

走るユウの視界が歪む。途端に足が重くなる。
耳鳴り。散弾銃の発砲音すら遠くに聞こえ始めた。

自身の身体が、次々と異常を訴え出す。もはやユウには、身体を制御することが出来なくなりつつあった。


…地ヤゴの神経毒は特殊で、獲物をしばらく生き長らえさせる為に、呼吸器官には影響を及ぼさない。


何も聴こえなくなり、焦点も定まらない。
体のどこにも力が入らない。
ユウは、動かぬ自分の体が倒れたのを感じ、そのまま目を閉じた…
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