ヒノモトノタビ~終末開拓記~

イチ

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1日目:発電機修理

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アールデコ様式の「生土発電所」本館。
中に入ってみると、物やガレキが散乱しかなり荒れている。掃除に骨を折ることになりそうだ。


「それじゃあ、俺と糸川、伊藤で発電機の状態をみてくるよ。
…ここの掃除は頼んだぞ。」

ライフルを携えた酒井が、技術者2人を連れて外へ向かった。


「さあ!やるわよ!小林さんと石井さんとアカギは他の部屋の安全確認!
他の子らで寝床の確保よ!」

次席の明石ユウコが皆を促した。


◇    ◇    ◇    ◇


「とりあえず、沈砂池と貯水池を見に行こう。
水を流してから何かいる事に気付いたらやっかいだ。」

酒井が歩きながら、他2人に話しかけた。
そうですねぇ、と伊藤がぼんやりと相槌を打つ。気味の悪い獣蟲と遭遇することを憂いているのだろう。

「いるとしたら、どんなやつなんですかね。」
「そうだな。大きいと言っても池だからな。水中の広さと餌も限られる。
大きな獣蟲なら、陸地に上がれる甲殻類や両生類系統だろう。

…ほら、見えてきた。」

酒井に言われ、2人も気付く。
ボロボロのフェンスに囲まれた貯水池が見えてきた。

水面は水草に覆われており、一面緑だ。どうにも青臭い。


「やっぱりな…見ろ、あれ。」

酒井が指差す方を見ると、水槽の中ほどの水草が線を引くように揺れていた。通り過ぎた後は、水面が渦を巻き、水草がくるくると回転する。
なにかが下で泳いでいるのだろう。

「魚にしちゃ渦がでかいですな。
どれ、石でも投げてみるか。」
糸川が落ちていた石を拾い、放り投げた。
石は、放物線を描き飛んでいく。丁度水草が揺れている辺りに落ちようとすると、突如水面が盛り上がった。
大きな音を立て、巨大な生物が姿を現した。

茶色く、ぬめった肌。
丸みを帯びた口元。

「オオサンショウウオ…!?」

目が、合った。そう伊藤が呟いたのを皮切りに、3人は駆け出した。

「思ったより、でかかったすね!」
「3人じゃ対処しきれん!ひとまず防壁と寝床の防御が先決だな。」

「発電機の修理箇所が、外じゃなければいいですな。
修理中にあんなのに襲われるのは、ゴメンですよ!」

後ろを見ても、奴が追いかけてくる様子はない。
3人は走るのを止め、そのまま発電機室を目指した。



発電機室の前に来た3人は、少しだけ開いている扉に手を掛けた。
そのままゆっくりと引いていく。

「こいつ、錆び付いてますね。」

細身の伊藤には少しキツイようだ。
酒井が周囲を警戒しながら、頑張れと声をかける。

重い音を立て、扉が開いた。
発電機室の中は、そこまでスペースはなかった。中を見渡すと、いくつか棚がある。使える物もあるかもしれない。

酒井が発電機を調べる。
「フランシス水車か…」
「そりゃ発電方式ですか?
どういったもんなんですかね。」
「私が答えましょう。」

糸川の疑問に伊藤が答える。

「水の圧力と速度をランナーと呼ばれる羽根車に作用させる構造の水車だよ。高祖日本国の水力発電所ではスタンダードな水車さ。」

ふーむ、と糸川が唸る。

「機械弄りの得意な君ならすぐに理解できるだろう。」
酒井にそう言われ、少し嬉しそうな糸川。
伊藤は室内に遺された道具などを集めることにし、2人は発電機をさらに調べる。

「うーん…案内羽が曲がってるな…」
「導水管のこの箇所、穴が空いてますね。」

直さなければならぬ箇所は多い。だが、そこまで難仕事ではなさそうだ。
ただ、時間はかかるだろう。


◇   ◇   ◇   ◇


伊藤が見つけてきた交換部品を使い、案内羽の修理を行う。
この「案内羽」は、発電機に入る水量を調節する意味がある。

「よし…残りは明日にしよう。明日は小型発電機を持ってきて、溶接も出来たらいいな。」
「それじゃあ帰りま…もゴッ」

伊藤の口を酒井が塞いだ。
口に指を当て、『静かに』と伝える。
耳を澄ますと、湿り気を帯びた重量感のある足音が聞こえてきた。

「奴だ…」
声を潜めて糸川が呟いた。

「まずい…仲間達の方へ向かってるな。…ここで追い払おう。
皆、銃を用意しろ。」

酒井はそう言うと、ライフル…豊和M1500ボルトアクションライフルを構えた。
この銃は元々警察などで採用されていた狙撃銃だが、かなりガタがきており、スコープも無い。
本来の用途である『狙撃』には事足らないが、充分戦える。

2人も回転式拳銃…ニューナンブM60を取り出した。
伊藤のM60拳銃には、手作りの折り畳みストック(銃床)が付けられている。これに肩付けすることにより、反動を抑え命中率があがるのだ。手先の器用な伊藤ならではの工夫だった。


3人が外に出ると、オオサンショウウオが背を向け、皆がいる本館へ向かっていた。

「で、でけぇ…」

体長5mは超えているだろうか。
手足は短く、地表を歩くのには向いていなさそうだ。

「なんでわざわざ…まあいい、撃て!」

酒井の号令を聞き、2人は拳銃を撃ち始めた。
オオサンショウウオがぎょろりとこちらに振り返る。
今度は酒井がオオサンショウウオの口を狙い発砲した。

拳銃より大きな口径の弾を受け、オオサンショウウオは驚いたようだ。

「ンンンーーーーー」

と低い唸り声を出すと、古いフェンスを突き破り、川の方へ逃げていった。

「今回は逃げてくれましたね。ですが次は…」
「分からんな。ああいったデカブツは、特に。」
 
「今からでも遅くありません。寝床の出入り口や窓の強化だけでもしておきましょう。」

3人は発電所本館へ向かって走り出した。
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