6 / 6
嵐の前
門関の本意
しおりを挟む
黒のロールスロイスは首都高速を北に向かっている。その車の中で門関は呟いている。
今日の門関の顔は険しい阿相や秋屋に見せる含み笑いさえない。
「防衛省の方はどうなっているのか」
”国際戦略を考える研究所”に勤める息子に門関は問いかけた。
「どうなってるもなにも、準備不足も準備不足。雨あられと振ってくるであろう爆弾を竹やりで迎え撃とうとしている状況だよ。そもそも日本の防衛戦略は冷戦時代からアップデートされていない。無理もない。日本などの敗戦国は、軍事的には戦勝国である2大国の支配下に置かれたわけだけど、結果として、戦争の危険は遠ざかり、経済成長に邁進できた。言わば漁夫の利を得た格好だね。その世界情勢が変わりつつあるのを認めたくないわけさ。」
「だから言わんこっちゃない。私が総理の時にどんだけそのことを言おうとしたか」
そのたびに、永田町の利権屋達は立てついた。「戦争になるようなことをして何になる」と
「戦争になるようなことをしてるわけではない。戦争になったときのためのことをしようとしたのだ」
門関は当時のことを思い出して一人憤慨した。
門関にとって今の阿相政権は忌々しい。大人しくしていたから敵は攻めてこなかった。そんなものは戦略でもなんでもない。とにかく世界の揉め事に関わらまいと内へ内へこもろうとする。そう世間でよく例えられる通り亀だ。
だが、政争として考えると面白い。外交を拒否し、日本にこもって生きようとする阿相政権。その阿相政権がどうしようもできない敵、例えば”北の大国”が攻めてきたら・・・それ見たことかと世間は言うだろう。外交を拒否し、日本が孤立したせいで、とても勝てない強敵に一人で立ち向かわないといけない。そう、確かに”頼りになる同盟国”はある、だが、日本の代わりに戦ってくれるわけではない。そのとき、”頼りになる同盟国”がどう動くは、”国際戦略を考える研究所”に勤める息子がよく知っている。
そのとき、阿相政権はなすすべもなく呆然自失となるだろう。そこへさっそうと私が現れる、日本を救う救世主(ちょっと大袈裟か)として、国民は拍手喝采。私を欺いてきた政敵どもは意気消沈。
「はっはっは。愉快愉快」
門関は車の中で大笑いしだした。運転手や息子にとっていつものことなのでさして気にしない。
「権力闘争のために、戦争をするだなんてどこでもやっていることだ。いや、そもそも戦争がなければ政治家なんていらないだろ」
「トントントンカラリって奴。あれは世界大戦のとき、隣組で歌ってたやつだ知ってるか?」
息子の沈黙は知らないことを示している。
戦争は国民を一つにする。歴史上、様々な英雄がそれを利用した。そしてそれに俺もなる。未来のことは誰にもわからない。門関にも自分の寿命はわからない。もし、人が全て平均というものに縛られるとすれば、門関もあと10年ぐらいの命となる。
10年あれば何ができる。政敵を排除した新しい国(門関にとって)の権力を、あと10年も握れるのだ。
「ニヤリ」
門関に含み笑いが浮かぶ。
世間はこの国を安全だと思っている。だが、”北の大国”のことは口に出さないだけなのだ。もし、侵略されたとき、その結果はあまりに残酷で、世間は考えることすら拒否している。そのためか、日本の防衛ラインはあまりに北には無防備なのだ。
門関は眉間にしわを寄せる。政治家とは因果な職業だとつくづく思う。そのことは国民にとってどれだけ不幸なことはわからない。だが、その不幸が飯の種であり、権力の元となるのだ。
門関は世間が口にすることすらない、その危険をつこうとしている。勝つには人と同じことをしていてはいけない。それは門関の持論でもある。世間がその計画を知ったら頭がおかしくなったと言うかもしれないとしても。。。
今日の門関の顔は険しい阿相や秋屋に見せる含み笑いさえない。
「防衛省の方はどうなっているのか」
”国際戦略を考える研究所”に勤める息子に門関は問いかけた。
「どうなってるもなにも、準備不足も準備不足。雨あられと振ってくるであろう爆弾を竹やりで迎え撃とうとしている状況だよ。そもそも日本の防衛戦略は冷戦時代からアップデートされていない。無理もない。日本などの敗戦国は、軍事的には戦勝国である2大国の支配下に置かれたわけだけど、結果として、戦争の危険は遠ざかり、経済成長に邁進できた。言わば漁夫の利を得た格好だね。その世界情勢が変わりつつあるのを認めたくないわけさ。」
「だから言わんこっちゃない。私が総理の時にどんだけそのことを言おうとしたか」
そのたびに、永田町の利権屋達は立てついた。「戦争になるようなことをして何になる」と
「戦争になるようなことをしてるわけではない。戦争になったときのためのことをしようとしたのだ」
門関は当時のことを思い出して一人憤慨した。
門関にとって今の阿相政権は忌々しい。大人しくしていたから敵は攻めてこなかった。そんなものは戦略でもなんでもない。とにかく世界の揉め事に関わらまいと内へ内へこもろうとする。そう世間でよく例えられる通り亀だ。
だが、政争として考えると面白い。外交を拒否し、日本にこもって生きようとする阿相政権。その阿相政権がどうしようもできない敵、例えば”北の大国”が攻めてきたら・・・それ見たことかと世間は言うだろう。外交を拒否し、日本が孤立したせいで、とても勝てない強敵に一人で立ち向かわないといけない。そう、確かに”頼りになる同盟国”はある、だが、日本の代わりに戦ってくれるわけではない。そのとき、”頼りになる同盟国”がどう動くは、”国際戦略を考える研究所”に勤める息子がよく知っている。
そのとき、阿相政権はなすすべもなく呆然自失となるだろう。そこへさっそうと私が現れる、日本を救う救世主(ちょっと大袈裟か)として、国民は拍手喝采。私を欺いてきた政敵どもは意気消沈。
「はっはっは。愉快愉快」
門関は車の中で大笑いしだした。運転手や息子にとっていつものことなのでさして気にしない。
「権力闘争のために、戦争をするだなんてどこでもやっていることだ。いや、そもそも戦争がなければ政治家なんていらないだろ」
「トントントンカラリって奴。あれは世界大戦のとき、隣組で歌ってたやつだ知ってるか?」
息子の沈黙は知らないことを示している。
戦争は国民を一つにする。歴史上、様々な英雄がそれを利用した。そしてそれに俺もなる。未来のことは誰にもわからない。門関にも自分の寿命はわからない。もし、人が全て平均というものに縛られるとすれば、門関もあと10年ぐらいの命となる。
10年あれば何ができる。政敵を排除した新しい国(門関にとって)の権力を、あと10年も握れるのだ。
「ニヤリ」
門関に含み笑いが浮かぶ。
世間はこの国を安全だと思っている。だが、”北の大国”のことは口に出さないだけなのだ。もし、侵略されたとき、その結果はあまりに残酷で、世間は考えることすら拒否している。そのためか、日本の防衛ラインはあまりに北には無防備なのだ。
門関は眉間にしわを寄せる。政治家とは因果な職業だとつくづく思う。そのことは国民にとってどれだけ不幸なことはわからない。だが、その不幸が飯の種であり、権力の元となるのだ。
門関は世間が口にすることすらない、その危険をつこうとしている。勝つには人と同じことをしていてはいけない。それは門関の持論でもある。世間がその計画を知ったら頭がおかしくなったと言うかもしれないとしても。。。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
こういう権力争いのような作品を探していたので見つけられて良かったです。
とても面白かったので、続きを期待しています。
こういう権力争いのような作品を探していたので見つけられて良かったです。とても面白かったので、続きを期待しています。