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第1巻 1期目 閉会~臨時国会前日
[考察]政治家達の蠢動(しゅんどう)
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そうこうしているうちにニュース22の時間になった。
「皆さんこんにちは久留米久志です。今日は外交関連のニュースからです」
今日は阿相首相がインドネシアの首相と会談したというニュースがトップニュースだった。迎賓館で接待した後、歌舞伎やら日本画展やら日本らしい催し物を見物し、最後は経済的な協力関係を確認するといういつもの流れだった。通常それだけなら珍しいニュースでもないはずだが、続いて阿相首相の海外の評判の話題に入る。
「皆さん。海外のメディアでは阿相首相をなんと例えているかご存知でしょうか?」
そういうと隣の女性キャスターがパネルを自分の前に立てた。
「そうです。亀です」
パネルには漫画ちっくな亀の絵が描かれている。
阿相首相は実は海外メディアからは日本の亀のあだ名が付くほど外遊嫌いで有名であった。就任当初はアメリカにこそ行ったものの、定番のゴルフが苦手で不評を買う。その後は、中国、ロシアなどの外交は全て外務大臣任せで自分は日本からほとんど動かなかった。
また、隣国のミサイルや核開発で問題となったときにもあまり干渉しなかったことから、何か都合が悪いことが起こると日本という甲羅に閉じこもる亀のようだと、海外メディアから批判されてしまったのだ。そんな阿相首相が外国の首相と会うなんて珍しいですね。という皮肉が今日のトップニュースには含まれていたらしい。
さて、今までほとんど政治に関係のなかった俺だが、そんな中でも何人か関りを持つことになる。
1人目は政界十常侍の水園寺幸房の息子義光。初登院の日に遭遇し、彼から嫌味を頂戴する。当然、俺は早々に噛みつき返したが、彼の野良犬を見下すような目が印象的だ。しかし、世襲が当たり前の政界においても親子で政治家を続けているのは珍しい。ネットで調べたところによると、この二人の選挙区は中選挙区時代は1つの選挙区で、水園寺幸房の強力な地盤だった。その後、小選挙区制導入に伴い、その選挙区を2つに分け、1つを息子の義光に譲った形だ。当然、野党から批判が上がったが選挙で大敗し、以来、この選挙区は批判も込めて水園寺割りと呼ばれている。
2人目は渦川俊郎。当選を重ねる大物だ。もともと父親は琵琶湖ほとりのホテルの経営者だったらしく、二世ではない。しかし、観光業の強力なバックアップを受けている強者だ。俺は未だに大臣の地位についていると思っていたが、現在は国土交通省の副大臣だそうだ。
以前、ちら見した政権に潜む火種という眉唾な記事によると、政権内部の陰謀も絡んだ降格らしい。俺のような新人議員に議員宿舎の部屋も譲れないようなケチな政治家は降格で当然だとも思うが、まあこの感想は俺の私怨だが。俺を投げ飛ばした小川順子はこの男の政策秘書なので、個人的な因縁が深い相手だ。
そして、3人目は民自党副幹事長狭間譲。直接関わりはないが池山さんをはめた張本人かもしれない。副幹事長という役職の意味がよくわからなかったので調べてみたが、政党の職務を行う役職で一番偉い役職は言うまでもなく幹事長である。じゃあ、副幹事長は2番目に偉いのかというとそうでもないらしく、複数名任命され、党運営の経験を積ませるのが主な目的らしい。そう考えると池山さんほど、恐れて取り乱す必要もなかったと思うが、それは本人の問題なのでもう放っておこう。
テレビを見るとニュース22は若者の就労問題の特集に入っている。かつてニートと呼ばれた世代が就業できないまま高齢化し、内閣府の統計上の数字から漏れているというものだ。自分の人生もこの問題と無縁のものではないが、やっぱり本人の意思で無理にでも社会に出てみるしか道はないのではないかとも考える。こういったことを国会で取り上げてくれるとすれば野党だろうか。
野党側で今まで名前が出てきたのは、初登院前に秘書が電話をかけてきた社由党の沼田隆二。少数政党の小宮出江ぐらいか。
社由党は歴史のある政党であるが昨今は鳴りを潜めており目立った動きはしていない。小宮出江の方は少数政党らしく個人で動いているようだ。女性議員らしく待機児童問題へ積極的に取り組んでいて、最近、待機児童の母親を集めた決起集会のようなものを開いたと取り沙汰されていた。
こうして、何人もの政治家の顔を思い浮かべながら冷静に自分を振り返る。なるほど、自分はこの人たちの誰にも政治家として及ばないだろう。力でも実績でも。なら、どうすればいいのか。このままあたりさわりなくフィードアウトを狙うか、それとも一挙大ばくちを打って勝負に出るか。そこまで考えて、酒瓶に手を伸ばすと空だったので冷蔵庫に酒を取りに行った。
「皆さんこんにちは久留米久志です。今日は外交関連のニュースからです」
今日は阿相首相がインドネシアの首相と会談したというニュースがトップニュースだった。迎賓館で接待した後、歌舞伎やら日本画展やら日本らしい催し物を見物し、最後は経済的な協力関係を確認するといういつもの流れだった。通常それだけなら珍しいニュースでもないはずだが、続いて阿相首相の海外の評判の話題に入る。
「皆さん。海外のメディアでは阿相首相をなんと例えているかご存知でしょうか?」
そういうと隣の女性キャスターがパネルを自分の前に立てた。
「そうです。亀です」
パネルには漫画ちっくな亀の絵が描かれている。
阿相首相は実は海外メディアからは日本の亀のあだ名が付くほど外遊嫌いで有名であった。就任当初はアメリカにこそ行ったものの、定番のゴルフが苦手で不評を買う。その後は、中国、ロシアなどの外交は全て外務大臣任せで自分は日本からほとんど動かなかった。
また、隣国のミサイルや核開発で問題となったときにもあまり干渉しなかったことから、何か都合が悪いことが起こると日本という甲羅に閉じこもる亀のようだと、海外メディアから批判されてしまったのだ。そんな阿相首相が外国の首相と会うなんて珍しいですね。という皮肉が今日のトップニュースには含まれていたらしい。
さて、今までほとんど政治に関係のなかった俺だが、そんな中でも何人か関りを持つことになる。
1人目は政界十常侍の水園寺幸房の息子義光。初登院の日に遭遇し、彼から嫌味を頂戴する。当然、俺は早々に噛みつき返したが、彼の野良犬を見下すような目が印象的だ。しかし、世襲が当たり前の政界においても親子で政治家を続けているのは珍しい。ネットで調べたところによると、この二人の選挙区は中選挙区時代は1つの選挙区で、水園寺幸房の強力な地盤だった。その後、小選挙区制導入に伴い、その選挙区を2つに分け、1つを息子の義光に譲った形だ。当然、野党から批判が上がったが選挙で大敗し、以来、この選挙区は批判も込めて水園寺割りと呼ばれている。
2人目は渦川俊郎。当選を重ねる大物だ。もともと父親は琵琶湖ほとりのホテルの経営者だったらしく、二世ではない。しかし、観光業の強力なバックアップを受けている強者だ。俺は未だに大臣の地位についていると思っていたが、現在は国土交通省の副大臣だそうだ。
以前、ちら見した政権に潜む火種という眉唾な記事によると、政権内部の陰謀も絡んだ降格らしい。俺のような新人議員に議員宿舎の部屋も譲れないようなケチな政治家は降格で当然だとも思うが、まあこの感想は俺の私怨だが。俺を投げ飛ばした小川順子はこの男の政策秘書なので、個人的な因縁が深い相手だ。
そして、3人目は民自党副幹事長狭間譲。直接関わりはないが池山さんをはめた張本人かもしれない。副幹事長という役職の意味がよくわからなかったので調べてみたが、政党の職務を行う役職で一番偉い役職は言うまでもなく幹事長である。じゃあ、副幹事長は2番目に偉いのかというとそうでもないらしく、複数名任命され、党運営の経験を積ませるのが主な目的らしい。そう考えると池山さんほど、恐れて取り乱す必要もなかったと思うが、それは本人の問題なのでもう放っておこう。
テレビを見るとニュース22は若者の就労問題の特集に入っている。かつてニートと呼ばれた世代が就業できないまま高齢化し、内閣府の統計上の数字から漏れているというものだ。自分の人生もこの問題と無縁のものではないが、やっぱり本人の意思で無理にでも社会に出てみるしか道はないのではないかとも考える。こういったことを国会で取り上げてくれるとすれば野党だろうか。
野党側で今まで名前が出てきたのは、初登院前に秘書が電話をかけてきた社由党の沼田隆二。少数政党の小宮出江ぐらいか。
社由党は歴史のある政党であるが昨今は鳴りを潜めており目立った動きはしていない。小宮出江の方は少数政党らしく個人で動いているようだ。女性議員らしく待機児童問題へ積極的に取り組んでいて、最近、待機児童の母親を集めた決起集会のようなものを開いたと取り沙汰されていた。
こうして、何人もの政治家の顔を思い浮かべながら冷静に自分を振り返る。なるほど、自分はこの人たちの誰にも政治家として及ばないだろう。力でも実績でも。なら、どうすればいいのか。このままあたりさわりなくフィードアウトを狙うか、それとも一挙大ばくちを打って勝負に出るか。そこまで考えて、酒瓶に手を伸ばすと空だったので冷蔵庫に酒を取りに行った。
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