会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件

もっちもっち

文字の大きさ
46 / 94
第1巻 1期目 臨時国会

ニートが決起する日③ニートよ政治家になれ

しおりを挟む
「皆さんも政治家になってください!」
の一言に会場は騒然としている。俺はその雰囲気に自分が失言してしまったことに気づいたが、すぐに考えを改める。
 自分は怠惰でいい加減な人間だった。職に就かず実際にニートだったときもあった。だとしたら、会場にいる大勢のニート達と何が違うのだろう。彼らだって立候補して当選すればその日から政治家なのだ。

「私が政治家になったのはほんの数か月前です。それまで定職にこそ就いていましたが、たいした仕事じゃない。食器を売って歩くだけのどこにでもいる普通のサラリーマンでした」
 会場は驚いたままだが皆俺の方を注視している。
「会場の皆さんは誰もが社会に参加する意思を持ってこの講演を聞いているのだと思います。
 しかし、今までは運が悪かったかもしれません。自分がしたい仕事が見つからなかったのかもしれません。だから、ニートだったのです。それでも、こういった機会に自分にふさわしい道を得ようと必死になって企業のブースを巡ったり、先ほどのNPOの人の話を聞いたり、さらに時間をかけて私の話を聞いてくれているのではありませんか。だったら、これから先の選択肢の一つに”政治家”という道があってもいいではありませんか」
 そこまで言いきって一呼吸置く。我ながら無責任なことを言っているなと思う。皆、無職の現状ではまずいから今回の就職相談会に来ているのであって、立候補したところで選挙に落ちたら、その人はニートのままなのだ。

 沈黙がしばらく続いたところで、会場の一人の若者が手を上げる。
「なんでしょうか?」
 これは全くのアドリブだったが、続けて話す内容も考えていないので、その若者を指名する。すると、司会はびっくりしていたが、マイクを持って若者のところに移動した。
 若者はマイクを渡され立ち上がった。
「すみません。突然手を挙げてしまって。しかし、古味先生の政治家になってくださいの一言に感動しました。僕は何年もニートで引きこもっていました。それなのに突然政治家になれるものなのでしょうか」
「なれます」
 質問を投げかけられ余計に開き直る。
「選挙に立候補するのに引きこもっていたかは関係ありません。全てあなたの意志一つです」
「いいかげんなことを言うな」
「だまされるな当選するわけねえだろ」
 黙って聞いていた人たちから反論の声があがる。
「国会議員に当選したからっていい気になるな」
「確かにいい気になっているかもしれません。でも、国会議員じゃなくてもいいじゃないですか。市議会もあれば県議会もある。もっとど田舎(例えば水本上親の五島列島近辺のような)の町・村議会でもいいんです。あなたたちが政治家になりたいと決意すれば必ず道は開けるはずです」

「もう、なんなんですかこの人は。みんなおかしくなっちゃうじゃない」
 これはニートの母親の弁である。
「そうだ。そうだ」
「まじかよ」
 そう言って、腹を立てたニートが何人かステージに近寄ると、続けて何人も近づいてきた。危機感を抱いた司会者が席に戻るよう注意するが、負けずに俺も壇上から飛び降りた。

「うわああああああ」

 その様子に会場には大きな声が上がる。

「あんた。たまたま選挙に当選した古味さんだろ」
「俺、ネットで見てたもん。掲示板が炎上して知名度上がったんだって」
「そうです。だからどうしたと言うんです」
「あんたなんか絶対2回受からない。あんたも次の選挙でニートだから。俺らと同じニートだから」
 感情的になったニートが俺に罵詈雑言を浴びせる。
「そうです。私も次の選挙でニートです。だからこそ言いたい」
 何が言いたいんだという感じで、詰め寄ってきているニートの注目が俺に注がれる。

「ニートよ政治家になれ」

「ええっ!?」
「ニートよ政治家になれって・・・」
 会場がざわざわする。

「僕たちも政治家になればいんですね。わかりました」
 俺の言動に反発した輪の中からひときわ大きな声が上がった。そうすると、何人か賛同したのか、わかりましたと言って会場から出ていく。

「おいおい。みんなまじかよ」
「いいぜ。行こうぜ」

大勢の人が何かを悟ったのか「俺も政治家になると」言って会場を後にして行く。

「あちゃー古味何言ってんだよ。それじゃあ就職相談会の意味がないじゃん」
安富はあきれ顔だ。

 俺もそのまましばらく睨み合っていたが、ニートの輪が解けていくのを見届けると壇上に登り、一礼をしてメインホールを後にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...