54 / 94
第2巻 そして解散へ
渦川俊郎の暴挙
しおりを挟む
「なんとか秋屋君の下にもどってくれんかね」
「それはできません。」
落ち着いているが明らかに譲らないという強い口調が伺える。
ここは首相官邸の総理大臣室。声の主は阿相首相と渦川俊郎である。
秋屋には辞表を叩きつけた渦川だが、阿相首相にはきちんと本心を話した上で、民自党を離党するのが筋道だと考えていた。
思えば、阿相首相の味方でありながらこうして二人で話すのは久しぶりだ。阿相首相が多忙というのもあるだろうが、長く味方であったのだからもう少し自分と話す機会を設けてくれてもよかったのではないか。今回の人事の真意を正そうとしたときにもっと誠実に説明してくれていれば渦川もまた違った姿勢で職務に臨んだかもしれない。
渦川から返答がこないので阿相は少し切り口を変えた。
「内憂外患とはまさに今のことだよ」
内憂は恐らく花火を打ち上げようと躍起になっている野党と火だるまの水園寺のことだろう。外患は当然日本の国境を伺う隣国のことである。
だが渦川にとってそれらはもうどうでもよかった。
「確かに今の民自党はいろいろと問題を抱えている。それはわかっています。解散風などに乗って本当に解散してしまっては、惨敗する可能性もありますね」
「わかっているではないかね。ならなぜ秋屋君に辞表を叩きつけたりした」
普段温厚な阿相も譲らない渦川の態度にいらいらしだしている。
民自党は確かに逆境だ。俺だって政治家になってから今まで民自党で生きてきた。それだけに忠誠を誓って民自党のために働いてきたんだ。それなのに今回の話はなんだ。自分を降格させ嫌味な上司を押し付けたじゃないか。
「私にも守るべきものがある。そして限界がある。それが今回来たということです。」
「上司が気に入らないから仕事を辞めるなんてなんてわがままなんだ君は。就職したての若者が喧嘩して会社を辞めて、そのままニートになるようなもんだよ。」
わっはっはっはと阿相は高笑いだ。
少し黙って阿相は煙草を取り出した。今日の渦川俊郎は頑強だ。阿相にとってもこうして久しぶりに相対する渦川だが、こんなに手ごわい男だったか。。。阿相はとにかく民自党をそして政権を守るために渦川をつなぎとめなければならないと考えた。
このようなときはもう理屈で説いても相手の本心を変えるのは不可能だろう。だとすれば、いかに卑怯と言われようとあの手を使うしかない。
「ところで順子は元気にしているかな?」
「!」
老練なこの政治家は渦川の第一の腹心を下の名前で呼んだ。渦川が一瞬酩酊する。渦川が緒川順子の正体を知らないわけではない。しかし、それはこの老人が自分で捨てたものではないか。それをこのときに限って切り札として使おうというのか。
だが、この日の渦川はそれでもひるまなかった。緒川順子も政界に生きて久しい。いざというときの覚悟をしているだろう。戦う術も持っているはずだ。そして、自分も全力で彼女を守るつもりである。
「私は民自党を離党します」
「離党か・・・・君とは長い間懇意にしてきた。そして頼りにしてきた。だからこそ順子を預けたのだよ。しかし、もし裏切るのであれば、私は君にそれ相応の報いを受けさせなければならない。もちろん君に従った順子にもね」
「それでも結構です。私は自分の政治生命をかけ、行くべき道を歩みます」
豪華なソファーから立ち上がり踵を返すとそのまますたすたと部屋を出て行った。
渦川が去った部屋で阿相首相は一人で考えている。
「いよいよか。まさか信じた者に裏切られこのような形を迎えようとは」
そういいながらも渦川を味方と信じる割にはここ最近の扱いは少々冷たかったかもしれない。それが今回の離反を招いたのは確かだ。しかし、前回は大臣の地位をくれてやったのだから今回ぐらいは我慢するということができないのだろうか?
そう思った阿相だが、渦川が民自党を離れる以上政変が起こるのは確実である。もし、民自党の不満分子を連れ野党と組むようなことになれば、内閣不信任案すらあり得る話である。その結果、内閣総辞職でも解散総選挙による敗北でも、今自分が政権を手放すことは日本の国益のためにならない。阿相は吸い終わった煙草を灰皿に押し付け消した。そして、今打てるべき手と万一に備える手を打つため民自党の幹部たちに連絡を取った。
「それはできません。」
落ち着いているが明らかに譲らないという強い口調が伺える。
ここは首相官邸の総理大臣室。声の主は阿相首相と渦川俊郎である。
秋屋には辞表を叩きつけた渦川だが、阿相首相にはきちんと本心を話した上で、民自党を離党するのが筋道だと考えていた。
思えば、阿相首相の味方でありながらこうして二人で話すのは久しぶりだ。阿相首相が多忙というのもあるだろうが、長く味方であったのだからもう少し自分と話す機会を設けてくれてもよかったのではないか。今回の人事の真意を正そうとしたときにもっと誠実に説明してくれていれば渦川もまた違った姿勢で職務に臨んだかもしれない。
渦川から返答がこないので阿相は少し切り口を変えた。
「内憂外患とはまさに今のことだよ」
内憂は恐らく花火を打ち上げようと躍起になっている野党と火だるまの水園寺のことだろう。外患は当然日本の国境を伺う隣国のことである。
だが渦川にとってそれらはもうどうでもよかった。
「確かに今の民自党はいろいろと問題を抱えている。それはわかっています。解散風などに乗って本当に解散してしまっては、惨敗する可能性もありますね」
「わかっているではないかね。ならなぜ秋屋君に辞表を叩きつけたりした」
普段温厚な阿相も譲らない渦川の態度にいらいらしだしている。
民自党は確かに逆境だ。俺だって政治家になってから今まで民自党で生きてきた。それだけに忠誠を誓って民自党のために働いてきたんだ。それなのに今回の話はなんだ。自分を降格させ嫌味な上司を押し付けたじゃないか。
「私にも守るべきものがある。そして限界がある。それが今回来たということです。」
「上司が気に入らないから仕事を辞めるなんてなんてわがままなんだ君は。就職したての若者が喧嘩して会社を辞めて、そのままニートになるようなもんだよ。」
わっはっはっはと阿相は高笑いだ。
少し黙って阿相は煙草を取り出した。今日の渦川俊郎は頑強だ。阿相にとってもこうして久しぶりに相対する渦川だが、こんなに手ごわい男だったか。。。阿相はとにかく民自党をそして政権を守るために渦川をつなぎとめなければならないと考えた。
このようなときはもう理屈で説いても相手の本心を変えるのは不可能だろう。だとすれば、いかに卑怯と言われようとあの手を使うしかない。
「ところで順子は元気にしているかな?」
「!」
老練なこの政治家は渦川の第一の腹心を下の名前で呼んだ。渦川が一瞬酩酊する。渦川が緒川順子の正体を知らないわけではない。しかし、それはこの老人が自分で捨てたものではないか。それをこのときに限って切り札として使おうというのか。
だが、この日の渦川はそれでもひるまなかった。緒川順子も政界に生きて久しい。いざというときの覚悟をしているだろう。戦う術も持っているはずだ。そして、自分も全力で彼女を守るつもりである。
「私は民自党を離党します」
「離党か・・・・君とは長い間懇意にしてきた。そして頼りにしてきた。だからこそ順子を預けたのだよ。しかし、もし裏切るのであれば、私は君にそれ相応の報いを受けさせなければならない。もちろん君に従った順子にもね」
「それでも結構です。私は自分の政治生命をかけ、行くべき道を歩みます」
豪華なソファーから立ち上がり踵を返すとそのまますたすたと部屋を出て行った。
渦川が去った部屋で阿相首相は一人で考えている。
「いよいよか。まさか信じた者に裏切られこのような形を迎えようとは」
そういいながらも渦川を味方と信じる割にはここ最近の扱いは少々冷たかったかもしれない。それが今回の離反を招いたのは確かだ。しかし、前回は大臣の地位をくれてやったのだから今回ぐらいは我慢するということができないのだろうか?
そう思った阿相だが、渦川が民自党を離れる以上政変が起こるのは確実である。もし、民自党の不満分子を連れ野党と組むようなことになれば、内閣不信任案すらあり得る話である。その結果、内閣総辞職でも解散総選挙による敗北でも、今自分が政権を手放すことは日本の国益のためにならない。阿相は吸い終わった煙草を灰皿に押し付け消した。そして、今打てるべき手と万一に備える手を打つため民自党の幹部たちに連絡を取った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密
まさき
青春
俺は今、東大院生の実験対象になっている。
ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。
「家庭教師です。住まわせてください」
突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。
桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。
偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。
咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。
距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。
「データじゃなくて、私がそう思っています」
嘘をついているような顔じゃなかった。
偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。
不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる