会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件

もっちもっち

文字の大きさ
21 / 94
第1巻 1期目 特別会

渦川俊郎の降格

しおりを挟む
 首相指名選挙が終わり、特別会の残日程では緊急となっている議題や常任委員の選出等が行われるわけであるが、それ以上に与党議員をやきもきさせているのは組閣人事である。

 既に総理大臣に選ばれた阿相元春は組閣に着手しており、民自党の大物議員達は選挙前のような慌ただしさに追われていた。
 そのうちの一人渦川俊郎も大臣の役職を拝命するのを議員会館の彼の部屋でこんこんと待ちかねていた。

「先生連絡遅いですね」
既に灰皿のたばこが満杯になる様子を眺めていた秘書の緒川順子が渦川俊郎にそう声かけた。緒川順子は家族を除けば自他ともに認める渦川の第一の忠臣であり、日ごろから献身的でこのような大事な場面ではかならず傍に控えていた。しかし、今まで何度も危機的な場面に遭遇したことはあっても今日のように落ち着かない渦川を見るのは初めてであった。
 何気なく満杯の灰皿とホットコーヒーの入ったカップを入れ替えたのはこれ以上タバコを吸うと体に悪いという配慮だったかもしれない。しかし、渦川はそれに気づかずカップの皿を灰皿にしただけだった。

 彼は前内閣で厚生労働大臣を務めており、今回も順当に決まれば留任か他の省庁の大臣が妥当だろうと思われた。本人は経済産業大臣かあわよくば財務大臣でもおかしくないと思っている。特に厚生労働大臣時代にやってきた、雇用促進は経済面でもそれなりの評価を受け、本人は税収アップにもつながったんじゃないかと周囲に漏らしていた。

 だが、さきに任命された官房長官の木宮竜彦(きみやたつひこ)からやっとあった連絡は国土交通省”副大臣”を任命するというものだった。

「納得いかない」

 渦川俊郎はその報を聞くや否やドアを乱暴に開け速足で駆け出して行った。その様子を見て緒川順子は訳もわからず泣き出していた。

 彼は始め阿相総理に直接かけ合おうと考えたが多忙を理由に面会を拒否されてしまい、仕方なく行った先は国土交通省の大臣室であった。そこには既に今回国土交通大臣となった秋屋誠二(あきやせいじ)が機嫌よく座っていた。秋屋誠二は福井県の選挙区出身で当選回数10回を数え今年60歳になる。当選回数も渦川俊郎より多く年長であるので、秋屋からすれば自分が上の今回の人事は当然のものと思えるかもしれない。

 しかし、前回の大臣就任が阿相派と他派閥との力関係の結果の大抜擢だったとしても大臣にふさわしい力をもっているという自負が渦川にはある。なんで自分が副大臣に降格なのかと言いたかったが、まずなぜ秋屋の下となったのかを確かめようと思った。

「今回は”副大臣”に任命していただきありがとうございます。それで私にはどのような役割を期待しておられるのでしょうか」

「いや、あなたに期待していることなどないよ」

「!」
あまりの返答に渦川は呆然とした。

 鎮痛な表情の渦川に少し言い過ぎたかと、秋屋は相手を諭すように言った。

「今回の人事はもちろん阿相総理によるものだよ」

 秋屋は政界十常侍の一人鹿島清十郎が長を務める派閥に属しておりその右腕とも言えた。それならば副大臣も派閥の人間で固めた方がいいと思うが、今回の人事には渦川を大臣以外の地位に引きずり降ろしたいという思惑があるようだ。
 
 ただ、渦川俊郎は同じ政界十常侍阿相首相の味方である。それがための大抜擢がポスト争いを繰り広げる他の派閥から好ましく思われていなかったのだろうか。

「としてもやり方が露骨すぎやしないか。」
内心ではそう呟いた。

 組閣から外されるならともかく、他派閥の下に置かれるとは。

 確かに、マスコミに政界十常侍とお揃いのあだ名で呼ばれていても、別にお互いが仲がいいわけではない。だが同じ政党の重鎮であるのに反目していていいものだろうか。それとも機会があればそのようなあだ名は廃し、十が九に変わろうが八に変わろうが関係ないとでも言うのだろうか。

「とにかく”副”が付こうか付かなろうが一生懸命務めさせていただく」
とは言わず。
「誠心誠意努めさせていただく」
とだけ言った。

なお、訝し気な秋家は「ふふん」という感じで受けていた。

「そうだ。無所属の議員でホームドアの設置をしようって言ってる若者がいるでしょ。やることないんなら彼でも誘ってやってみたら?」

「ほっホームドア?馬鹿げてる」
見る見る表情が変わった渦川は来た時より乱暴にドアを開けて出ていくとガツンガツンと大きな足音を立てて大臣室を後にしていった。


「よく言うよ。自分は議員宿舎でのべつ幕無しのくせに」
秋屋はいやらしい薄ら笑いを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
青春
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや

静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。 朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。 「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。 この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか? 甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!

処理中です...