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第1巻 1期目 特別会
渦川俊郎の降格
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首相指名選挙が終わり、特別会の残日程では緊急となっている議題や常任委員の選出等が行われるわけであるが、それ以上に与党議員をやきもきさせているのは組閣人事である。
既に総理大臣に選ばれた阿相元春は組閣に着手しており、民自党の大物議員達は選挙前のような慌ただしさに追われていた。
そのうちの一人渦川俊郎も大臣の役職を拝命するのを議員会館の彼の部屋でこんこんと待ちかねていた。
「先生連絡遅いですね」
既に灰皿のたばこが満杯になる様子を眺めていた秘書の緒川順子が渦川俊郎にそう声かけた。緒川順子は家族を除けば自他ともに認める渦川の第一の忠臣であり、日ごろから献身的でこのような大事な場面ではかならず傍に控えていた。しかし、今まで何度も危機的な場面に遭遇したことはあっても今日のように落ち着かない渦川を見るのは初めてであった。
何気なく満杯の灰皿とホットコーヒーの入ったカップを入れ替えたのはこれ以上タバコを吸うと体に悪いという配慮だったかもしれない。しかし、渦川はそれに気づかずカップの皿を灰皿にしただけだった。
彼は前内閣で厚生労働大臣を務めており、今回も順当に決まれば留任か他の省庁の大臣が妥当だろうと思われた。本人は経済産業大臣かあわよくば財務大臣でもおかしくないと思っている。特に厚生労働大臣時代にやってきた、雇用促進は経済面でもそれなりの評価を受け、本人は税収アップにもつながったんじゃないかと周囲に漏らしていた。
だが、さきに任命された官房長官の木宮竜彦(きみやたつひこ)からやっとあった連絡は国土交通省”副大臣”を任命するというものだった。
「納得いかない」
渦川俊郎はその報を聞くや否やドアを乱暴に開け速足で駆け出して行った。その様子を見て緒川順子は訳もわからず泣き出していた。
彼は始め阿相総理に直接かけ合おうと考えたが多忙を理由に面会を拒否されてしまい、仕方なく行った先は国土交通省の大臣室であった。そこには既に今回国土交通大臣となった秋屋誠二(あきやせいじ)が機嫌よく座っていた。秋屋誠二は福井県の選挙区出身で当選回数10回を数え今年60歳になる。当選回数も渦川俊郎より多く年長であるので、秋屋からすれば自分が上の今回の人事は当然のものと思えるかもしれない。
しかし、前回の大臣就任が阿相派と他派閥との力関係の結果の大抜擢だったとしても大臣にふさわしい力をもっているという自負が渦川にはある。なんで自分が副大臣に降格なのかと言いたかったが、まずなぜ秋屋の下となったのかを確かめようと思った。
「今回は”副大臣”に任命していただきありがとうございます。それで私にはどのような役割を期待しておられるのでしょうか」
「いや、あなたに期待していることなどないよ」
「!」
あまりの返答に渦川は呆然とした。
鎮痛な表情の渦川に少し言い過ぎたかと、秋屋は相手を諭すように言った。
「今回の人事はもちろん阿相総理によるものだよ」
秋屋は政界十常侍の一人鹿島清十郎が長を務める派閥に属しておりその右腕とも言えた。それならば副大臣も派閥の人間で固めた方がいいと思うが、今回の人事には渦川を大臣以外の地位に引きずり降ろしたいという思惑があるようだ。
ただ、渦川俊郎は同じ政界十常侍阿相首相の味方である。それがための大抜擢がポスト争いを繰り広げる他の派閥から好ましく思われていなかったのだろうか。
「としてもやり方が露骨すぎやしないか。」
内心ではそう呟いた。
組閣から外されるならともかく、他派閥の下に置かれるとは。
確かに、マスコミに政界十常侍とお揃いのあだ名で呼ばれていても、別にお互いが仲がいいわけではない。だが同じ政党の重鎮であるのに反目していていいものだろうか。それとも機会があればそのようなあだ名は廃し、十が九に変わろうが八に変わろうが関係ないとでも言うのだろうか。
「とにかく”副”が付こうか付かなろうが一生懸命務めさせていただく」
とは言わず。
「誠心誠意努めさせていただく」
とだけ言った。
なお、訝し気な秋家は「ふふん」という感じで受けていた。
「そうだ。無所属の議員でホームドアの設置をしようって言ってる若者がいるでしょ。やることないんなら彼でも誘ってやってみたら?」
「ほっホームドア?馬鹿げてる」
見る見る表情が変わった渦川は来た時より乱暴にドアを開けて出ていくとガツンガツンと大きな足音を立てて大臣室を後にしていった。
「よく言うよ。自分は議員宿舎でのべつ幕無しのくせに」
秋屋はいやらしい薄ら笑いを浮かべていた。
既に総理大臣に選ばれた阿相元春は組閣に着手しており、民自党の大物議員達は選挙前のような慌ただしさに追われていた。
そのうちの一人渦川俊郎も大臣の役職を拝命するのを議員会館の彼の部屋でこんこんと待ちかねていた。
「先生連絡遅いですね」
既に灰皿のたばこが満杯になる様子を眺めていた秘書の緒川順子が渦川俊郎にそう声かけた。緒川順子は家族を除けば自他ともに認める渦川の第一の忠臣であり、日ごろから献身的でこのような大事な場面ではかならず傍に控えていた。しかし、今まで何度も危機的な場面に遭遇したことはあっても今日のように落ち着かない渦川を見るのは初めてであった。
何気なく満杯の灰皿とホットコーヒーの入ったカップを入れ替えたのはこれ以上タバコを吸うと体に悪いという配慮だったかもしれない。しかし、渦川はそれに気づかずカップの皿を灰皿にしただけだった。
彼は前内閣で厚生労働大臣を務めており、今回も順当に決まれば留任か他の省庁の大臣が妥当だろうと思われた。本人は経済産業大臣かあわよくば財務大臣でもおかしくないと思っている。特に厚生労働大臣時代にやってきた、雇用促進は経済面でもそれなりの評価を受け、本人は税収アップにもつながったんじゃないかと周囲に漏らしていた。
だが、さきに任命された官房長官の木宮竜彦(きみやたつひこ)からやっとあった連絡は国土交通省”副大臣”を任命するというものだった。
「納得いかない」
渦川俊郎はその報を聞くや否やドアを乱暴に開け速足で駆け出して行った。その様子を見て緒川順子は訳もわからず泣き出していた。
彼は始め阿相総理に直接かけ合おうと考えたが多忙を理由に面会を拒否されてしまい、仕方なく行った先は国土交通省の大臣室であった。そこには既に今回国土交通大臣となった秋屋誠二(あきやせいじ)が機嫌よく座っていた。秋屋誠二は福井県の選挙区出身で当選回数10回を数え今年60歳になる。当選回数も渦川俊郎より多く年長であるので、秋屋からすれば自分が上の今回の人事は当然のものと思えるかもしれない。
しかし、前回の大臣就任が阿相派と他派閥との力関係の結果の大抜擢だったとしても大臣にふさわしい力をもっているという自負が渦川にはある。なんで自分が副大臣に降格なのかと言いたかったが、まずなぜ秋屋の下となったのかを確かめようと思った。
「今回は”副大臣”に任命していただきありがとうございます。それで私にはどのような役割を期待しておられるのでしょうか」
「いや、あなたに期待していることなどないよ」
「!」
あまりの返答に渦川は呆然とした。
鎮痛な表情の渦川に少し言い過ぎたかと、秋屋は相手を諭すように言った。
「今回の人事はもちろん阿相総理によるものだよ」
秋屋は政界十常侍の一人鹿島清十郎が長を務める派閥に属しておりその右腕とも言えた。それならば副大臣も派閥の人間で固めた方がいいと思うが、今回の人事には渦川を大臣以外の地位に引きずり降ろしたいという思惑があるようだ。
ただ、渦川俊郎は同じ政界十常侍阿相首相の味方である。それがための大抜擢がポスト争いを繰り広げる他の派閥から好ましく思われていなかったのだろうか。
「としてもやり方が露骨すぎやしないか。」
内心ではそう呟いた。
組閣から外されるならともかく、他派閥の下に置かれるとは。
確かに、マスコミに政界十常侍とお揃いのあだ名で呼ばれていても、別にお互いが仲がいいわけではない。だが同じ政党の重鎮であるのに反目していていいものだろうか。それとも機会があればそのようなあだ名は廃し、十が九に変わろうが八に変わろうが関係ないとでも言うのだろうか。
「とにかく”副”が付こうか付かなろうが一生懸命務めさせていただく」
とは言わず。
「誠心誠意努めさせていただく」
とだけ言った。
なお、訝し気な秋家は「ふふん」という感じで受けていた。
「そうだ。無所属の議員でホームドアの設置をしようって言ってる若者がいるでしょ。やることないんなら彼でも誘ってやってみたら?」
「ほっホームドア?馬鹿げてる」
見る見る表情が変わった渦川は来た時より乱暴にドアを開けて出ていくとガツンガツンと大きな足音を立てて大臣室を後にしていった。
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