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第1巻 1期目 閉会~臨時国会前日
プレミアムフライデー音頭
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今日は国会が閉会した初日。
最近は毎朝早起きだったので、久しぶりに寝坊を楽しんだ……とはいえ、結局11時には目が覚めてしまい、遅めのブランチでも取ろうと外に出た。
議員宿舎のエントランスを出たその時だった。
「ちょっ、水本さん!? なんでそんなとこに立ってるんですか!」
驚いたことに、初登院の日に国会前で騒ぎを起こしていた水本上親が、例によって紋付羽織袴姿で仁王立ちしていたのだ。
「古味さん、あんたを待っとったんや」
「ま、待ってたって……何時から?」
「平日の朝は8時からって決まっちょる」
……今、11時。
つまり3時間もここで突っ立ってたのか。すごいと言えばすごいが、正直ちょっと迷惑だ。
そもそも初対面以来、連絡先すら交換していないのに。
「それで、俺に何の用です?」
「今日は月末金曜や。プレミアムフライデーやで!」
「えっ……そのために? なぜ俺に?」
「あんた、選挙で『プレミアムフライデーを法制化する』って言っとったやないか!」
……ああ、あれか。
正直、あの公約はちょっと軽すぎたと後悔してる。せめて「推進」くらいにしとけばよかった。
「言った本人が盛り上げんでどうするんや!」
「さ、行くで!」
「ちょ、ちょっと待って!どこへ!?」
水本はTシャツにサンダル姿の俺を、文字通り“引っ張って”連れ出した。
途中、コンビニで無理やり買わせてもらったパンとお茶を、歩きながら口に詰め込む。
向かった先は、渋谷の某スタジオだった。
すでに撮影スタッフや背広姿のエキストラたちが集まり、騒然とした雰囲気だ。
「この人が、国会議員の古味さんや!」
「えっ、そうなの? よろしく~」
Tシャツ&サンダルの俺に、監督らしき男が眉をひそめて全身をチェックする。
「……まあ、このままでいこうか」
え、この格好のままで!?
「それでは! プレミアムフライデー音頭を撮影しまーす!」
「えっ、踊るの!?」
「ええから、合わせて踊るんや!」
♪「プレプレプレプレプレ……」
低音のラップ調の前奏が流れ、みんながかかとをリズミカルに上げ下げしはじめる。
「はい!みなさん一緒に~!」
♪「プレプレキンキン、プレキンキン~」
♪「今日はプレキン、仕事はここまで~」
♪「みんなで帰ろう、寄っていこう」
♪「何を食おうか、遊ぼうか~」
腕を振り、足を出し、まるで盆踊り。
全員が背広姿の中、紋付の水本とTシャツサンダルの俺が際立つ。
途中、中心にいた歌のうまいプロっぽい人物が前に出て
「部長も課長も、友達も~」
「みんなで早く帰れて、うれしいな~!」
そう叫んで盛り上げる。
最後は全員でジャンプ → 着地 → キメポーズ!
「じゃっじゃーん! プレミアムフライデー音頭~!」
「お疲れさまでしたー!」
スタジオに拍手が響く。
「古味さん、あんたの踊り、ええ感じやったで!」
「……冗談でしょ」
すると監督が近づいてきて言った。
「いやー紋付とTシャツの対比がよかったよ。背広だけじゃ味気なかった」
「いやこれ、水本に引っ張られてそのまま来ただけなんですけど」
「まあまあ、いいじゃない。プレフラ盛り上げたんだから」
そのまま「交通費と昼飯代」として3,000円入りの封筒を渡された。
「たぶん来週には放送されるから、運がよければ自分の踊りが見られるかもね」
監督が愛想笑いを残して去っていく。
……放送されるなんて勘弁してくれ。
できれば誰の目にも触れず、空気のように終わってくれと願いつつ、俺はスタジオを後にした。
「閉会中でも気ィ抜いたらあかんで。いつでも誰かが見とるんや」
水本が眉をひそめて、呟くように言った。
……確かに、これは痛い一言だった。
とりあえず15時過ぎ。
俺は水本に名刺を渡してから別れを告げた。
これでもう、宿舎前に3時間も立って待たれる心配はない……はずだ。
一方その頃――料亭「夕凪」にて
裏部屋と呼ばれる特別室に、再び鹿島清十郎の姿があった。
酌をしているのは、アナゴ建設の社長・安藤。
本日はプレミアムフライデー。仕事中だったが、鹿島からの呼び出しとあれば断れず、慌てて駆けつけた。
「今日はプレミアムフライデーだろ。君のところも早上がりだよな?」
「は、はい。当然です。弊社も率先して政府の取り組みに協力しておりまして」
本当は今この時間も社員総出で働いていたが、そんなことはもちろん言わない。
「安藤君、誤解のないように言っておくが――今回、国交相になった秋屋君は、私の右腕だよ」
――(その右腕に寝首かかれたのか)
そう思ったが、それも言えず、
「さ、さすがは鹿島先生です……」
とおだてるしかなかった。
「ふふふ、わかってるじゃないか」
鹿島はご満悦な表情を浮かべると、話題を変えた。
「ところで――君のところ、ホームドアは造れるかね?」
「ほ、ホームドア……ですか?」
「いずれ、駅という駅にホームドアが設置される日が来るかもしれん。その時は、君の会社に頼もうと思ってね」
あぐらをかいて腕を組み、感慨深げに呟く鹿島。
「……はあ」
意味が読みきれなかった安藤だったが、念のため、帰社後すぐにホームドア関連の資料を調べさせるよう部下に指示した。
最近は毎朝早起きだったので、久しぶりに寝坊を楽しんだ……とはいえ、結局11時には目が覚めてしまい、遅めのブランチでも取ろうと外に出た。
議員宿舎のエントランスを出たその時だった。
「ちょっ、水本さん!? なんでそんなとこに立ってるんですか!」
驚いたことに、初登院の日に国会前で騒ぎを起こしていた水本上親が、例によって紋付羽織袴姿で仁王立ちしていたのだ。
「古味さん、あんたを待っとったんや」
「ま、待ってたって……何時から?」
「平日の朝は8時からって決まっちょる」
……今、11時。
つまり3時間もここで突っ立ってたのか。すごいと言えばすごいが、正直ちょっと迷惑だ。
そもそも初対面以来、連絡先すら交換していないのに。
「それで、俺に何の用です?」
「今日は月末金曜や。プレミアムフライデーやで!」
「えっ……そのために? なぜ俺に?」
「あんた、選挙で『プレミアムフライデーを法制化する』って言っとったやないか!」
……ああ、あれか。
正直、あの公約はちょっと軽すぎたと後悔してる。せめて「推進」くらいにしとけばよかった。
「言った本人が盛り上げんでどうするんや!」
「さ、行くで!」
「ちょ、ちょっと待って!どこへ!?」
水本はTシャツにサンダル姿の俺を、文字通り“引っ張って”連れ出した。
途中、コンビニで無理やり買わせてもらったパンとお茶を、歩きながら口に詰め込む。
向かった先は、渋谷の某スタジオだった。
すでに撮影スタッフや背広姿のエキストラたちが集まり、騒然とした雰囲気だ。
「この人が、国会議員の古味さんや!」
「えっ、そうなの? よろしく~」
Tシャツ&サンダルの俺に、監督らしき男が眉をひそめて全身をチェックする。
「……まあ、このままでいこうか」
え、この格好のままで!?
「それでは! プレミアムフライデー音頭を撮影しまーす!」
「えっ、踊るの!?」
「ええから、合わせて踊るんや!」
♪「プレプレプレプレプレ……」
低音のラップ調の前奏が流れ、みんながかかとをリズミカルに上げ下げしはじめる。
「はい!みなさん一緒に~!」
♪「プレプレキンキン、プレキンキン~」
♪「今日はプレキン、仕事はここまで~」
♪「みんなで帰ろう、寄っていこう」
♪「何を食おうか、遊ぼうか~」
腕を振り、足を出し、まるで盆踊り。
全員が背広姿の中、紋付の水本とTシャツサンダルの俺が際立つ。
途中、中心にいた歌のうまいプロっぽい人物が前に出て
「部長も課長も、友達も~」
「みんなで早く帰れて、うれしいな~!」
そう叫んで盛り上げる。
最後は全員でジャンプ → 着地 → キメポーズ!
「じゃっじゃーん! プレミアムフライデー音頭~!」
「お疲れさまでしたー!」
スタジオに拍手が響く。
「古味さん、あんたの踊り、ええ感じやったで!」
「……冗談でしょ」
すると監督が近づいてきて言った。
「いやー紋付とTシャツの対比がよかったよ。背広だけじゃ味気なかった」
「いやこれ、水本に引っ張られてそのまま来ただけなんですけど」
「まあまあ、いいじゃない。プレフラ盛り上げたんだから」
そのまま「交通費と昼飯代」として3,000円入りの封筒を渡された。
「たぶん来週には放送されるから、運がよければ自分の踊りが見られるかもね」
監督が愛想笑いを残して去っていく。
……放送されるなんて勘弁してくれ。
できれば誰の目にも触れず、空気のように終わってくれと願いつつ、俺はスタジオを後にした。
「閉会中でも気ィ抜いたらあかんで。いつでも誰かが見とるんや」
水本が眉をひそめて、呟くように言った。
……確かに、これは痛い一言だった。
とりあえず15時過ぎ。
俺は水本に名刺を渡してから別れを告げた。
これでもう、宿舎前に3時間も立って待たれる心配はない……はずだ。
一方その頃――料亭「夕凪」にて
裏部屋と呼ばれる特別室に、再び鹿島清十郎の姿があった。
酌をしているのは、アナゴ建設の社長・安藤。
本日はプレミアムフライデー。仕事中だったが、鹿島からの呼び出しとあれば断れず、慌てて駆けつけた。
「今日はプレミアムフライデーだろ。君のところも早上がりだよな?」
「は、はい。当然です。弊社も率先して政府の取り組みに協力しておりまして」
本当は今この時間も社員総出で働いていたが、そんなことはもちろん言わない。
「安藤君、誤解のないように言っておくが――今回、国交相になった秋屋君は、私の右腕だよ」
――(その右腕に寝首かかれたのか)
そう思ったが、それも言えず、
「さ、さすがは鹿島先生です……」
とおだてるしかなかった。
「ふふふ、わかってるじゃないか」
鹿島はご満悦な表情を浮かべると、話題を変えた。
「ところで――君のところ、ホームドアは造れるかね?」
「ほ、ホームドア……ですか?」
「いずれ、駅という駅にホームドアが設置される日が来るかもしれん。その時は、君の会社に頼もうと思ってね」
あぐらをかいて腕を組み、感慨深げに呟く鹿島。
「……はあ」
意味が読みきれなかった安藤だったが、念のため、帰社後すぐにホームドア関連の資料を調べさせるよう部下に指示した。
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