会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件

もっちもっち

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第1巻 1期目 閉会~臨時国会前日

赤坂の夜に少し響いた嘲笑

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 閉会2日目の夜、再び料亭夕凪ゆうなぎの別室。今度の部屋の主は民自党の副幹事長狭間譲(はざまゆずる)であった。しばらくすると、赤いつば付きの帽子にサングラスと口にマスクという、とても政治家に見えない容姿の男がこの部屋に入っていった。この男は部屋に入っても帽子を取らず、副幹事長相手に酌をする気配もなかった。手元には大きな1眼レフカメラとショルダーバッグが置いてあり、いかにもカメラマンという感じだ。帽子とサングラスとマスクで顔を隠している格好で繁みに隠れてカメラなど構えるのが彼の日課であり、警官から職務質問された経験など数えて余りあるくらいであった。

「君が呼び出すとはどうせろくでもない話題だろう。閉会中なのに何か用かね」
不機嫌な声の主は狭間である。
「いえ会期中ぐらいはお忙しいものと思いまして閉会するのを待っていたのは私の気遣いです」
薄ら笑いを浮かべながら言った声の主は週刊誌文化収集のカメラマンを名乗っていた。

 カメラマンの男は料理には箸も付けず1枚の写真を取り出した。そこにはキャバクラレインのキャバ嬢アインの肩に支えられた池山議員が議員宿舎に入っていく様子が写っていた。普段は流石に同伴して議員宿舎に入るなどありえないことだが、初登院のあの日は古味が目撃した通りかなり飲んでいた様子で、泥酔して一人では歩けなくなった池山を仕方なくアインが部屋まで送って行ったということのようだ。
 
「こいつは誰だ?」
女の肩によっかかっている男の顔の記憶を狭間は必死に掘り起こし、ニュース22の初登院5分勝負でやたら緊張していた新人議員だと思い出す。

「この女はキャバクラ嬢。もう一人の男は狭間副幹事長ならご存知のことと思います。この二人ただの客という以上の関係のようです。国税で建てた議員宿舎に女を連れ込んでのべつ幕無しなどもっての他です。このようなこと国民が知ってしまったら怒りは収まらないでしょう」
少し顔をしかめて残念そうな表情を見せているが、それだけ大事になると狭間に詰め寄っている。
  議員宿舎はPFI(民間委託)方式で建てているので国民の負担は軽くなるよう配慮している。と狭間は言いたいがそれとこれとはあきらかに別問題である。このカメラマンが言う通り国民が怒るのは確かだろう。
 少し黙って考えながら最近”のべつ幕無し”という言葉を耳にすることが多いなと、狭間は感じていたがそれは永田町の一部の人間だけが感じていることである。

「ただ当方としては相手が大物であれば大物であるほど面白いわけで」
カメラマンはここからが本題とばかりに交渉に入った。

 なるほど、スキャンダルを掴むには掴んだが相手が小物なのでもっと大きなネタと取引したいということらしい。

 狭間の下には立場もあっていろいろな国会議員の情報が入って来る。その情報網に池山議員がかからなかったのは彼がまだ1期生だからだ。だが、いずれはこの一件も、永田町界隈を賑わす下世話な話題の一つになるような気がする。そのとき、国民が騒ぎ出したらどうするか、躊躇ちゅうちょなく池山を切り捨てることはできるだろうか。だが、相手はまだ下っ端であるが国会議員である。なんの人望もなしに出てくるわけがない。自分が手を下すことで逆に誰かが怒りだす可能性もある。

 狭間はなんども首をひねり、今回のことは大事にせずできるだけ明るい話題に差し替えた方がいいと考えた。

「これでどうかね」
狭間が差し出したのはこちらもカップルの写真だが、カメラマンが持ってきた写真よりは健全そうだ。男女ともに若く、男は池山より間違いなく格好いい。女の方も雑誌などで見たことがある顔だ。カメラマンは彼の持つ膨大な情報をたどりその写真が価値あるものだと判断した。

「これで取引成立ですな」
文化収集のカメラマンは写真データの入ったメモリーカードと写真を渡そうとしたが、
「不愉快だから君の手で処分してくれたまえ」
そう狭間が拒否したので
「そうですか。わかりました」
と言われるままに、メモリーカードと写真をバッグの中にしまった。狭間はどうせコピーを持っているだろうから取り上げても仕方がないと考えたのだろうか、それとも後日然るべきときにこのカメラマンが池山の写真を公表することを期待しているのだろうか。とにかく目的を達したのでカメラマンは料亭夕凪を後にした。

 次の号の週刊文化収集には池山議員の記事は掲載されておらず、グラビアアイドルと若手議員の結婚が独占記事として表紙を飾っていた。
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