自惚れ貴族と婚活メイド

一重

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12.変態は一人ではありません

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コトリとペンを置く音が部屋に響く。
現在夜中の2時。草木も眠る暗闇のなか、ロレーヌの部屋は煌々と灯りがともっている。
件の舞踏会が終わり、侵入者を片付け、ラルゴ家にも夜の静寂がようやく戻った今、ロレーヌは一人自室で机に向かっていた。その目の前には愛する日記レイデンバッハが鎮座している。

曰く、
『愛するレイデンバッハへ。
どうしましょう?あの灰色頭。片付けてもいいかしら?いいわよね?……そんな非現実的なことを考えるなって言われそうね。確かに勝機が欠片も見当たらないところは否定しないわ。でも、それにしてもあの灰色頭の行動はひどすぎる。多分、今このときも監視されていると思うわ。あぁ、最悪。どうしてあんな変態に眼を付けられたのかしら?私何も目立つこともおかしなこともしていないわよ?あの鳥頭……じゃなかった灰色頭がおかしいのは前からだけど、あの舞踏会が終わってから、常に視線が付きまとってうっとうしいったらありゃしない!……ごめんなさいレイデンバッハ。言葉が乱れたわ。でも、それくらいひどいのよ。アレは付きまとうというより絡みつくというか、粘つくというか……こう、無視できないような代物なのよ。あぁ……鬱憤がたまる……レイデンバッハ、あなたがここに人の姿で現れてくれたら、私きっと求婚してるわ。今の私の癒しはあなただけですもの。癒しと楽しみと旦那様。それを全てそろえているのはあなたくらいよ。あぁ、何故顔だけいい男しか私の周りには居ないのかしら……』

 隙間なくびっしりと書き連ねた言葉の端はしには抑えきれない苛立ちが感じられる。
 ロレーヌにとっては大変迷惑なことに、あの舞踏会の後、残りの仕事を片付けて部屋に戻り風呂に入り寝巻きに着替え、愛日記に愚痴をこぼしている今まで、ずーーーーーっと誰かに見られている。
 いや、そんな生易しいものではない。普通監視なら気配を消すとか、適度に目こぼしするとかあるだろうが、この視線は文字通り絡み付いてくるのだ。

「ロレーヌ、そんなに殺気立たないでよ。思わず襲いたくなる」
「…………」

 完全に無視を決めこむロレーヌは、突然部屋に満ちた声にもピクリとも動揺を見せない。まぁ、その顔が般若もかくやというご面相になっているのは仕方がないだろう。
 ロレーヌの怒りを一身に受けるのは、女物のリボンで灰色の髪をハーフアップにした男。言わずと知れたヴァイスが何故かロレーヌのベッドの上で胡坐をかいて座っていた。

「ふーん、ここがロレーヌの部屋かぁ。さすがに十歳を超えてからは入ってないからなぁ。でも、いいね。ロレーヌの匂いがいっぱいする」

 そう言ってヴァイスは綺麗に整えられていたロレーヌのベッドへ体を横たえる。心なしかうつ伏せてシーツの匂いを肺いっぱいに吸い込んでいるように見えなくもない。

「ふふ。ろれーぬぅ」
「ああああああああああああああ!!!!!!!!!やめろっ!!!!変態!!!!」

 限界ぎりぎりまで耐えていたロレーヌの理性も、最後の甘く蕩けるようなヴァイスの声についに決壊した。
 さわさわと聞こえる、日々自分が安らぎを得るベッドのシーツを撫でまくる音、ヴァイスが(恐らくわざとだろう)身じろぐ度に起こる衣擦れの音が妙に生々しく、さらに追い討ちとばかりに低く掠れた声で下から撫でさするような甘すぎる声が自分の名を呼んだ瞬間、ロレーヌの全身が総毛立った。
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