自惚れ貴族と婚活メイド

一重

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2、自分好きもほどほどに

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  ことの始まりは時を遡ること5年前。

  麗らかな春の日差しの中で取り交わされた初々しい一組の男女の婚約であった。


「ーー本日この時をもって、フリード・ラルゴとサリュク・レイドールの婚約が成ったことをここに宣言致します」

  厳かに告げられた言葉に、その場にいた招待客達は歓声を上げた。両手を上げて笑い声をあげる酔客もいるがそのほとんどが上品な紳士淑女である。その誰もがが明るい笑顔で語り合っている。
  その輪の中心には、たった今婚約者と成った二人がはにかんだ笑顔をたたえて招待客達の対応をしている。

  そんな二人を微笑ましく見守る屋敷の使用人達の中、少し離れたテーブルに立つお団子髪の少女と老齢の執事だけは無表情に彼らを観察していた。


「…………シュバルツさん。あそことあそこの木の上にガラスがあるの、私の見間違いじゃないですよね?」
「………ロレーヌ。よく見つけましたね……」


  暖かな日差しの中、さやさやと吹く風にフリード少年の金髪がキラキラと輝いている。
  はにかんだ笑顔も相まって、まるで天上の天使のような愛らしさとが溢れている。彼の回りだけ光輝いているような……
  その側では婚約者となったサリュクが女神かと見間違う慈悲深い微笑みを湛えて相づちをうっている。
  目の錯覚か、彼女の回りだけぼんやりと光を発しているかのように後光が見え、話をしていた年嵩の招待客は拝まんばかりに感激し目を潤ませている。


「あ、サリュク様が扇から粉だした!シュバルツさん、あれなんですか?薬の類いですか?」
「………………ロレーヌ。もう少し声を潜めなさい。……あれは金粉でしょうかね……。まさかここまで披露されるとは思いませんでしたが……なんという贅の尽くしようか……」

  きらきらと輝く美貌を惜しげもなく振り撒くサリュクの回りには男女問わずうっとりと蕩けた表情で立ち尽くす人が多発している。
  通行の邪魔になるようなときは、さりげなく使用人達が動きを誘導して事なきを得ているが、その輪は増すばかり。

  招待客の背後を守るように立つメイドのロレーヌは手元のテーブルを片付けながら、執事のシュバルツとこそこそと話していた。シュバルツは目線で他の使用人に指示を出しながら、深く頷く。

「フリード様が人目を忍んで木に登っているので何かとは思いましたが……あそこまで的確にご自身に光を集められると既に玄人の域ですね……」

  どこか諦念の眼差しで遠く本日の主役二人を眺めるシュバルツは50歳台の老いを感じさせない美しい姿勢で立っている。傍目から見れば年若いメイドの監督をしているとも見れるが、その実、ロレーヌと『本日の演出』探しを結構本気で楽しんでいた。

「今日の配置を念入りに確認してたのってこれのためだったんですね。いやに準備に顔を出すとは思っていたのですが」

  呆れた表情を隠しもしないロレーヌは同じ場所を拭くのももう三度目だ。ごく平凡な焦げ茶の髪を後ろで団子にまとめているだけでメイドのお仕着せを着ている今は、名乗られても記憶に残らないような平凡な少女である。
  納得したように頷いているが、その表情は苦さがにじんでいる。

  フリードの天使のようなはにかんだ微笑みはサリュクの回りにいた招待客と同等の取り巻きを作っていた。
  時折きらりと輝く絹糸のような金髪と、透き通るような青い瞳にぼんやりと見とれる者が続出している。
  意識が手元が離れグラスを取り落としそうになる招待客がいたが、死角から使用人がさりげなく回収し衣服を汚すことなく事なきを得ている。

「それを利用されるサリュク様もやはり只者ではないですね……」

  舞踊る金粉は極微量のようであるが、ガラスからの光の反射で、その輝きは倍増しているようである。
  しみじみと語る二人は、本日めでたく婚約者となった主達を眺めその実見えない努力に脱帽する他なかった。

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