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第一章『雷の可能性』
七話『嗤う化け物と笑う化け物』
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その戦いは苛烈を極めた。
僕の魔法は届かず、アイツの攻撃を一方的に避けているだけ。
それなのに、もはや第三者の介入など不可能に近い攻防が繰り広げられている。
しかし、あまり悠長にもしてられない。
いくら無限に等しい魔力でも、長引けば体力が先に尽きる。
魔力で体力補えればいいんだけどなあ。
「『雷の壁』」
『新星の白夜』
これだ。
あらゆる魔法を乖離させる。
魔力と現象に分けてしまう。
だからこそ、魔力は拡散し、現象は起きない。
無効化ほどタチが悪いものは──
「くっ──」
『どうした。その程度か』
1本の尾を受け止め、その顔を睨めつけた。
真っ赤な瞳だ。
真っ白な体だ。
だが、その魔力は。
とても禍々しい。
見とれるほどに、純粋極まった美しい魔力だ。
「──ゼウス」
『了承した』
僕は、ゼウスを身に宿す。
まだ不完全だから5分程度しか続かないけど・・・。
僕は半歩、人間から神に近づく。
そしてそれは、ある種の『進化』でもあるのか。
あるいは、変身とでも言おうか。
『・・・ほう。神降ろしか』
知っているようだ。
だが、関係ない。
知っていても抵抗できない程の、速さで──
駆け抜けるしかない。
「いくぞ。化け物」
受け止めていた尾を蹴り上げ、駆ける。
瞬きする暇もない。
神速により近い速度。
残像すら残るだろう。
僕が意識する前に狐の白い体が目の前へ迫る。
しかし、狐が反応する。
『ふむ』
二本の尾がこちらへ迫る。
だが。
──遅い。
身を屈めて避け、その勢いで跳躍する。
スレイプニルの効果で空を蹴り、急降下、急上昇を繰り返しながら全方向からの隙を探す。
恐らく、常人には目の端にすら捉えることは出来ないだろう。
音の壁を突き破る音が耳に響く。
止まらない。止まれない。もっと早く。もっと強く!!
今の僕は・・・
──雷そのものだ。
「『蒼雷撃』」
八方位から青い極太の雷が狐へ迫る。
『──効かぬよ』
アホみたいな魔法耐性だ。
効かないどころではない。
・・・見えていた。
あれは確かに、見えている動きだった。
1本の尾の先で、叩き落としていた。
雷を、叩き落とす。
それがどれだけのことか、僕でなくてもわかるだろう。
反射神経?魔法耐性?動体視力?
そのどれをとっても、まさに化け物。
「・・・つくづく化け物だ」
『貴様もな。人の子よ』
不敵に笑う。
それを嘲笑われる。
異様な空気だった。
常に動き回る。
止まった瞬間に、死ぬ。
それなのに、談笑している。
笑って、嗤って。
そして、話している。
『どうした?何を遠慮している』
「──あぁ、そうだな」
こいつは、無事では殺せない。
万死万生にて、殺そう。
最大に最高に最悪な殺意をもって。
──殺す。
『──ほう、やはり隠していたか』
「あんまり、使いたく、ないんだ」
疲れる、からな。
「『ギア100』『クロス100』」
限界突破というスキルがある。
スキルとは、産まれ持ったものと、修行で手に入るものもあるのだが。
僕はその『限界突破』を修行で手に入れた。
ギアもクロスもスキルだ。
だから、常に限界突破し、限界突破の限界を底上げしていた。
常に限界を超え、常に限界を拡張していた。
それが、ギアとクロスなのだ。
これを上げれば上げる程、僕は。
──死ぬ気になれる。
「『万雷』『轟雷』『怒雷』『静雷』『虚雷』『暗雷』『無雷』」
雷を、呼び出し、それらは様々な色の球体として上空へ浮かんでいる。
魔法では、ある。
ただ、これは。
僕じゃないと出来ないだろう。
魔法の継続は常に魔力が減る。
この量は・・・僕でも少しずつ減るレベルで大量に使うのだ。
だからこそ、長引かせることは出来ない。
──短期決戦だ。
『終わったか?』
「あぁ。行く、ぞ」
『来るが良い。人間』
前へ走ろうとした瞬間、地が揺れた。
足元だった場所には大きなクレーターが出来ている。
結界が破壊される音がした。
それほどの衝撃。
狐は不敵な笑みを浮かべ、凶笑しながら僕の攻撃を難なく防ぐ。
僕は嘲笑しながら、1秒で数億はあろうかという攻撃を繰り出す。
蹴り、防がれ、殴り、防がれ、放ち、防がれ、噛みつき、防がれ、組み付き、防がれる。
もはや、無限とも思える永遠の攻防だった。
§
無限に等しい魔力。
さらに成長速度を超える負荷をもって私と同じ土俵まで立とうとした。
この人間・・・私より化け物じゃないか。
やはり、勇者の子と言うことか。
無限と思うような激しい攻防。
この人間は恐らく、防御に徹しているのは舐めているからだと思っているのだろう。
まぁ、半分はその通りだが、防御がギリギリなのもまた、事実だ。
隙あらば噛み付こうとする。
組みつこうとする。
蹴ろうとする。
殴ろうとする。
ひっかこうとする。
止められない。
止まらない。
光速。
まさに瞬の攻撃だった。
『暗焼の鎖』
「効か──ねぇ!!」
暗雷とやらか。
厄介な・・・。
全属性の雷を呼び出し、攻撃を受ける前にその攻撃に耐性のある雷を帯びる。
我が魔法は通ぜぬ、か。
『無雷』とやらで、新星の白夜の対策もしているようだ。
戦闘センスと言うやつか・・・?
つくづく化け物だ。
「・・・おらぁ!!」
不意に、顎を砕かれた。
いつの間に、その速度を──
いや、私は何を考えているんだ。
この人間が化け物たる所以は、その成長速度にあるではないか。
『ぐっ──』
「万雷!!!万雷万雷万雷万雷万雷万雷万雷!!!!!!」
万の雷を絶え間なく叩きつけられる。
防御する力も無くなり・・・。
「やった・・・のか・・・?」
私は笑顔で、倒れ伏した。
§
「やった・・・のか・・・?」
目の前に倒れた狐を見る。
まだ息はある。
だが、既に僕の腕は・・・。
焼け焦げて爛れるどころか、灰になっていた。
動かないどころか、もはや無い。
手甲はネックレスになって首にかかっていた。
足も、辛うじて動く程度だ。
スレイプニルの靴には感謝だな・・・。
これがなかったら既に立てていない。
「はぁ・・・はぁ・・・」
動悸と息切れが収まらない。
腕は・・・もういい。
痛みで頭が回らない。
目の前の狐へ背を向けて歩き出す。
・・・とりあえず、逃げなくては──
ぞくりと、背中が寒くなる。
後ろの気配は、少なからず弱っていた。
なのに。
それなのに。
『どうした人間。もう終わりか?』
僕にすら底の見えない魔力。
数えきれない・・・その『尾』。
こいつは、この狐は──
妖狐なんかじゃ、ない。
『名乗りがまだだったな』
狐は不敵に・・・嘲笑した。
『我が名は九十九』
僕は、ゴクリと喉を鳴らした。
『空狐に連ねる。神である』
僕の魔法は届かず、アイツの攻撃を一方的に避けているだけ。
それなのに、もはや第三者の介入など不可能に近い攻防が繰り広げられている。
しかし、あまり悠長にもしてられない。
いくら無限に等しい魔力でも、長引けば体力が先に尽きる。
魔力で体力補えればいいんだけどなあ。
「『雷の壁』」
『新星の白夜』
これだ。
あらゆる魔法を乖離させる。
魔力と現象に分けてしまう。
だからこそ、魔力は拡散し、現象は起きない。
無効化ほどタチが悪いものは──
「くっ──」
『どうした。その程度か』
1本の尾を受け止め、その顔を睨めつけた。
真っ赤な瞳だ。
真っ白な体だ。
だが、その魔力は。
とても禍々しい。
見とれるほどに、純粋極まった美しい魔力だ。
「──ゼウス」
『了承した』
僕は、ゼウスを身に宿す。
まだ不完全だから5分程度しか続かないけど・・・。
僕は半歩、人間から神に近づく。
そしてそれは、ある種の『進化』でもあるのか。
あるいは、変身とでも言おうか。
『・・・ほう。神降ろしか』
知っているようだ。
だが、関係ない。
知っていても抵抗できない程の、速さで──
駆け抜けるしかない。
「いくぞ。化け物」
受け止めていた尾を蹴り上げ、駆ける。
瞬きする暇もない。
神速により近い速度。
残像すら残るだろう。
僕が意識する前に狐の白い体が目の前へ迫る。
しかし、狐が反応する。
『ふむ』
二本の尾がこちらへ迫る。
だが。
──遅い。
身を屈めて避け、その勢いで跳躍する。
スレイプニルの効果で空を蹴り、急降下、急上昇を繰り返しながら全方向からの隙を探す。
恐らく、常人には目の端にすら捉えることは出来ないだろう。
音の壁を突き破る音が耳に響く。
止まらない。止まれない。もっと早く。もっと強く!!
今の僕は・・・
──雷そのものだ。
「『蒼雷撃』」
八方位から青い極太の雷が狐へ迫る。
『──効かぬよ』
アホみたいな魔法耐性だ。
効かないどころではない。
・・・見えていた。
あれは確かに、見えている動きだった。
1本の尾の先で、叩き落としていた。
雷を、叩き落とす。
それがどれだけのことか、僕でなくてもわかるだろう。
反射神経?魔法耐性?動体視力?
そのどれをとっても、まさに化け物。
「・・・つくづく化け物だ」
『貴様もな。人の子よ』
不敵に笑う。
それを嘲笑われる。
異様な空気だった。
常に動き回る。
止まった瞬間に、死ぬ。
それなのに、談笑している。
笑って、嗤って。
そして、話している。
『どうした?何を遠慮している』
「──あぁ、そうだな」
こいつは、無事では殺せない。
万死万生にて、殺そう。
最大に最高に最悪な殺意をもって。
──殺す。
『──ほう、やはり隠していたか』
「あんまり、使いたく、ないんだ」
疲れる、からな。
「『ギア100』『クロス100』」
限界突破というスキルがある。
スキルとは、産まれ持ったものと、修行で手に入るものもあるのだが。
僕はその『限界突破』を修行で手に入れた。
ギアもクロスもスキルだ。
だから、常に限界突破し、限界突破の限界を底上げしていた。
常に限界を超え、常に限界を拡張していた。
それが、ギアとクロスなのだ。
これを上げれば上げる程、僕は。
──死ぬ気になれる。
「『万雷』『轟雷』『怒雷』『静雷』『虚雷』『暗雷』『無雷』」
雷を、呼び出し、それらは様々な色の球体として上空へ浮かんでいる。
魔法では、ある。
ただ、これは。
僕じゃないと出来ないだろう。
魔法の継続は常に魔力が減る。
この量は・・・僕でも少しずつ減るレベルで大量に使うのだ。
だからこそ、長引かせることは出来ない。
──短期決戦だ。
『終わったか?』
「あぁ。行く、ぞ」
『来るが良い。人間』
前へ走ろうとした瞬間、地が揺れた。
足元だった場所には大きなクレーターが出来ている。
結界が破壊される音がした。
それほどの衝撃。
狐は不敵な笑みを浮かべ、凶笑しながら僕の攻撃を難なく防ぐ。
僕は嘲笑しながら、1秒で数億はあろうかという攻撃を繰り出す。
蹴り、防がれ、殴り、防がれ、放ち、防がれ、噛みつき、防がれ、組み付き、防がれる。
もはや、無限とも思える永遠の攻防だった。
§
無限に等しい魔力。
さらに成長速度を超える負荷をもって私と同じ土俵まで立とうとした。
この人間・・・私より化け物じゃないか。
やはり、勇者の子と言うことか。
無限と思うような激しい攻防。
この人間は恐らく、防御に徹しているのは舐めているからだと思っているのだろう。
まぁ、半分はその通りだが、防御がギリギリなのもまた、事実だ。
隙あらば噛み付こうとする。
組みつこうとする。
蹴ろうとする。
殴ろうとする。
ひっかこうとする。
止められない。
止まらない。
光速。
まさに瞬の攻撃だった。
『暗焼の鎖』
「効か──ねぇ!!」
暗雷とやらか。
厄介な・・・。
全属性の雷を呼び出し、攻撃を受ける前にその攻撃に耐性のある雷を帯びる。
我が魔法は通ぜぬ、か。
『無雷』とやらで、新星の白夜の対策もしているようだ。
戦闘センスと言うやつか・・・?
つくづく化け物だ。
「・・・おらぁ!!」
不意に、顎を砕かれた。
いつの間に、その速度を──
いや、私は何を考えているんだ。
この人間が化け物たる所以は、その成長速度にあるではないか。
『ぐっ──』
「万雷!!!万雷万雷万雷万雷万雷万雷万雷!!!!!!」
万の雷を絶え間なく叩きつけられる。
防御する力も無くなり・・・。
「やった・・・のか・・・?」
私は笑顔で、倒れ伏した。
§
「やった・・・のか・・・?」
目の前に倒れた狐を見る。
まだ息はある。
だが、既に僕の腕は・・・。
焼け焦げて爛れるどころか、灰になっていた。
動かないどころか、もはや無い。
手甲はネックレスになって首にかかっていた。
足も、辛うじて動く程度だ。
スレイプニルの靴には感謝だな・・・。
これがなかったら既に立てていない。
「はぁ・・・はぁ・・・」
動悸と息切れが収まらない。
腕は・・・もういい。
痛みで頭が回らない。
目の前の狐へ背を向けて歩き出す。
・・・とりあえず、逃げなくては──
ぞくりと、背中が寒くなる。
後ろの気配は、少なからず弱っていた。
なのに。
それなのに。
『どうした人間。もう終わりか?』
僕にすら底の見えない魔力。
数えきれない・・・その『尾』。
こいつは、この狐は──
妖狐なんかじゃ、ない。
『名乗りがまだだったな』
狐は不敵に・・・嘲笑した。
『我が名は九十九』
僕は、ゴクリと喉を鳴らした。
『空狐に連ねる。神である』
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