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第二章『学園と黒竜』
九話『緊急事態』
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「馬鹿な!!何故黒竜が王都へ!!」
いくらなんでも、最近発見されたばかりの黒竜が王都へ来る理由はない。
そもそも、発見からは一月も経っていないのだ。
人を喰らっていたとしても、あまりに早すぎる。
「陛下!指示を!」
我が敬愛する主人。
かつて、私が死にそうだったところを拾ってくれた大恩人。
「・・・早急に避難を呼びかけよ。場所は学園だ。王都にいる冒険者を集めるのだ」
「ほ、報告します!黒竜が迫る方向から──」
騎士団長は目を丸めた。
それは、まるで。
まるで、意図されたかのような──
「大量の魔物が!迫ってきております!」
§
避難命令が出された。
場所は学園の地下ダンジョン一層。
そこはこのダンジョン最初の安全地帯であり、魔物が湧かない場所だ。
その広さは学園丸々一つ入る。
まぁ学園がそう言う設計なのだが・・・
そして、住民は続々とそこへ流れて行った。
僕達はと言うと・・・
「つくも、ここを頼める?」
「わかった」
「つくもちゃん気を付けてね~!」
「私をなんだと思ってるんだ貴様ら・・・」
つくもに学園を任せ、僕らは反対方向の門へ向かう。
反対方向までは三キロはあるから、僕はフールを抱え、それなりに急いで向かった。
「きゃー!ボク今幸せ!」
なんとも緊張感がない。
だが、僕はわかっていた。
黒竜の名を出してから、フールの瞳は・・・
黒く、濁っている。
「沢山いるね」
「魔物も大量に来てるらしいからねー」
どうやら、黒竜がこちらへ来る時に逃げた魔物たちが、一直線にこちらへ向かって来ているらしい。
その第一波を受け止めるため、3分の1程度の冒険者が前へ出ていた。
魔法職は後方支援。
戦闘職は交代のために少しづつ出すようだ。
「・・・僕らは先に行こう。黒竜を殺すんだ」
「・・・うん。ボクは貴方に着いて行きます」
真剣な表情で僕を見上げるフール。
フールを抱えたまま、僕はその『気配』へと走り出した。
§
完成した黒竜は、災害級一歩手前程度か。
総計700の人間を食わせたが、やはり白竜へと成るにはそれなりの時間が必要な様だ。
だが、王都を潰す程度なら問題ない筈だ。
あの黒竜を発見してから1年ほどだが、その程度の『経験』では限界があった。
もしやこの戦いの後に白竜へ・・・
焦る必要は無い。
アレが負けるようなことは早々無いだろう。
あるとすれば・・・
消耗した敵を抹殺するのみ。
「・・・しかしまぁ、何故黒竜が居るとバレていたのか」
あの黒竜はさっき解放したのだ。
バレるはずのない物だった。
しかし、王都に混乱はあれど、その冒険者や騎士団に動揺は見られない。
それなりに対抗策を出てきた、ということか。
問題はその情報源だ。
占術師でも居たか?
いや、居たならばもっと迅速に動いていた筈だ。
・・・まぁいい。
「最後まで見届けてやるさ。親として、な」
そう言って、黒竜を眺めた。
§
ドクン。ドクン。
その鼓動は次第に大きくなる。
体が震える程の鼓動だ。
振動を空気が伝い、僕の体へ染み込む。
「──黒、竜っ!」
「アダム」
そう呼んで、僕を見つめるフールの目は。
絶対の信頼を、こちらへ向けていた。
それに奮い立たされる。
僕はなんのために強くなると決めた。
・・・フールを、守る為だ。
そしてフールも、僕を守る為に強くなった。
「フール、君は全力で戦えばいい。僕が全力で合わせる」
「うん。分かってる」
僕らは開けた平原で止まった。
既に魔物たちは後方へ。
つまり、王都へ向かっていた。
雄叫びが聞こえる。
──開戦だ。
そして、僕らはそれを見た。
巨大な、月を覆う程の巨体。
真っ黒で、その顔には耳や目がない。
裂けた口は赤く染まり、その牙は黒く染っていた。
・・・黒竜。
あの時見た黒竜ではない。
それは確かだが。
「・・・デカすぎる」
あの黒竜に匹敵する、あるいは以上の巨体。
それに、溢れんばかりの魔力。
あの魔力には、ほぼ全ての属性が混ざっている。
それはつまり、人を喰らったという証明。
ぎりりと、歯を食いしばる。
「・・・属性が揃ってる。有効打はあまりないな」
「うん。物理耐性も馬鹿にならない」
「フールの剣じゃないと通らない、か」
「首を落とさないと死なないよ、あれは」
「分かってる。僕がどうにか隙を作るしかない。その援護をお願い」
「わかった」
防御力、耐久力、体力、魔力、膂力。
あの様子だと知性まで兼ね備えているのかもしれない。
だとすれば、相当な労力が・・・
無事では勝てない、か。
少なくとも、フールはなるべく傷付けないように・・・
本気で殺ってやる。
『ぎしゃああああああああああぁぁぁ!!!』
こちらに気付いた黒竜が叫ぶ。
・・・つくもほどではない。
しかし、それだけで萎縮するほどの威圧。
「喰う気か?僕を」
させやしない。
そう聞こえるように、僕の後ろで魔力が、熱が膨れ上がる。
僕はそれを感じながら、笑みを零した。
「なら、殺してやる」
僕は白い雷に身を包み、その魔力を高めた。
それを見た黒竜が地に降り立ち、その黒い魔力を放出する。
「てめぇは大人しく死ねばいいんだよッ!!」
『ぎしゃああああああああああ!!!!!!』
そして魔力は、ぶつかり合う。
いくらなんでも、最近発見されたばかりの黒竜が王都へ来る理由はない。
そもそも、発見からは一月も経っていないのだ。
人を喰らっていたとしても、あまりに早すぎる。
「陛下!指示を!」
我が敬愛する主人。
かつて、私が死にそうだったところを拾ってくれた大恩人。
「・・・早急に避難を呼びかけよ。場所は学園だ。王都にいる冒険者を集めるのだ」
「ほ、報告します!黒竜が迫る方向から──」
騎士団長は目を丸めた。
それは、まるで。
まるで、意図されたかのような──
「大量の魔物が!迫ってきております!」
§
避難命令が出された。
場所は学園の地下ダンジョン一層。
そこはこのダンジョン最初の安全地帯であり、魔物が湧かない場所だ。
その広さは学園丸々一つ入る。
まぁ学園がそう言う設計なのだが・・・
そして、住民は続々とそこへ流れて行った。
僕達はと言うと・・・
「つくも、ここを頼める?」
「わかった」
「つくもちゃん気を付けてね~!」
「私をなんだと思ってるんだ貴様ら・・・」
つくもに学園を任せ、僕らは反対方向の門へ向かう。
反対方向までは三キロはあるから、僕はフールを抱え、それなりに急いで向かった。
「きゃー!ボク今幸せ!」
なんとも緊張感がない。
だが、僕はわかっていた。
黒竜の名を出してから、フールの瞳は・・・
黒く、濁っている。
「沢山いるね」
「魔物も大量に来てるらしいからねー」
どうやら、黒竜がこちらへ来る時に逃げた魔物たちが、一直線にこちらへ向かって来ているらしい。
その第一波を受け止めるため、3分の1程度の冒険者が前へ出ていた。
魔法職は後方支援。
戦闘職は交代のために少しづつ出すようだ。
「・・・僕らは先に行こう。黒竜を殺すんだ」
「・・・うん。ボクは貴方に着いて行きます」
真剣な表情で僕を見上げるフール。
フールを抱えたまま、僕はその『気配』へと走り出した。
§
完成した黒竜は、災害級一歩手前程度か。
総計700の人間を食わせたが、やはり白竜へと成るにはそれなりの時間が必要な様だ。
だが、王都を潰す程度なら問題ない筈だ。
あの黒竜を発見してから1年ほどだが、その程度の『経験』では限界があった。
もしやこの戦いの後に白竜へ・・・
焦る必要は無い。
アレが負けるようなことは早々無いだろう。
あるとすれば・・・
消耗した敵を抹殺するのみ。
「・・・しかしまぁ、何故黒竜が居るとバレていたのか」
あの黒竜はさっき解放したのだ。
バレるはずのない物だった。
しかし、王都に混乱はあれど、その冒険者や騎士団に動揺は見られない。
それなりに対抗策を出てきた、ということか。
問題はその情報源だ。
占術師でも居たか?
いや、居たならばもっと迅速に動いていた筈だ。
・・・まぁいい。
「最後まで見届けてやるさ。親として、な」
そう言って、黒竜を眺めた。
§
ドクン。ドクン。
その鼓動は次第に大きくなる。
体が震える程の鼓動だ。
振動を空気が伝い、僕の体へ染み込む。
「──黒、竜っ!」
「アダム」
そう呼んで、僕を見つめるフールの目は。
絶対の信頼を、こちらへ向けていた。
それに奮い立たされる。
僕はなんのために強くなると決めた。
・・・フールを、守る為だ。
そしてフールも、僕を守る為に強くなった。
「フール、君は全力で戦えばいい。僕が全力で合わせる」
「うん。分かってる」
僕らは開けた平原で止まった。
既に魔物たちは後方へ。
つまり、王都へ向かっていた。
雄叫びが聞こえる。
──開戦だ。
そして、僕らはそれを見た。
巨大な、月を覆う程の巨体。
真っ黒で、その顔には耳や目がない。
裂けた口は赤く染まり、その牙は黒く染っていた。
・・・黒竜。
あの時見た黒竜ではない。
それは確かだが。
「・・・デカすぎる」
あの黒竜に匹敵する、あるいは以上の巨体。
それに、溢れんばかりの魔力。
あの魔力には、ほぼ全ての属性が混ざっている。
それはつまり、人を喰らったという証明。
ぎりりと、歯を食いしばる。
「・・・属性が揃ってる。有効打はあまりないな」
「うん。物理耐性も馬鹿にならない」
「フールの剣じゃないと通らない、か」
「首を落とさないと死なないよ、あれは」
「分かってる。僕がどうにか隙を作るしかない。その援護をお願い」
「わかった」
防御力、耐久力、体力、魔力、膂力。
あの様子だと知性まで兼ね備えているのかもしれない。
だとすれば、相当な労力が・・・
無事では勝てない、か。
少なくとも、フールはなるべく傷付けないように・・・
本気で殺ってやる。
『ぎしゃああああああああああぁぁぁ!!!』
こちらに気付いた黒竜が叫ぶ。
・・・つくもほどではない。
しかし、それだけで萎縮するほどの威圧。
「喰う気か?僕を」
させやしない。
そう聞こえるように、僕の後ろで魔力が、熱が膨れ上がる。
僕はそれを感じながら、笑みを零した。
「なら、殺してやる」
僕は白い雷に身を包み、その魔力を高めた。
それを見た黒竜が地に降り立ち、その黒い魔力を放出する。
「てめぇは大人しく死ねばいいんだよッ!!」
『ぎしゃああああああああああ!!!!!!』
そして魔力は、ぶつかり合う。
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