21 / 65
第二章『学園と黒竜』
八話『その鼓動』
しおりを挟む
それは、とてつもなく大きく、禍々しく、美しいモノだった。
かつてこの『竜』は、望まぬ敗北を喫し『そこ』へ連れて行かれた。
そこに自由はなかったが、そこには安寧があった。
定期的に広い空間での『食事』があり、段々と力をつけていった。
そのうち、知性を手に入れた『竜』は、己の不自由を作り出している人間に怒りを感じた。
カゴに捕らわれ、自由を奪われ、しかし食事はとらされる。
明らかな『飼い慣らし』は、その竜にとって果てしなく苦痛であった。
産まれて直ぐに捕まり、力の無い状態では抵抗すら許されなかった。
何故か反逆の意思を持つと、意識が乗っ取られるような感覚がした。
「────?」
「──!──!?」
「──」
「────」
透明な壁の向こう側。
そこで、こちらを眺めながら何かを言う人間達。
竜は知らない。
それが、己の自由を決定付ける会話だと。
そして、竜は。
『・・・・・・?』
自由を、手に入れた。
その心中は計り知れない。
怒り、困惑、恨み、恐怖。
そして、歓喜。
震えるほどの、歓喜。
心の臓腑が、高らかに鳴り響いた。
§
「いやー楽勝だったね!」
「そうだね。手応えはなかったなぁ」
『早く来い!クッキーサンドとやらを食べるぞ!』
全ての試合が終わり、僕達は寮へ戻っていた。
クラスごとに寮は別れ、Sクラスにはそれなりに広い部屋が宛がわられる。
そして、僕とフールはほぼ一緒に暮らしていた。
まぁ、良いんだけど?
荷物持ってきて「泊めて!4年くらい!」とか言うものだから、びっくりしてしまった。
泊まるのは別に禁止されていないし、他の男の人の部屋に女の人が出入りしてる所も見ている。
問題は無いだろう。
「ほらこれ!キャラメルクッキーサンドと、チョコクッキーサンド!凄くない!?わざわざ買ってきて研究したの!」
素直にすごい。
僕はそれを食べ、感心しながら目を丸くする。
つくもも気に入っているようだ。
「凄い!さすがフールだ!」
「貴様は才能があるな・・・」
「えへへ~そう~?」
照れながら3人分コーヒーを淹れるフール。
それを僕達が座っている丸い木の机に置き、一緒に食べ始めた。
サクサクとしたクッキーに、濃い甘さのキャラメルやチョコレート。
普段の料理も美味しいのに、間食まで完璧とは・・・
やはり、フールは最高だ。
そんなことを思ってると、こんな事を言われた。
「アダム、生徒会の人の話聞いてきたんだけど、なんか私じゃなくて、アダムを推薦したかったらしいよ?」
「?じゃなんで直接僕に話を持ってこなかったの?」
「私達が行っても断れるだろうから、だってさ」
なるほど、キチンと分かっている。
あの日僕の実力はその場に居た全員にバレているし、その噂だって生徒や先生からも広まっているだろう。
あの場に生徒会のメンバーが居てもおかしくない。
しかしまぁ、フールを使うとは・・・
恐らく、他国からの留学生だし、皇魔騎士団のメンバーでもあるから、少し目を付けていたんだろう。
で、僕と行動しているのを見た、とかかな。
「やっぱり、フールも誘われた?」
「うん!でもやっぱり2人で考えないとなぁって!」
「そうだね・・・」
生徒会。
それは、学園の風紀を守ったり、他国の学園との連絡やイベントの誘いをしたり、受けたりする業務が殆どらしい。
他にも学園の予算に応じた必要な道具を買い揃えたり・・・などなど。
来賓の方への連絡なども業務のうちだ。
正直入る意味がわからない。
ただ、一つだけ利点がある。
「・・・下層への通行許可、か」
「やっぱり気になる?別に行っちゃいけない訳じゃないけど、それが一番の近道だとは思うんだよね~」
生徒会には原則Aクラス以上が入ることになっている。
それも、Aクラスに至っては序列3位までしか入れない。
つまり、その戦力の高さは約束されているのだ。
だから、ここの地下に眠る地下ダンジョンの現在発見されている最下層までの『近道』を許されているのだ。
現在見つかっている層は37層。
かなりの近道は間違いない。
・・・まぁ暇だし、やってもいいかもね。
「僕はやってみてもいいと思うよ。地下迷宮には結構興味あるし」
「うーん・・・アダムが入るならボクも入るけど・・・」
少し悩ましい顔をする。
この前言っていた『僕との時間』が減るのを嫌がっているのだ。
全く。可愛い奴め。
「この迷宮に名はあるのか?」
ふと、思い付いたようにつくもが聞いてきた。
今は人間形態でクッキーサンドを食べていた。
「たしか、無限迷宮?だったかな。ここまで深いダンジョンもそんなに無いし、最下層が見つかってないってことは『成長』しているのかもしれない」
「なるほどな。なれば貴様らの魔具も新層ならば見つかりやすい訳だ」
「それもあるけど、新層を見つけると武神祭の参加権が得られるんだよね。戦わなくても」
武神祭とは、各国の学園から強者を集め、数々の来賓の前でその武勇を競うもの。
そこでの優勝は、将来の安定へ繋がる。
「さてと、そろそろ寝よ──」
ドクン、ドクン。
音が、聞こえた。
鼓動が、聞こえた。
そして、強大な魔力・・・
これは、これはまさか・・・!
「黒、竜・・・!」
その名を呼んだ瞬間。
遠くの方から、返事が聞こえた気がした。
かつてこの『竜』は、望まぬ敗北を喫し『そこ』へ連れて行かれた。
そこに自由はなかったが、そこには安寧があった。
定期的に広い空間での『食事』があり、段々と力をつけていった。
そのうち、知性を手に入れた『竜』は、己の不自由を作り出している人間に怒りを感じた。
カゴに捕らわれ、自由を奪われ、しかし食事はとらされる。
明らかな『飼い慣らし』は、その竜にとって果てしなく苦痛であった。
産まれて直ぐに捕まり、力の無い状態では抵抗すら許されなかった。
何故か反逆の意思を持つと、意識が乗っ取られるような感覚がした。
「────?」
「──!──!?」
「──」
「────」
透明な壁の向こう側。
そこで、こちらを眺めながら何かを言う人間達。
竜は知らない。
それが、己の自由を決定付ける会話だと。
そして、竜は。
『・・・・・・?』
自由を、手に入れた。
その心中は計り知れない。
怒り、困惑、恨み、恐怖。
そして、歓喜。
震えるほどの、歓喜。
心の臓腑が、高らかに鳴り響いた。
§
「いやー楽勝だったね!」
「そうだね。手応えはなかったなぁ」
『早く来い!クッキーサンドとやらを食べるぞ!』
全ての試合が終わり、僕達は寮へ戻っていた。
クラスごとに寮は別れ、Sクラスにはそれなりに広い部屋が宛がわられる。
そして、僕とフールはほぼ一緒に暮らしていた。
まぁ、良いんだけど?
荷物持ってきて「泊めて!4年くらい!」とか言うものだから、びっくりしてしまった。
泊まるのは別に禁止されていないし、他の男の人の部屋に女の人が出入りしてる所も見ている。
問題は無いだろう。
「ほらこれ!キャラメルクッキーサンドと、チョコクッキーサンド!凄くない!?わざわざ買ってきて研究したの!」
素直にすごい。
僕はそれを食べ、感心しながら目を丸くする。
つくもも気に入っているようだ。
「凄い!さすがフールだ!」
「貴様は才能があるな・・・」
「えへへ~そう~?」
照れながら3人分コーヒーを淹れるフール。
それを僕達が座っている丸い木の机に置き、一緒に食べ始めた。
サクサクとしたクッキーに、濃い甘さのキャラメルやチョコレート。
普段の料理も美味しいのに、間食まで完璧とは・・・
やはり、フールは最高だ。
そんなことを思ってると、こんな事を言われた。
「アダム、生徒会の人の話聞いてきたんだけど、なんか私じゃなくて、アダムを推薦したかったらしいよ?」
「?じゃなんで直接僕に話を持ってこなかったの?」
「私達が行っても断れるだろうから、だってさ」
なるほど、キチンと分かっている。
あの日僕の実力はその場に居た全員にバレているし、その噂だって生徒や先生からも広まっているだろう。
あの場に生徒会のメンバーが居てもおかしくない。
しかしまぁ、フールを使うとは・・・
恐らく、他国からの留学生だし、皇魔騎士団のメンバーでもあるから、少し目を付けていたんだろう。
で、僕と行動しているのを見た、とかかな。
「やっぱり、フールも誘われた?」
「うん!でもやっぱり2人で考えないとなぁって!」
「そうだね・・・」
生徒会。
それは、学園の風紀を守ったり、他国の学園との連絡やイベントの誘いをしたり、受けたりする業務が殆どらしい。
他にも学園の予算に応じた必要な道具を買い揃えたり・・・などなど。
来賓の方への連絡なども業務のうちだ。
正直入る意味がわからない。
ただ、一つだけ利点がある。
「・・・下層への通行許可、か」
「やっぱり気になる?別に行っちゃいけない訳じゃないけど、それが一番の近道だとは思うんだよね~」
生徒会には原則Aクラス以上が入ることになっている。
それも、Aクラスに至っては序列3位までしか入れない。
つまり、その戦力の高さは約束されているのだ。
だから、ここの地下に眠る地下ダンジョンの現在発見されている最下層までの『近道』を許されているのだ。
現在見つかっている層は37層。
かなりの近道は間違いない。
・・・まぁ暇だし、やってもいいかもね。
「僕はやってみてもいいと思うよ。地下迷宮には結構興味あるし」
「うーん・・・アダムが入るならボクも入るけど・・・」
少し悩ましい顔をする。
この前言っていた『僕との時間』が減るのを嫌がっているのだ。
全く。可愛い奴め。
「この迷宮に名はあるのか?」
ふと、思い付いたようにつくもが聞いてきた。
今は人間形態でクッキーサンドを食べていた。
「たしか、無限迷宮?だったかな。ここまで深いダンジョンもそんなに無いし、最下層が見つかってないってことは『成長』しているのかもしれない」
「なるほどな。なれば貴様らの魔具も新層ならば見つかりやすい訳だ」
「それもあるけど、新層を見つけると武神祭の参加権が得られるんだよね。戦わなくても」
武神祭とは、各国の学園から強者を集め、数々の来賓の前でその武勇を競うもの。
そこでの優勝は、将来の安定へ繋がる。
「さてと、そろそろ寝よ──」
ドクン、ドクン。
音が、聞こえた。
鼓動が、聞こえた。
そして、強大な魔力・・・
これは、これはまさか・・・!
「黒、竜・・・!」
その名を呼んだ瞬間。
遠くの方から、返事が聞こえた気がした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる