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第二章『学園と黒竜』
十話『黒い魔力』
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「前衛交代!隙を見て後方へ!交代要員はその隙間を埋めろ!10分はもたせろ!!」
ギルドマスター。
その声は戦場へよく通る声だった。
数年前まで現役であり、そのランクはSだった。
ギルドの組合長から声がかかり、戦いに疲れていた彼はギルドマスターとしてこの国を任されていた。
そして、その指揮能力も馬鹿にならない。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ・・・少し、疲れただけだ・・・」
後方へ下がり、回復薬と水を飲む戦士。
魔法職はたまに魔力を回復させる薬を飲み、援護に全力を掛けている。
俺はそれを油断なく眺め──
「──」
音が、消えた。
誰も動かない。
いや、動けない。
魔物ですら、混乱しているように見える。
音もなく、動きもない。
そして、また動き出した。
今のは──
いや、今は戦闘に集中せねば。
「止まるな!!魔物も混乱している!!今のうちに数を減らせ!!」
無限かと思われるほどの魔物。
上級種もそれなりに混ざっている。
・・・クソっ!
「無事で居ろよ・・・!」
姿の見えない少年に、彼は声を漏らした。
§
「──ぐはぁ!!!」
その豪腕に打たれ、盛大に血を吐く。
「アダム!!」
「大、丈夫・・・!」
数瞬、体が全く動かなかった。
僕だけでなく、フールも動いていなかった。
なのに、この竜だけは・・・
何事も無かったかのように、攻撃してきた。
今のは、コイツの──
「時空間魔法かよ──!!」
聞いたことがある。
大賢者は自然の中から魔法を学び、そして『時間の流れ』に目を付けた。
そしてそれは、あらゆる属性を網羅し、それを複雑に絡み合わせた魔法だった。
だが、コイツは雷の属性を持たない。
だから、不完全なのだ。
恐らくそこまで長い間時間を止められないのだろう。
時間、と言うか、時空、か。
あらゆるものが止まっていた。
後方の先頭の音すら聞こえて来なかった。
恐らく、その範囲は相当広い。
ただ意味もなく魔力を垂れ流しているのだと思っていた。
しかし、現実はそこまで甘くない。
あれは馴染ませていたのだ。
この世界に。
この空間に。
己の魔力を。
「げほっ・・・クソっ」
口に溜まった血を吐き、悪態をつく。
どうすればいい。
一瞬とはいえ、こちらの動きを止める化け物だ。
流石に僕には時間を止められない。
「・・・仕方ない」
なら、止める間もなく攻撃するだけだ。
さっきの時空間魔法で魔力はそれなりに減った。
今も尚魔力を垂れ流しているから、底をつくのも時間の問題だろう。
それに、この様子だとあまり連続では使えないようだ。
さもなくば、こちらの様子など見ないだろう。
『キシ、キシシシッ!』
笑っている。
こちらのダメージを感じたのだろう。
そして困惑も。
為す術なし。
僕はただ、それが尽きるまで待つしかない。
「行くぞ。化け物」
『キシシシシッ!』
「『神雷速』『無雷』」
無雷は、単純な防御魔法だ。
自身の体を半透明な雷で覆い、防御力とする。
さらには迎撃機能などもあるが、この戦いでは無意味だろう。
つくもとの戦いでの『魔法の乖離』が無いだけまだマシだが、それとは違う厄介な敵だ。
「──フッ!!」
フールから借りた一振りの刀。
刀身が長く、2mはあるだろうか。
妖刀『無心』。
東国の剣豪が使ったとされる剣だ。
法皇が譲り受け、それをまた譲り受けたらしい。
「おらぁ──」
まただ、意識はあるが、体が動かない。
魔力の流れは感じる。
しかしそれは、目の前の黒竜のモノだ。
黒竜が尾で僕を打つ。
当たる瞬間、体の自由が戻った。
──まさか。
「ぐぅううう!!」
『グルるるぅ・・・』
何とか防御を取り、僕はフールの足元まで吹き飛ぶ。
フールは僕に回復魔法を掛け、さらに魔力を高めた。
「・・・いつの間に回復魔法なんて・・・」
後で聞いておかないと。
・・・それより。
もしやこの時空間魔法の欠点は、止めている間に干渉出来ないことなのでは?
ただの偶然もある。
しかし、それがもし本当なら・・・
耐えられる!
「『ギア20』『クロス20』」
僕はスキルで限界突破の限界を超える。
超位的な感覚の伸びを感じた。
世界が白黒になり、全ての動きがゆっくりに見える。
僕だけ普通に動いてるような感覚。
・・・止めている訳では無いが。
僕の『速さ』は、時間という概念にさえ迫っていた。
「『雷歩』」
言うや否や目の前に黒竜の腹部が現れる。
僕はそれに刀を叩きつけ、迎撃しようと攻撃をする黒竜の脇腹に突き刺した。
・・・硬い。
僕の膂力では先の方が少し刺さる程度だった。
筋肉量と皮膚の硬さ。
そして反射神経。
どれをとっても化け物だ。
「──く、そ」
また、止まる。
だが今回は、少しだけ動けた。
・・・?
だがその瞬間、体当たりを喰らう。
今度は当たってから自由になる。
「はぁ・・・はぁ・・・」
どういうことだ・・・?
今回は何故動けた・・・?
・・・・・・おい、まさか。
「異常付与なのか・・・?」
さっきのは単純な時間切れ。
今回のはすぐに攻撃してきていた。
それは分かる。
デバフは単純に、指定したモノへ過負荷を背負わせる魔法だ。
それは毒だったり、麻痺だったり、混乱や盲目だったり。
もしこれが、広範囲に及ぶ空間魔法との合成魔法で、引き伸ばしだとすれば。
「分かったぞ、化け物」
後ろで、フールが笑ったような気がした。
そして僕も──
「僕達の勝ちだ」
凶笑を浮かべていた。
ギルドマスター。
その声は戦場へよく通る声だった。
数年前まで現役であり、そのランクはSだった。
ギルドの組合長から声がかかり、戦いに疲れていた彼はギルドマスターとしてこの国を任されていた。
そして、その指揮能力も馬鹿にならない。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ・・・少し、疲れただけだ・・・」
後方へ下がり、回復薬と水を飲む戦士。
魔法職はたまに魔力を回復させる薬を飲み、援護に全力を掛けている。
俺はそれを油断なく眺め──
「──」
音が、消えた。
誰も動かない。
いや、動けない。
魔物ですら、混乱しているように見える。
音もなく、動きもない。
そして、また動き出した。
今のは──
いや、今は戦闘に集中せねば。
「止まるな!!魔物も混乱している!!今のうちに数を減らせ!!」
無限かと思われるほどの魔物。
上級種もそれなりに混ざっている。
・・・クソっ!
「無事で居ろよ・・・!」
姿の見えない少年に、彼は声を漏らした。
§
「──ぐはぁ!!!」
その豪腕に打たれ、盛大に血を吐く。
「アダム!!」
「大、丈夫・・・!」
数瞬、体が全く動かなかった。
僕だけでなく、フールも動いていなかった。
なのに、この竜だけは・・・
何事も無かったかのように、攻撃してきた。
今のは、コイツの──
「時空間魔法かよ──!!」
聞いたことがある。
大賢者は自然の中から魔法を学び、そして『時間の流れ』に目を付けた。
そしてそれは、あらゆる属性を網羅し、それを複雑に絡み合わせた魔法だった。
だが、コイツは雷の属性を持たない。
だから、不完全なのだ。
恐らくそこまで長い間時間を止められないのだろう。
時間、と言うか、時空、か。
あらゆるものが止まっていた。
後方の先頭の音すら聞こえて来なかった。
恐らく、その範囲は相当広い。
ただ意味もなく魔力を垂れ流しているのだと思っていた。
しかし、現実はそこまで甘くない。
あれは馴染ませていたのだ。
この世界に。
この空間に。
己の魔力を。
「げほっ・・・クソっ」
口に溜まった血を吐き、悪態をつく。
どうすればいい。
一瞬とはいえ、こちらの動きを止める化け物だ。
流石に僕には時間を止められない。
「・・・仕方ない」
なら、止める間もなく攻撃するだけだ。
さっきの時空間魔法で魔力はそれなりに減った。
今も尚魔力を垂れ流しているから、底をつくのも時間の問題だろう。
それに、この様子だとあまり連続では使えないようだ。
さもなくば、こちらの様子など見ないだろう。
『キシ、キシシシッ!』
笑っている。
こちらのダメージを感じたのだろう。
そして困惑も。
為す術なし。
僕はただ、それが尽きるまで待つしかない。
「行くぞ。化け物」
『キシシシシッ!』
「『神雷速』『無雷』」
無雷は、単純な防御魔法だ。
自身の体を半透明な雷で覆い、防御力とする。
さらには迎撃機能などもあるが、この戦いでは無意味だろう。
つくもとの戦いでの『魔法の乖離』が無いだけまだマシだが、それとは違う厄介な敵だ。
「──フッ!!」
フールから借りた一振りの刀。
刀身が長く、2mはあるだろうか。
妖刀『無心』。
東国の剣豪が使ったとされる剣だ。
法皇が譲り受け、それをまた譲り受けたらしい。
「おらぁ──」
まただ、意識はあるが、体が動かない。
魔力の流れは感じる。
しかしそれは、目の前の黒竜のモノだ。
黒竜が尾で僕を打つ。
当たる瞬間、体の自由が戻った。
──まさか。
「ぐぅううう!!」
『グルるるぅ・・・』
何とか防御を取り、僕はフールの足元まで吹き飛ぶ。
フールは僕に回復魔法を掛け、さらに魔力を高めた。
「・・・いつの間に回復魔法なんて・・・」
後で聞いておかないと。
・・・それより。
もしやこの時空間魔法の欠点は、止めている間に干渉出来ないことなのでは?
ただの偶然もある。
しかし、それがもし本当なら・・・
耐えられる!
「『ギア20』『クロス20』」
僕はスキルで限界突破の限界を超える。
超位的な感覚の伸びを感じた。
世界が白黒になり、全ての動きがゆっくりに見える。
僕だけ普通に動いてるような感覚。
・・・止めている訳では無いが。
僕の『速さ』は、時間という概念にさえ迫っていた。
「『雷歩』」
言うや否や目の前に黒竜の腹部が現れる。
僕はそれに刀を叩きつけ、迎撃しようと攻撃をする黒竜の脇腹に突き刺した。
・・・硬い。
僕の膂力では先の方が少し刺さる程度だった。
筋肉量と皮膚の硬さ。
そして反射神経。
どれをとっても化け物だ。
「──く、そ」
また、止まる。
だが今回は、少しだけ動けた。
・・・?
だがその瞬間、体当たりを喰らう。
今度は当たってから自由になる。
「はぁ・・・はぁ・・・」
どういうことだ・・・?
今回は何故動けた・・・?
・・・・・・おい、まさか。
「異常付与なのか・・・?」
さっきのは単純な時間切れ。
今回のはすぐに攻撃してきていた。
それは分かる。
デバフは単純に、指定したモノへ過負荷を背負わせる魔法だ。
それは毒だったり、麻痺だったり、混乱や盲目だったり。
もしこれが、広範囲に及ぶ空間魔法との合成魔法で、引き伸ばしだとすれば。
「分かったぞ、化け物」
後ろで、フールが笑ったような気がした。
そして僕も──
「僕達の勝ちだ」
凶笑を浮かべていた。
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