数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第三章『地下ダンジョンと禁忌の実験』

十八話『怒れる者』

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説明は最早不要だった。
僕には、これだけで全てを理解できた。
2人は直ぐに馬車を飛び出し、王城へと駆ける。
・・・こんなに早く戻れるとは思っていなかっただろうが、混乱は見えない。
いや、あるいは焦燥が混乱を上回っているのかもしれない。
王都のあちこちに、上級悪魔や最上級悪魔が見える。
これらの悪魔は『使役者』という。
召喚によって生み出される存在で、純粋な存在であるレヴィ達より遥かに弱い存在だ。
だけど、人間からすればそれは。
一騎当千の強さを持つ、最悪の軍勢になる。
僕は静かにこの惨状を見渡し、最後に3人を見た。
落ち着いている・・・というか、興味が無さそうだ。
そうだ、これだ。
この3人は、僕にだけ懐いているんだ。
その他の人間は、劣等種なんだ。
・・・あぁ、そうだね。
僕の命令でこの3人は思いのままに動くだろう。
けど、僕はそうしない。
僕は、怒ってるんだ。
僕は、嘆いてるんだ。
少しづつ、歩き出す。
なんとなしに、歩き出す。
近付く全ての『敵』を、叩き潰し。
あらゆる害悪を、捻り潰し。
・・・倒れる命に、瞠目し。

僕はそして、それの中へ入る。

§

「はぁはぁ・・・くっ・・・ま、待ってたよ・・・アダム・・・ちん・・・」

「・・・」

「・・・・・・アダム」

少女の形をしたいつものルシファーが、そこに倒れていた。
ダンジョン最下層にある、懐かしの花畑に。
下半身と、上半身の右半分が消え去ったルシファーが、そこに倒れていた。
倒れたまま、僕を確認してほくそ笑む。
否、そのようにしか笑えないのだろう。
可愛い顔が、血に濡れている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

沈黙が、場を制した。
喋らせない。
動かさない。
誰も、空気も、魔力も、超能力も、命も、魂も。
なにも、動くことは許さない。

「・・・」

この惨状を作り出した本人であろう、その男に目を向けた。
その男は、ビクリと肩を跳ねさせ、こちらを凝視する。
・・・誰だよ、コイツ。
知らない人間が、知らない奴が、僕の友達を、僕の数少ない大事な友達を、レヴィの家族を、殺そうとしてる?
僕がお世話になった、この国の人達を、蹂躙している?
この惨状がどんな目的であれ。
今ハッキリとわかった。

「・・・君、死んでいいよ」

コイツハ敵ダ。

§

時間は少し遡り、これは馬車での移動の際、その時の記憶。
2日目の夜に見た、アダムの夢である。

『・・・アダムよ。聞こえるか?』

「え、あれ・・・?ゼウス・・・?」

僕はあの、最初の『白い空間』に居た。
目の前には、ふよふよとした雷の球。
・・・久々に見たけど、随分可愛らしい格好になったね。

『・・・汝、やはり変わらないな』

「当たり前さ。なんてったって、僕は・・・」

『いい。無駄なことを話してる時間はない』

僕は鼻からため息を吐き、ゼウスも変わってないなと思う。
しかし、そう、どこか焦っている?
球はゆらゆらと、どこか危うげに揺れている。

「・・・いいよ。聞くよ」

『・・・我は天界へ戻される。理由は汝がよく知っているだろう。黒い魔力とは、侵食するのだ。我らが神域にまでは届かんが、汝が自ら取り込んでいるそれは、少なからず我に影響を与える。突然の別れで申し訳ない・・・よって、我は決意した』

そう言って、ゼウスはいつもの(最初にしか見たことないけど)人型の姿になり、フードを脱いだ。
白い。
肌も、髪も、魔力も、雰囲気も。
そしてその白い瞳からは、僕と同じように雷が迸っている。

『貴様に我が力を託す。餞別だ。死んだ後に返しに来い』

「・・・・・・本当に、お別れなんだね」

『混乱していないのは、流石と言おう』

初めて、ゼウスに褒められた。
・・・いや、もしかしら、言葉の端々から褒めてくれていたのかもしれない。
・・・長く話せてなくて、こうなるだろうとは思っていた。
少しだけ、寂しいな。

「そっか。わかったよ。君の力で僕は、英雄になるよ」

『図に乗るなよ小僧。貴様は弱い。なんだあの体たらくは。小娘ごときに手をこまねいてる間に、英雄へと踏み出せ』

力強い激励として受け取ろう。
・・・そして、これがいつものゼウスだと、僕は深く安心した。
僕は小一時間ほど、今の僕の力で扱えるその全てを叩き込まれ、その後の『覚醒』まで教わった。
・・・僕は。
この精霊の、意志を継ぐもの。

「英霊ゼウスよ。また会う時は、我が名は世に知れ渡っていよう」

過去の英雄が、引退して精霊を天界へ帰す時に言ったとされる言葉。
精霊は、違ったけどね。

『人間よ。次に会う時は、友として語り合おうぞ』

そしてまた、かつての精霊の言葉を返してくれる。
僕は、何か言いたくなるのをぐっと我慢して、見つめた。
ゼウスは少しだけ、ほんの少しだけ笑って、消えていった。
・・・そうして、僕は。

『覚醒』する。

§

「・・・貴様、いつの間にそれほどの力を・・・」

銀と戦った後の話だから、君たちは知らないだろう。
覚醒は、神霊に選ばれた者しか出来ない。
僕はゼウスに、真に選ばれたのだ。
・・・ゼウスの、想いと共に。
僕はこの力を、誰でもなく、僕のために使う。
それが、契約というものだ。

「・・・君、死んでいいよ」

途端、目を見開いてこちらを見る男。
なんだよその眼。
なんだよその顔。
なんだよその感情。

僕の友達を殺しかけてるんだ。
痛い思いをさせてるんだ。
確かに悪魔は死なない、
僕の大切な仲間なんだよ。

「分かるかクソ野郎。僕は君を許さない。僕は永遠に君を許さない。僕の大事な大事な友達を何故傷付けた。僕の大事な大事な時間を台無しにするのか?」

「・・・アダム、俺はただ、お前のために──」
「誰がやってくれと頼んだ。誰がお前に頼んだ。誰が僕のためになにかしろと言った。言ってない。言われてない。聞いてない。君は誰だよ。僕はアダムだよ?僕はこの世に1人。僕をつけまわすなら」

今、コロス。
僕は駆ける。
と言うより、移動
その瞬間に意識外から男の懐に潜り込み、そのがら空きの腹に四千発の正拳突きを繰り出す。
男が痛みに体を折る前に、遅くなった周囲を感じながら僕は顔に膝をおみまいした瞬間、万雷を叩きつける。
休みなどない。休まない。休ませない。
確実に。

「く・・・そ・・・アダム・・・俺は・・・!」

ボロボロになった、しかし傷の無い男から黒く禍々しい物が流れ出る。
男は涙を流しながら、その幼いとも言える顔をこちらへ見せた。
・・・・・・・・・やはり、そうか。
僕はこの男を、知らない。

「アダム、ごめん。君にこんなことはしたくないんだ・・・少し、大人しくしてて」

僕は急に体が地面へ吸い付く感覚を覚える。
重力魔法のソレじゃあない。
・・・これは、そう。
大地が、僕だけを抱きしめているような・・・
そんな感覚。
僕は必死に抵抗するが、どうやら魔力も吸い取っているらしい。
・・・僕対策だ。
明らかに、僕を捕まえようとしている。

「彼女達はもう、ありえないほどの生を得たんだよ。アダム。本来なら、ゴミのように死んで、肉塊になるはずだった運命を、この俺が救ってあげたんだ。・・・ツケの支払いだよ。『命の代償』を、貰いに来た」

男は不自然に動かない顔を指で動かし、笑顔を作る。
残念ながらその方が不気味だ。

「さよなら。92番3番」

──名前の由来は、ソレか。
識別番号を、名もなき少女達は、自分の名前として、お互いの『支え』として、生きてきたのか。
実験動物として、いつ死ぬかも分からない中で。
語呂合わせの名前を自分たちで付けて、呼びあって、元気付けで。
そして、ようやくたどり着けたんだ。









「命の代償なんか、あるものか」






僕はゆっくり、立ち上がる。
恐怖に震え、お互いに身を寄せ合う、彼女達のためじゃあなく。
再生が難しいほどに破壊された、友達のためじゃあなく。
後ろで怖々こちらを見る、家族のためじゃあなく。
僕は。
叫ぶ──

「命に代償なんかない!僕らは一生懸命・・・生きているんだ!お前は、それを弄び、操って・・・!・・・確かに、お前がいなければ無い命かもしれない・・・だけど、それが今ある命を弄んでいい理由にはならない!」

「いいや。言わば俺は彼女らの命のだ。俺の物をどうしようと俺の勝手だ。それは、例え君だとしても変わらない」

「──そう、か」

わかった。分かったよ。
コレにはもう、話す意味も無い。
話す事も無い。
僕は、一呼吸置いて、静かなる『ソレ』を持って、見据える。
・・・残念だけど、僕は。

──傲慢なんだ。

「──なら、たった今から彼女達は僕の物だ。お前なんかに、渡さない」
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