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第三章『地下ダンジョンと禁忌の実験』
十七話『予感』
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アダム達が帝国へ進む中、ダンジョン最下層に居る、ルシファーは酷く頭を悩ませていた。
2人を治すこと。
それは、本人たちの希望に沿って行うつもりだ。
しかし、当の本人達はどうやら悩んでいるらしい。
訳を聞くのは野暮だ。
大体想像はついている。
・・・つまりは、信頼されていないのだ。
治す治すと言われ、先の研究に使われた2人にとって、私やアダムちんは信頼に足るには少し、物足りないのだろう。
こればっかりは、時間が解決してくれる・・・
そういう問題でも、ないのだ。
実を言うと、みーちゃんの寿命は無理やり追加された魔力と人体実験のせいで相当短いのだ。
いや、私達悪魔に寿命が無いのを除いても、短い。
・・・後、1年。
長くて、だ。
今はそんな様子はないが、力を使う度に、その寿命はどんどんと縮まる。
「・・・はぁ・・・どうしようかなぁ・・・」
ぶっちゃけた話、私は最初はただ、アダムちんの為に治してあげようと思っていた。
ただ、ここしばらく一緒に過ごしていて、とても・・・心地よく、思えていたのだ。
キュー二ちゃんは最初からある程度懐いてくれていたし、みーちゃんも、不器用ながらも私に信頼を示してくれている。
邪魔しているのは、そう。
トラウマだ。
優しさを、怖がっている。
優しさに殺されかけたのだ、無理もない。
しかし、私としては。
今すぐに、2人を治してあげたい。
「・・・・・・」
『ルシファー、少しいいか』
扉を叩かれ、声が聞こえる。
その、歪な声。
声帯すらも魔力増幅機関に変えられている、故にこの声も、魔力で発するしかないのだ。
「どうぞー?」
『失礼する』
私の自室に入り、こちらを見つめる。
・・・どうやら、悩みが無くなりそうだ。
「なぁに?どしたの?」
『・・・・・・私達を治す件、よろしく頼めないだろうか。2人で数日話し合った。様子見をしていたが、お前は信頼するに足る人物だと思えた。キュー二も、私も』
「・・・そっか。ありがとっ!」
素直に嬉しい。
これで、彼女を元に戻せる。
キュー二ちゃんのも、普通にしてあげられる。
「それじゃあ早速──え・・・?」
『──!!!この魔力!!』
瞬で部屋を出るみーちゃん。
この場所に・・・この空間に、侵入出来る・・・?
そんな存在が、今の世に・・・?
・・・・・・花畑に居る。
§
とても、綺麗な場所だ。
とても、素敵な場所だ。
涙の墓か・・・とても、懐かしい。
偽物だが、再現度が高い。
さすがはあの悪魔だ。
俺は辺り一面に広がる花畑を見渡し、屈んでその一輪を手に取る。
・・・寂しげな色だな。
確か、本物の涙の墓には・・・
・・・今はいいか。
「え・・・嘘でしょ・・・?なんで・・・なんで君がまだ存在してるの・・・!?」
背後から聞こえる動揺の言葉。
懐かしい声だ。
かつて神に殺され、封印された悪魔。
勝利したのがコイツなら・・・いや、俺ならば。
アダムは死ななかったのだろうな。
「ねぇ!答えてよ!君は本当に・・・アンラマンユ・・・なの・・・?」
「・・・・・・さぁな」
ルシファーは目を丸くし、唇を震わせる。
まぁ、それも無理は無いだろう。
俺は、死んだ事になっていたからな。
「昔話は・・・アダムを手に入れてからだ」
「・・・アダムちん?・・・やっぱり、彼が・・・」
アダムの存在は知っていた。
だが、今俺達が遭遇すれば、神が黙っていない。
どうやら新しい神獣が減らしたようだが、肝心な『原初』は、殺されていない。
「・・・何しに来たの?君の『親』は、ここにはいないよ?」
「分かっているだろう。アレを返せ。俺のものだ」
§
アンラマンユ。
最古の悪魔であり、私達の・・・概念的な親でもある。
悪魔は繁殖をほとんどしない。
けど、この悪魔だけは、魔力から生命を作れる。
だから、実質的には、私達悪魔の親になる。
・・・全く予想していなかった。
てっきり、戦争が始まる前に、深淵に呑まれたものだと・・・
まさか、深淵を取り込んだの・・・?
「何しに来たの?君の親は居ないよ?」
彼の言うアダムは、これもまた、概念的な意味で彼の親にあたる。
私が産まれた時に、既に彼とアダムはとても仲が良かった。
誰が見ても最高のパートナーだった。
・・・アダムが、死んでしまうまでは。
「分かっているだろう。アレを返せ。俺のものだ」
私の後ろを見るアンラマンユ。
そこには、怯えた様子のみーちゃんと、キュー二が居る。
・・・もし、深淵を取り込んでいるのなら。
いや、取り込んでいないとしても、私に勝ち目はない。
苦手だけど、説得してみるしかないかな。
「彼女達はアダムちんのお気に入りなんだよ。私に預けてくれたんだ。連れてかれるのは困るかな」
「そうか。安心しろ。アレは殺して魂を返す。それでいいだろう?」
何がいいのか全く分からない。
ダメだ。
悪を司る神に、説得なんか・・・意味が無い。
あらゆる悪を生み出した『概念』だ。
彼が思考した『私達』に、戦う術は無かった。
・・・・・・しかたない。
アダムちんが帰ってくるまで、持久戦と洒落こもうじゃないか。
§
「ここが帝国かぁ。なんか雰囲気あるなぁ」
「元傭兵が治める国と聞いていたが、中々どうして、いい国だな」
「お前様!アレが食いたい!」
『控えなさい銀。お父様がお困りですよ』
「いいよレヴィ」
銀は1本の太くてふさふさした尻尾をブンブンと振り、つくもは13本の尾をゆらゆらと揺らし、レヴィは僕に巻き付いて周囲を油断なく見ている。
僕はレヴィを撫で、屋台に売っていたオーク串を数本買う。
いい匂いだ。
味付けは塩だけと、とても簡単だが、そもそもオークというのは美味いものなのだ。
ハズレはない。
「うめぇ!」
「オークの村消滅させちゃってるんだよね・・・肉だけ残せばよかったかなぁ」
まぁどっちみち今頃は腐ってたかな。
今度見つけた時には沢山食べさせてあげよう。
「・・・さて、と」
現在王族とは別行動中。
御二人を王城まで護衛し、その後は呼ばれるまで自由にしていいと言われている。
そして僕達は帝国を散歩している訳だが。
何やらずっと視線を感じる。
・・・・・・この国は、元は独裁者であった前国王により、国民は奴隷として働かされていた。
それを見た現国王が、国王や貴族を全て殺し尽くしたのだ。
だからこそ、少しは混乱もあった。
が、この街の様子を見てわかる通り。
喜びの方が、民衆は強かったらしい。
以前はただの労働地域だったはずのこの街も、立派な『帝都』然とした雰囲気もさることながら、今まで押さえつけられていた活力や祭事を、これでもかと全身で、国で喜んでいる。
だがやはり、余所者への視線は強い。
「・・・あぁ、早いね。お呼びのようだ」
しばらく散策しているうちに、お姫様2人が僕らを見つけて寄ってくる。
2人のどこか貴族然とした美しさに、周囲の喧騒は少しだけ小さくなる。
「急用が出来ました。直ぐに王都へ戻ります」
姉君がそう言う。
顔は・・・相変わらず読めないが、その声色から緊張と焦燥が見える。
・・・何かあったのか。
「詳しいお話は道中で。とにかく、一刻も早く王都へ帰還致します」
どの口が言ってんだこのやろう。
誰のせいで運び屋が倒れてると思ってんだよ。
という心の声をしまい、僕は運び屋(本当の意味で生死をさ迷っている)を思い、苦笑する。
適当に準備をして、僕らは馬車に再び乗る。
今回は男を連れていかないようだ。
だが馬車を操るのは僕らだし、細かく言うとレヴィだ。
「早く行かねば・・・!」
この焦り方は尋常じゃないな。
・・・さて、仕方ない。
つくもの出番かな。
「つくも。転移門出して」
「・・・貴様、最近慣れたよな・・・ほんと」
「イイなぁ。オレも使って欲しい・・・」
『都合のいい女みたいなセリフになってますよ銀。それに、貴女は今、お父様の側室なのですから、これ以上の名誉は傲慢というもの』
「そうかぁ・・・んじゃ言い換えよう。構って欲しい!」
「はいはい。とりあえず姐さんの仕事見てましょうねー」
つくもの固有魔法『転移門』。
それは、大きく、禍々しい魔力の奔流。
僕はこれ以上に最高の魔法を見た事がない。
・・・圧倒的に、その精度が違うのだ。
緻密に次ぐ緻密。
まさに神業。
その門は、王都へと続いていた。
扉を開く前に、姫君方に理由を聞いた。
曰く。
帝王から、王国が危機だと。
投影の出来る魔具で言われたらしい。
・・・さぁて、行こうか。
僕は、不自然なほど冷静に。
つくもに指示を出した。
2人を治すこと。
それは、本人たちの希望に沿って行うつもりだ。
しかし、当の本人達はどうやら悩んでいるらしい。
訳を聞くのは野暮だ。
大体想像はついている。
・・・つまりは、信頼されていないのだ。
治す治すと言われ、先の研究に使われた2人にとって、私やアダムちんは信頼に足るには少し、物足りないのだろう。
こればっかりは、時間が解決してくれる・・・
そういう問題でも、ないのだ。
実を言うと、みーちゃんの寿命は無理やり追加された魔力と人体実験のせいで相当短いのだ。
いや、私達悪魔に寿命が無いのを除いても、短い。
・・・後、1年。
長くて、だ。
今はそんな様子はないが、力を使う度に、その寿命はどんどんと縮まる。
「・・・はぁ・・・どうしようかなぁ・・・」
ぶっちゃけた話、私は最初はただ、アダムちんの為に治してあげようと思っていた。
ただ、ここしばらく一緒に過ごしていて、とても・・・心地よく、思えていたのだ。
キュー二ちゃんは最初からある程度懐いてくれていたし、みーちゃんも、不器用ながらも私に信頼を示してくれている。
邪魔しているのは、そう。
トラウマだ。
優しさを、怖がっている。
優しさに殺されかけたのだ、無理もない。
しかし、私としては。
今すぐに、2人を治してあげたい。
「・・・・・・」
『ルシファー、少しいいか』
扉を叩かれ、声が聞こえる。
その、歪な声。
声帯すらも魔力増幅機関に変えられている、故にこの声も、魔力で発するしかないのだ。
「どうぞー?」
『失礼する』
私の自室に入り、こちらを見つめる。
・・・どうやら、悩みが無くなりそうだ。
「なぁに?どしたの?」
『・・・・・・私達を治す件、よろしく頼めないだろうか。2人で数日話し合った。様子見をしていたが、お前は信頼するに足る人物だと思えた。キュー二も、私も』
「・・・そっか。ありがとっ!」
素直に嬉しい。
これで、彼女を元に戻せる。
キュー二ちゃんのも、普通にしてあげられる。
「それじゃあ早速──え・・・?」
『──!!!この魔力!!』
瞬で部屋を出るみーちゃん。
この場所に・・・この空間に、侵入出来る・・・?
そんな存在が、今の世に・・・?
・・・・・・花畑に居る。
§
とても、綺麗な場所だ。
とても、素敵な場所だ。
涙の墓か・・・とても、懐かしい。
偽物だが、再現度が高い。
さすがはあの悪魔だ。
俺は辺り一面に広がる花畑を見渡し、屈んでその一輪を手に取る。
・・・寂しげな色だな。
確か、本物の涙の墓には・・・
・・・今はいいか。
「え・・・嘘でしょ・・・?なんで・・・なんで君がまだ存在してるの・・・!?」
背後から聞こえる動揺の言葉。
懐かしい声だ。
かつて神に殺され、封印された悪魔。
勝利したのがコイツなら・・・いや、俺ならば。
アダムは死ななかったのだろうな。
「ねぇ!答えてよ!君は本当に・・・アンラマンユ・・・なの・・・?」
「・・・・・・さぁな」
ルシファーは目を丸くし、唇を震わせる。
まぁ、それも無理は無いだろう。
俺は、死んだ事になっていたからな。
「昔話は・・・アダムを手に入れてからだ」
「・・・アダムちん?・・・やっぱり、彼が・・・」
アダムの存在は知っていた。
だが、今俺達が遭遇すれば、神が黙っていない。
どうやら新しい神獣が減らしたようだが、肝心な『原初』は、殺されていない。
「・・・何しに来たの?君の『親』は、ここにはいないよ?」
「分かっているだろう。アレを返せ。俺のものだ」
§
アンラマンユ。
最古の悪魔であり、私達の・・・概念的な親でもある。
悪魔は繁殖をほとんどしない。
けど、この悪魔だけは、魔力から生命を作れる。
だから、実質的には、私達悪魔の親になる。
・・・全く予想していなかった。
てっきり、戦争が始まる前に、深淵に呑まれたものだと・・・
まさか、深淵を取り込んだの・・・?
「何しに来たの?君の親は居ないよ?」
彼の言うアダムは、これもまた、概念的な意味で彼の親にあたる。
私が産まれた時に、既に彼とアダムはとても仲が良かった。
誰が見ても最高のパートナーだった。
・・・アダムが、死んでしまうまでは。
「分かっているだろう。アレを返せ。俺のものだ」
私の後ろを見るアンラマンユ。
そこには、怯えた様子のみーちゃんと、キュー二が居る。
・・・もし、深淵を取り込んでいるのなら。
いや、取り込んでいないとしても、私に勝ち目はない。
苦手だけど、説得してみるしかないかな。
「彼女達はアダムちんのお気に入りなんだよ。私に預けてくれたんだ。連れてかれるのは困るかな」
「そうか。安心しろ。アレは殺して魂を返す。それでいいだろう?」
何がいいのか全く分からない。
ダメだ。
悪を司る神に、説得なんか・・・意味が無い。
あらゆる悪を生み出した『概念』だ。
彼が思考した『私達』に、戦う術は無かった。
・・・・・・しかたない。
アダムちんが帰ってくるまで、持久戦と洒落こもうじゃないか。
§
「ここが帝国かぁ。なんか雰囲気あるなぁ」
「元傭兵が治める国と聞いていたが、中々どうして、いい国だな」
「お前様!アレが食いたい!」
『控えなさい銀。お父様がお困りですよ』
「いいよレヴィ」
銀は1本の太くてふさふさした尻尾をブンブンと振り、つくもは13本の尾をゆらゆらと揺らし、レヴィは僕に巻き付いて周囲を油断なく見ている。
僕はレヴィを撫で、屋台に売っていたオーク串を数本買う。
いい匂いだ。
味付けは塩だけと、とても簡単だが、そもそもオークというのは美味いものなのだ。
ハズレはない。
「うめぇ!」
「オークの村消滅させちゃってるんだよね・・・肉だけ残せばよかったかなぁ」
まぁどっちみち今頃は腐ってたかな。
今度見つけた時には沢山食べさせてあげよう。
「・・・さて、と」
現在王族とは別行動中。
御二人を王城まで護衛し、その後は呼ばれるまで自由にしていいと言われている。
そして僕達は帝国を散歩している訳だが。
何やらずっと視線を感じる。
・・・・・・この国は、元は独裁者であった前国王により、国民は奴隷として働かされていた。
それを見た現国王が、国王や貴族を全て殺し尽くしたのだ。
だからこそ、少しは混乱もあった。
が、この街の様子を見てわかる通り。
喜びの方が、民衆は強かったらしい。
以前はただの労働地域だったはずのこの街も、立派な『帝都』然とした雰囲気もさることながら、今まで押さえつけられていた活力や祭事を、これでもかと全身で、国で喜んでいる。
だがやはり、余所者への視線は強い。
「・・・あぁ、早いね。お呼びのようだ」
しばらく散策しているうちに、お姫様2人が僕らを見つけて寄ってくる。
2人のどこか貴族然とした美しさに、周囲の喧騒は少しだけ小さくなる。
「急用が出来ました。直ぐに王都へ戻ります」
姉君がそう言う。
顔は・・・相変わらず読めないが、その声色から緊張と焦燥が見える。
・・・何かあったのか。
「詳しいお話は道中で。とにかく、一刻も早く王都へ帰還致します」
どの口が言ってんだこのやろう。
誰のせいで運び屋が倒れてると思ってんだよ。
という心の声をしまい、僕は運び屋(本当の意味で生死をさ迷っている)を思い、苦笑する。
適当に準備をして、僕らは馬車に再び乗る。
今回は男を連れていかないようだ。
だが馬車を操るのは僕らだし、細かく言うとレヴィだ。
「早く行かねば・・・!」
この焦り方は尋常じゃないな。
・・・さて、仕方ない。
つくもの出番かな。
「つくも。転移門出して」
「・・・貴様、最近慣れたよな・・・ほんと」
「イイなぁ。オレも使って欲しい・・・」
『都合のいい女みたいなセリフになってますよ銀。それに、貴女は今、お父様の側室なのですから、これ以上の名誉は傲慢というもの』
「そうかぁ・・・んじゃ言い換えよう。構って欲しい!」
「はいはい。とりあえず姐さんの仕事見てましょうねー」
つくもの固有魔法『転移門』。
それは、大きく、禍々しい魔力の奔流。
僕はこれ以上に最高の魔法を見た事がない。
・・・圧倒的に、その精度が違うのだ。
緻密に次ぐ緻密。
まさに神業。
その門は、王都へと続いていた。
扉を開く前に、姫君方に理由を聞いた。
曰く。
帝王から、王国が危機だと。
投影の出来る魔具で言われたらしい。
・・・さぁて、行こうか。
僕は、不自然なほど冷静に。
つくもに指示を出した。
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