数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第四章『過去と試練』

第九話『第一の試練』

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『流石に60人は多いですからねー!半分まで減らそうと思います!おっと、まだ手を出すのは早いですよ?ルールがありますからね!』

そう言い、自身の背後に図を展開した。

『今回の試練は単純に半分で陣営に別れ、争って頂きます。別れる陣営は『王国側』と『国民側』です。王国側はたった1人の『王』を守ります。そして、国民側はその王を討ち取ります。どちらの陣営も最終的に合わせて30人になれば、その時点で次の試練へ参ります』

部屋の真ん中で線を引き、半分に分かれる。
さっきの話が本当であるなら、30人ずつであるはずだ。

『王国側は国王を守れば勝てるのですが、逆に、王を討って自ら王になることも可能です。また、王が別の人に譲ることも可能です』

「ということは、王になった場合になにかメリットが?」

『もちろんです。試練が終了した際、王になっていた人には、最後の試練を突破した際の褒美の数を一つ増やすことが出来ます。また、国民側は王を討った人がその報酬を受け取れます。国民側に王を討たれると、問答無用で国王側は敗北し、死にます。国民側は制限時間内に王を討てなければ全員死にます。その際に30人を下回る場合、ランダムで死者が選ばれますので悪しからず』

ザワザワと声がする。
フールは僕を守るように前に立った。
──え?なんで、イヴも、命も・・・?
僕を守るように、囲んでるの?

「え、どうしたの3人とも?」

「アダム・・・貴方が王みたい」

「なんでわかるのさ?」

「アダム様、頭上をご覧下さい」

僕は頭の上を見上げ、そこに浮かぶ王冠を見た。
それはゆっくりと僕の目の前へ降りてきて、僕の手に収まる。
・・・・・・えぇ。
よりにもよって、僕かぁ。

「ご安心下さい。マスターはイヴ達が御守りします』

「え、僕も戦うよ──」
「なりません。今の貴方様には・・・魔力がありませんから」

僕はそれを聞いて、ゾッとした。
本当に・・・本当に、魔力がない。
空っぽという訳じゃない。
生命活動に必要な分以外が・・・使えない。

『言い忘れてましたが・・・王が必ずしも強いとは限りません。ですので──』

僕を見て、その少女は嗤う。

『王は、魔力は御座いませんので♪』

§

この巨大な壁の向こうに、国民側30人が居る。
この試練・・・圧倒的に国民側が不利だろう。
いや、普通はそうなのかもしれない。
内部からの裏切り、そして国民からの反乱。
信頼出来るのは、己のみ──

「御安心を。私は裏切りませぬ」
「イヴは命令に従います。マスター』

「大丈夫だよ、アダム。私が守るから!」

いや、僕は違う。
僕には、仲間がいる。
家族がいる。
武器もある。
魔力が無いだけ?
命と変わらない。

「助かるよ、3人とも」

自分の身は自分で。
とは言わず。
4人の身は4人で。
守ろう。

『では!制限時間は15分なので!スタートー!』

「いきなりだね!?」

そして掛け声と同時に、全ての人間が僕目掛けて走ってきた。
・・・予想通りだね。
魔力が使えない今、未来も見えない。
するべきことは1つ。
仲間を、信じるのみ。

「『炎障壁』」

フールが炎で壁を作り、僕らを囲む。
僕らは壁に背を向け、僕を中心に3方向に警戒していたが。
半円形の炎の壁によって、少しだけ考える余裕ができる。
・・・お?

「外で戦ってるね。これを抜けるのは不可能と考えたかな?」

「多分ねー。でもいつ破られてもおかしくないから。気を抜かないようにしないと」

その通り。
僕が見た限りでは、僕らの周りにいたのは、命やイヴと同じくらいの強さの人達だった。
少なくとも、フールに勝てる人は居ない。
だから、この勝負は貰った・・・と思っていた。

「──上っ!!」

突如上空から、巨大な水の塊が落ちてきた。
まぁ、火には水だよね。
僕は妙に落ち着いた様子でそれを眺め、そしてイヴへ命令する。

「イヴ、竜咆!」

「『竜咆』』

青と赤の魔力をエネルギーとして、それを放つ。
水球は破裂し、飛散した。
少し勢いが弱まる炎だが、それでも壁は破れない。

「ありがとう」

「いえ』

イヴは空を見上げ、その感情の乏しい表情を歪めた。
魔力が見えるのだろう。
恐らく、何かを仕込んでいる──
瞬間、落ちてきた巨大な岩。
壁を壊すんじゃなくて・・・中だけ押し潰そうってか。
・・・半端じゃないな。
気合いが。

「──私が参ります」

命が跳ね、刀を構える。
・・・ほんと、速いんだよなぁ。
成長も、行動も。

「──閃」

「うっわぁすっごい。アダム、よくあんなの見つけたね」

「まぁね。ちょっと色々あってさ」

フールの言う通り、あれは・・・凄まじい。
刀を一閃しただけで、巨大な岩石は粉々になって吹き飛んだ。
あれは恐らく、僕にも出来ない。
毎日夜どこかに行ってると思ってたけど・・・
本当に、すごい努力だ。
彼はもっと、強くなるだろう。

「流石だよ命」

「有り難きお言葉」

砂と化した岩が降り注ぎ、命はお辞儀をした。
・・・さて、と。
僕も何かしないとかな?

『残り10人、残り時間5分です!』

ラファエルがカウントする。
僕はそれを聞いて、ため息をついた。
後10人死ねば、僕らは自動で次の試練へ行けるのだろう。
だが、そうすると僕が最後の試練までクリアすると、2つ願いが叶うことになる。
恐らく。 
この場にいる4人以外は。
その『もう一つ』を死ぬほど欲しがるだろう。
──ほら、ね。

「不味い!1箇所にまとめて攻撃されてる!アダム、後ろに──って、えぇ!?」

僕は、フールの前へ立つ。
命もイヴも、フールも僕を見ていた。
格好付けてるだけさ。
僕も少しは、いい所見せないと。

「・・・無理はしないでね」

「分かってるよ」

フールはそんな僕の心を察してか、身を引いてくれた。
さて、せっかくフールが作ってくれた壁だけど・・・
どうせ壊すなら、僕が壊してしまおう。

僕は今、魔力が無いから。
本来なら・・・魔法は切れないけど。
でも僕は。
こんな能力超能力も、持っていたりする。
・・・キュー二ちゃんから、受け継いだものだけどね。

「──零斬り!!」

あらゆるものの数値をゼロにする。
それを切れば、必然切れてしまう。
超能力というのは、言わば世界の理から意図して外れる能力。
切れないものを切れるようにする。
これだって、超能力の一つ。
残念ながら、これしかまだ使えないけどね。
封印した代わりとは言え、コレをくれたるーちゃんはやっぱり凄いとしか言えない。

「わぁ、すっごいよアダム!!」

手放しで褒められると少し照れる・・・。

『終了!!終了です!ボーナスはアダム様の物となります!そのまま暫くお待ち下さい!次の試練へ転移致します!』

僕の攻撃と共に倒れた10人。
僕の攻撃の勢いは止まらなかったはずだが、どうやら10人倒れた時点で無効化されたようだ。

「ふぅ。とりあえずなんとかなったね」

「はい!お見事ですアダム様!」

「やっぱりアダムはさいこーだね!」

背後から抱きつくフール。
僕は倒れないようにしながら、ラファエルを見上げる。
・・・なんだろう。
この違和感。
魔力は戻ってるし、何もおかしなことは無い。
・・・のに、なんだろうか。
・・・いや、いいか。
ひとまずこの勝利を喜ぼう。

『では皆様!また後で!』

そうして僕らは、次の試練へ──

§

「アダム様の転移、完了致しました」

『そうか。奴はどの程度だ?』

「はい。参加者全てを上回るかと」

『ふむ・・・あの女と男は予想外だったが、そうか』

ラファエルは思う。
アダムという男。
かつての『始まりの男』と同じような。
そんな匂いがする。
或はそれを知って、バハムート様が参加させたのだろうか。

「しかし宜しかったのですか?望み無き人間を入れて」

『望みがない?バカを言うな』

確かに、あの少年は英雄になりたいと言ってはいる。
しかし、その実本音は別のところにあるだろう。
しかしそれが何かは、わからない。

『奴は誰よりも貪欲だ。傲慢で、貪欲で。しかし怠惰ではない』

「・・・と、言いますと?」

『奴が欲しているのは『器』だよ。ラファ』

器・・・?

『王の器。人の上に立つ器。何かを成す器。或は』

『イヴ』と呼ばれた少女は、それを愉快そうに言う。
まるで、そう、まるで。
友との談笑のように。

『英雄たる器、なのかもな?』
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