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涙の向こうには、
しおりを挟むお金はそれなりに沢山あった。
だが使いたくは無かった。
何故なら彼女達の居た存在を。証明を。
自らに失くす行為、だったからだ。
私はバイトをしていた。
地元のスーパーの館内の掃除だ。
バイトは私にとっての現実逃避だった。
何かをしていなければ。
気が狂いそうで。おかしく、なりそうだった。
それは、
"仕事を真面目する"
と、いう所に落ち着いた。
幸せそうな家族連れ。カップル。
そんな景色を見て。
どうして、私だけなのだろう、、
と、思う事もする。
人の幸せは、均等だなんて思わない。
人の幸福は、神様の都合で。
不公平に。
気分的なやつで、割り振られたものに過ぎない。
今日もバイトをする。
ここには、私に良くしてくれる人が結構居て、
良い商品が入ったりしたら、
安価で売ってくれたりもする。
職務態度が良いからか。
皆の人間性が、元々。良いのからなのか、、
どちらにせよ。私にとって大変有難い事だった。
スーパーの人「今日は国産牛の、良いのが入ったよ??」
今日の晩御飯は、国産牛のステーキ。
良いお肉だから、シンプルに塩コショウで。
既にカットされて売られていたキャベツに、
缶詰のコーンを乗せる。
それを、ニンニクのドレッシングで頂く事にした。
勿論、2人分のステーキを買った。
サラダも2人分あった。
しかし。
ステーキは、好みを聞かずに先に焼いてしまった。
だからか。
女の子は、その日は来なかった。
「あいよっ?」
猫には大喜びのステーキだった。
にゃぁあ。
こんな反応を。女の子にも、して貰えただろうか。
あの日以来、女の子は来てない。
次の日はシーフードカレー。
その次の日は冷しゃぶ。
刺身。とんかつ、と。続いた。
私はいつでも来ても良いように2人分。
用意していた。
スーパーの人「今日は卵が安いよ。」
今日もいつもの様に献立を考える。
食べ盛りの女の子が満足出来る様なメニューを。
食べるのには正直少し苦労した。
私もそんなに若く無いんだと、実感した。
私がいつでも来ても良いと言った。
だからいつ来てもいい様に、私は食事を用意する。
今日は親子丼。
女の子が来る保証なんてのは無かった。
それでも私は、良かった。
卵を冷蔵庫から出そうと時。
ガチャッ、、
玄関のノブが回った。
「こんばんは、、」
そこには女の子の姿があった。
「ぉ、お帰り!
今日は、親子丼なんだ、
食べ、られるかな?」
女の子は、静かに頷いた。
「入って、入って。
ここに、座って。」
女の子「おじゃま、します。」
女の子は、前来た時と同じ服装だった。
髪も、ぼさぼさだった。
きっと。風呂にすら入って無いのだろう。
まだ作るには少し時間があった。
「まだ少し時間が掛かる。
その前に、お風呂でもどうだろうか?
、、無理にとは、言わないが。」
女の子は少し警戒をした。
当たり前だ。
知らない男の部屋で、一時的とは言え。
裸になるのだから、、
「娘が着ていない服がある。」
押し入れから衣装ケースを取り出し、床に置いた。
女の子はその服を見ながら、迷っていた。
私は、何をしているんだ。。
誰かが着ようとしていた服など。
知らない男が出した服など。
着ようとは、思わないだろう。
女の子は、飯を食いに来たのだ。
何を。お節介な、、
私は財布からお金を取り出した。
「これで、。
好きな服を買って来なさい。
ちょうど、猫の餌が無かったんだ。」
一瞬躊躇ったが、女の子は出て行った。
このまま、女の子は、、
2度と。帰って来ないだろうか。
歳をとるもんじゃない。
だんだん、干渉的になってゆく。
そんな事を考えながら、下ごしらえをした。
タマネギを千切りにし。
鶏肉を食べやすいサイズに切る。
醤油。砂糖。みりん。売っていたダシを合わせる。
「うん。良いかな??」
ガチャ。
女の子は、お店の袋を持って帰って来た。
「買えたかい。?」
女の子「うん。
ありがとう、ございます、、」
心は、安堵で包まれた。
帰って来るとは思って無かった。
いや。期待はしていた。
だからか。少し、嬉しく思った。
女の子「じゃぁ、、」
「どうぞっ。」
バタン、。
サァアー、、
聞き慣れない音を聞きながら、料理をする。
用意した材料を入れ、いい感じなるまで煮る。
きちんと火が通っているかの確認もしっかりする。
にゃぁ。
猫は女の子に慣れた様にくっついて、
いつの間にか部屋に入って来ていた様だ。
毛繕いする猫を見ていると、女の子は出て来た。
Tシャツに、ズボン。
動きやすい格好をしていた。
頼んだ猫の餌とお釣りを渡され、受け取る。
「今日はまともな正規品だぞ??
良かったなあ。」
にゃぁ。
伝わってるんだか、伝わって無いのか。
猫は可愛げに返事をした。
女の子はこの間の椅子に座った。
テーブルには親子丼とカツ丼があった。
売っていた漬物と、インスタントの味噌汁。
「ほら。
買って来てくれたやつだよ。」
にゃぁあ。
猫は嬉しそうに鳴いた。
「じゃあ、食べようか。」
女の子「、、頂きます。」
目の前の光景に。自分でもビックリした。
少し、多かったったか??
まあ、食べ盛りだから、な。
女の子は先ず親子丼を口に運んだ。
一緒に、自分が作った親子丼を口に運ぶ。
「うん、。悪くない。
、、どうかな。?」
女の子「美味しい、」
久しぶりの食卓。
、、やっぱり。一人で食べるのとは全然違う。
合間に味噌汁を挟みながら、
カツ丼にも手を伸ばす。
「うん、、」
カツ丼に。ダシが染み込んでいる。
案の定。食事中に、会話が弾むはずも無く。
ただ、食器の音だけが。響いた。
だが。この何も無い時間こそが。
私にとっては、
『とても幸せな大切な時間』
だったのだ。
私はいつの間にか涙を流していた。
脚にすり寄る猫が。
「大丈夫、?」
と言っているかの様に身体を擦り付けて来る。
前を向くと。視界がぼやけていた。
うん、、大丈夫。
そう、頭の中で猫に返した。
変な人だと。思われただろうか。
すると女の子は。
机の上に置いてあった箱を差し出して来た。
「、、ありがとう。」
女の子「明日は、、餃子が良い。」
「おっ。餃子か、、
一緒に。包んで、みるかい??」
女の子「やった事。無い、。」
「そかそか。
じゃあ、やってみようか?」
女の子「うん、、」
それだけ。
それきりの会話。
でもそこには。
見えない、確かなものがあったのだった。
女の子「美味、しい。」
「美味しい、ね。」
にゃぉっ。
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