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春の章
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暦の館の一室に、全員が集まっていた。
視線の先には、包帯が巻かれ、治療痕の多い小さな妖の姿。
枕にもたれ、かろうじて体を起こしていた。
「治療……感謝スル。」
ぎこちなく話し出す木っ葉妖怪。
出血のダメージが抜けないのか、その顔色はまだ悪かった。
「オレ、木之助。
御魂烏サマの遊郭デ働イテる。
春星……オレ達と一緒ニ育ッタ。」
その言葉に、部屋の空気が一瞬止まった。
春星の“育った場所”が、はじめて現実味を帯びる。
「本当に……春星は遊郭で育ったんだね……」
「オレたち、小妖怪。
御魂烏サマの庇護ナケレバ、生き残れナイ。
春星、半妖。
オレ達と生きタ方ガ……良カッタ。
人間ト妖……一緒ハ、ムリ。」
しょんぼりと肩を落とした木之助。
竜胆が優しく問いかける。
「そのあなた方が、どうしてここへ?
それに、この傷は……何があったのです?」
木之助は震える唇を必死に動かした。
「遊郭……襲撃サレタ!
前ニ襲ってきタ奴ト……同ジ!!
前……陽乃サマ殺サレタ!
今度……月詠サマ……殺サレかけタ!!
仲間モ……イッパイ……死ダ!!」
言葉の途中で、堰を切ったように大粒の涙が零れた。
子供のように泣きじゃくる木之助に、竜胆は慌てふためき、
マナツは不器用に、その頭をグリングリンと撫でた。
「とりあえず、遊郭へ行かないと春星に会えないわ。
全てはそれからよ。道はどうするのよ?」
「そうだな……時間がない。」
すぐにでも飛び出したいマナツとイヴェールに対し、
竜胆は困ったように眉をひそめ、
「まだ安静が必要です。無理をさせるわけには……」
と強く止める。
シオも続く。
「まず、この子の話を、ちゃんと最後まで聞こうよ……!」
精霊たちも、張りつめた空気の中で落ち着かない様子だった。
しかし、シオと竜胆の言葉に木之助は少し困ったような顔をしていた。
「オレ、小妖怪。話のノ、あんマり上手くナイ。」
そういうと、寝ていたベットからヒョイと飛び降りた。
「月詠サマ、話ス上手!オレ、皆、春星のトコ連れテク!!」
そういうとチョロチョロと駆け出してしまった。
「安静ですって!」
慌てる竜胆の声に、潮は「大丈夫だ」と声をかけた。
「小妖怪とはいえ、妖は基本的に丈夫だ。
あそこまで治癒術をかけておけば大抵はすぐに走れるようになる。」
「えぇ、治療し始めた時は瘴気による怪我で弱っていたけど、妖だもの。
怪我さえある程度治せばあとは早いわ。」
そう言う潮と紅葉に、人間側は感心した。
「あんな小さくても、妖なのね。」
「人間があんな怪我したら普通は意識不明の重体、目を覚ますかどうかも怪しいですよ」
マナツも治療した竜胆もかなり感心していた。
シオは、頭に「?」を飛ばしながら「ソウナンダ!」とちょっと気の抜けた顔をしていると
それを見たイヴェールは、苦笑いしながらシオの頭を撫でた。
グリグリとシオを撫でていたイヴェールは、落ち着いた低い声で口を開いた。
「……では、木之助の案内で遊郭へ向かう、ということでいいな?」
「アタシはいつでも行けるわ!」
マナツは拳を握りしめ、今にも飛び出しそうだ。
しかし、竜胆はすぐに制した。
「待ってください。行くのはいいですが――
行き方を“今の段階で”知らなければ、無季に迷い込みます。
瘴気に飲まれたら……ただでは済みませんよ」
冷静な忠告に、全員が一瞬黙り込んだ。
木之助はというと、ぴょこぴょこと皆の足元に戻ってきて
胸を張って、誇らしげに言った。
「遊郭マデ、道アる!
御魂烏サマ、昔ツクッタ道!
人間モ、行ケル道!!」
その言葉で、全員が一斉に目を見開いた。
「人間が……?無季の奥へ?」
「そ、それ……普通に考えたらありえないよね!?」
「なんでそんな道……」
木之助は首をかしげながらも、コトン、と小さな足を床に鳴らした。
「昔……お客サン、来テタ。
人間、妖、色ンナ者ガ遊郭ニ来ル。
道……隠れてル。見ツケル人、少ナイダケ」
精霊たちが顔を見合わせた。
潮が大きくため息をつく。
「……ったく、あの鳥女、そんな便利なもん作ってたのかよ。
言えよ……もっと早く言っとけよ……」
ティトラも眉間を押さえて、呆れたように続ける。
「御魂烏らしいわね……必要なものは全部作るけど、
必要な時まで絶対に“教えない”。
昔からそうだったもの」
紅葉も苦笑して肩をすくめた。
イヴェールが全体を見渡し、低く美しい声でまとめに入った。
「木之助に案内してもらう。
だが、まずは状況の把握だ」
シオとリンがこくこくとうなずいた。
マナツは不満げに腕を組みつつも、
「……いいわ。春に会えるなら、なんでもいいのよ」
と折れた。
竜胆は木之助の前にしゃがみ込み、優しく微笑んだ。
「あなたに頼るしかないようですね。
……連れて行ってくれますか?春星のところへ」
木之助は、小さな体でムンっと胸を張り大きく頷いた。
「ウン!!
春星の……大事ナ、仲間タチ!!
オレ、案内スル!!」
その言葉に、全員が気を引き締め始めるのだった。
視線の先には、包帯が巻かれ、治療痕の多い小さな妖の姿。
枕にもたれ、かろうじて体を起こしていた。
「治療……感謝スル。」
ぎこちなく話し出す木っ葉妖怪。
出血のダメージが抜けないのか、その顔色はまだ悪かった。
「オレ、木之助。
御魂烏サマの遊郭デ働イテる。
春星……オレ達と一緒ニ育ッタ。」
その言葉に、部屋の空気が一瞬止まった。
春星の“育った場所”が、はじめて現実味を帯びる。
「本当に……春星は遊郭で育ったんだね……」
「オレたち、小妖怪。
御魂烏サマの庇護ナケレバ、生き残れナイ。
春星、半妖。
オレ達と生きタ方ガ……良カッタ。
人間ト妖……一緒ハ、ムリ。」
しょんぼりと肩を落とした木之助。
竜胆が優しく問いかける。
「そのあなた方が、どうしてここへ?
それに、この傷は……何があったのです?」
木之助は震える唇を必死に動かした。
「遊郭……襲撃サレタ!
前ニ襲ってきタ奴ト……同ジ!!
前……陽乃サマ殺サレタ!
今度……月詠サマ……殺サレかけタ!!
仲間モ……イッパイ……死ダ!!」
言葉の途中で、堰を切ったように大粒の涙が零れた。
子供のように泣きじゃくる木之助に、竜胆は慌てふためき、
マナツは不器用に、その頭をグリングリンと撫でた。
「とりあえず、遊郭へ行かないと春星に会えないわ。
全てはそれからよ。道はどうするのよ?」
「そうだな……時間がない。」
すぐにでも飛び出したいマナツとイヴェールに対し、
竜胆は困ったように眉をひそめ、
「まだ安静が必要です。無理をさせるわけには……」
と強く止める。
シオも続く。
「まず、この子の話を、ちゃんと最後まで聞こうよ……!」
精霊たちも、張りつめた空気の中で落ち着かない様子だった。
しかし、シオと竜胆の言葉に木之助は少し困ったような顔をしていた。
「オレ、小妖怪。話のノ、あんマり上手くナイ。」
そういうと、寝ていたベットからヒョイと飛び降りた。
「月詠サマ、話ス上手!オレ、皆、春星のトコ連れテク!!」
そういうとチョロチョロと駆け出してしまった。
「安静ですって!」
慌てる竜胆の声に、潮は「大丈夫だ」と声をかけた。
「小妖怪とはいえ、妖は基本的に丈夫だ。
あそこまで治癒術をかけておけば大抵はすぐに走れるようになる。」
「えぇ、治療し始めた時は瘴気による怪我で弱っていたけど、妖だもの。
怪我さえある程度治せばあとは早いわ。」
そう言う潮と紅葉に、人間側は感心した。
「あんな小さくても、妖なのね。」
「人間があんな怪我したら普通は意識不明の重体、目を覚ますかどうかも怪しいですよ」
マナツも治療した竜胆もかなり感心していた。
シオは、頭に「?」を飛ばしながら「ソウナンダ!」とちょっと気の抜けた顔をしていると
それを見たイヴェールは、苦笑いしながらシオの頭を撫でた。
グリグリとシオを撫でていたイヴェールは、落ち着いた低い声で口を開いた。
「……では、木之助の案内で遊郭へ向かう、ということでいいな?」
「アタシはいつでも行けるわ!」
マナツは拳を握りしめ、今にも飛び出しそうだ。
しかし、竜胆はすぐに制した。
「待ってください。行くのはいいですが――
行き方を“今の段階で”知らなければ、無季に迷い込みます。
瘴気に飲まれたら……ただでは済みませんよ」
冷静な忠告に、全員が一瞬黙り込んだ。
木之助はというと、ぴょこぴょこと皆の足元に戻ってきて
胸を張って、誇らしげに言った。
「遊郭マデ、道アる!
御魂烏サマ、昔ツクッタ道!
人間モ、行ケル道!!」
その言葉で、全員が一斉に目を見開いた。
「人間が……?無季の奥へ?」
「そ、それ……普通に考えたらありえないよね!?」
「なんでそんな道……」
木之助は首をかしげながらも、コトン、と小さな足を床に鳴らした。
「昔……お客サン、来テタ。
人間、妖、色ンナ者ガ遊郭ニ来ル。
道……隠れてル。見ツケル人、少ナイダケ」
精霊たちが顔を見合わせた。
潮が大きくため息をつく。
「……ったく、あの鳥女、そんな便利なもん作ってたのかよ。
言えよ……もっと早く言っとけよ……」
ティトラも眉間を押さえて、呆れたように続ける。
「御魂烏らしいわね……必要なものは全部作るけど、
必要な時まで絶対に“教えない”。
昔からそうだったもの」
紅葉も苦笑して肩をすくめた。
イヴェールが全体を見渡し、低く美しい声でまとめに入った。
「木之助に案内してもらう。
だが、まずは状況の把握だ」
シオとリンがこくこくとうなずいた。
マナツは不満げに腕を組みつつも、
「……いいわ。春に会えるなら、なんでもいいのよ」
と折れた。
竜胆は木之助の前にしゃがみ込み、優しく微笑んだ。
「あなたに頼るしかないようですね。
……連れて行ってくれますか?春星のところへ」
木之助は、小さな体でムンっと胸を張り大きく頷いた。
「ウン!!
春星の……大事ナ、仲間タチ!!
オレ、案内スル!!」
その言葉に、全員が気を引き締め始めるのだった。
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