12 / 13
春の章
6
しおりを挟む
春星が遊郭にいる頃、暦の館では未だ会議が続いていた。
しかし、妖が目を覚まさない今、焦燥と苛立ちだけが場を支配している。
時計を一瞥した竜胆が、静かに立ち上がった。
「……様子を見てきます。」
そう告げて部屋を出る。その背を、紅葉が無言で追った。
残された者たちの間に、沈黙が降りた。
シオやリンは落ち着かず、何度も視線を交わしてはそわそわと手を動かす。
マナツは、膝に肘を乗せて俯き、不機嫌そうに眉を寄せていた。
イヴェールはただ、静かに祈っていた。
(春……どうか、どうか無事でいてくれ)
胸の奥からせり上がる凍えるような焦りが、全身を締めつける。
血の気が引いて、指先の感覚が薄れていく。
大切なものが、知らぬ場所で、知らぬうちに――また消えてしまうかもしれない。
「……また、俺は失うのか。」
小さく漏れた独白。
その声に気づいたのか、シオもリンもマナツも、揃って顔を上げた。
気遣わしげな視線がイヴェールを包むが、彼の目はどこにも焦点を結ばなかった。
その時だった。
「――目が覚めましたよ。」
静まり返っていたリビングに、竜胆の声が響いた。
その一言が、張りつめていた空気を弾けさせる。
ばっと竜胆の方を振り向いた守護者たちは、
ほとんど同時に椅子を鳴らして立ち上がり、勢いよく詰め寄った。
「おきたの!?」「話せる!?」
焦る声が重なり、部屋の緊張が一気に変わる。
竜胆は苦笑しながらも、二人の頭を軽く撫でてやった。
「えぇ。長時間は厳しいかもしれませんが――今なら話が聞けるはずです。
妖なんて、診察も治療も初めてですよ。まったく、心臓に悪いです。」
へらりと笑うその顔に、ようやく一筋の希望が灯った。
しかし、妖が目を覚まさない今、焦燥と苛立ちだけが場を支配している。
時計を一瞥した竜胆が、静かに立ち上がった。
「……様子を見てきます。」
そう告げて部屋を出る。その背を、紅葉が無言で追った。
残された者たちの間に、沈黙が降りた。
シオやリンは落ち着かず、何度も視線を交わしてはそわそわと手を動かす。
マナツは、膝に肘を乗せて俯き、不機嫌そうに眉を寄せていた。
イヴェールはただ、静かに祈っていた。
(春……どうか、どうか無事でいてくれ)
胸の奥からせり上がる凍えるような焦りが、全身を締めつける。
血の気が引いて、指先の感覚が薄れていく。
大切なものが、知らぬ場所で、知らぬうちに――また消えてしまうかもしれない。
「……また、俺は失うのか。」
小さく漏れた独白。
その声に気づいたのか、シオもリンもマナツも、揃って顔を上げた。
気遣わしげな視線がイヴェールを包むが、彼の目はどこにも焦点を結ばなかった。
その時だった。
「――目が覚めましたよ。」
静まり返っていたリビングに、竜胆の声が響いた。
その一言が、張りつめていた空気を弾けさせる。
ばっと竜胆の方を振り向いた守護者たちは、
ほとんど同時に椅子を鳴らして立ち上がり、勢いよく詰め寄った。
「おきたの!?」「話せる!?」
焦る声が重なり、部屋の緊張が一気に変わる。
竜胆は苦笑しながらも、二人の頭を軽く撫でてやった。
「えぇ。長時間は厳しいかもしれませんが――今なら話が聞けるはずです。
妖なんて、診察も治療も初めてですよ。まったく、心臓に悪いです。」
へらりと笑うその顔に、ようやく一筋の希望が灯った。
0
あなたにおすすめの小説
精霊のお仕事
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】
オレは前世の記憶を思い出した。
あの世で、ダメじゃん。
でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。
まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。
ときどき神様の依頼があったり。
わけのわからん敵が出てきたりする。
たまには人間を蹂躙したりもする。?
まあいいか。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
乙女ゲームは見守るだけで良かったのに
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。
ゲームにはほとんど出ないモブ。
でもモブだから、純粋に楽しめる。
リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。
———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?!
全三話。
「小説家になろう」にも投稿しています。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
転生小説家の華麗なる円満離婚計画
鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。
両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。
ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。
その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。
逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる