優しすぎる王太子に妃は現れない

七宮叶歌

文字の大きさ
6 / 50
第3章 気高い王女

気高い王女Ⅱ

しおりを挟む
「ルシアと申します」

「私はアメリアです」

 薄茶髪の令嬢がルシアで、焦げ茶髪の令嬢がアメリア――改めて令嬢たちを見比べてみる。ルシアはつんとすましているものの、幼い顔立ちが邪魔をしている。アメリアは私よりも歳上だろうか。グレーの瞳は切れ長で雰囲気も大人びている。対して、ミレイユは素朴な顔立ちで、化粧で華やかさを足している印象だ。
 そのミレイユは手をもじもじさせ、遠慮がちに私たちを見た。

「皆さん、仲良くしましょう? これから一緒に数ヶ月も城に滞在するのですから」

「何を言っているのです? 私たちは王太子妃の座を狙う敵同士でしょう」

 ルシアは鼻で笑うと、片手を口元へ当てた。アメリアも冷めた表情でミレイユを見下すばかりだ。
 私も令嬢たちと仲良くする気は更々ない。出来れば必要以上に関わらず終わらせたいものだ。

「ミレイユ、理想主義は捨てましょう? 私たちには通用しないかと」

「私は、そのようなつもりでは……」

 忠告の意味も込めて静かに伝えると、ミレイユはしゅんと項垂れてしまった。
 アメリアは凛とした瞳をオーレリアが去っていった扉へと向ける。

「それより、貴女方もオーレリア殿下の言葉は聞いたでしょう?」

 ルシアも一度だけ大きく頷いた。

「ええ。私たちはかなり見下されているようですね」

「このままで良いと思います?」

 どういう意味だろう。まさか、オーレリアに危害を加えるつもりでは――。沸いた疑念に眉をしかめる。

「エレナ、何か勘違いをされていません?」

「勘違い? 何をです?」

「別に、オーレリア殿下を今すぐどうこうしようというのではありませんよ」

「今すぐ?」

 聞き返すと、何故かアメリアは吹き出した。すぐさま咳払いをし、はしたない行動をなかったことにする。そして、更に続ける。

「貴女は重箱の隅をつつくのが好きなようですね。流石、田舎者」

 これは私への挑発だ。乗ってやる筋合いはない。

「否定はしませんが……油断していると痛い目を見ますよ?」

「あら、大した自信だこと」

 私が怒りを露にしなかったことを不服に思ったのだろうか。ルシアは嫌な笑みを浮かべるものの、余裕が消えたように見えた。その笑みのまま、口を開く。

「私は、貴女方に宣戦布告します。私が王太子妃の座を射止めるところを黙って見ていてもらいます」

 ルシアと結託していたように見えたアメリアも、ルシアに鋭い視線を向ける。

「その言葉、そのままそっくりお返しします」

「私もですわ」

 ここで負ける訳にはいかないと、三人を視線で挑発した。

「ミレイユはどうなのです?」

「私だって……負けません。それでなくてはこの場にいませんもの」

 ルシアの気迫に臆することなく、ミレイユも両手で拳を作る。四人の闘志は熱となり、部屋を燃やすかのようだった。

 * * *

 その場はすぐに解散となり、居室へと散り散りに消えた。張り詰めた緊張に耐え切れず、昼食の後は泥のように眠った。
 私以上に気の強そうな令嬢が二人もいる。けれど、彼女たちに私が負ける筈がない。私は背負うものが違うのだから。
 明日からの選考会で、敵意はしたたかに隠さなくては。優しすぎる王太子に引かれてしまえば、私は隣に立つことは出来ないだろう。一度息を整え、テーブルに置かれた紅茶を口にした。
 駄目だ。気を張ったままでは精根尽きてしまう。

「ぬあぁー……」

 ティーカップを置き、両手で顔を覆った。初めての経験だけに、私の立ち居振る舞いが合っていたのか不安になってしまう。
 扉が開き、肉の焼けた香りやコンソメの香りが鼻を刺激しても、そちらへ振り向けなかった。

「エレナ嬢、お食事です」

「うん、分かってる」

 セリスの声に、とりあえず体勢を直して深呼吸をする。今夜の食事はエビピラフにシーフードグラタン、ヒレステーキ、カニサラダといった、実家では絶対に食せない贅沢な品だ。海に接していないフェラデル国では、海鮮類は滅多に口にすることは出来ない。

「一人でこんなに美味しいもの食べちゃって良いのかな」

「エレナ嬢のご事情は詳しくは存じ上げませんが、英気を養うためです。必要なことかと」

「そう、だよね……」

 でも、なんだか両親に申し訳ない。「ごめんなさい」と心の中で謝罪し、カトラリーを手に取った。まずはカニサラダだ。オニオンドレッシングを回しかけ、ちびちびと頬張る。

「やっぱり美味しい」

「それは良かったです」

 必ずカニやエビを食べさせてあげるから。両親に誓いを立て、食べ進める。頬を伝う涙なんて気にはならなかった。セリスがハンカチで涙を拭いてくれた時も、感謝の言葉を伝えられなかった。
 美味しすぎる食事を残さずにいただき、ナプキンで口を拭う。窓の外に広がる星空を眺めながら、今日の出来事を思い返す。
 オーレリアのあの瞳は、私たちを見下しているようで悲哀に満ちていた。憂いをプライドで昇華して、わざと強い語調で話していたのかもしれない。オーレリアなりに、兄にしがみつく理由があるのだろうか。
 まあ、それを知る日が来ようと、私が成すべきことに変わりはない。細い息を吐き、図書室から借りてきた本を手に取った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嫌いなあいつの婚約者

みー
恋愛
朝目が覚めると、見たことのない世界にいて?! 嫌いな幼馴染みが婚約者になっている世界に来てしまった。 どうにかして婚約を破棄しようとするけれど……?

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

人質王女の恋

小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。 数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。 それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。 両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。 聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。 傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

セイレーンの家

まへばらよし
恋愛
 病気のせいで結婚を諦めていた桐島柊子は、叔母の紹介で建築士の松井卓朗とお見合いをすることになった。卓朗は柊子の憧れの人物であり、柊子は彼に会えると喜ぶも、緊張でお見合いは微妙な雰囲気で終えてしまう。一方で卓朗もまた柊子に惹かれていく。ぎこちなくも順調に交際を重ね、二人は見合いから半年後に結婚をする。しかし、お互いに抱えていた傷と葛藤のせいで、結婚生活は微妙にすれ違っていく。

君に何度でも恋をする

明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。 「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」 「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」 そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。

処理中です...