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第3章 気高い王女
気高い王女Ⅱ
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「ルシアと申します」
「私はアメリアです」
薄茶髪の令嬢がルシアで、焦げ茶髪の令嬢がアメリア――改めて令嬢たちを見比べてみる。ルシアはつんとすましているものの、幼い顔立ちが邪魔をしている。アメリアは私よりも歳上だろうか。グレーの瞳は切れ長で雰囲気も大人びている。対して、ミレイユは素朴な顔立ちで、化粧で華やかさを足している印象だ。
そのミレイユは手をもじもじさせ、遠慮がちに私たちを見た。
「皆さん、仲良くしましょう? これから一緒に数ヶ月も城に滞在するのですから」
「何を言っているのです? 私たちは王太子妃の座を狙う敵同士でしょう」
ルシアは鼻で笑うと、片手を口元へ当てた。アメリアも冷めた表情でミレイユを見下すばかりだ。
私も令嬢たちと仲良くする気は更々ない。出来れば必要以上に関わらず終わらせたいものだ。
「ミレイユ、理想主義は捨てましょう? 私たちには通用しないかと」
「私は、そのようなつもりでは……」
忠告の意味も込めて静かに伝えると、ミレイユはしゅんと項垂れてしまった。
アメリアは凛とした瞳をオーレリアが去っていった扉へと向ける。
「それより、貴女方もオーレリア殿下の言葉は聞いたでしょう?」
ルシアも一度だけ大きく頷いた。
「ええ。私たちはかなり見下されているようですね」
「このままで良いと思います?」
どういう意味だろう。まさか、オーレリアに危害を加えるつもりでは――。沸いた疑念に眉をしかめる。
「エレナ、何か勘違いをされていません?」
「勘違い? 何をです?」
「別に、オーレリア殿下を今すぐどうこうしようというのではありませんよ」
「今すぐ?」
聞き返すと、何故かアメリアは吹き出した。すぐさま咳払いをし、はしたない行動をなかったことにする。そして、更に続ける。
「貴女は重箱の隅をつつくのが好きなようですね。流石、田舎者」
これは私への挑発だ。乗ってやる筋合いはない。
「否定はしませんが……油断していると痛い目を見ますよ?」
「あら、大した自信だこと」
私が怒りを露にしなかったことを不服に思ったのだろうか。ルシアは嫌な笑みを浮かべるものの、余裕が消えたように見えた。その笑みのまま、口を開く。
「私は、貴女方に宣戦布告します。私が王太子妃の座を射止めるところを黙って見ていてもらいます」
ルシアと結託していたように見えたアメリアも、ルシアに鋭い視線を向ける。
「その言葉、そのままそっくりお返しします」
「私もですわ」
ここで負ける訳にはいかないと、三人を視線で挑発した。
「ミレイユはどうなのです?」
「私だって……負けません。それでなくてはこの場にいませんもの」
ルシアの気迫に臆することなく、ミレイユも両手で拳を作る。四人の闘志は熱となり、部屋を燃やすかのようだった。
* * *
その場はすぐに解散となり、居室へと散り散りに消えた。張り詰めた緊張に耐え切れず、昼食の後は泥のように眠った。
私以上に気の強そうな令嬢が二人もいる。けれど、彼女たちに私が負ける筈がない。私は背負うものが違うのだから。
明日からの選考会で、敵意はしたたかに隠さなくては。優しすぎる王太子に引かれてしまえば、私は隣に立つことは出来ないだろう。一度息を整え、テーブルに置かれた紅茶を口にした。
駄目だ。気を張ったままでは精根尽きてしまう。
「ぬあぁー……」
ティーカップを置き、両手で顔を覆った。初めての経験だけに、私の立ち居振る舞いが合っていたのか不安になってしまう。
扉が開き、肉の焼けた香りやコンソメの香りが鼻を刺激しても、そちらへ振り向けなかった。
「エレナ嬢、お食事です」
「うん、分かってる」
セリスの声に、とりあえず体勢を直して深呼吸をする。今夜の食事はエビピラフにシーフードグラタン、ヒレステーキ、カニサラダといった、実家では絶対に食せない贅沢な品だ。海に接していないフェラデル国では、海鮮類は滅多に口にすることは出来ない。
「一人でこんなに美味しいもの食べちゃって良いのかな」
「エレナ嬢のご事情は詳しくは存じ上げませんが、英気を養うためです。必要なことかと」
「そう、だよね……」
でも、なんだか両親に申し訳ない。「ごめんなさい」と心の中で謝罪し、カトラリーを手に取った。まずはカニサラダだ。オニオンドレッシングを回しかけ、ちびちびと頬張る。
「やっぱり美味しい」
「それは良かったです」
必ずカニやエビを食べさせてあげるから。両親に誓いを立て、食べ進める。頬を伝う涙なんて気にはならなかった。セリスがハンカチで涙を拭いてくれた時も、感謝の言葉を伝えられなかった。
美味しすぎる食事を残さずにいただき、ナプキンで口を拭う。窓の外に広がる星空を眺めながら、今日の出来事を思い返す。
オーレリアのあの瞳は、私たちを見下しているようで悲哀に満ちていた。憂いをプライドで昇華して、わざと強い語調で話していたのかもしれない。オーレリアなりに、兄にしがみつく理由があるのだろうか。
まあ、それを知る日が来ようと、私が成すべきことに変わりはない。細い息を吐き、図書室から借りてきた本を手に取った。
「私はアメリアです」
薄茶髪の令嬢がルシアで、焦げ茶髪の令嬢がアメリア――改めて令嬢たちを見比べてみる。ルシアはつんとすましているものの、幼い顔立ちが邪魔をしている。アメリアは私よりも歳上だろうか。グレーの瞳は切れ長で雰囲気も大人びている。対して、ミレイユは素朴な顔立ちで、化粧で華やかさを足している印象だ。
そのミレイユは手をもじもじさせ、遠慮がちに私たちを見た。
「皆さん、仲良くしましょう? これから一緒に数ヶ月も城に滞在するのですから」
「何を言っているのです? 私たちは王太子妃の座を狙う敵同士でしょう」
ルシアは鼻で笑うと、片手を口元へ当てた。アメリアも冷めた表情でミレイユを見下すばかりだ。
私も令嬢たちと仲良くする気は更々ない。出来れば必要以上に関わらず終わらせたいものだ。
「ミレイユ、理想主義は捨てましょう? 私たちには通用しないかと」
「私は、そのようなつもりでは……」
忠告の意味も込めて静かに伝えると、ミレイユはしゅんと項垂れてしまった。
アメリアは凛とした瞳をオーレリアが去っていった扉へと向ける。
「それより、貴女方もオーレリア殿下の言葉は聞いたでしょう?」
ルシアも一度だけ大きく頷いた。
「ええ。私たちはかなり見下されているようですね」
「このままで良いと思います?」
どういう意味だろう。まさか、オーレリアに危害を加えるつもりでは――。沸いた疑念に眉をしかめる。
「エレナ、何か勘違いをされていません?」
「勘違い? 何をです?」
「別に、オーレリア殿下を今すぐどうこうしようというのではありませんよ」
「今すぐ?」
聞き返すと、何故かアメリアは吹き出した。すぐさま咳払いをし、はしたない行動をなかったことにする。そして、更に続ける。
「貴女は重箱の隅をつつくのが好きなようですね。流石、田舎者」
これは私への挑発だ。乗ってやる筋合いはない。
「否定はしませんが……油断していると痛い目を見ますよ?」
「あら、大した自信だこと」
私が怒りを露にしなかったことを不服に思ったのだろうか。ルシアは嫌な笑みを浮かべるものの、余裕が消えたように見えた。その笑みのまま、口を開く。
「私は、貴女方に宣戦布告します。私が王太子妃の座を射止めるところを黙って見ていてもらいます」
ルシアと結託していたように見えたアメリアも、ルシアに鋭い視線を向ける。
「その言葉、そのままそっくりお返しします」
「私もですわ」
ここで負ける訳にはいかないと、三人を視線で挑発した。
「ミレイユはどうなのです?」
「私だって……負けません。それでなくてはこの場にいませんもの」
ルシアの気迫に臆することなく、ミレイユも両手で拳を作る。四人の闘志は熱となり、部屋を燃やすかのようだった。
* * *
その場はすぐに解散となり、居室へと散り散りに消えた。張り詰めた緊張に耐え切れず、昼食の後は泥のように眠った。
私以上に気の強そうな令嬢が二人もいる。けれど、彼女たちに私が負ける筈がない。私は背負うものが違うのだから。
明日からの選考会で、敵意はしたたかに隠さなくては。優しすぎる王太子に引かれてしまえば、私は隣に立つことは出来ないだろう。一度息を整え、テーブルに置かれた紅茶を口にした。
駄目だ。気を張ったままでは精根尽きてしまう。
「ぬあぁー……」
ティーカップを置き、両手で顔を覆った。初めての経験だけに、私の立ち居振る舞いが合っていたのか不安になってしまう。
扉が開き、肉の焼けた香りやコンソメの香りが鼻を刺激しても、そちらへ振り向けなかった。
「エレナ嬢、お食事です」
「うん、分かってる」
セリスの声に、とりあえず体勢を直して深呼吸をする。今夜の食事はエビピラフにシーフードグラタン、ヒレステーキ、カニサラダといった、実家では絶対に食せない贅沢な品だ。海に接していないフェラデル国では、海鮮類は滅多に口にすることは出来ない。
「一人でこんなに美味しいもの食べちゃって良いのかな」
「エレナ嬢のご事情は詳しくは存じ上げませんが、英気を養うためです。必要なことかと」
「そう、だよね……」
でも、なんだか両親に申し訳ない。「ごめんなさい」と心の中で謝罪し、カトラリーを手に取った。まずはカニサラダだ。オニオンドレッシングを回しかけ、ちびちびと頬張る。
「やっぱり美味しい」
「それは良かったです」
必ずカニやエビを食べさせてあげるから。両親に誓いを立て、食べ進める。頬を伝う涙なんて気にはならなかった。セリスがハンカチで涙を拭いてくれた時も、感謝の言葉を伝えられなかった。
美味しすぎる食事を残さずにいただき、ナプキンで口を拭う。窓の外に広がる星空を眺めながら、今日の出来事を思い返す。
オーレリアのあの瞳は、私たちを見下しているようで悲哀に満ちていた。憂いをプライドで昇華して、わざと強い語調で話していたのかもしれない。オーレリアなりに、兄にしがみつく理由があるのだろうか。
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