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第11章 輝くスイートムーン
輝くスイートムーンⅠ
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ぐっと言葉を呑み、口を結ぶ。
「貴女はノワゼル家の者なのですか? なんとか言ったらどうなのです!」
「オーレリア様、落ち着いて」
憤慨するオーレリアをイザベラが宥める。しかし、オーレリアは依然として私を睨みつけたままだ。
「落ち着いてなんていられますか!」
「エレナ、無言は肯定と受け取りますよ」
凛としたイザベラの声が響き渡る。
無言を貫いたなら、白状するよりも厄介な展開になるかもしれない。唇を噛み、拳を握り締める。
「……私はノワゼルです」
白状する以外にはないと、ボソリと呟いた。イザベラは眉尻を上げる。
「聞こえませんが?」
「私は、ノワゼル伯爵家の長女、エレナ・アーデンです」
今度こそ、二人にもしっかり聞こえるように声を張った。
オーレリアは顔を真っ赤に染め、イザベラは冷ややかな目を私に向ける。
「お兄様の立場を利用しようとしていたのですね! 許せない!」
「認めます。不純な動機で選考会に参加しました」
「ノワゼルの復権を狙ったのでしょう? それくらい、出自を聞けば分かります」
声を荒らげるオーレリアとは対照的に、イザベラは冷静沈着に突き放す。理性を失ったオーレリアには、何を言っても通じないだろう。しかし、イザベラには嘘は透けて見える。
「エレナ、貴女は今、リュシアン様のことをどう思っているのです? まだ、ただの権力の駒だと?」
権力の駒だなんて、酷い言い方はやめて欲しい。けれど、言い返してはかえって印象を悪くするだろう。
「私はリュシアン殿下の心を救いたい、ただそれだけです」
本音だけを述べるに留まった。
「思い上がらないでください! 私でもお兄様の心を開くのは無理だったのですよ!? 貴女に出来る訳がありません!」
「オーレリア殿下はリュシアン殿下のために泣いたことがありますか?」
私の一声に、オーレリアの熱気が弱まった。
「リュシアン殿下は私に、『初めて私のために泣いてくれた』と仰いました。オーレリア殿下は、リュシアン殿下に言葉を掛ける以外の方法を試されたことはありますか?」
オーレリアは苦虫を噛み潰したような表情に変わり、声にならない声を発する。ぽろぽろと涙まで零し始めてしまった。イザベラがオーレリアの背中を撫でる。
「弱いリュシアン様がいけないのです。王太子であるなら、強く在らないと。だからこそ、強い私が隣に立つべきだと国王陛下には進言したのですけれど……陛下には通じなかったようですね」
「お兄様と……お父様を、悪く言わないで……」
「あっ、申し訳ございません」
特に悪びれるでもなく、イザベラは詫びを入れる。彼女の心は冷めきっているのだろうか。到底真似したくはないな、と眉をひそめた。
「イザベラ嬢、先日はリュシアン殿下と何を?」
「大したことではございません」
「詳細は話せないのですか?」
私が聞くと、オーレリアもちょこんと首を傾げる。イザベラは観念したように、渋々口を開く。
「リュシアン様は『エレナは貴女と違って優しい』と仰ったので。私は『エレナもリュシアン様と同じように、ただ優しいだけでないと良いですね』と希望を伝えただけですよ?」
酷い。私とリュシアンの両方の性質を踏みにじった言葉だ。怒りが込み上げてくるものの、相手の方が立場は上だ。ぶつける訳にもいかない。しかし、だ。
「そうですか。リュシアン殿下の真摯な優しさが、イザベラ嬢に伝わらなかったのは残念です」
こうでも言わないと気が収まらなかった。嫌味に聞こえたなら、それで仕方ない。
イザベラは眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げる。
「とにかく、貴女の処遇はオーレリア様と相談して決めさせていただきます」
「通常は国王陛下ではないのですか?」
「選考会の進行役はオーレリア様です。エレナ、貴女はさっさと逃げ帰る準備でもなさってください」
言い捨てると、イザベラはオーレリアを促して扉へと向かう。
「待ってください!」
負け惜しみなんかではない。これは私の自負だ。
「私は誰よりもリュシアン殿下を愛せる自信があります。私を脱落させるのなら、この国を失墜させる覚悟を持ってください」
イザベラは睨みを利かせつつ、一言「ふん」と軽蔑の声を漏らす。あたふたするオーレリアも何かを言っているようだったけれど、声が小さくて聞き取れない。扉は無情にもオーレリアやイザベラと私を容赦なく隔てた。
プツリと緊張の糸が切れる。立っていることも難しく、その場にへなへなとへたり込んでしまった。
「どうしよう……」
このままでは確実に、私は選考会から脱落させられるだろう。リュシアンと会えなくなる。それだけは避けなくては。
脱落を避ける方法を考えてみる。国王がオーレリアを説得――実行されるかは不透明だ。オーレリア自身が私の脱落を撤回――するはずがない。リュシアン自らが妃を選ぶ――現実的ではないけれど、これが一番可能性はある。
どちらにしろ、私には待つという選択肢しか残されていない。
「ぬうぅ……」
行動することで何かが解決すれば良いのに。身動きが取れないことが一番の苦痛だ。項垂れ、拳を作る。
どうか、私を救ってください。神がいるのだとしたら、願いを叶えてください。否定してきた神を都合良く引き合いに出し、その夜は礼拝堂で静かな時を過ごした。
「貴女はノワゼル家の者なのですか? なんとか言ったらどうなのです!」
「オーレリア様、落ち着いて」
憤慨するオーレリアをイザベラが宥める。しかし、オーレリアは依然として私を睨みつけたままだ。
「落ち着いてなんていられますか!」
「エレナ、無言は肯定と受け取りますよ」
凛としたイザベラの声が響き渡る。
無言を貫いたなら、白状するよりも厄介な展開になるかもしれない。唇を噛み、拳を握り締める。
「……私はノワゼルです」
白状する以外にはないと、ボソリと呟いた。イザベラは眉尻を上げる。
「聞こえませんが?」
「私は、ノワゼル伯爵家の長女、エレナ・アーデンです」
今度こそ、二人にもしっかり聞こえるように声を張った。
オーレリアは顔を真っ赤に染め、イザベラは冷ややかな目を私に向ける。
「お兄様の立場を利用しようとしていたのですね! 許せない!」
「認めます。不純な動機で選考会に参加しました」
「ノワゼルの復権を狙ったのでしょう? それくらい、出自を聞けば分かります」
声を荒らげるオーレリアとは対照的に、イザベラは冷静沈着に突き放す。理性を失ったオーレリアには、何を言っても通じないだろう。しかし、イザベラには嘘は透けて見える。
「エレナ、貴女は今、リュシアン様のことをどう思っているのです? まだ、ただの権力の駒だと?」
権力の駒だなんて、酷い言い方はやめて欲しい。けれど、言い返してはかえって印象を悪くするだろう。
「私はリュシアン殿下の心を救いたい、ただそれだけです」
本音だけを述べるに留まった。
「思い上がらないでください! 私でもお兄様の心を開くのは無理だったのですよ!? 貴女に出来る訳がありません!」
「オーレリア殿下はリュシアン殿下のために泣いたことがありますか?」
私の一声に、オーレリアの熱気が弱まった。
「リュシアン殿下は私に、『初めて私のために泣いてくれた』と仰いました。オーレリア殿下は、リュシアン殿下に言葉を掛ける以外の方法を試されたことはありますか?」
オーレリアは苦虫を噛み潰したような表情に変わり、声にならない声を発する。ぽろぽろと涙まで零し始めてしまった。イザベラがオーレリアの背中を撫でる。
「弱いリュシアン様がいけないのです。王太子であるなら、強く在らないと。だからこそ、強い私が隣に立つべきだと国王陛下には進言したのですけれど……陛下には通じなかったようですね」
「お兄様と……お父様を、悪く言わないで……」
「あっ、申し訳ございません」
特に悪びれるでもなく、イザベラは詫びを入れる。彼女の心は冷めきっているのだろうか。到底真似したくはないな、と眉をひそめた。
「イザベラ嬢、先日はリュシアン殿下と何を?」
「大したことではございません」
「詳細は話せないのですか?」
私が聞くと、オーレリアもちょこんと首を傾げる。イザベラは観念したように、渋々口を開く。
「リュシアン様は『エレナは貴女と違って優しい』と仰ったので。私は『エレナもリュシアン様と同じように、ただ優しいだけでないと良いですね』と希望を伝えただけですよ?」
酷い。私とリュシアンの両方の性質を踏みにじった言葉だ。怒りが込み上げてくるものの、相手の方が立場は上だ。ぶつける訳にもいかない。しかし、だ。
「そうですか。リュシアン殿下の真摯な優しさが、イザベラ嬢に伝わらなかったのは残念です」
こうでも言わないと気が収まらなかった。嫌味に聞こえたなら、それで仕方ない。
イザベラは眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げる。
「とにかく、貴女の処遇はオーレリア様と相談して決めさせていただきます」
「通常は国王陛下ではないのですか?」
「選考会の進行役はオーレリア様です。エレナ、貴女はさっさと逃げ帰る準備でもなさってください」
言い捨てると、イザベラはオーレリアを促して扉へと向かう。
「待ってください!」
負け惜しみなんかではない。これは私の自負だ。
「私は誰よりもリュシアン殿下を愛せる自信があります。私を脱落させるのなら、この国を失墜させる覚悟を持ってください」
イザベラは睨みを利かせつつ、一言「ふん」と軽蔑の声を漏らす。あたふたするオーレリアも何かを言っているようだったけれど、声が小さくて聞き取れない。扉は無情にもオーレリアやイザベラと私を容赦なく隔てた。
プツリと緊張の糸が切れる。立っていることも難しく、その場にへなへなとへたり込んでしまった。
「どうしよう……」
このままでは確実に、私は選考会から脱落させられるだろう。リュシアンと会えなくなる。それだけは避けなくては。
脱落を避ける方法を考えてみる。国王がオーレリアを説得――実行されるかは不透明だ。オーレリア自身が私の脱落を撤回――するはずがない。リュシアン自らが妃を選ぶ――現実的ではないけれど、これが一番可能性はある。
どちらにしろ、私には待つという選択肢しか残されていない。
「ぬうぅ……」
行動することで何かが解決すれば良いのに。身動きが取れないことが一番の苦痛だ。項垂れ、拳を作る。
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