優しすぎる王太子に妃は現れない

七宮叶歌

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第11章 輝くスイートムーン

輝くスイートムーンⅡ

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 そして次の日はやってきた。私の処遇がどうなるかも分からず、ベッドの上で茫然自失な朝を過ごす。
 しかし、落ち込んでいても何も変わりはしないのだ。それなら明るく過ごした方が得だろう。

「はー、思いっ切り本でも読も!」

 自分のために決意表明をし、抱えていたタオルを放り投げた。
 セリスも到着し、着替えと化粧に取り掛かる。今日はとりわけ明るいピンクのアイシャドウを施してもらった。少しでも気分が上がるように、周りから見ても気落ちしているのが分からないように。そんな意味を込めた。
 トーストに分厚いハムとスクランブルエッグ、牡蠣のアヒージョといった豪華な朝食をいただく。あと何回、こんな食事を摂れるのだろうか。溜め息を吐きたくなったけれど、故郷にいる両親は常に質素な食事なのだ。私が弱音を吐く訳にもいかない。さっと平らげ、腰を上げた。
 行く先は勿論、図書室だ。今日はリュシアンに会えるとは期待していない。私の所へ向かおうとすれば、必ずオーレリアに止められるだろう。
 道すがら、見知らぬ侍女二人組と出くわした。前方で立ち話をしており、一瞬だけ視線が合った。

「あら? あれがエレナ嬢?」

「銀髪に青い目……きっとそうだよ」

「ノワゼル家の、ねぇ」

 出自が侍女にまで知られただろうか。ううん、気にしても仕方がないし、今はまだ妃候補だ。堂々と立ち振る舞おう。

「権力目当てなんでしょう?」

「どうせ、優しすぎる王太子殿下に妃なんて現れないと思ってたのよ。王太子殿下も利用されるだけされて……可哀想だわ」

 駄目だ、言い返してはいけない。拳を握り締め、私に対する侮辱とリュシアンに対する誤解を呑み込んだ。
 図書室に行っても、心は落ち着かなかった。本に集中しているはずなのに、リュシアンの笑顔が浮かぶのだ。花の精霊を彼と結びつけたからだろうか。分からないけれど、内容が入ってこない。
 かと言って別の本を読む気にもなれず、音を立てて本を閉じてしまった。
 このまま図書室にいても、時間を無駄にするだけだろう。それなら、礼拝堂でパイプオルガンの音色を聴くのも悪くない。
 一時間も経たずに図書室を抜け出し、隣の礼拝堂へと移動する。扉を開けた先には、やはり荘厳な世界が広がっていた。
 ベンチに腰掛け、息を吐く。私とリュシアンは荒野に咲く野薔薇のようだ。陰謀や策略に呑まれ、人生を狂わされた。野薔薇に水を与えられる日は来るのだろうか。
 瞼を閉じ、一度深呼吸をする。

「エレナ嬢」

 突然、声を掛けられて驚いてしまった。振り向いてみれば、セリスが胸に手を当てて息を切らしていた。

「ミレイユ嬢からお手紙が届いております。お部屋に戻りましょう」

「えっ?」

 この状況だ。ミレイユにまで私の出自が知れてしまったかもしれない。ここで友情が切れるのも仕方ないか、とは思うものの、落胆はしてしまう。
 重たい足取りで居室へと辿り着いた。ソファーへ腰を下ろすと、セリスから封筒を受け取る。青い封蝋を剥がし、広げた便箋に目を通していく。

 * * *

 エレナへ

 お元気ですか?
 
 私はというと、元気にやっております。兄にも「城に行く前よりも断然明るくなった」と言われます。結果的に、妃候補として名乗りを上げて良かった、ということでしょう。
 
 それより、私はエレナが心配です。噂とはいえ、貴女がノワゼル家出身だなんて……。根も葉もない話をばら撒かないで欲しいものです。

 もし、エレナが本当にノワゼル家だったとしても、私は応援し続けますけれどね。
 どうか負けないで、リュシアン殿下と仲睦まじくいてください。

 ミレイユ・ブランシュ

 * * *

 驚いた。リュシアンの相手が、ノワゼルでも良いという者が現れるなんて。私は非難されるとばかり思っていた。
 友情とはこういうものなのか。相手を信じ、思いやる――私が今まで得られなかった感情がそこにはあった。

「ミレイユ、ありがとう。私、まだ頑張ってみるね」

 デスクに移動し、引き出しの中から真っ白な便箋と万年筆を取り出した。感謝の気持ちと、諦めない決意を手紙としてしたためていく。

「出来た」
 
 書き損じがないかを確認し、セリスへと託した。
 昼食を摂っても行く宛てがなく、廊下を散歩してみる。噂話が聞こえようと、侮辱されようと、私が傷つく必要はない。だって、ノワゼルは罪人の家ではなく、誇り高い家なのだから。

「良く堂々と廊下を歩けるね」

 貴族が堂々としていなくてどうするのです。

「罪人の面を晒して恥ずかしくはないの?」

 元より罪人ではありません。祖父だって冤罪なのです。
 何を言われようと、気丈に心の中で振舞った。夕方には足がクタクタになり、ベッドへと飛び込む。

「皆、なんで他人事だと思って悪いことばっかり言えるんだろう」

 いや、他人事だから噂話を出来るのだろうか。今日一日で、人間の嫌な面をくまなく見られたと思う。

「私が妃になったら……そんなこと、言えなくなるんだからね」

 頬を膨らませ、顔を枕へと埋めた。そうして、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 起きた時には部屋の明かりは消され、窓からの月明かりが私を照らしていた。冷めた料理がテーブルに並べられている。起きた時に食べられるようにとの配慮だろうか。
 マッチに火をつけ、ランタンへと移す。途端に周囲が明るくなる。

「ご飯、食べようかな。勿体ないし……」

 やはり、今日はリュシアンと会えなかった。意気消沈し、テーブルへと着いた。
 並べられたカトラリーに手を伸ばす。その時、廊下から人の足音が響き始めたのだ。
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