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第16章 解ける糸
解ける糸Ⅳ
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国王は書簡を取り出し、読み上げる。
「重要な部分だけ抜粋する。『貴殿が語った貴国王の安全面の確保については、慎重に貴殿と判断したいと思っている。反乱分子が存在するなど、国にとってあってはならない事態だ。私は貴殿にも、貴国にも協力は惜しまない。どうか、信頼して欲しい』……差出人は隣国の現国王、セイブル・コートネイだ」
言い切ると、国王は書簡を傍聴席の方へと掲げた。聴衆の目は書簡に釘付けだ。
「これがスパイと呼べるか?」
間を置き、ベルファール伯爵の、聴衆の反応を窺う。
「私には、救国を嘆願する一国民の祈りにしか思えぬのだよ」
私が祖父の日記を読んで感じたことを、国王は一言で言って退けた。是非、祖父の思いをこの場にいる全員に知ってもらいたい。
意を決して挙手をした。
「国王陛下、私に証言をさせてください」
「ああ。エレナは前ノワゼル伯爵の孫だ。証言を許そう」
「ありがとうございます」
リュシアンの方を見ると、力強い目で微笑んでくれた。大丈夫、私になら出来る。言葉を選び、順序だてて並べていく。
「私の屋敷には、祖父の日記が残されています。襲撃事件を嘆き、囚われた国王陛下と王妃殿下の解放を目指していました。ですが、何度、隣国へ書状を送っても届かなかったようで……祖父は止むなく使者を送ったのです。これがスパイを送ったと疑われた原因でしょう」
「その隣国への書状だが……エレナ、どこにあると思うかな?」
まさか。嫌な予感がして、ベルファール伯爵を見てみる。すました顔で、我関せずといった様子だ。
「そうだ。ベルファール伯爵家の屋敷から押収させてもらった。どれも切実な前ノワゼル伯爵の思いがしたためてあったよ」
「それは私がしたことではありません。父が行ったことです」
「ああ。この件で現ベルファール伯爵を咎めることは出来ないだろう」
ベルファール伯爵の父――歴代で私の家を追い詰めていたなんて。信じられない。
「更に、前ベルファール伯爵は暴動を陽動していた。隣国出身の王妃に非難の矛先が向いていたのは皆も覚えているだろう」
貴族たちは外の血を嫌い、反発していた――そうセリスにも聞かされていた。聴衆たちもざわめき、白い目をベルファール伯爵へと向ける。
「その反発心を利用されたのだよ。王家と仲の良かったノワゼル家を孤立させるために、暴動を仕組んだ」
たったそれだけのために、暴動まで起こしてしまうなんて。私には理解出来ない。ゆっくりと首を横に振って悪意を否定しようとしたけれど、しきれるものではなかった。
「仕組むだけ仕組んで、実行役は息子である現ベルファール伯爵に押し付けた。……違うか?」
「国王陛下は随分と空想を語られるのがお好きなようだ」
「空想ではない。全て、ベルファール伯爵の屋敷から押収した資料に基づいての話だ」
空も怒りを顕にしたのだろうか。雷鳴が遠くで響き始める。
「では、同意を求める必要もないでしょう」
「事実確認もしたいからな。そういう訳にもいくまい」
国王は細い息を吐き、ベルファール伯爵を見遣る。そんな時、稲光が会場を照らした。ベルファール伯爵は背に光を受ける。
「あ……」
小さくリュシアンの声が漏れた。振り向いてみると、彼は酷く怯えている。
「リュシアン様?」
「貴方は……私を……」
「ようやく気付かれましたか」
ベルファール伯爵の低い声が会場を震撼させる。
「そうです。貴方を斬ったのは……私です」
完全に私とリュシアン、ベルファール伯爵の線が一つに繋がった。震えるリュシアンに、慌てて抱きつく。
「リュシアン様、私がいます。大丈夫です」
そのまま背中を撫でて、どうにか落ち着かせようと試みる。
「前ベルファール伯爵は、自分のせいで息子がおかしくなっていると気付いていたのだろう。だが、その後すぐに不可解な死を遂げた。事件を調べるうちに、当時の状況は『事故』では説明出来ぬことが分かった」
「そうですか。もう、言い逃れは出来ないようですね」
「ベルファール伯爵への更なる尋問は別日に行うとしよう。今日はこれで閉廷とする」
国王は三回木槌を鳴らし、場を締めくくった。
言ってしまえば、ベルファール伯爵は親に翻弄されたただの子供――でも、被害者にとってみれば憎むべき仇でしかない。
国王は議長席から降り、私たちのところへとやってきた。その大きな腕は私とリュシアンを丸ごと包み込む。
「二人とも、今まで良く耐えてきたな」
辛かったという言葉だけでは言い表せない。蔑まれ、疎まれ、見放されてきた。私たち家族は、ただの領地のためにここまで陰湿に敵意を向けられてきたのか。余りにも理不尽で、涙が零れる。
「もう、私たちに敵はいない。素晴らしい未来を築いていこうじゃないか」
過去に囚われていても前には進めない。でも、この日は祖父に鎮魂の祈りを捧げよう。それでなくては、祖父も報われない。
傍聴席の貴族が一人残らずいなくなると、泣き腫らした目でホールを一望する。
「ありがとうございました」
自然と口から零れ、頭を下げていた。
「重要な部分だけ抜粋する。『貴殿が語った貴国王の安全面の確保については、慎重に貴殿と判断したいと思っている。反乱分子が存在するなど、国にとってあってはならない事態だ。私は貴殿にも、貴国にも協力は惜しまない。どうか、信頼して欲しい』……差出人は隣国の現国王、セイブル・コートネイだ」
言い切ると、国王は書簡を傍聴席の方へと掲げた。聴衆の目は書簡に釘付けだ。
「これがスパイと呼べるか?」
間を置き、ベルファール伯爵の、聴衆の反応を窺う。
「私には、救国を嘆願する一国民の祈りにしか思えぬのだよ」
私が祖父の日記を読んで感じたことを、国王は一言で言って退けた。是非、祖父の思いをこの場にいる全員に知ってもらいたい。
意を決して挙手をした。
「国王陛下、私に証言をさせてください」
「ああ。エレナは前ノワゼル伯爵の孫だ。証言を許そう」
「ありがとうございます」
リュシアンの方を見ると、力強い目で微笑んでくれた。大丈夫、私になら出来る。言葉を選び、順序だてて並べていく。
「私の屋敷には、祖父の日記が残されています。襲撃事件を嘆き、囚われた国王陛下と王妃殿下の解放を目指していました。ですが、何度、隣国へ書状を送っても届かなかったようで……祖父は止むなく使者を送ったのです。これがスパイを送ったと疑われた原因でしょう」
「その隣国への書状だが……エレナ、どこにあると思うかな?」
まさか。嫌な予感がして、ベルファール伯爵を見てみる。すました顔で、我関せずといった様子だ。
「そうだ。ベルファール伯爵家の屋敷から押収させてもらった。どれも切実な前ノワゼル伯爵の思いがしたためてあったよ」
「それは私がしたことではありません。父が行ったことです」
「ああ。この件で現ベルファール伯爵を咎めることは出来ないだろう」
ベルファール伯爵の父――歴代で私の家を追い詰めていたなんて。信じられない。
「更に、前ベルファール伯爵は暴動を陽動していた。隣国出身の王妃に非難の矛先が向いていたのは皆も覚えているだろう」
貴族たちは外の血を嫌い、反発していた――そうセリスにも聞かされていた。聴衆たちもざわめき、白い目をベルファール伯爵へと向ける。
「その反発心を利用されたのだよ。王家と仲の良かったノワゼル家を孤立させるために、暴動を仕組んだ」
たったそれだけのために、暴動まで起こしてしまうなんて。私には理解出来ない。ゆっくりと首を横に振って悪意を否定しようとしたけれど、しきれるものではなかった。
「仕組むだけ仕組んで、実行役は息子である現ベルファール伯爵に押し付けた。……違うか?」
「国王陛下は随分と空想を語られるのがお好きなようだ」
「空想ではない。全て、ベルファール伯爵の屋敷から押収した資料に基づいての話だ」
空も怒りを顕にしたのだろうか。雷鳴が遠くで響き始める。
「では、同意を求める必要もないでしょう」
「事実確認もしたいからな。そういう訳にもいくまい」
国王は細い息を吐き、ベルファール伯爵を見遣る。そんな時、稲光が会場を照らした。ベルファール伯爵は背に光を受ける。
「あ……」
小さくリュシアンの声が漏れた。振り向いてみると、彼は酷く怯えている。
「リュシアン様?」
「貴方は……私を……」
「ようやく気付かれましたか」
ベルファール伯爵の低い声が会場を震撼させる。
「そうです。貴方を斬ったのは……私です」
完全に私とリュシアン、ベルファール伯爵の線が一つに繋がった。震えるリュシアンに、慌てて抱きつく。
「リュシアン様、私がいます。大丈夫です」
そのまま背中を撫でて、どうにか落ち着かせようと試みる。
「前ベルファール伯爵は、自分のせいで息子がおかしくなっていると気付いていたのだろう。だが、その後すぐに不可解な死を遂げた。事件を調べるうちに、当時の状況は『事故』では説明出来ぬことが分かった」
「そうですか。もう、言い逃れは出来ないようですね」
「ベルファール伯爵への更なる尋問は別日に行うとしよう。今日はこれで閉廷とする」
国王は三回木槌を鳴らし、場を締めくくった。
言ってしまえば、ベルファール伯爵は親に翻弄されたただの子供――でも、被害者にとってみれば憎むべき仇でしかない。
国王は議長席から降り、私たちのところへとやってきた。その大きな腕は私とリュシアンを丸ごと包み込む。
「二人とも、今まで良く耐えてきたな」
辛かったという言葉だけでは言い表せない。蔑まれ、疎まれ、見放されてきた。私たち家族は、ただの領地のためにここまで陰湿に敵意を向けられてきたのか。余りにも理不尽で、涙が零れる。
「もう、私たちに敵はいない。素晴らしい未来を築いていこうじゃないか」
過去に囚われていても前には進めない。でも、この日は祖父に鎮魂の祈りを捧げよう。それでなくては、祖父も報われない。
傍聴席の貴族が一人残らずいなくなると、泣き腫らした目でホールを一望する。
「ありがとうございました」
自然と口から零れ、頭を下げていた。
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