優しすぎる王太子に妃は現れない

七宮叶歌

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最終章 青い鳥

青い鳥Ⅲ

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 私を含めた王家の肖像画が城内に掲げられた。何となく寂しかった壁は、私たちの笑顔で彩られたのだ。私の胸元には、アレキサンドライトのネックレスが輝いている。リュシアンが贈ってくれた、あの宝石だ。
 
 祝福の鐘が鳴り、永遠の愛を誓う。今日の婚姻の式には両親は勿論、ミレイユやイザベラも駆け付けてくれた。荘厳な礼拝堂で式を挙げられたことを誇りに思う。
 披露宴は薔薇庭園で執り行われる。フラワーシャワーを浴びた後なので、私とリュシアンの髪には色とりどりの薔薇の花びらが付いている。ようやく幸せを掴んだのだ。花びらと一緒に心も舞う。

「指輪、とても綺麗ですね」

 薬指ではダイヤの結婚指輪が太陽の光を浴びてシャンデリアのように輝いている。それをうっとりとした目で眺めた。

「白いドレスも、ティアラも綺麗ですよ。それに負けないくらい、エレナも綺麗ですけれどね」

 違和感もなくさらりと私を褒めるので、聞き逃してしまいそうになる。気付いた途端に頬が熱を帯びた。

「リュシアン様こそ、格好良いですよ」

 白い燕尾服に、水色の胸を彩るフリル――ジャボが映える。リュシアンの金髪や空色の瞳と相性が良い。

「初めてエレナに格好良いと言われました」

 そうだっただろうか。リュシアンが頬を薔薇色に染めて照れるので、こちらまで嬉しくなってしまう。
 
「では、行きましょうか」

「はい」

 手を取り合い、薔薇のアーチをくぐる。すると、歓声と拍手が出迎えてくれた。
 披露宴といっても、いつもの食事会と変わらない。ただ、料理が少しだけ豪華になり、主役が私たちになっただけだ。
 一段高くなった新郎新婦席に立ち、ワイングラスを掲げる。

「リュシアン殿下とエレナ殿下に、かんぱーい!」

 友人代表のミレイユが声高々に音頭を取る。エレナ『殿下』だなんて身の丈に合っているとは思えず、聞くだけでむず痒い。堪らずに、グラスに入っているぶどうジュースを引っ掛ける。隣でリュシアンが小さく笑った。

「うん、やっぱり美味しい」

「今日は豪快に飲みますね」

「だって、一生に一回のことですもの。存分に楽しまなくては。リュシアン様――」

「エレナ、ストップ」

 リュシアンは人差し指を自身の唇に当てる。

「今日から『様』はなしです。リュシアンと呼ぶこと」

「えっ?」

 急に言われても、心の準備が出来ていない。『殿下』から『様』になった時でさえ苦労したのだ。呼び捨てなんて、考えてもいなかった。

「リュシ……アン……」

「どうしました?」

 一気に顔が沸騰したかのように熱くなる。グラスをテーブルに置き、咄嗟に両手で顔を覆った。

「やはりエレナは可愛らしいですね」

 リュシアンだけではない。会場全体が笑い声を上げる。恥ずかしくて堪らない。
 その向こうで、鳥の鳴き声が聞こえた気がした。どこにでもある日常の風景だ。そう思っていた。

「えっ!? 嘘でしょ!?」

 オーレリアが悲鳴にも似た声を上げる。

「どうした?」
 
「見てください! あそこにいる鳥を!」

 国王が、そして全員がオーレリアの指差す方を辿る。――見間違えだと思った。だって、そこにいたのはただの鳥ではなく、青い鳥だったのだから。
 『青い鳥に祝福をされた者は国を繁栄に導く』――この国に残る古からの伝承が、確かにそこにはいた。
 目を丸くする私たちを笑うように、青い鳥は羽ばたいた。私とリュシアンの頭上を旋回し、その姿を消す。

「きっと、青い鳥はお兄様とエレナを祝福したのです! まさか、こんな奇跡に立ち会えるなんて……!」

 オーレリアはすっかり興奮状態だ。子供のように飛び跳ね、国王と王妃を歓喜の渦に巻き込む。

「実を言うと、今までも青い鳥を見たような気はするのです」

「奇遇ですね。俺もなのです」

「気がしただけではなく、本当に来てくれていたのかもしれませんね」

 呆気に取られたまま、リュシアンと顔を見合わせる。ぽかんと口を開けるリュシアンの顔が何だか面白くて、笑い声を上げてしまった。そんな私を見て、彼もまた笑ってくれた。
 楽しい時間は続く。今も、これからも。苦難を共に乗り越えたからこそ、輝かしい未来が待っている。そして、きっとまた青い鳥に出会える。私はそう思うのだ。
 薔薇の香りに包まれたこの幸せを、一生忘れはしないだろう。

 Fin.
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