妹が寝たきりになったり、幼馴染が勇者になったり大変なので旅に出ます

ゆーごろー

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旅の始まり〜冒険者入門編〜

始まり

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今日は妹の10歳の誕生日だ。だから、俺は幼馴染と遊ぶのを早めに切り上げ、家に帰った。

だが、ふとそこで気づく。家はシンとしており、人の気配がない。
嫌な汗が流れる。手が震える。嫌な予感が、恐ろしく嫌な予感が背筋を自然とピンと立たせる。

ドアを開け家へ入ると、激しい戦闘の跡が見られた。
俺の父と母は元冒険者でそこそこ強かったと周りから聞いていたので、大丈夫だと、思いたかった。

でも、現実は甘くは無かったんだ。

リビングのドアを開ける。

そこには

血を流し倒れた両親と、胸に剣を刺され宙に浮かぶ妹、そしてその後ろには

HAPPYBIRTHDAYと、血で書かれていた。







嫌な予感が的中し、俺は立ちくらみを覚えた。
むせ返るような血の匂いに吐きそうになるが、なんとか持ちこたえて両親の元へ駆け寄る。
どうやら息はしているようだ。少し安心する。
だけど…妹は。もう、ダメだろう。

胸に剣を刺されている。不思議と血は流れてないし、それに宙に浮かんでいるが、あれで生きているとは思えない。それに、確認してしまえば死んでいるのが確定してしまう。そうなれば俺は…耐えきれないだろう。まだ、ダメだ。いま、絶望したら両親まで救えなくなってしまう。

それだけは、ダメだ。俺は不思議とそう思った。







村の医者の所へと走る。

「どうしたんだい?こんな時間に」

周りを見ると、確かにもう暗くなっていた。

「家に賊が来たようで、両親が危ないんです」

息も絶え絶えこう言った。妹の事は言う気になれなかった。

「わかった、すぐ行こう。」

穏やかな表情から、険しい表情に変え医者は俺の家へと向かっていった。この村は狭いから、直ぐに着いた。さっきは無限にも思えるほど遠いように感じたのに、安心したのか今回はすぐだった。

医者は少し顔を顰めたあと、すぐに両親の診察へと入った。両親が生きていることを確認したあと、治癒魔法をかける。たちまち両親の傷は癒え、呼吸も穏やかなものになった。しかし、今頃気づく。
足がない。

その事に若干の絶望感を覚えつつも俺は妹の方を向く。いい加減、確認してやらねば。

妹の元へとゆっくり近づき、その頬をなでる。
そして、口元へ手を当てる。息はしていない。動悸が早くなる。
次に、その心臓を突き刺している剣を持ち、引き抜こうとする。

が、抜けない。俺は剣に沿うように手を当てた。
鼓動が…ある!
生きている!妹は、まだ、生きているんだ!
そう、感じたことを覚えている。
そこで、俺の意識は絶たれた。







「…また、この夢か。」

嫌な夢である。ココ最近毎日見ている気がする。
多分、15歳の誕生日が近いからだな。
ついに、15歳だ。
職業とスキルを貰ったらすぐに旅に出て、妹を治す方法を見つけるんだ。

「ケイ、ご飯。降りてきて」
「はい、師匠!」

俺は師匠に呼ばれ、階段を降りる。
そしてリビングで浮かんでいる妹の頬をなで、絶対に助けると再度誓う。

あれから、色々あった。
絶望し、幼馴染の両親が経営する宿に住まわせて貰ったい、面倒を見てもらったり。
そこで師匠や先生と出会い、色々なことを教えてもらったり。
15歳になったら妹を治すための旅に出ることを決意したり。

そして、明日は俺の誕生日だ。
明日が来て、神秘の祠へと行けば職業とスキルが貰える。そして、旅に出るのだ。

「ケイ、今日は約束の最後の日。」
「…はい。」
「今日は稽古じゃない。最終試験。」
「最終試験?」
「私と戦う。私に合格と言わせれば卒業。」
「…!はい!」

今まで3年間、魔物と戦ったりはしてきたが、人との実践は初めてだ。緊張するな。

「食べたらウォーミングアップをして午後から試験。午前は自由時間とする。準備しておいて。」
「はい!」

何をしようか…
ウォーミングアップ以外に特にすることもないんだよな。
先生に会いに行こうかな。







「おお、来ましたか。」
「はい、先生。」

フレーミン先生は、3年前にオル師匠と一緒にいた魔法使いだ。俺はフレーミン先生に色々なことを教えて貰っていた。

「今日は最後の日なので、お別れに」
「ああ、そうでしたね。色々なことがありましたねぇ
私がオルとおしゃべりしてる所に急に乱入してきて弟子にしてくださいって言われて、心象最悪。1度は断りましたが、まぁあんなこと言われたら頷くしかないですよね」

そうだ。先生達には、妹の胸に剣が刺さり、目を覚まさないこと。でも、心臓は動いていること。それを治したいことを話した。
それを聞いた2人は、俺が15になるまでならと渋々頷いてくれたのだ。冒険者家業の合間をぬって稽古や授業を付けてもらい、このルージン村に3年間も縛り付けてしまったことには若干の罪悪感もあったが、それも含めてこの2人には感謝しかないな。

「本当に、色々ありましたねぇ。あなたは案外スケベな子でしたし。」
「あ、あれは…その、不可抗力!不可抗力です!」
「ノックしてくれれば良かったでしょう?」

1度、2人の着替え中にドアを開けてしまったことがある。
オル師匠の鍛えられた肉体に、それに似合わない豊満な胸。透き通るような肌色の肌には無数の小さな傷があったのを覚えている。それに比べてフレーミン先生は透き通るような白い肌で後衛だからか傷も少なく、そのオル師匠には劣るが主張をしてくる胸には目を奪われた。

っと、そんなこと思い出してるとまた顔に出てしまうな。

「ふふっ、こんな会話も明日からは難しくなるのかしらねぇ」
「そう、ですね。今日まで、本当にありがとうございました。先生に教えて貰ったこと、忘れません。」
「ええ。すぐに死んじゃったら、ダメですからね?」

フレーミン先生は可愛く笑ってくれた。
2人とも、15で冒険者になって5年目でSランク冒険者になるという偉業を成し遂げたすごい人だ。
ちなみに今は2人とも23歳だ。

っと、そろそろウォーミングアップしとかなくちゃ。

「じゃあ、そろそろ行きますね。」
「私も見に行くわ。また後でね」







約束の時間が来た。ウォーミングアップもバッチリ。コンディションも良好。

「では、私が審判ですね」

絶対に…勝つ!

「初め!」

先手必勝とばかりに、オル師匠が上段から振り下ろす。俺もそれに合わせて剣を横に振り抜き、剣はぶつかり合い火花を散らした。
凄まじい力だ。だが、負けてはいられない。これはなんでもありの勝負だ。

「火炎弾…」

魔法を放つため、魔力を操作する。
が、それを聞いた師匠は素早く後ろにさがり、今度は剣を横に構えてこちらに突っ込んでくる。
それに対応し、俺も魔法を中断、素早く剣で応戦する。

とても激しい攻防戦が続く。
師匠はなかなか魔法を発動させてくれず、俺が不利な状況だ。

この状況を打破するには…あれしかないな。
ただ、一回コッキリの最終手段。ミスったら終わりだ。絶対に、決める!

俺は、手に持っていた剣を師匠に向かって

「ッ!?」

師匠は顔を顰めたが、直ぐにいつものポーカーフェイスに戻し、剣を弾く。
体勢は崩せた!

「ハァッ!《武器生成》!」

俺は地面を足でダンッと叩き、魔法で剣を生成する。
そしてその剣を地面から引き抜き突進。
一気に距離を詰め、剣を横に構えて斬り裂く。

「武技・瞬激」

しかし、それは師匠の武技によって弾かれてしまった。

速い、速い速い速い!
やばい、死ぬ!

俺はその攻撃を紙一重で躱し、回し蹴りのように振り向きざまに袈裟懸けをしようとする。
が、また弾かれた。
なんなんだこの人!どんな動きだよ、まじで!

その後二三度剣を交し、拮抗状態に陥る。
が、俄然俺が劣勢だ。押し負ける。

「我が魔力を糧に、火をもって敵を討つ力となれ!《属性付与・火》!」

俺は剣に魔力を這わせ、燃え盛る剣を作り出す。
が、これはさっきとは違うもので、魔剣だ。
即興で作ったのとスキルによって作ったものでは無いので、一般に魔剣と呼ばれるものとは比べ物にならないが、この刹那の戦いにおいては突然魔剣を作り出すと言うのは良い奇襲となる。

俺は師匠の意表をつき、一瞬途切れた集中の合間を見逃さずにすかさず後ろに下がった。
で、また剣を投げる。
これは読まれていたのか、最小限の動きで躱された。

「うん。強くなった。君は才能に溢れてる。普通、3年じゃここまで成長出来ない。ちょっと嫉妬。」
「ありがとう、ございます」
「でも、君には敗北も必要。だから、少し本気出す。死なないでね…?」

今まで、師匠が本気を出すと言うのは聞いたことが無い。が、何をするのか予想はつく。

「巡り、力となれ。《気魔武装》」
「!ふぅ…巡り、力となれ!《気魔武装》」

予想通りだ。だが、思ったよりも遥かに目に見えて強くなってる。なんでだろうか。威圧感?

と、思ってたら師匠がものすごいスピードで突っ込んでくる。
が、俺も気力と魔力で全身を強化したのだ、目で追えぬわけがない…!


と、思っていた時期もありました。
なにこれ、全然見えない。
半分勘で受けつつ、反撃のチャンスを探るが、ない。
反撃出来ない。強いし速いし見えない。
だが、俺は師匠が持っていない物を持っているんだ…!

「我が魔力ぅっ?!を糧に、全てを見通す瞳となれ!!」

早口で詠唱をし、手に填めたグローブに仕込んでいた魔術を発動させる。やっと動きが追えるようになった。

「《濃霧》」

濃霧を発生させ、師匠の目を効かなくする。

「武技・空間掌握」

が、すぐに対応された。
武技・空間掌握は、周りの空間にあるあらゆるものを知覚する技だ。
しかし、これにも弱点はある。見えすぎるのだ。

「我が意志をもって、偶像を作り出せ!」

魔力で人形を作る。
空間掌握は魔力や石、生き物などの区別が。なら、魔力で偽物を作ってやればいい。

「ん。なかなかやる。でも、それだけじゃ勝てない」

分かってる。分かってるんだ、そんなことは!
だから、俺は…

「解除ォ!」

師匠の意表を突く!
この技術には、強いイメージ力と集中力が必要だ。
何せ、いつもは詠唱で補っている魔術の演算を、自分の頭の中だけでするのだから。

「《衝撃波》!」

1番、得意なこの魔術で。
この3年間、鍛え続けたこの魔術で師匠を倒す!

無詠唱で放たれた«衝撃波»が、師匠を吹き飛ばす。
師匠は完全に虚をつかれたようで、驚きを顔に出していた。
その隙を見逃さず、剣で横凪に一閃。
初めて、師匠に一撃食らわせることが出来た。

が、そこまでだった。
やはり、師匠は強い。

そこからは一方的な試合で、有無を言わさぬ師匠の攻撃にたじろぎながらも奮闘したが、直ぐに追い込まれた。

「3年で私に一撃食らわせるなんて、やっぱり凄い。見込んだだけのことはある。」
「ありがとうございます!」
「だから、その才能と努力に敬意を表して、本当の全力、見せてあげる。」

そう力強く宣言した師匠。

「巡れ聖力」

その一言で、師匠の威圧感が何倍にも膨れ上がる。
これが、正真正銘師匠の本気…
物凄い威圧感。それに、この息苦しいようにのしかかるプレッシャー。
勝てない。底がまるで見えない様な、そんな感じだ。

「真正面から行く。防御して。」

師匠の優しい声音。が、すっごく怖いし、勝ちを確信してる。
まぁ、俺も負けるのを確信してるわけだけどさっ!
受けれないと思われるのは癪だ。

と、考えた瞬間。
師匠が消えた。
と、思ったらガードした剣ごと吹き飛ばされ、後ろに20メートルほど行ったところで尻もちをつく。
まったく見えなかった。
忠告されなければ受けれなかっただろうし、そもそも剣はバッキバキだ。
後ろに回られた時点でもう負けだな。

「ん。合格。君に«フォーゲント流・特級»の称号を与える。何度も言うけど、3年でここまで来た人はほとんど居ない。誇っていい。」

世の中には、様々な剣術がある。
その流派一つ一つで師範に認められれば、階級を名乗ることを許される。

階級は、初級、中級、上級、特級、超級、王級、神級の7種類で、神級は全ての奥義を極め、新たにひとつ以上の奥義を編み出さねばなれない。
つまり、神級の数だけ奥義が増えてゆく。
才能なくしては越えられない壁だ。

特級と言えば、結構高月収で傭兵として雇われるようなくらいだった気がする。結構強いやつって感じのニュアンスだな。
一般的に強いと言われるのが上級で、その上だ。
ちなみに師匠は王級。ハンパねぇ。

「あー…負けたぁ…」

地面に仰向けになりながら呟く。そのつぶやきは、師匠には届かずただ空へと溶けていった
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