好きな人とエレベーターに閉じ込められました。

蒼乃 奏

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好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。

閉じ込められました。(陸くんの場合)

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きっと、これは何かの間違いだ。

悪夢か、白昼夢か、いずれにしろロクな夢じゃない事だけは確かだけど夢に違いない。

季節は少し涼しくなり始めた夏の終わりの夜、俺、伊藤イトウ リクは、絶望を感じていた。

学校近くの友達が住んでるマンションに遊びに行って、家に帰ろうと乗った広くはないけど狭くもないごく普通のエレベーター。

そのエレベーターが突然故障した。
見事なまでにあっさりと。

このマンションは古くてボロいわけでもなく、比較的新しいのに。

なんの前触れもなく俺は本当に突然、この小さな密室に閉じ込められてしまったのだ。

「うぉ、エレベーターって本当に閉じ込められたりするんだなー」

呑気な声が後ろから聞こえて来て、俺は焦ってエレベーターのパネルの前に立って非常ボタンを探した。

まさかこのボタンを押す日が来るとは思ってもみなかったのでよく見た事なんてなかったけど、きっとこれだと思ったボタンを迷いなく押す。

そのボタンを連打して助けを呼ぼうとするものの、外部と繋がる気配はない。

「どうしよう…繋がらない」

「こんな時間だしな、そのうち繋がるんじゃね?そういや、さっき雷鳴ってたし、落ちたのかも」

落ち着け、落ち着くんだ俺。
こんな時どうするんだっけ?

確か各階のボタンは全部押しといた方がいいって何処かで聞いた。

俺は全ての階のボタンを両手で全て押すと、もう一度非常ボタンを連打した。

「…なぁ、軽く俺の事無視してるだろ、伊藤」

うるさいうるさい!!
俺はそれどころじゃないんだよ。返事なんかしてられるか!!

俺は非常にこの状況に狼狽していた。
だから力加減が上手くいかなかったみたいだ。

非常ボタンはそのうち押してもなんの反応もなくなり、虚しく掠れた音がしている。

「お前、それ壊したんじゃない?」

「そんなに強く叩いてないぞ!」

「お、やっと返事した。いや、お前めっちゃチカラ入ってたけど」

「じゃ、じゃあどうするんだよ!?閉じ込められたんだぞ、俺達、こんな夜中に、エレベーターの中なんかに!!」

「スマホあるだろー?」

はっとしてスマホをポッケから出すと、スマホは虚しく圏外を示してた。

「圏外じゃねぇか!!」

「マジ?あー、俺も圏外だわ。エレベーターってスマホ電波悪いんだなぁ。そういや鉄の箱だもんな。ははっお前知ってた?」

何故…何故笑っている、成瀬!!

俺は崩れ落ちるようにしゃがんで項垂れた。

「さっき非常ボタン押したから、きっと誰か来るって。のんびり待とうぜ、伊藤」

「成瀬、お前ちょっと黙ってろ、ムカつく」

「んだよ、それより伊藤がなんでここにいんの?」

「お前こそなんでここにいるんだよ!」

「俺がこのマンションに住んでるからだろ。自分のマンションのエレベーター乗って何が悪い」

今、目の前にいるのは同じ高校の成瀬ナルセ 拓海タクミ

成瀬がこのマンションに住んでるのなんて、本当は知ってる。

俺が言いたいのは、何故今、この時間に、エレベーターに乗り合わせて、そして仲良く閉じ込められたのかっていう事だよ!!

「まぁ、落ち着けよ。伊藤はいつも落ち着きがないんだよ。すぐ出れるって」

すぐ…!?すぐってどれくらいだよ?
俺は今すぐこの箱から出たい。

俺の秘密がバレる前に、ここからどうにかして出ないと、俺はおしまいだ。

「ほら、ガム食う?」

無駄にキラキラした笑顔でガムを差し出されて、俺は目眩がした。

これは俺にとって人生で最大のピンチだ。

『片想いの相手と2人っきりでエレベーターに閉じ込められる』

最悪のシチュエーションに遭遇した時、人は冷静でいられるだろうか。いや、無理。
俺そんなチャンス望んでないんだって!

「飴もあるぞ。コンビニさっき行ってきたんだ。ほら、遠慮すんなって」

神様どうか、コイツを黙らせてください。








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