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エレベーターに閉じ込められたその後で。

好きな人との、それから。(陸くんと拓海くんの場合)

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【拓海くんのそれから】

だいぶ寒くなって来た12月のある日、俺は部活帰りにコンビニに寄った。

いつも通りスイーツばっかりぽいぽいとカゴに投げ入れて、それでもレアチーズタルトは一拍置いて投げないで慎重に入れた。

姉ちゃんは潰れてようが食べれればいいってタイプだからつい投げ込んでしまってたんだけど、この間ちょっと潰れてただけで、陸のやつ不機嫌にぷんすか怒りながら食べてたからな。

『成瀬は、基本ガサツなんだよ。そーゆーとこは直した方いいと思う』

なんて言うから、ずいぶん言いたい事を言えるようになったなぁって思う。

何故か俺の前だと最初の頃は緊張して言いたい事をなかなか言えなかった恋人が、少しずつ言いたい事を自然に言ってくれるようになってきたのが、お互いを理解していってるみたいで嬉しい。

イチゴオーレはもう俺は飲まなくなった。
だってもう必要ないんだ。

それを飲んでた人の事を深く知りたかっただけだから。
今は聞きたいと思った事は本人に聞けるから。

ひとつだけイチゴオーレをカゴに入れて、俺はブラックコーヒーのホットを選んでカゴに入れる。

「腹、減ってるかな…?」

おにぎりとサンドイッチも買って、いつも食べる飴も投げ入れて会計すると、結構な金額になった。

『成瀬って、割と散財派だよね』

そばに陸がいるみたいで勝手に口角が緩むと、コンビニの店員が不審者を見るような目で見ていた。

早く会って陸を抱きしめたいと思った。

スマホが鳴ったから陸かな?って思ったら姉ちゃんからのメッセージだった。

『今日遅くなるってお母さんに言っといて。残業だけど迎えがいるから心配ご無用』

「ふーん、送り迎え付きですか。いいご身分ですな…」

そう思ったまま打ち込んで送信すると、姉ちゃんから返事がすぐに来た。

『ストーカーがウザいから受け入れる事にしたらなかなか役に立つのよね(笑)』

実は意外だったんだけど、宙さんと姉ちゃんは程なくヨリを戻してしばらく経つ。

この2人、高校卒業間際に喧嘩別れして7年近く、お互いどっちかが折れるのを待っていたらしい。

とっくに宙さんが折れて連絡したかったんだけど、連絡先がわからなくなってた上に俺の家が引っ越したから、避けられてると勘違いした宙さんはどこまで追いかけていいのか迷ってしまった。

それでも調べればわかるはずだって、本気で探さなかったって姉ちゃんが不貞腐れて面倒くさい事になってたんだけど。

最後にはちゃんと収まるところに収まったって感じだ。

姉ちゃんがいないんならこんなにスイーツ買わなくて良かったなぁって思いながら、俺はマンションに着く直前に陸にメッセージを送信した。

『着いたよ』と送ると、返事は瞬く間に送られてくる。

相変わらず秒で返信してくるんだよなぁ、可愛いったらない。

『わかった。今行くね』

エントランスに入ろうとして足を止める。

「お?初雪……?」

どおりで寒いと思ったら雪がチラチラ降って来て、もう冬なんだなぁって思った。

今年の冬は、陸がいてくれるから楽しみだ。
クリスマスはどうやって過ごそうかな。

あれから何度乗ってもエレベーターはもう、俺を閉じ込める事はない。

でもあんな事はあの一回でたくさんだけど。

エレベーターに乗り込んで俺は13階を押した。









【陸くんのそれから】

成瀬からメッセージが来て、俺はグレーのパーカーを羽織って丸山のお母さんに挨拶する。

結局、このグレーのパーカーは成瀬が俺に譲ってくれて、俺はこのぶかぶかのパーカーをものすごく愛用してる。

「お邪魔しました」

「あら、最近前より早く帰っちゃうのねぇ。お家の人仕事であまり家にいないんでしょ?遅くまでいてもいいのに」

「大丈夫です。いつもお邪魔してすいません」

丸山は後ろからダルそうに玄関に来て、一言送ってくるってお母さんに言ってスニーカーを履いた。

「見送りなんていいのに」

「いいんだよ。送ってく体にしないとうちの母さんうるさいんだ。陸、女の子に見えるだろって」

微妙に失礼な事を言われてるんだけど、早く行かないと成瀬が来ちゃうので俺は丸山の家の玄関を出る。

マンションの廊下は少しひんやりしてるけど、停電してなければちゃんと明るいくらい電灯がついてる。

あの日朝までに停電は解消したらしくて、今はすっかり元通りだしあれから停電も一度もない。

あれから俺もこのエレベーターに何回も乗ったけど、もう閉じ込められる事もない。

エレベーターの前に立つとポーンと音がして、ジャストタイミングで扉が開いて、スマホを弄ってた成瀬が顔を上げて俺と目が合った。

「成瀬!おかえり!」

「んー、ただいま」

人懐っこい笑顔で俺に向かって笑ってくれる成瀬に抱きつきたい所だけど、丸山が後ろにいるのを思い出して我慢した。

「陸がお世話になりました、丸山くん」

「いえいえ、別にお世話なんてしてないですよ、成瀬くん」

2人は相変わらずあまり仲が良くなくて、俺はずっとそれがどうしてかわからない。

ただ丸山の家に遊びに行く日は、成瀬に逐一報告する事を義務付けられてて、成瀬は必ず迎えに来るんだ…って、同じマンションなんだけど。

「丸山、またね。あ、今日借りた漫画、今度の週末までには読むから」

「あぁ、そんなの別にいつまででもいいぞ」

俺と丸山が会話してると、成瀬がエレベーターから少し身を乗り出して俺の腕を掴んで強めに引っ張った。

「わっ、成瀬?」

「陸、扉閉まる。早く」

それって成瀬が『開』のボタンを押してくれてれば閉まらなくない?

扉が閉まり切る前に俺は成瀬の腕の中に囲われて、丸山に見られただろうと思うと急に恥ずかしくなって顔が熱くなった。

「どうした?また熱あるみたいだぞ?」

そうやってからかわれるのはまだ慣れない。
成瀬の人懐っこい笑顔が好き過ぎて、ただただ見惚れてしまう。

「あれ?成瀬髪の毛少し濡れてない?雨降ってるの?」

「いや、違う。雪降ってた」

「ほんと!?うわぁ、成瀬の部屋行ったら窓から見なくちゃ」

雪が降って来ただけでテンションが上がる俺を、成瀬はただ笑って見てる。

今年のクリスマスは、成瀬が一緒だからすごく楽しみだなぁって思った。

「陸、寒いからちゃんと結ばないと。マフラー解けてる」

成瀬が俺の誕生日に買ってくれた紺色のマフラーは、成瀬が付けてる黄緑のマフラーとお揃いなんだけど、2人で並んでてもカップルマフラーだと気づかれにくくてすっごく気に入ってる。

マフラーを綺麗に整えてくれた成瀬は、よしって呟いて俺の頭を撫ぜた。

2人っきりのエレベーターは今度は23階に向かって動き出す。

誰も乗って来なかったあの日のエレベーターとは違うから、止まっても大丈夫なように2人で壁にもたれてエレベーターの階数が増えていくのを見つめる。

俺が壊した非常ボタンはもうきちんと修理されてるけど、今度押す時が来たら壊さない程度に落ち着いて押すって決めている。

「今日は数学ね。成瀬が弱い所、問題何枚かコピーしてきたから」

「えー、今日数学って気分じゃない…」

「なんだかんだ理由つけて数学回避すんのダメだよ。一緒の大学行こうって約束したじゃん」

実を言うと成瀬より俺の方が頭が少しいいから、成瀬が頑張ってランクを合わせて同じ大学を目指す事にした。

こうやって2人で勉強するのは俺は楽しいのに、成瀬は勉強があまり好きではなくて机に向かうのがしんどいと漏らしたりする。
でも頑張ってるからすぐに成績が上がってきた。

成瀬は頭が悪いんじゃなくてただやらないだけ。
そして要領がいいから吸収も早いんだ。

「スイーツ買ってきたんだけど、姉ちゃんは宙さんと一緒だから多分陸がいる時間には帰って来ないかな」

「そうなの?亜由美さんに会いたかったのに」

「あのさ、陸。塾がない日に勉強しに来るのは構わないんだけど、丸山の家に待機してんの向こうに迷惑じゃないか?母ちゃんいるからうちで待っててもいいんだぞ?」

「えっでも…亜由美さんがいないと俺、お母さんと間が持たないから嫌だよ。丸山は、全然構わないっていつも言ってくれてるし」

「ちっ、いい加減諦めろっての」

「え?何を?」

「ん?いや、こっちの話」

成瀬は俺の右手を握ってまた階数が変わっていくのを見つめた。

「エレベーターなんて滅多に閉じ込められないよな。でも、俺はあの日があって本当に良かったと思ってる」

「……うん、俺も」

偶然エレベーターに閉じ込められたけど、必然だったような気がしてるから。

成瀬の左手を俺も強く握り返して、成瀬を見上げる。

「でも俺、停電しないならもう一回成瀬と閉じ込められてもいいけど」

「げ、マジか。俺は陸と2人っきりになるのはちょっと困るんだよな」

「え?ひどくない?」

「んー、だってさ。今度閉じ込められたら、ムラムラすんの我慢出来る自信全然ない」

おかしそうに2人で笑った後、エレベーターがどこにも止まらないタイミングを見計らって俺達は目配せをする。

どちらからともなく顔を寄せて、エレベーターの中で軽く触れるだけのキスをした。











END.














ここまで読んで頂きまして、本当にありがとうございました。

モチベーションが保てなくてガタガタでしたが、なんとか完結出来て良かったです。

毎日更新は守れたんですが、やっぱり毎日書き続けるのがしんどかったです。

それでもここまで書き切れたのは、読んでくださる方がいると思えばこそです。

相変わらず拙い文章、誤字脱字も多くお見苦しい点もあった事と思います。

追いかけて読んでくださった皆様にお礼申し上げます。

最後までお付き合いありがとうございました^_^



蒼乃 奏。2020.10.23
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みんなの感想(1件)

darumasan
2020.10.21 darumasan

毎回楽しみにしています!
エレベーターの、2人の距離が近づいていくところも好きでしたし、外に出てからどんどんラブラブになっていく感じも好きです!
これからも更新楽しみにしています!!
大変でしょうが、お身体に気をつけて頑張って下さい♪

蒼乃 奏
2020.10.21 蒼乃 奏

いつも読んで頂きましてありがとうございます!
感想とっても嬉しかったです!
2人の焦ったい関係が、エレベーターに閉じ込められた事によって大きく変わっていく過程を楽しんでもらえたら嬉しいです^_^
最後まで楽しんで頂けるように頑張りますので、これからもお付き合いくださいね。
多分最後までこのままラブラブです♡
感想本当にありがとうございました!

解除
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