異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆

文字の大きさ
53 / 101

50.今の私にできること

「うん、それで大体は合ってるわ」

 ルーナさんがふんぞり返って頷いた。

 文句を言うだけ言ってすっきりしたのか、ルーナさんはいつも通りほわんとした笑みを浮かべる。花畑に横座りして、うながすみたいに隣を叩いた。

 素直に私も座れば、シーナちゃん軍団が嬉しそうによじ登ってくる。

「ぱうぅ~」
「ぽぇあ~」

「はいはい、みんな今日もとっても可愛いよ。……で、ルーナさん」

 シーナちゃんをくすぐりつつ、上目遣いに女神さまを見上げた。

「つまりは私、ちょっとだけでも魔素集めに成功したってことですよね? もしやご褒美に、文字が読めるようにしてもらえたり……?」

 期待を込めて尋ねたのに、ルーナさんは「無理よぅ」とあっさりかぶりを振る。

「あなたの集めたなけなしの魔素、あなたをここに呼ぶのに使い切っちゃったもの。しかも往路分だけで復路分には足りないから、帰りはわたくしの魔力で送ってあげなくちゃ」

 あらら。
 それじゃあむしろ、借金をしてしまったわけだ。

「ごめんなさい」

 しゅんと眉を下げると、ルーナさんは困ったように微笑んだ。

「わたくしね、正直驚いてるの。まさか異世界人であるあなたが、教えられもせずに魔法を使うだなんて、って。どうやらあなたはシーナ・ルーと人間、双方のいいとこ取りをしてしまったみたいね。……それはきっと、の望みには、反することになるのでしょうけど……」

 曖昧に呟き、唇を噛んで考え込む。

 私は黙ってそれを見守った。
 ルーナさんの話は言葉足らずなことが多くて、この世界の人間じゃない私にはわかりにくい。いつもやきもきするのだけれど、今日は彼女を問い詰める気になれなかった。

(だって……)

 ルーナさんの顔が、ひどく真剣だったから。

 そっと目を逸らし、私はシーナちゃんを撫でるのに専念する。シーナちゃんはしあわせそうに喉を鳴らした。

 やがて考えがまとまったのか、ルーナさんがようやく顔を上げた。

「あのね、シーナ」

 私の頬をひんやりした手のひらで包み込む。

「緋の王子たちには、決して魔法のことを知られては駄目。あなたの手柄を横取りすることになってしまうけど、あの炎は月の女神の起こした奇跡キセキなのだと伝えなさい」

「は、はい」

 けれど嘘をつくまでもなく、ヴィクターは最初からあれが『奇跡キセキ』だと信じてた。
 しどろもどろにそう伝えると、ルーナさんは微苦笑を浮かべる。

「緋の王子や彼のお仲間なら、そうかもね。でも聖堂の神官たちは疑うはずよ。なぜなら、奇跡キセキには攻撃手段なんてものは存在しないから。奇跡キセキにできるのは『護る』こと、そして『癒やす』ことだけ。神官たちはそれをよく知っているわ」

「護る……。そういえば、人里に魔獣が入れないのは『奇跡キセキ』のお陰なんだって、前にヴィクターが言ってました」

「ええ、そうよ。神官たちの祈りに応え、わたくしが魔法を行使する。それこそが『奇跡キセキ』の正体なのよ」

 なんだ。じゃあやっぱり、奇跡キセキと魔法は同じものなんだ。
 ……だけどどうして、わざわざ呼び名を変えてるんだろ?

 私の疑問を感じ取ったのか、はたまた魔法で心を読んだのか。ルーナさんが一瞬だけ言葉を詰まらせた。
 パッと私から手を放すと、逃げるように立ち上がった。

「……かつてはね、ごく少数の人間だけが魔法を使えていた時代があったわ」

 背中を向けて、花畑をぶらぶらと歩き出す。
 私も慌てて彼女の背中を追った。シーナちゃん軍団もぽてぽてと跳ねて付いてくる。

「今の世の人間はそれをすっかり忘れてる。魔法という概念は人々の記憶から、一切の痕跡すら残さずに消え去った。……けれどね、それでいいの。忘れたままでいるべきなのよ。人の使う魔法は攻撃的で、たやすく争いを生んでしまうから……」

 風に流されるようにして、ルーナさんの声が頼りなく揺れる。
 その背中がなぜか迷子の子どもみたいに見えて、私の胸がぎゅっと苦しくなった。ルーナさんは大きく息をつくと、ようやく足を止めて振り返る。

「だからね、シーナの使う奇跡キセキは特別仕様なのだと、皆に信じ込ませなさい。大丈夫、それほど難しいことじゃないわ。月の聖獣の能力だとでも、次代の月の巫女の恩恵だとでも、いくらでも言いようはあるのだから」

「う。ど、努力します……」

 あんまり自信はないけどね。
 頭を抱え込む私を見て、ルーナさんはようやく頬をゆるめた。

「シーナ。緋の王子や彼の仲間を助けるために必要なら、これからも魔法を使って構わないわ。……でもね、どうか魔素集めもおろそかにしないでほしいの。それというのもね――」

 ルーナさんがだんだんと低く声を落としていく。
 シーナちゃん軍団が、まるで聞き耳を立てるみたいに一斉に背伸びした。なに? なになに?

「ぱぇ?」
「ぱぇぱぇ?」

 興味津々の私たちに向かって、ルーナさんはそっと唇に人差し指を押し当てる。

「シーッ、ナイショよみんな。……実はね、わたくしの魔力量なんだけどね、もはや底辺を這っているの……。我ながらびっくりよ、前代未聞の枯渇っぷりよ。このままじゃあ魔素の浄化なんて、夢のまた夢なのよ」

「…………」

 えええええっ!?

「ぱぅえ~っ」
「ぽぇっぽぉ~っ」

 シーナちゃん軍団が大仰にのけ反ってみせる。いや君たち、ちゃんと事の重大性を理解できてる!?

 愕然とする私をよそに、ルーナさんもまたのほほんとしていた。

「それがねぇ、ちょっぴり豪快に魔法を使いすぎちゃったみたいなのよねぇ。異世界に道を繋げたり、シーナを助けたり、シーナをこっちに連れてきたり、シーナを呪ったり、シーナが素っ裸にならないよう服を着せてあげたり」

「ほぼほぼ私が原因じゃないですかぁっ!?」

 まずい。
 このままでは私のせいで、この世界の魔素が浄化できなくなってしまう。えぇとでも、魔素が浄化できなくなると、何が起こるんだったっけ……!?

「魔素は増えすぎると、こちらの世界の人間にとっても良くないことが起こるのよ。……まあそれに関しては、すぐにどうこうっていうほど、切羽詰まってるわけじゃないけれど……」

 ルーナさんが歯切れ悪く説明してくれる。
 瞬きする私から視線を逸らし、わざとらしく咳払いした。

「と、とにかく。目先の問題としては、何よりも魔獣のことよ。魔素が増えると魔獣も増える、しかも凶暴化して活発化する。あらぁ大変。緋の王子も大忙しよねぇ」

「な……っ!?」

 驚きのあまり、私は息が止まりそうになる。
 ルーナさんの言葉がじわじわと浸透し、膝が激しく震え出した。

 熊モドキに狼型魔獣、そしてあの恐ろしいミミズ魔獣の姿が脳裏に蘇る。
 リックくんの故郷が襲われたことも、ヴィクターたち第三騎士団が危険な戦いに身を投じるのも……。もしかして全部、私が命を救ってもらったせいなの?

「そ、そんなのって……!」

「――大丈夫。落ち着きなさいな、シーナ」

 不意に、冷えきった体を優しく包み込まれる。
 ルーナさんがなだめるように私の背中を撫でてくれた。

「これは幾度も繰り返されてきた、この世のことわりの一つに過ぎないのよ。魔素が増え、魔獣が勢力を伸ばす。人間が淘汰されないよう、神たるわたくしが魔素を浄化する。……けれどね、神は人の側にばかり肩入れはできないの。魔獣も人も、等しくこの世界を生きる存在なのだから」

 だから、通常でも魔素の浄化はぎりぎりまで行わない。
 そして、完全に浄化してしまうこともない。

 噛んで含めるように告げると、ルーナさんは私から体を離す。

「まだ時間は充分にあるわ。わたくしの魔力は時が経てば回復するし、あなたが魔素を集めればそれはもっと早まるの」

「……っ」

「緋の王子から魔素を吸収しなさい。そして同時に彼の魔素を魔力に変換して、あなたの魔法で緋の王子を護るのよ。できる?」

 まっすぐな眼差しに、私はごくりと唾を呑む。
 声もなく、ただ何度も頷いた。

 ルーナさんがふっと顔をほころばせる。

「いーい、シーナ? 緋の王子の宿す魔素は規格外よ、破産を恐れる必要なんてないわ。だからここぞという場面ではためらいなく、徹底的に魔法の力を行使するのよ」

「ルーナさん……。さっきと言ってることが、全然違うんですけど」

 思わずくすっと笑ってしまう。

(……うん。大丈夫……)

 反省も後悔も、今はきっと意味がない。
 私は私に、できることをするだけだ。

(絶対にヴィクターや、騎士団のみんなを守ってみせる……!)

 心に決めて、きつくこぶしを握り締めるのだった。
感想 13

あなたにおすすめの小説

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました

六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。 「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」 彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。 アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。 時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。 すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。 そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。 その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。 誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。 「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」 「…………え?」 予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。 なぜ、落ちぶれた私を? そもそも、お会いしたこともないはずでは……? 戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。 冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。 彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。 美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。 そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。 しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……? これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

婚約破棄されたので田舎の一軒家でカフェを開くことにしました。楽しく自由にしていたら居心地が良いとS級冒険者達が毎日通い詰めるようになりました

緋月らむね
ファンタジー
私はオルレアン侯爵令嬢のエルティア。十四歳の頃、家の階段を踏み外して頭を打った衝撃で前世を思い出した。    前世での名前は坂島碧衣(さかしまあおい)。祖父母の引退後、祖父母の経営していた大好きなカフェを継ぐつもりでいたのに就職先がブラック企業で過労の挙句、継ぐ前に死んでしまった。そして、自分が息抜きでやっていた乙女ゲーム「星屑のカンパニー」の悪役令嬢、オルレアン侯爵令嬢エルティアに転生してることに気がついた。  エルティアは18歳の舞踏会で婚約破棄を言い渡される。それだけならまだしも、婚約者から悪役令嬢として断罪され、婚約破棄され、父親から家を追い出され、よからぬ輩に襲われて殺される。  前世だってやりたかったことができずに死んでしまったのに、転生してもそんな悲惨な人生を送るなんて、たまったもんじゃない!!それなら私は前世継ごうと思っていた祖父母のやっていたようなカフェを開いて楽しく自由な人生を送りたい。  そして私は王都と実家を飛び出して森が開けた自然豊かな場所で念願のカフェを侍女のシサとともに開くことができた。  森が開けた自然豊かな場所で楽しく自由にカフェをやっていたら、個性豊かなS級冒険者たちが常連として私のカフェにやってくるようになりました!