【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆

文字の大きさ
18 / 97
第二章 家出お嬢様編

18.対峙

しおりを挟む
 一夜明けて。

 セレナの部屋で一緒に朝食を取り、本日のスケジュールを確認する。

「午後から糸目さんにラザロの街を案内するんだよね?」

「ええ。父も糸目男もお昼まで商談で忙しいみたい。街に出掛ける時は、もちろんユキコもついてきてね!」

 私は昨日と同じく紺色メイド服を着ている。お嬢様ゆえ、デートの時もメイドが付き添って構わないらしい。どうやってビビらせてやろうかと、今からわくわくしてしまう人の悪い私であった。

「ハンスさんは何か言ってた?」

 参謀役の助言が気になり尋ねてみるが、セレナは無言で首を振る。

「……ハンスってば今朝からいないの。私のことが心配じゃないのかしら」

 膝を抱えて拗ねている。
 それなら私だって、と不満が口をついて出た。

「ディーンのやつ『婚約者が来るまでには戻る』とか言っておいて、全然帰ってこないし! 帰ってきたら一発殴らないと!」

 わざと笑いを交えて言って、胸の中に膨らむ不安は見ないふりをした。

(だって、考えたくない……)

 何かあったのかも、なんて不吉なこと。
 考えてしまったせいで、現実になったらどうすればいい?

 首を振り、暗い考えを追い払ったその時。

 ──コンコン。

 ノックの音がして、「失礼します」と扉がゆっくり開いた。
 空色の服を着た女性……確か、アイサとかいったか。ハーブティーに薬を入れていたメイドである。

「お嬢様、旦那様がお呼びです。書斎に来るように、と」

 アイサを見て顔を引きつらせるセレナ。薬については知らぬふりをするようにハンスさんから言われているので、問い詰めるわけにもいかない。

「すぐに行くわ。──ユキコ、あなたもついてきて頂戴」

 書斎に着くと、扉の前にはなぜか糸目成金が立っていた。

 戸惑うセレナをうながして中に入ったかと思うと、「君はいい」と言われ目前で扉を閉められた。

「──ちょっと!!」

 慌てて扉を開けようとするが、鍵をかけられたようでノブが回らない。扉に耳を付けても、中の会話を聞くことはできなかった。

 踵を返し、書斎から離れる。
 今すぐハンスさんを探さなくては。


 ◇


 バタバタと邸宅の中を走り回り、手当たり次第に扉を開けた。お金持ちの家は広すぎて、人を探すには厄介だ。心の中で舌打ちをする。
 使用人の皆さんがぎょっとしたように私を見るが、もちろん構ってはいられない。

「ハンスさんを見ませんでしたか!?」

 私の勢いに押されたように、太ったメイドさんが目を白黒させながらも答えてくれた。

「今朝から出掛けられているようで……まだ戻られていませんよ」

 ──ああもうっ。ディーンといい、男って肝心なところで役に立たないんだからっ!

 こうなったら街を探すしかないと、玄関の扉を開けようとすると。

「……ユキコさん? そんなに慌ててどうしたんです?」

 探し人が私を見て目を丸くした。
 傍らには見知らぬ初老の男がいる。顔色は悪く目線が定まっていない。えらく挙動不審だ。

「セレナがお父さんに呼ばれて! 私は糸目男に書斎から閉め出されちゃったんです!」

 一気にまくしたてた私の言葉に、みるみる顔色を変えるハンスさん。傍らの男の腕をつかむと、引きずるようにして書斎へ向かう。

「旦那様っ! ハンスです!」

 お話があります!と書斎の扉を激しくノックするが、中から返答はない。
 ハンスさんはしばし無言で扉を見つめ、数歩下がると勢いをつけて激しく扉を蹴った。


 ドゴォッ!!


「…………」

 主人の書斎のドアを、あんなに蹴ってしまって大丈夫なのか……?
 若干引きながら見ていると、扉が開いて中からセレナ父が出てきた。

「うるさいぞっ! 大切な話をしているのに、一体なんのつもりだ!?」

 怒りで真っ赤になっている。

 しかし、ハンスさんは動じない。
 扉を蹴るために一度放していた男の腕を再びつかむと、セレナ父を押しのけて強引に部屋の中に入った。私もちゃっかり後ろに続く。

「……ハンス! ユキコも!」

 ソファに座っていたセレナが、私たちを見てほっとしたように顔をほころばせた。

 窓の側に立っていた糸目成金が、無表情にこちらを見ると、冷たく言い放つ。

「使用人の分際で無礼な。今すぐ出ていって──……」

 突然言葉を失い、はっと瞠目する。見つめているのは……ハンスさんが連れてきた初老の男?

『…………』

 初老の男も顔を上げて糸目成金を見る。
 そしてひたすら見つめ合うふたり。

 えっ何これ。おっさん・ミーツ・おっさん?

「あれ……? クロスナー先生?」

 遅れて戻ってきたセレナ父が、男を見て不思議そうに首を傾げた。

「……旦那様。お嬢様の意思を無視して、結婚話を進めたのは何のためです?」

「えっ!? そ、それは……」

 唐突に尋ねたハンスさんに、言葉を詰まらせるセレナ父。
 困ったように、セレナと初老の男を見比べる。そして意を決したように話し出した。

「実は……わたしは、難しい病にかかっているらしくて……」

「──お父様が、病ですって!? 嘘でしょうっ!?」

 悲痛な声を上げるセレナ。
 ハンスさんが真剣な顔でうなずいた。

「そうですお嬢様。嘘です」

 …………はい?

「う、嘘じゃない。腹の中にたちの悪い腫瘍があるらしい。そのせいでずっと下痢も続いて」

「あ、それは単に下剤のせいです。一服盛られているところ、私この目で見ましたよ」

 反射的に飛び出した私の言葉に、セレナ父はぽかんとした。

「……ち、違う! わしじゃないっ!」

 突然、初老の男が叫び出す。

「わしは病なんて言ってない! ただ腹をじっくり触診して……悲痛な顔で首を横に振っただけだ!」

 ……そんなことしたら誰だって誤解するだろ……。

 やっと状況がつかめてきた。
 セレナも顔を険しくして立ち上がる。つかつかと糸目成金の側に行き、強い口調で言い放つ。

「お父様を騙して、ペールマン商会を乗っ取ろうとしてたのね!?」

「……乗っ取る? ひどい言いがかりだな」

 セレナの怒りなど歯牙にもかけないように無表情に言う。

「確かにわたしはそちらのクロスナー医師と親交がある。だが彼にそんな依頼をしたことはないし、もちろん君の父上に薬を盛った覚えなどない。──第一」

 一度言葉を切り、はっきりと侮蔑の目を向けた。

「ペールマン商会の先代は確かに素晴らしかった。だが二代目はどうだ? 落ち目の商会を乗っ取るために、そんな犯罪まがいな手間などかけると思うかね?」

 糸目成金の言葉に、セレナは唇を噛む。
 言い返す言葉を探すように、視線を泳がせていると──

「欲しかったのは『ペールマン』の名だろう? クラート商会の悪事がばれる前に、看板だけ掛けかえようとしたわけだ」

 驚いて振り返る。
 開きっぱなしだった書斎の入口から現れた男を見て。私は彼の名を呼んだ。

「──ディーンっ!?」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~

弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。 一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める―― 恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。 大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。 西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。 ※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。 この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

処理中です...