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第三章 女装薬師編
22.不協和音
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「こっ……怖い……!」
ディーンに抱き上げられ、ルカさんのロバに乗せてもらった。
思ったより視界が高くなり、怯えてしまう。
「大丈夫だよ。リンは穏やかなヤツだからさ」
手綱を引いて横を歩きつつ、ルカさんが笑って言う。
ロバはリンくんというらしい。恐る恐る「よろしくね」と声をかけると「ブゥホ~」と返事してくれた。初めて見たけど、ロバって意外と可愛い……。
再び街道を進み始めたが、ディーンはむっつりと黙り込んでいる。やっぱり、私の勘違いじゃなく機嫌が悪い。
(……原因は、わかってるけど……)
危険な街道を行く途中で、足を挫くなんてヘマをして。
黒花との戦闘だけでも大変だろうに、さらに私という足手まといまで抱えている。ディーンが怒るのも当然である。
ひどく情けない気持ちになり、自己嫌悪が止まらなくなった。
「ねえ、男前なおにーさん」
茶化すように声をかけたルカさんに、「ディーンだ」と振り返りもせず冷たく答える男。
「じゃあ、ディーン。君って駆除師だよね? なんで駆除師が女の子を連れてるの? どっかに売りとばすの?」
ルカさんよぉ……。
機嫌の悪い人に、なんでわざわざ喧嘩売るかな……?
ディーンは完全に無視して黙々と歩いているので、代わりに私が答えた。
「私が無理に頼んで一緒に旅してもらってるの! それと、女の子って歳じゃないから。もう二十歳よ」
ユキコっていいます! よろしく!
話を逸らすように畳みかけた。
「へえ、二十歳! 全然見えないね。ちなみに僕はユキコより三つ上だよ」
二十三歳かー。
相変わらずこちらを見もしないディーンを気にしながら、今度はルカさんのことを聞いてみる。
「ルカさんは薬師なんですよね?」
「ああ、うん。スーロウで薬屋をやってるんだ。一応父親の店なんだけど、行商だの新薬の開発だの、出掛けてばっかでいないことの方が多いんだよね。だから実質僕が店主のようなものかな」
「へえー」
若いのに凄いんだな。
なんちゃって薬師助手の私とは大違いである。って、またしても自己嫌悪が……。
「外せない用事があって、ラザロに数日滞在した帰りなんだ。成果はなかったけど……ディーンと知り合えたのは収穫だったなぁ」
言って、意味ありげにディーンを見やった。
どういうこと?と不審に思うが、前を歩く男は聞こえていないかのように進むだけ。やっぱり不機嫌が爆発している。
落ち込む私、一言も発しないディーン、鼻歌交じりのルカさんという、意味不明な道中となってしまった。
◇
「とうちゃ~く! ようこそスーロウへ!」
嬉しげに言うルカさん。ご丁寧にポーズ付きで振り返って出迎えてくれた。
日はすでにとっぷり暮れているが、あれから特にトラブルもなく街に着けたのでほっとした。
「本当にありがとうございました。リンくんもね」
ディーンに手を借りてロバのリンくんから降ろしてもらい、深々と頭を下げてお礼を言う。リンくんは「イ~ヨ~」と返事してくれた。やっぱり可愛い……!
「どういたしまして。でも、まだお別れじゃないよ? もう遅いし、うちの薬店に泊まっていって」
「結構だ」
ルカさんの親切な申し出を、にべもなく断るディーン。
懐からお金を出そうとするので、「私が出すから!」と慌ててさえぎる。さすがにこれ以上迷惑はかけられない。
「そんなこと言わないで。どうせ君たち宿には泊まれないから、うちに泊まるしかないんだってば」
「宿に泊まれないって……どうしてですか?」
何かイベントでもあって、宿が満室になっているのだろうか。
戸惑いつつ尋ねると、ルカさんはにっこり笑った。
「それはもちろん、ディーンは不吉な駆除師だって僕が言いふらすからだよ。僕はこの街では有名人だから、噂はあっという間に広まるだろうね」
ルカさんの答えに思わずフリーズする。
言葉の意味がわからず、胸の中をじわじわと戸惑いが広がった。
「──どういうつもりだ……?」
ゾクリとするほど低い声。
見上げると、ディーンが冷徹な目でルカさんを睨んでいる。こんな彼は見たことなくて、ごくりと唾を飲み込んだ。
「それはうちに来てくれてから。それとも、怪我してるユキコを連れて街の外で野宿する? それはちょっと可哀想なんじゃない?」
睨み合う男と女……じゃなく、男と男。
私はおろおろとふたりを見比べる。ルカさんの目的がわからない以上、安易に「じゃあお世話になります」とも言えない。
「よおっ、ルカ! ずいぶん遅かったんだなぁ!」
見るからに酔っ払った赤ら顔の男が、ふらふらとこちらにやって来た。ルカさんは鬱陶しそうに彼を見て、ぞんざいに返事をした。
「うるさいな。今、大事な話をしてるんだ。──ああ、そうだ」
言葉の途中でパッと顔を明るくする。
「紹介するよ。こちらの彼はね……」
ディーンを指差すルカさん。
やばい、と思い、考える間もなくさえぎってしまった。
「あっあの! ではお言葉に甘えますね、ルカさん!」
「……ユキ!!」
ディーンから鋭く叱責されて、思わず首をすくめる。
でも、駆除師と知られてディーンが差別されるのは嫌だ。ディーンが嫌な思いをするのは、私が嫌なのだ。
「ホントに!? 歓迎するよ、ユキコ!」
ふわりと肩を抱かれる。
「……で、君はどうするの」
にやりと笑ってディーンを見た。
さっきまで怒っていたディーンは、今や完全に無表情になっている。無言でルカさんの腕を払うと、私の肩に手を置いた。
ルカさんは嬉しそうに手を叩く。
「よかった、来てくれるんだ! それじゃあついてきてね!」
リンくんの手綱を引いて歩き出すルカさんの後ろをふたりでついていく。ちょっと……怖くて、ディーンの顔が見られない。
なんでこんなことに、と泣き出しそうな気持ちで星空を見上げた。
ディーンに抱き上げられ、ルカさんのロバに乗せてもらった。
思ったより視界が高くなり、怯えてしまう。
「大丈夫だよ。リンは穏やかなヤツだからさ」
手綱を引いて横を歩きつつ、ルカさんが笑って言う。
ロバはリンくんというらしい。恐る恐る「よろしくね」と声をかけると「ブゥホ~」と返事してくれた。初めて見たけど、ロバって意外と可愛い……。
再び街道を進み始めたが、ディーンはむっつりと黙り込んでいる。やっぱり、私の勘違いじゃなく機嫌が悪い。
(……原因は、わかってるけど……)
危険な街道を行く途中で、足を挫くなんてヘマをして。
黒花との戦闘だけでも大変だろうに、さらに私という足手まといまで抱えている。ディーンが怒るのも当然である。
ひどく情けない気持ちになり、自己嫌悪が止まらなくなった。
「ねえ、男前なおにーさん」
茶化すように声をかけたルカさんに、「ディーンだ」と振り返りもせず冷たく答える男。
「じゃあ、ディーン。君って駆除師だよね? なんで駆除師が女の子を連れてるの? どっかに売りとばすの?」
ルカさんよぉ……。
機嫌の悪い人に、なんでわざわざ喧嘩売るかな……?
ディーンは完全に無視して黙々と歩いているので、代わりに私が答えた。
「私が無理に頼んで一緒に旅してもらってるの! それと、女の子って歳じゃないから。もう二十歳よ」
ユキコっていいます! よろしく!
話を逸らすように畳みかけた。
「へえ、二十歳! 全然見えないね。ちなみに僕はユキコより三つ上だよ」
二十三歳かー。
相変わらずこちらを見もしないディーンを気にしながら、今度はルカさんのことを聞いてみる。
「ルカさんは薬師なんですよね?」
「ああ、うん。スーロウで薬屋をやってるんだ。一応父親の店なんだけど、行商だの新薬の開発だの、出掛けてばっかでいないことの方が多いんだよね。だから実質僕が店主のようなものかな」
「へえー」
若いのに凄いんだな。
なんちゃって薬師助手の私とは大違いである。って、またしても自己嫌悪が……。
「外せない用事があって、ラザロに数日滞在した帰りなんだ。成果はなかったけど……ディーンと知り合えたのは収穫だったなぁ」
言って、意味ありげにディーンを見やった。
どういうこと?と不審に思うが、前を歩く男は聞こえていないかのように進むだけ。やっぱり不機嫌が爆発している。
落ち込む私、一言も発しないディーン、鼻歌交じりのルカさんという、意味不明な道中となってしまった。
◇
「とうちゃ~く! ようこそスーロウへ!」
嬉しげに言うルカさん。ご丁寧にポーズ付きで振り返って出迎えてくれた。
日はすでにとっぷり暮れているが、あれから特にトラブルもなく街に着けたのでほっとした。
「本当にありがとうございました。リンくんもね」
ディーンに手を借りてロバのリンくんから降ろしてもらい、深々と頭を下げてお礼を言う。リンくんは「イ~ヨ~」と返事してくれた。やっぱり可愛い……!
「どういたしまして。でも、まだお別れじゃないよ? もう遅いし、うちの薬店に泊まっていって」
「結構だ」
ルカさんの親切な申し出を、にべもなく断るディーン。
懐からお金を出そうとするので、「私が出すから!」と慌ててさえぎる。さすがにこれ以上迷惑はかけられない。
「そんなこと言わないで。どうせ君たち宿には泊まれないから、うちに泊まるしかないんだってば」
「宿に泊まれないって……どうしてですか?」
何かイベントでもあって、宿が満室になっているのだろうか。
戸惑いつつ尋ねると、ルカさんはにっこり笑った。
「それはもちろん、ディーンは不吉な駆除師だって僕が言いふらすからだよ。僕はこの街では有名人だから、噂はあっという間に広まるだろうね」
ルカさんの答えに思わずフリーズする。
言葉の意味がわからず、胸の中をじわじわと戸惑いが広がった。
「──どういうつもりだ……?」
ゾクリとするほど低い声。
見上げると、ディーンが冷徹な目でルカさんを睨んでいる。こんな彼は見たことなくて、ごくりと唾を飲み込んだ。
「それはうちに来てくれてから。それとも、怪我してるユキコを連れて街の外で野宿する? それはちょっと可哀想なんじゃない?」
睨み合う男と女……じゃなく、男と男。
私はおろおろとふたりを見比べる。ルカさんの目的がわからない以上、安易に「じゃあお世話になります」とも言えない。
「よおっ、ルカ! ずいぶん遅かったんだなぁ!」
見るからに酔っ払った赤ら顔の男が、ふらふらとこちらにやって来た。ルカさんは鬱陶しそうに彼を見て、ぞんざいに返事をした。
「うるさいな。今、大事な話をしてるんだ。──ああ、そうだ」
言葉の途中でパッと顔を明るくする。
「紹介するよ。こちらの彼はね……」
ディーンを指差すルカさん。
やばい、と思い、考える間もなくさえぎってしまった。
「あっあの! ではお言葉に甘えますね、ルカさん!」
「……ユキ!!」
ディーンから鋭く叱責されて、思わず首をすくめる。
でも、駆除師と知られてディーンが差別されるのは嫌だ。ディーンが嫌な思いをするのは、私が嫌なのだ。
「ホントに!? 歓迎するよ、ユキコ!」
ふわりと肩を抱かれる。
「……で、君はどうするの」
にやりと笑ってディーンを見た。
さっきまで怒っていたディーンは、今や完全に無表情になっている。無言でルカさんの腕を払うと、私の肩に手を置いた。
ルカさんは嬉しそうに手を叩く。
「よかった、来てくれるんだ! それじゃあついてきてね!」
リンくんの手綱を引いて歩き出すルカさんの後ろをふたりでついていく。ちょっと……怖くて、ディーンの顔が見られない。
なんでこんなことに、と泣き出しそうな気持ちで星空を見上げた。
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