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第三章 女装薬師編
24.依頼と真意
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「スーロウの西口から出て少し進むと、小さな山があるんだ。僕らは単に『裏山』って呼んでるんだけどね」
椅子に座って長い足を組み、お茶を飲みながらルカさんが話し出す。その姿だけを見ると、やはり美女にしか見えない。
「僕は昔からよく裏山に行ってるんだけど、街からそんなに離れてないし、今まで危険を感じたことなんか無かった。──でも、最近見つけてしまって」
「……黒花、を?」
恐る恐る聞いてみた。
ルカさんは沈痛な面持ちでうなずく。そして、射るような目でディーンを見つめた。
「先に言っておくけど、裏山に行かないって選択肢は無い。あそこでしか採れない貴重な薬草があるんだ。過去にうちの薬草畑で栽培しようと試みたこともあるけど、どう頑張っても根付かなかった。……だから、僕は絶対に行かなきゃならない」
貴重な薬草……。
確かに、その薬草を必要とする患者さんがいるならば、薬師としてあきらめることなどできないだろう。
緊張しながら、ふたりの男を見比べる。
「──断る」
一刀両断に切り捨てるディーン。
「……へぇ? 理由を聞いても構わないかな、腰抜けの駆除師さん?」
ルカさんは茶化すように聞くが、その声には抑えきれない怒りがにじみ出ていた。
「山や森のような視界の悪い場所は、駆除師にとっても分が悪い。思うように剣を振るうこともできないからな」
「そう……残念だよ。それじゃあ悪いけど、今すぐ出て行ってくれる?」
淡々と答えたディーンに、ルカさんが今度は怒りを隠そうともせず告げた。
ディーンは特に堪えた様子もなく、私の肩を叩くと立ち上がる。
「行くぞ。今晩の宿くらいなんとかなる」
「なに言ってるの? 出て行くのは君だけだよ。怪我が治るまでユキコの面倒は僕が見るから、数日経ったら引き取りに来るといい」
はあ!?
ぎょっとして私はルカさんを見つめた。
そしてなんだか……私の横から殺気が立ち昇っている、ような……?
恐る恐る、隣に立つ男を見上げる。
「ユキを人質にとるような真似はやめろ」
「人聞きの悪い。薬師として、怪我人を放っておくことはできないって話だよ」
「ちょっと、ふたりとも! いったん冷静になろうよ!?」
殺伐とした雰囲気にこれ以上耐えられず、慌てて割って入った。
ディーンの腕をつかみ見上げると、鋭い目で見下ろされた。怖っ!
「こいつは信用できない。脅して言うことを聞かせようとするのも気に食わんが──」
言葉を止め、ルカさんを睨みつける。
「なにより情報を小出しにしている。必要な情報を隠して巻き込んでも、駆除師相手なら構わんとでも思ったか?」
「……っ!」
息を呑むルカさん。
ディーンの言葉の意味がわからなかった。私ひとりだけが話に付いていけてない。
ルカさんは深々とため息をつくと、自分の髪の毛をぐしゃぐしゃと掻きむしった。
「──ああ、もうっ! どこでわかったの?」
「最初からだ。スーロウは大きな街だから、街の外にまで聖輝石の加護が及ばないのかもしれない。……だが、今までは何もなかったんだろう? ならば考えられることはひとつだけだ」
ディーンの言葉に、私も必死に考え込む。
(……ええと、確か……)
私の住んでいたトールの街は小さいので、街からそう離れなければ危険じゃなかった。ただし、街道にはなるべく近付かない方がいい。効率的に人を食べるため、街道には黒花が多いから。
つまり、黒花が出現するということは──……
「……裏山に、人が増えた……?」
絞り出した私の答えに、ディーンはうなずいた。
「しかも、ただの人じゃないだろうな。可能性があるとするなら……目当ては、その貴重な薬草とやらか?」
むすっとしながらルカさんは首肯した。
「薬草の名前はニフェル。燃やしてその煙を吸えば、ものすごい多幸感が得られる……らしい。うちの父親は若いころ王都で勉強してて……その時に、ニフェルの存在を知ったんだ。スーロウの裏山でニフェルを発見したのも父だよ」
ものすごい多幸感……。それってもしや……。
「麻薬!?」
私の言葉を聞いて、ルカさんはきょとんとした。
「マヤクって……なに?」
あ、そっか。日本語で言ったって伝わるはずがない。
かといって、こちらの世界で麻薬をなんて呼ぶのか知らないし。
「ええと、麻薬っていうのは……身体に悪いんだけど依存性があってやめられない、恐ろしいもの、みたいな……」
いかん、うろ覚えすぎる……。
日本にいたころ薬物乱用防止のための授業があったから、なんとなく覚えている程度なのだ。
だが、ルカさんはうんうんとうなずいた。
「ニフェルはまさにそれ。そっかあ、マヤクっていうんだ。ユキコは物知りなんだね?」
「い、いや。そういうわけじゃ……」
引きつった笑いを返す。
断じて褒められるようなものじゃないんです……。
「──だが、なんでそんな危険な薬草をわざわざ採りに行く? お前は何に使うつもりなんだ」
それまで黙っていたディーンが、ルカさんに鋭く問いかけた。
確かに、私もそれは気になる。
「ニフェルは確かに危険で、いわば毒のようなものだよ。でもね、同時に強力な薬でもあるんだ」
まっすぐに私たちを見つめ、迷いなく言い切った。
「不治の病で苦しむ人たちを治すことはできないけど、少なくとも痛みから救うことができる。ニフェルからは、優れた鎮痛薬が作れるんだよ」
そうなのか……。私は目を瞬いた。
「最初に異変を感じたのは、もう一年前になるかな。裏山で僕が育ててるニフェルの一部に刈り取られた跡があった。根本から引っこ抜かれてるものも。僕とは違う場所で、誰かがニフェルを栽培し始めたのかも、と思ったけど調べようがなくて」
そうこうしているうちに、裏山に黒花が出現したという。半月ほど前のことだそうだ。
「僕は裏山で人と会ったことはないし……。軍に相談しようかとも思ったけど、相手が何者かもわからないから」
「……黒花が出現するほどの人数が動いているわけだからな。組織的な行動の可能性もある」
ディーンの言葉に、ルカさんは得たりとばかりにうなずいた。
「そう! 犯人がスーロウにいるのは間違いないと思う。万が一そいつらが軍と繋がってたら、と思うと疑心暗鬼になっちゃって……」
だから、旅の駆除師なら安心だと思ったんだ。
ルカさんの言葉に、私とディーンは顔を見合わせた。
「ええと、つまりルカさんがディーンに頼みたいのは……」
「裏山での調査の護衛だよ。もしニフェルを毒として使っているのなら、看過することはできない」
ディーンは渋い顔をしていたが、ややあって仕方なさそうにうなずいた。
「……ユキの足が治るまでだ。それまでなら、付き合ってやらないこともない」
ルカさんはパッと顔を輝かせると、手を叩いて喜んだ。
「ありがとう! もちろん滞在費なんていらないから!」
そして私を見ると、嬉しそうに続けた。
「スーロウは大きな街だから、すごく楽しいと思うよ。なんなら明日から歩き回って観光してくるといい!」
『悪化させようとするなぁ!!』
ディーンと私の怒声が見事にハモった。
「薬師として怪我人を放っておけない」んじゃなかったんかい!
椅子に座って長い足を組み、お茶を飲みながらルカさんが話し出す。その姿だけを見ると、やはり美女にしか見えない。
「僕は昔からよく裏山に行ってるんだけど、街からそんなに離れてないし、今まで危険を感じたことなんか無かった。──でも、最近見つけてしまって」
「……黒花、を?」
恐る恐る聞いてみた。
ルカさんは沈痛な面持ちでうなずく。そして、射るような目でディーンを見つめた。
「先に言っておくけど、裏山に行かないって選択肢は無い。あそこでしか採れない貴重な薬草があるんだ。過去にうちの薬草畑で栽培しようと試みたこともあるけど、どう頑張っても根付かなかった。……だから、僕は絶対に行かなきゃならない」
貴重な薬草……。
確かに、その薬草を必要とする患者さんがいるならば、薬師としてあきらめることなどできないだろう。
緊張しながら、ふたりの男を見比べる。
「──断る」
一刀両断に切り捨てるディーン。
「……へぇ? 理由を聞いても構わないかな、腰抜けの駆除師さん?」
ルカさんは茶化すように聞くが、その声には抑えきれない怒りがにじみ出ていた。
「山や森のような視界の悪い場所は、駆除師にとっても分が悪い。思うように剣を振るうこともできないからな」
「そう……残念だよ。それじゃあ悪いけど、今すぐ出て行ってくれる?」
淡々と答えたディーンに、ルカさんが今度は怒りを隠そうともせず告げた。
ディーンは特に堪えた様子もなく、私の肩を叩くと立ち上がる。
「行くぞ。今晩の宿くらいなんとかなる」
「なに言ってるの? 出て行くのは君だけだよ。怪我が治るまでユキコの面倒は僕が見るから、数日経ったら引き取りに来るといい」
はあ!?
ぎょっとして私はルカさんを見つめた。
そしてなんだか……私の横から殺気が立ち昇っている、ような……?
恐る恐る、隣に立つ男を見上げる。
「ユキを人質にとるような真似はやめろ」
「人聞きの悪い。薬師として、怪我人を放っておくことはできないって話だよ」
「ちょっと、ふたりとも! いったん冷静になろうよ!?」
殺伐とした雰囲気にこれ以上耐えられず、慌てて割って入った。
ディーンの腕をつかみ見上げると、鋭い目で見下ろされた。怖っ!
「こいつは信用できない。脅して言うことを聞かせようとするのも気に食わんが──」
言葉を止め、ルカさんを睨みつける。
「なにより情報を小出しにしている。必要な情報を隠して巻き込んでも、駆除師相手なら構わんとでも思ったか?」
「……っ!」
息を呑むルカさん。
ディーンの言葉の意味がわからなかった。私ひとりだけが話に付いていけてない。
ルカさんは深々とため息をつくと、自分の髪の毛をぐしゃぐしゃと掻きむしった。
「──ああ、もうっ! どこでわかったの?」
「最初からだ。スーロウは大きな街だから、街の外にまで聖輝石の加護が及ばないのかもしれない。……だが、今までは何もなかったんだろう? ならば考えられることはひとつだけだ」
ディーンの言葉に、私も必死に考え込む。
(……ええと、確か……)
私の住んでいたトールの街は小さいので、街からそう離れなければ危険じゃなかった。ただし、街道にはなるべく近付かない方がいい。効率的に人を食べるため、街道には黒花が多いから。
つまり、黒花が出現するということは──……
「……裏山に、人が増えた……?」
絞り出した私の答えに、ディーンはうなずいた。
「しかも、ただの人じゃないだろうな。可能性があるとするなら……目当ては、その貴重な薬草とやらか?」
むすっとしながらルカさんは首肯した。
「薬草の名前はニフェル。燃やしてその煙を吸えば、ものすごい多幸感が得られる……らしい。うちの父親は若いころ王都で勉強してて……その時に、ニフェルの存在を知ったんだ。スーロウの裏山でニフェルを発見したのも父だよ」
ものすごい多幸感……。それってもしや……。
「麻薬!?」
私の言葉を聞いて、ルカさんはきょとんとした。
「マヤクって……なに?」
あ、そっか。日本語で言ったって伝わるはずがない。
かといって、こちらの世界で麻薬をなんて呼ぶのか知らないし。
「ええと、麻薬っていうのは……身体に悪いんだけど依存性があってやめられない、恐ろしいもの、みたいな……」
いかん、うろ覚えすぎる……。
日本にいたころ薬物乱用防止のための授業があったから、なんとなく覚えている程度なのだ。
だが、ルカさんはうんうんとうなずいた。
「ニフェルはまさにそれ。そっかあ、マヤクっていうんだ。ユキコは物知りなんだね?」
「い、いや。そういうわけじゃ……」
引きつった笑いを返す。
断じて褒められるようなものじゃないんです……。
「──だが、なんでそんな危険な薬草をわざわざ採りに行く? お前は何に使うつもりなんだ」
それまで黙っていたディーンが、ルカさんに鋭く問いかけた。
確かに、私もそれは気になる。
「ニフェルは確かに危険で、いわば毒のようなものだよ。でもね、同時に強力な薬でもあるんだ」
まっすぐに私たちを見つめ、迷いなく言い切った。
「不治の病で苦しむ人たちを治すことはできないけど、少なくとも痛みから救うことができる。ニフェルからは、優れた鎮痛薬が作れるんだよ」
そうなのか……。私は目を瞬いた。
「最初に異変を感じたのは、もう一年前になるかな。裏山で僕が育ててるニフェルの一部に刈り取られた跡があった。根本から引っこ抜かれてるものも。僕とは違う場所で、誰かがニフェルを栽培し始めたのかも、と思ったけど調べようがなくて」
そうこうしているうちに、裏山に黒花が出現したという。半月ほど前のことだそうだ。
「僕は裏山で人と会ったことはないし……。軍に相談しようかとも思ったけど、相手が何者かもわからないから」
「……黒花が出現するほどの人数が動いているわけだからな。組織的な行動の可能性もある」
ディーンの言葉に、ルカさんは得たりとばかりにうなずいた。
「そう! 犯人がスーロウにいるのは間違いないと思う。万が一そいつらが軍と繋がってたら、と思うと疑心暗鬼になっちゃって……」
だから、旅の駆除師なら安心だと思ったんだ。
ルカさんの言葉に、私とディーンは顔を見合わせた。
「ええと、つまりルカさんがディーンに頼みたいのは……」
「裏山での調査の護衛だよ。もしニフェルを毒として使っているのなら、看過することはできない」
ディーンは渋い顔をしていたが、ややあって仕方なさそうにうなずいた。
「……ユキの足が治るまでだ。それまでなら、付き合ってやらないこともない」
ルカさんはパッと顔を輝かせると、手を叩いて喜んだ。
「ありがとう! もちろん滞在費なんていらないから!」
そして私を見ると、嬉しそうに続けた。
「スーロウは大きな街だから、すごく楽しいと思うよ。なんなら明日から歩き回って観光してくるといい!」
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