【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆

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第三章 女装薬師編

29.すれ違い

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 カーテンを開けると、眩しく差し込む朝日が目を射った。
 ……灰になりそうだ。

 昨夜は結局、あれから一睡もできず。
 ルカさんの言葉は本気だったのか、ディーンに聞かれてしまったんじゃないか、ぐるぐる考え込んで一晩中もだえていた。

(……聞かれてたとしたら、どうしよう……)

 この街に残ればいいじゃないか、なんて軽く言われたりして。
 お荷物の私がいなくなれば、ディーンの旅は格段に楽になる。口に出さなくたって、彼自身そう思っているに違いない。

 だけど、私は……。
 虹糸の腕輪を着けた、手首をじっと見つめる。

 胸の奥が、鋭く痛んだ。

「……おはよう」

 いつまでも部屋にいるわけにいかず、仕方なく一階に下りる。
 テーブルについていたディーンとルカさんが、ぱっとこちらを見た。

「おはよ、ユキコ!」

「おはよう。……顔色が悪いぞ」

 ふたりとも普段通りで、なんだか拍子抜けしてしまった。
 昨夜のことは夢だったのかも、と思えてくる。ほっと安堵した。

 朝食を済ませると、ルカさんが改まったように私を見る。

「昨夜、あれからディーンと話し合ったんだけど。ダンの家の薬店は、僕が調べることにしたよ。店主はダンのお父さんだから、僕なら怪しまれずに調べられると思うから。施療院の方はディーンにお願いすることになったんだ」

 ディーンは軽くうなずくと、あとを引き受けた。

「俺は午前中は裏山を捜索してくるから、施療院を調べるのは昼からだ。……お前の治療という名目で行くから、悪いが付き合ってくれ」

 ……やっぱり夢ではなかったっぽい。
 でも、ふたりとも何事もなかったかのように振る舞ってくれている。それは私にとっても有り難かった。
 ふたりの言葉に、ただ静かにうなずいた。

 裏山に出掛けるディーンを見送ると、眠気が襲ってきてあくびを噛み殺した。

「ユキコ、眠い? 昼まで寝てていいよ」

 気遣わしげに言ってくれたルカさんに笑いかける。

「ありがとう、そうさせてもらおうかな。調剤の手伝いはしなくて大丈夫?」

「もちろん! ゆっくり休んでて」

 ルカさんは笑顔で答えると、「それと」と言って正面から私を見つめた。
 その真剣な顔にどきりとする。

「昨夜のことなんだけど。この件が解決するまで、僕からはもう持ち出さないことにするね。でも、君に言ったことは本気だから」

 考えてくれると嬉しい、と言ってルカさんは綺麗に微笑んだ。
 その言葉に驚き、顔が赤くなる。なんとかルカさんから視線を引き剥がし、「お休みなさい」とだけ告げ逃げるように部屋に戻った。


 ◇


「……ふぁ……」

 ひと眠りすると、だいぶ気分が良くなった。

 ディーンはもう帰っただろうか、とぼんやり膝を抱え込む。
 ルカさんの気持ちは嬉しい……と、思う。だけど、どうするべきなのかわからない。心の中はぐちゃぐちゃで、まともに考えられる気もしない。

(……なら、とりあえず……)

 ニフェルの件を、解決させたい。
 私にできることなんてたかが知れてるだろうけど、最善を尽くそうと心に誓った。

 よし、と気合いを入れて立ち上がる。
 勢いよくドアを開けると、ちょうど部屋の前にディーンがいた。驚いたように私を見る。

「あっ、お帰り……」

「ああ、ただいま……」

「…………」

 沈黙が満ちる。
 気まずっ!

「……昼を食べたら、すぐ施療院に向かうぞ」

 ディーンの言葉に、コクコクうなずく。
 ふたりで一階の台所に下りた。

 昼食は和やかな雰囲気だった。宣言通りルカさんは昨夜の件などおくびにも出さないし、ディーンも特に機嫌の悪い様子はない。
 昼食を終えて少し休憩してから、ロバのリンくんに乗せてもらうため、ディーンとふたりで馬屋に行く。

「リンくん、またよろしくね」

 リンくんの背にまたがりお願いすると、私を振り向いて「フホッ!」と返事してくれた。癒やされるわ~。
 松葉杖を持ったディーンに手綱を引いてもらい、ゆっくりと施療院に向かう。

「…………」

「…………」

 沈黙が……沈黙が、重すぎる……!
 だが大丈夫。困ったときには……鉄板の、この話題がある!

「今日はとってもいい天気……」
「昨日の話だが」

 かぶったぁ!
 渾身の一撃がはずれ、私は頭を抱え込む。
 ディーンはあきれたように、空と私を見比べた。

「……曇ってるぞ?」

 そうですね!
 朝は晴れてたんですけどね!?

 言い訳の言葉を飲み込むと、ディーンに話の先をうながした。

「昨日の……ルカの、姉の話だ」

 ディーンは前を向いたまま、淡々と言葉を紡ぐ。

 そこからもう聞いてたんだ……。
 なら、最後のルカさんの言葉も確実に聞かれている。ずきりと胸が痛んだ。

「あの格好は……ルカにとっての、なんだろうな」

「……喪?」

 それって……『喪に服す』の喪?
 首を傾げる私に、ディーンはふっと笑った。

はたから見たら理解されなくても、そいつなりの思いとやり方で、大切な人の死を悼んでる。悲しみを乗り越えるためだったり、自分なりのけじめをつけるためだったり、理由はいろいろあるんだろうがな。──お前だって、そうだろう?」

「え……?」

 意味がわからず、ただディーンを見る。

「旅に出ると決めたのが、お前にとっての喪なんだと……俺は、そう思う。旅の先で……自分の居場所を見つけることができたなら。その時、お前の喪は明けるんだろうな」

 一度足を止めると、穏やかな目で私を見つめる。
 ふわりと優しく微笑んだ。

「だから、ユキ。お前はお前のいるべき場所をちゃんと探すんだ。幸せになれる場所があるなら、迷わずそこを選べばいい。──亡き店主殿も、きっとそれを望んでる」

 私から目を逸らすと、ディーンは再び歩き出した。

 私は、ただリンくんにつかまってぎゅっと目を閉じる。
 ディーンに言われた、言葉の意味を考える。わかりたくもない結論に辿り着いて、ただ唇を噛みしめた。

 ディーンの言った通り、旅に出たのは自分の居場所を見つけるため。居場所を見つけようと思ったのは、ダガルさんの思いに報いるため。ダガルさんは、私の幸せを願ってくれていたと思うから……。

 いずれ、私はこの旅を終わらせなくてはならない。

 それでも──

(そんな言葉……聞きたくなかった……)

 他の誰でもなく。
 ディーンの口からは、聞きたくなかったのだ。
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