【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆

文字の大きさ
71 / 97
終章 浄化の聖女編

71.全部含めて

しおりを挟む
 翌朝。

 昨夜は夕飯を済ませたら早めに休んだので、だいぶ疲れが取れた気がする。
 ここは高い部類の宿屋らしく、朝食もなかなか豪華だった。軍の経費でありがたいことである。

「あたしとルーク、今日は本部に詰めるから。ユッキーたちは観光でもして、お昼過ぎにでも顔を出してくれる?」

 食後のお茶を飲みながらマイカちゃんが言った。

 観光、という言葉にピンと反応する。
 せっかくの王都だというのに、まだ軍本部にしか行っていない。期待を込めて、隣に座るディーンを見上げた。

「……観光より、ディーンはユキコちゃんを実家に連れて行った方が良くないか? 親父さんは仕事で居ないかもしれないけど、せめて家の人に伝言だけでも」

 恐る恐る、といった風にルークさんがディーンの顔色を窺う。
 私は驚いて目を瞬かせた。ディーンの実家は王都にあるのか。

「必要ない。あそことはもう縁が切れている」

 さも不快そうに返され、ルークさんは首をすくめた。それでもあきめきれないように口を開く。

「でも、どうせグレイ少将から伝わるだろ。お前が帰って来てるって」

「帰ったわけじゃない。用が済むまで滞在しているだけだ」

 かたくなな台詞に、ルークさんがあきれたように天を仰いだ。……なんか、すごく意固地になってる?

 口を挟むべきかと迷っていると、マイカちゃんがぺんとルークさんの頭をはたいた。

「拗ね男は放っておいて、早く出勤するわよ」

 ディーンがピクリと反応したが、マイカちゃんは一顧だにせず立ち上がる。ルークさんも仕方なさそうに後に続いた。

「…………」

 むっつりと黙り込む男を、困り果てて窺う。

 あれから喧嘩は有耶無耶になったままだ。久しぶりに二人きりで過ごせるなら、きちんと仲直りがしたい。
 ついついと袖を引っ張ると、ディーンはやっとこちらを見た。

「……腕輪でも探しに行くか。今度は切れないものを」

「うん、行く!!」

 食い気味に返事をして、急いで立ち上がる。
 嬉しさに顔がにやけてきた。


 ◇


「すっごい、人……」

 大通りの賑やかさに圧倒され、立ち尽くした。

 石畳で舗装された道はかなり広いが、人が多い上、馬車も盛んに行き交っている。
 歩くだけで通行人にぶつかってしまいそうで、自分がかなりの田舎者になった気がした。……いや、田舎者ですけども。

「ユキ、道を渡る時は馬車に注意してくれ。……ほら」

 手を差し伸べられ、おとなしく握り返す。
 特に急ぐわけでもないので、店をひやかしながらのんびりと歩いた。楽しくなってきて、繋いだ手をぶんぶん振って歩く。

「広場に行ってみるか。毎日いろんな露店が出てるから面白いぞ」

 誘われるまま広場へと向かった。

 屋台のような骨組みのしっかりした店から、地面に布を敷いて商品を並べているだけの簡易的な店もある。食べ物の匂いもしてきて、お腹がぐうと鳴った。

「うーん、おかしいな。朝ごはん食べたばっかりなのに」

「監禁のせいで痩せたから、身体が取り返そうとしてるんだろう。しばらくは余分に貯め込むようになるから、以前より太るはずだ」

 真顔で言われ蹴りを入れる。
 ……そういう失言のせいで、カラスにスカウトされなかったんだぞ?

 アクセサリーを売っている露店はいくつもあったが、なかなか気に入るものがない。
 今度は金属の腕輪が欲しいのだが、どれも私には太すぎる。

「……これ、もっと細身のはないんですか?」

 ゴツいチェーンの腕輪を持ち上げて尋ねると、露天商は首を傾げた。

「太い方が人気なんだけどねぇ。細いの、細いの……。ちょっと待ってね」

 後ろの荷物をごそごそと漁っている。
 シンプル好きな私は、この世界では少数派らしい。

「……あった! これなんてどうだい? お嬢さんは華奢だから、確かに細身の方が似合うかもしれないねぇ」

 銀の細身なチェーンに、青みがかった小さな石が付いている。試着してみるとしっくりきて、いっぺんで気に入ってしまった。

 でも、この石が宝石なら高価たかいかもしれない。

「あのう、この石って……」

「ああ、それは単なる河原で拾った綺麗な石だよ」

 ぃよっし!

 このまま外さないつもりで、満面の笑みで男を見上げる。

「ディーン! 私、これが欲しい!」

「……いや。さすがに安すぎないか? もっと他の──」

「これが気に入ったの!」

 重ねてねだると、男も仕方なさそうに頷いた。
 高価なアクセサリーには興味がないし、多分そういうものはもっと派手だろう。自分に似合うとは思えない。

 目的のものを手に入れてご機嫌になり、屋台から果物のジュースを買って噴水の縁に座る。
 ふと思い出して、噴水を振り返った。

「噴水の真ん中にある、廟の中に聖輝石があるんだったっけ?」

「と、言われてる。……まあ、ないだろうな。軍の警備部にいた時だって、噴水を集中的に見回れなんて指示された事はなかったし」

 苦笑する男を驚いて見つめる。
 軍にいた頃の事は、話してくれないと思っていたのに。ディーンは目をみはる私に気付いたのか、ぎこちなく微笑んだ。

「……軍を辞めたのは、妹が死んだ後のことだ。大金が必要になって……。駆除師なら、手っ取り早く稼げるからな」

「それって……罰金を払うため?」

 問いかけがぽろりと口から出て、男は目を見開いた。

「……知っていたのか?」

「ううん。エイダさんに習うまでは、そんな法律があるって知らなかったんだけど……」

 筋道立てて考えたわけじゃない。
 それでも、漠然と予想はしていた。

「事故で亡くなった妹さんを、病死で届け出るなんてディーンはやらないだろうなって思ったの。ご両親が罰金を払うなら、知らん顔はしないだろうとも思ったし」

「……そうか」

 男が痛そうな顔をする。
 なんだか私まで悲しくなって、男の手に自分の手を重ねた。

「……父親は、病死と届け出ようとした。だが、俺が断固拒否したんだ。罰金は俺が全額払うからと」

 私の方は見ずに、淡々と言葉を紡ぐ。

「妹の死を、こちらの都合で糊塗することがどうしてもできなかった。父親からは勘当だと見切られて、俺もそれを受け入れた。……まあ喧嘩別れだな、格好悪いことに」

「そんなこと……!」

「……駆除師になって三年経つが、罰金は残り四分の一といったところか。……黙っていて悪かった。お前に知られるのは……バツが悪いというか、みっともないというか……」

 言いにくそうにする男の手をぎゅっと握る。
 左手首の新しい腕輪に視線を落とし、申し訳ない気持ちになった。

「……ごめんね。お金が必要なのに、余計な買い物させちゃった」

 男は驚いたように私を見る。
 手の位置を入れ替えて、そっと私の手に指を絡めた。

「余計じゃない。──ルカが、言っていただろう? 今まで前に進むことを拒んでいたが、これからは自分の人生を生きたいと。……俺も、同じだ」

「ディーン……」

「あともう少しだけ、待っていてほしい。必ず果たすから……そうしたら、お前と」

 まっすぐに見つめられ、顔が赤くなる。
 恥ずかしさに目を逸らしそうになるが、なんとか耐えてコクコクと何度も頷いた。

「うん、いくらでも待ちます。──それに!」

 照れ隠しに立ち上がり、座ったままの男の正面に回る。

「みっともないとか言ってたけど、別にいいよ。強いところも優しいところも、馬鹿正直なところも失言が多いところも!……全部、含めてディーンでしょ?」

「……ユキ」

 男が嬉しそうに顔をほころばせた。
 少し間を置き、しみじみと頷く。

「そうか。たまに盗み聞きするところも含めて……」

「それは言ってない! そこだけは話が別だからっ!!」

 盛大に突っ込んだ。

 やっぱり自覚あったんじゃん!
 盗み聞きだけは、今後も絶対許さんからな!?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~

弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。 一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める―― 恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。 大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。 西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。 ※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。 この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

処理中です...