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終章 浄化の聖女編
87.未来の不安
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絶望に打ちひしがれたモテ自慢は、再び灰となった。ソファに座って完全に下を向いてしまったため、その表情は窺えない。
「実は、ジョンにも護衛を付けることになったんだ。ユキの護衛と分けて、二・二に分かれるぞ」
ミランダさんとは対照的に、機嫌の戻ったディーンが言う。必死の説得の結果、軍服にときめいただけだと納得してくれたのだ。
ちなみにディーンはまだ私服のままだ。さすがに軍服までは間に合わなかったらしい。
「それじゃ班分けしないとね。もちろんあたしはユッキーよ。そういう名分で護衛に加えてもらったんだし」
「なら、オレがジョンさんだな」
マイカちゃんとルークさんが、息ぴったりに頷き合う。
ルークさんは機敏に立ち上がると、うつむくミランダさんに苦笑しながら声を掛けた。
「そういう事だから、オレたちはジョンさんの所へ移動しよう」
「──断る」
きっぱりと言い放ち、ミランダさんは顔を上げた。その目は血走っている。
「私はユキコの護衛から下りる気は無い。女三人、男三人。その班分けの方が、わかりやすくていいじゃないか」
ミランダさんの言葉に、ディーンが盛大に眉をひそめた。むっつりとミランダさんに向かい合う。
「……あのな。男と間違えた事は謝罪する。本当に申し訳なかったから、あんたはジョンの方へ──」
「だから断ると言っている。そもそも、ジョンさんを連れてきたのは君だろう? しかもユキコの身代わりとして、だ。君自身が護衛するのが筋じゃないか?」
……確かに。
さすがのディーンも言葉に詰まった。
ぐうの音も出ないとは、まさにこの事である。
「ユキコ。この事を踏まえて、今すぐ君が選んでくれ。──男を取るのか、友人を取るのか」
「…………」
その二択エグすぎん?
「ええと……じゃあ、ミランダさんで……」
「ユキ!?」
目を泳がせながら答えた私に、ディーンが激しく噛みついてくる。
いや、だってさぁ!
ミランダさんの言う事は正論だし、ここでディーンを選んで友情にヒビが入るのも嫌である。高笑いが趣味の変人とはいえ、せっかく仲良くなれたのに。
ミランダさんは嬉しそうに立ち上がった。
「安心したよ、ユキコ。男を見る目は絶望的だが、君には友情を大切にする良識がある」
私、絶望的なんすか!?
ショックを受けている私の横で、ディーンが怒りのうなり声を発する。ミランダさんを冷ややかに睨みつけた。
「だから、俺への意趣返しにユキを使うなと言っているだろう」
「理由はそれだけじゃないさ。どうせ守るならば、むくつけき男より可愛い女の子がいいに決まってる。抱き心地もいいしな」
飄々と言うなり、背中からがばりと抱き締められた。ぎゅうっと腕に力を込めて、私の髪に顔を埋めスリスリと頬ずりする。
「うむ、小柄だからすっぽりだな。……なんだ、まだ居たのか? ユキコの事は私に任せて、男は男同士でむさ苦しく頑張ってくるがいい」
立ち尽くすディーンとルークさんに、しっしっと手を振った。
ディーンが一気に無表情になり、部屋の温度がガクンと下がる。ゆらりとこちらに歩み寄ろうとするディーンを、ルークさんが慌てたように肩をつかんで引き止めた。
「それじゃあ班分けも無事に済んだことだしっ! オレたちはジョンさんの所に行かないとなっなっ!?」
そのまま根性でずりずりと引きずっていく。
引かれていく間も、ディーンは無表情のまま私たちから目を逸らさなかった。めっさ怖かった。
◇
男か友人かの選択から一週間。
黒花の種に触るのをジョンさんと分担できるようになり、以前より自由な時間が増えた気がする。
そうなると、気になってくるのが──
「オリバーさん! 私、いつまでここにいればいいんでしょうかっ」
今日は女三人で役所を訪ねてみた。
書き物をしていたオリバーさんが、困ったように顔を上げる。
「一応、ユキコさんとジョンさんの意向を含め、上には報告しているのですよ。ただ、いつユキコさんの処遇が決まるかまでは……。すみません」
「そうですか……」
がっかりしてうつむいた。
オリバーさんは慰めるように優しく微笑む。
「ここから出られたら、王都で住む家を探さなければなりませんな。いやあ、うちで同居しないかとディーンに持ちかけたんですが、絶対に嫌だと即座に断られてしまいまして」
「それは仕方ないでしょう?」
マイカちゃんがおかしそうに苦笑すると、オリバーさんもくすくすと同意した。
「全くです。……そういうわけですから、ユキコさん。もう少しだけ辛抱してください」
オリバーさんの言葉に、無言で頷く。
お礼を伝えて役所を後にした。
「…………」
茫然と中庭を歩く私を、マイカちゃんとミランダさんが不審そうに眺める。
二人に心配をかけないよう、平気な顔をしなければと思うのに、不安に顔が強ばるのを止められなかった。
「……ユッキー? どうしたの?」
マイカちゃんから腕をつかまれ、思わず本音が漏れてしまう。
「マイカちゃん、私、どうしよう……。家を借りるお金とかない……。仕事もないし」
「…………」
二人の目が点になる。
あれっ、伝わらなかった?
「だから、ここから出られても、生活する当てがないのっ。ここにいる間に仕事を探さないと……! あっ、住み込みの仕事なら、家の心配はしなくていいよね!?」
ディーンは軍に復帰したし、このまま王都に住むのだろう。
なら、私だって王都に住みたい。ディーンの側にいたいのだ。
なんとか不安から立ち直り決意に燃える私を、ミランダさんが胡乱な目で眺めた。
「……なあ、マイカ。この子は何を言っているんだ?」
「……悪いわね、ミランダ。あたしにだって皆目わからないわ」
二人が疲れたように顔を見合わせる。
いや、だからどうして伝わらないのさ!?
「──ユキ! お前たちも散歩中か?」
迎賓館の方から、ディーンたち三人がやって来る。
私の側に来たディーンの背中を、マイカちゃんがばしりと音を立てて叩いた。
「ちょうど良い所に来てくれたわ。この子、どうにかしてくれない? 王城から出た後の、生活の心配なんかしてるのよ?」
「……はあ?」
ディーンがぽかんと口を開ける。
不満そうな顔で私に視線を移した。
「生活の心配って……。俺はもう軍に復帰したんだから、何も心配することは無いだろう?」
あきれたように言うディーンを、むっとして見上げる。
「そりゃ、ディーンにはしっかりした仕事があるからいいかもしれないけど、私なんか無職なんだよ? 働かないと、食べてもいけないし!」
「…………」
ディーンが額を押さえてうめいた。なんだかものすごく苦しそうだ。具合でも悪い?
「俺が悪いのか、ユキが斜め上を行き過ぎているのか……。どっちなんだ……?」
苦悩したようにつぶやくディーンに、ルークさんとマイカちゃんとミランダさんが冷たく言い放つ。
「両方」
「どっちも」
「お互い様だろ」
ディーンはしばし遠い目で沈黙した後、正面から私に向き直った。真剣な瞳で私を見つめる。
「あのな、ユキ──」
「ユキコさんっ!!」
突然、慌てふためいたような声が割って入った。息を切らせたオリバーさんだ。
ぜえはあと呼吸を整えると、緊張した面持ちで私たちを見渡す。
「──城の方から、召喚命令が来ました! ユキコさんと、ジョンさんにですっ。お二人には……陛下に、謁見していただく事になります……!」
「実は、ジョンにも護衛を付けることになったんだ。ユキの護衛と分けて、二・二に分かれるぞ」
ミランダさんとは対照的に、機嫌の戻ったディーンが言う。必死の説得の結果、軍服にときめいただけだと納得してくれたのだ。
ちなみにディーンはまだ私服のままだ。さすがに軍服までは間に合わなかったらしい。
「それじゃ班分けしないとね。もちろんあたしはユッキーよ。そういう名分で護衛に加えてもらったんだし」
「なら、オレがジョンさんだな」
マイカちゃんとルークさんが、息ぴったりに頷き合う。
ルークさんは機敏に立ち上がると、うつむくミランダさんに苦笑しながら声を掛けた。
「そういう事だから、オレたちはジョンさんの所へ移動しよう」
「──断る」
きっぱりと言い放ち、ミランダさんは顔を上げた。その目は血走っている。
「私はユキコの護衛から下りる気は無い。女三人、男三人。その班分けの方が、わかりやすくていいじゃないか」
ミランダさんの言葉に、ディーンが盛大に眉をひそめた。むっつりとミランダさんに向かい合う。
「……あのな。男と間違えた事は謝罪する。本当に申し訳なかったから、あんたはジョンの方へ──」
「だから断ると言っている。そもそも、ジョンさんを連れてきたのは君だろう? しかもユキコの身代わりとして、だ。君自身が護衛するのが筋じゃないか?」
……確かに。
さすがのディーンも言葉に詰まった。
ぐうの音も出ないとは、まさにこの事である。
「ユキコ。この事を踏まえて、今すぐ君が選んでくれ。──男を取るのか、友人を取るのか」
「…………」
その二択エグすぎん?
「ええと……じゃあ、ミランダさんで……」
「ユキ!?」
目を泳がせながら答えた私に、ディーンが激しく噛みついてくる。
いや、だってさぁ!
ミランダさんの言う事は正論だし、ここでディーンを選んで友情にヒビが入るのも嫌である。高笑いが趣味の変人とはいえ、せっかく仲良くなれたのに。
ミランダさんは嬉しそうに立ち上がった。
「安心したよ、ユキコ。男を見る目は絶望的だが、君には友情を大切にする良識がある」
私、絶望的なんすか!?
ショックを受けている私の横で、ディーンが怒りのうなり声を発する。ミランダさんを冷ややかに睨みつけた。
「だから、俺への意趣返しにユキを使うなと言っているだろう」
「理由はそれだけじゃないさ。どうせ守るならば、むくつけき男より可愛い女の子がいいに決まってる。抱き心地もいいしな」
飄々と言うなり、背中からがばりと抱き締められた。ぎゅうっと腕に力を込めて、私の髪に顔を埋めスリスリと頬ずりする。
「うむ、小柄だからすっぽりだな。……なんだ、まだ居たのか? ユキコの事は私に任せて、男は男同士でむさ苦しく頑張ってくるがいい」
立ち尽くすディーンとルークさんに、しっしっと手を振った。
ディーンが一気に無表情になり、部屋の温度がガクンと下がる。ゆらりとこちらに歩み寄ろうとするディーンを、ルークさんが慌てたように肩をつかんで引き止めた。
「それじゃあ班分けも無事に済んだことだしっ! オレたちはジョンさんの所に行かないとなっなっ!?」
そのまま根性でずりずりと引きずっていく。
引かれていく間も、ディーンは無表情のまま私たちから目を逸らさなかった。めっさ怖かった。
◇
男か友人かの選択から一週間。
黒花の種に触るのをジョンさんと分担できるようになり、以前より自由な時間が増えた気がする。
そうなると、気になってくるのが──
「オリバーさん! 私、いつまでここにいればいいんでしょうかっ」
今日は女三人で役所を訪ねてみた。
書き物をしていたオリバーさんが、困ったように顔を上げる。
「一応、ユキコさんとジョンさんの意向を含め、上には報告しているのですよ。ただ、いつユキコさんの処遇が決まるかまでは……。すみません」
「そうですか……」
がっかりしてうつむいた。
オリバーさんは慰めるように優しく微笑む。
「ここから出られたら、王都で住む家を探さなければなりませんな。いやあ、うちで同居しないかとディーンに持ちかけたんですが、絶対に嫌だと即座に断られてしまいまして」
「それは仕方ないでしょう?」
マイカちゃんがおかしそうに苦笑すると、オリバーさんもくすくすと同意した。
「全くです。……そういうわけですから、ユキコさん。もう少しだけ辛抱してください」
オリバーさんの言葉に、無言で頷く。
お礼を伝えて役所を後にした。
「…………」
茫然と中庭を歩く私を、マイカちゃんとミランダさんが不審そうに眺める。
二人に心配をかけないよう、平気な顔をしなければと思うのに、不安に顔が強ばるのを止められなかった。
「……ユッキー? どうしたの?」
マイカちゃんから腕をつかまれ、思わず本音が漏れてしまう。
「マイカちゃん、私、どうしよう……。家を借りるお金とかない……。仕事もないし」
「…………」
二人の目が点になる。
あれっ、伝わらなかった?
「だから、ここから出られても、生活する当てがないのっ。ここにいる間に仕事を探さないと……! あっ、住み込みの仕事なら、家の心配はしなくていいよね!?」
ディーンは軍に復帰したし、このまま王都に住むのだろう。
なら、私だって王都に住みたい。ディーンの側にいたいのだ。
なんとか不安から立ち直り決意に燃える私を、ミランダさんが胡乱な目で眺めた。
「……なあ、マイカ。この子は何を言っているんだ?」
「……悪いわね、ミランダ。あたしにだって皆目わからないわ」
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「……はあ?」
ディーンがぽかんと口を開ける。
不満そうな顔で私に視線を移した。
「生活の心配って……。俺はもう軍に復帰したんだから、何も心配することは無いだろう?」
あきれたように言うディーンを、むっとして見上げる。
「そりゃ、ディーンにはしっかりした仕事があるからいいかもしれないけど、私なんか無職なんだよ? 働かないと、食べてもいけないし!」
「…………」
ディーンが額を押さえてうめいた。なんだかものすごく苦しそうだ。具合でも悪い?
「俺が悪いのか、ユキが斜め上を行き過ぎているのか……。どっちなんだ……?」
苦悩したようにつぶやくディーンに、ルークさんとマイカちゃんとミランダさんが冷たく言い放つ。
「両方」
「どっちも」
「お互い様だろ」
ディーンはしばし遠い目で沈黙した後、正面から私に向き直った。真剣な瞳で私を見つめる。
「あのな、ユキ──」
「ユキコさんっ!!」
突然、慌てふためいたような声が割って入った。息を切らせたオリバーさんだ。
ぜえはあと呼吸を整えると、緊張した面持ちで私たちを見渡す。
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