悪逆王女は改心したいのに、時戻しの魔法使いが邪魔してきます!?

和島逆

文字の大きさ
4 / 28

死亡フラグは結構です!②

しおりを挟む
「リ、リリリリリリディア王女殿下ですってぇっ!!?」

「しッ、お静かに。殿下は本日お忍びなのです」

「ああっ、すみっ、じゃなく申し訳ございませんっ!!」

 ずいと整った顔を近付けたアレンに、女主人が真っ赤になりながら頭を下げた。その瞳はぽうっと熱を宿して潤んでいる。

「…………」

 なんか面白くない。
 いくら綺麗な顔をしていたって、その男は悪逆王女の大ファンな変態なのに。

 不機嫌に黙り込み、私はところ狭しと下げられた色とりどりのドレスに手を伸ばす。ここは城下町にある一軒のドレス屋だった。

 王城から連れ出した私を、アレンはまっすぐここに案内してきた。
 身も蓋もない言い方をすれば、この店は庶民が買うには贅沢だけれど、王侯貴族が買うには格式の足りないドレスを取り扱っているらしい。おそらく主な客は平民の富裕層なのだろう。

(信じられない。体のサイズも測らずにドレスを作るだなんて)

 既製品を買えば待たずにすぐ手に入るのだろうが、体にぴったりと合わないドレスなんてごめんだった。そんなの高貴な私に相応しくない。

 ぶすっとふくれていると、アレンがすっと腰を屈めて私の耳元に唇を寄せた。

「どうです、お眼鏡にかなうドレスはありましたか? この店にあるドレスは全て、今はまだ無名のデザイナー達が手掛けたものなのですよ。自分の店を持たない彼らから、ここの店主が買い付けて販売しているのです」

「え? そうなの?」

 囁き返す私に、アレンはしっかりと頷いた。

「気に入ったデザイナーがいれば、王城に呼び出してドレスをオーダーするといい。普段とは比べ物にならないぐらい安く済むはずです」

「な、なるほどっ!」

 俄然、やる気が満ちてくる。

 まだ世間に見出されていない才能を、この私の審美眼で見つけてみせるのだ。
 私は素敵なドレスを安価で手に入れ、デザイナーは姫の注文を受けたということで箔がつく。きっと涙を流して喜び、私を褒め称えてくれるに違いない……!

「すごいわ、脱・悪逆王女への第一歩ねっ」

 感動に打ち震えた私は、すぐさま宝探しを開始する。
 私は目鼻立ちが派手なので、ドレスも色彩がはっきりしたものがよく似合う。赤、ピンク、青のドレスと次々に選び、片っ端から鏡の前で当ててみた。うんうん、どれも悪くないじゃない。

 鼻歌交じりの私を見守るアレンが、突然「あっ!」と大声を上げた。

「主、これなんてどうですか? まるで主のためにあつらえたような素晴らしいドレスですよ!」

「まあ。どれどれ!?」

 わくわくと覗き込めば、真っ赤なサテン生地に黒レースで幾重にも装飾された毒々しいドレスだった。この目的意識の欠如した大馬鹿者め。

「嫌よっ、どこからどう見ても悪女になっちゃうじゃない!」

「えー、でもこういうどぎついデザインお好きでしょう? 確かにぃ、着る人は選ぶんだけどぉ、わたくしってば何を着ても似合っちゃうんだものぉ。とか言いそうですよね我が主」

 ぐっ!

 確かに、確かに夢で見た未来の私は言いそうだった……!
 そして今の私もこのドレスを着こなす自信はありますけども、そうじゃないっ!

「地味ドレス、地味ドレス……! 薔薇じゃなくて、かすみ草。慎ましやかに咲き、周囲にほっと安らぎを与える、そんな私になってみせる――そう、これよっ」

 血眼になってドレスを探した私は、カッと目を見開いた。高々と掲げるは、淡い水色のシンプルなドレス。装飾といえば、腰を縛る同色のリボンぐらい。

 アレンが眉をひそめ、私の髪に手を伸ばす。

「主はせっかく豪華な黄金の髪を持っていらっしゃるのですから、ドレスもそれに見合うものを選ぶべきです。赤がお嫌ならばせめて、この太陽のようなオレンジ色の――」

「却下よ、却下! 髪が豪華だからこそ、ドレスはシンプルなものにすべきなの! 考えてみたら私ってば、髪をちょっと大ぶりに結うだけで派手になっちゃうのよね。……うん、このドレスならむしろ私の魅力を引き立ててくれるはずだわ」

 大きく頷き、「これにするわ!」と高らかに宣言した。まだ不満顔のアレンをせっつき、店主にデザイナーの名と住居を確認させる。

「それでは後日、デザイナーを王城に伺わせますので」

 ぺこぺこと頭を下げる女主人に、鷹揚に手を振って答えた。アレンを従え店を後にしようとして――……はっと気が付く。

(待って。私、感じ悪くない!?)

 リディア姫はとても態度がでかい、ツンと気取ったわがまま王女でした。

 ……なんて、城下町で悪評を振りまかれたら困るっ!

 私は大慌てで回れ右する。
 訝しげな視線を向けるアレンは無視して、女主人ににっこりと微笑みかけた。

「今日はありがとう。城下の国民達の生活が知れて、王女としてとっても勉強になりましたわ。ドレスもどれも素敵で――」

「あ、る、じ」

 背後のアレンが不穏な気配を発する。ぎくりっ!

 恐る恐る振り返ると、アレンはアイスブルーの瞳を細めて私を睨みつけていた。あ、これはもしや……?

(悪逆王女っぽくない振る舞いをするな、ってこと!?)

 背中をだらだらと冷や汗が流れる。――ええい、仕方ないわ!

 戸惑ったように瞬きする女主人に向き直ると、私は嫌味っぽくため息をついた。

「庶民には随分ともったいないドレスだと感じましたわ。まあ、王女たるこのわたくしには不足ですけれど? とはいえ、それほど悪くはなかったわね、ええ」

 女主人の顔が凍りつく。
 私は彼女を鼻で笑い、これ見よがしに黄金色の髪をかき上げた。

「せいぜいこれからも精進を続けることね。気が向けば、今後も顔を出してあげないこともなくってよ」

 くすくすと小馬鹿にしたように告げれば、怒りのためだろう、彼女は小刻みに震え出した。あわわわ、悪女演技やりすぎちゃった?

 救いを求めてアレンの袖を引くが、彼は「最高!」と言いたげに親指を立てるだけだった。この役立たず。

「あ、あのね店主」

「――殿下! ありがとうございますッ!!」

 おろおろと女主人の顔を覗き込もうとした瞬間、彼女は私に深々と頭を下げた。ぱっと上げたその顔は上気しており、感極まったように瞳を潤ませる。

「まああ、まああ。王女殿下に『なかなかだ』と褒めていただけるだなんて。『また来たい』とおっしゃっていただけるなんて!」

 光栄ですわ! と大興奮でまくし立てた。……あ、そういうふうに変換してくれました?

 ぽかんとする私を置き去りに、アレンが重々しく首肯する。

「デザイナー達にも伝えておきなさい。殿下の有り難いお言葉を胸に刻み、これからも切磋琢磨して素晴らしいドレスを制作していくように、と」

「ええ、ええ! 必ずや申し伝えますわ!」

 嬉しげな店主に見送られ、私達は表に待たせていた馬車へと乗り込んだ。カタカタと動き出してから、私は向かいに座るアレンを見上げる。

「……今日は、まあまあうまくいったんじゃない? 我ながら程よく悪女で、程よく清らかだったと思うの」

「そうですね。この調子でドレスもじゃんじゃん作らせて、美しくド派手に悪逆王女道を突っ走ってやりましょう」

「そうじゃないっ!」

 ちっともわかっていないアレンを怒鳴りつける私であった。


 ――後日。

 デザイナーに注文して、シンプルなドレスを『じゃんじゃん』ではなく『必要数』のみ作らせた。黄金の髪が引き立つようにしたい、という私の要望に、デザイナーは「インスピレーションが刺激されますねっ!」と嬉々として応じてくれた。

 そうして完成したドレスはすべて、装飾は少なめながらリボンや花のコサージュで一点を豪華にしたもの。上半身は体にぴったりと合い、足首まで隠すスカートは薄手でふんわり揺れる。

 しとやかで品がある、と貴族のみならず城下でも爆発的に流行したという。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです

鍛高譚
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」 王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。 婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。 「かしこまりました」 ――正直、本当に辞めたかったので。 これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し…… すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。 そしてその瞬間―― 王宮が止まった。 料理人が動かない。 書類が処理されない。 伝令がいない。 ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。 さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。 噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。 そしてついに―― 教会・貴族・王家が下した決断は、 「王太子廃嫡」 そして。 「レティシア、女王即位」 婚約破棄して宰相をクビにした結果、 王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――? これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの 完全自業自得ざまぁ物語。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

処理中です...