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林間学校の準備と……
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買い物中の目撃で傷心した翌朝、詩奈が学校の玄関まで着かないうちに、待ち切れなかったかのように若葉が近付いて来た。
「聞いて、詩奈! 昨日ね、私、瑞輝とリュックとか、林間学校の物を買い物に行ったんだけど、ナント、お揃いにしたんだ~!」
詩奈に、嬉しそうに報告してきた若葉。
「お前、そんなデカい声で、言うなよ!」
玄関にいた生徒達の視線を感じ、戸惑う瑞輝。
「そうなんだ、良かったね~! どんなのにしたの?」
お揃いという言葉に羨望を感じつつ、それを気付かせように、さり気なく尋ねた詩奈。
「あんまし可愛くないよ~、黒だし。でも、初めてのペアだから、嬉しいの!」
瑞輝と若葉にとって、初めてのペアという言葉が意外だった詩奈。
「初お揃いだったの? もっと前から持っているのかと思ってた」
「もちろん、文房具とか、細かい物とかは有ったけど、こういう大きいというか目立つ物は初めてなの! 瑞輝は、けっこう、恥ずかしがり屋だから、ペアルックとかなんか絶対やらないし」
「ジャージとかペアだから、それでいいだろ!」
面倒そうに言った瑞輝。
「そんなの私とだけじゃなくて、1年は皆、お揃いになるじゃん!」
少し口を尖らせて不満そうな若葉の顔は、女子の詩奈の目からも可愛く見えていた。
「牧田さんは、もう林間学校の準備とかしたの?」
いつも口数少なめな凌空が尋ねた。
「うん。昨日、お母さんと一緒に買い物したから」
「あっ、詩奈も昨日、買い物に行ってたの? リュック売り場に一緒にいたら、詩奈もお揃いにしたかったのに!」
若葉の言葉に、ドキッとなった詩奈。
「でも、せっかく矢本君と2人でお揃いなのに」
「別に、凌空がいても、そう言うつもりだけど。ねっ、瑞輝」
「ああ、別に誰と一緒でも構わないよ」
そういったこだわり感がゼロのような瑞輝。
(そうなんだ……若葉は、矢本君とだけお揃いでなくても良かったんだ。矢本君は、元々、そういうの構わなさそうな感じだし。そんな2人を前にして、こそこそと隠れた私の方が恥ずかしい……でも、やっぱり、買い物の時の2人の様子は、恋人同士にしか見えなかったけど……)
「……って、どう思う、詩奈?」
若葉に意見を求められたが、若葉の言葉を反芻していた詩奈には、肝心な内容が聞こえてなかった。
「あっ、ごめんね。考え事していて、聞いてなかった」
「林間学校の事だけど、大部屋に布団ぎゅうぎゅう詰めで敷かれたら、詩奈、歩き難いよね? トイレとかも行き難いし。女子だけ大勢だったら、嫌な雰囲気になるかも知れないし。それでね、トイレ付の個室有るみたいだから、浜口先生に、お願いしようか? もちろん、私も一緒だよ~!」
詩奈が思い付く前に、若菜がそこまで林間学校での事を気にかけてくれていたのを有難く感じた。
「いいのかな? 個室の方が出来れば助かるけど……」
林間学校は、研修施設の大部屋に男女別に泊まる事になっていた。
そのままだと、1クラスの女子が丸ごと泊まれるスペースに布団を敷き、雑魚寝となる。
女子だけの大部屋に泊まり、何かの機会に若葉と離れた場合、また罵声はともかく、ロフストランド杖を折られでもしたら、林間学校の残りの時間をどう乗り切るか考えられなかった。
「凌空が思い付いたんだよね! 林間学校の宿泊先の見取り図を見て」
入院時の病院案内図も、凌空が、いち早く抑えていたのを思い出した。
「北岡君、ありがとう。そんな事まで気付いてくれて」
「いや、そういうの得意分野だから」
詩奈にお礼を言われ、はにかみ笑いをした凌空。
「浜口先生は、わりと話が分かるから許可してくれるはずだけど、早目に伝えないと」
教室に向かう前に職員室に4人で寄り、浜口の所へ行った。
「えっ、個室? 有るけど、あれは、教師達が使う部屋だぞ」
困った表情を浮かべ、頭を掻いた浜口。
「先生は、俺らと寝よう!」
当然の流れのように瑞輝が言った。
「え~っ、そんな大勢の所に詰め込まれるのかよ~? もう1人、俺と一緒の個室を使う、3組の戸田先生はどうするんだ?」
「僕も、3組の生徒と同室でいいですよ~! こんな機会は滅多に無いですし、楽しそうです!」
浜口よりも一回りくらい若い、新任の戸田が快諾した。
「これで決まりだ~! 浜口先生、戸田先生ありがとう!」
個室を教師達が使用する予定だった事は予想外だったが、浜口や戸田の使用するはずだった個室を詩奈と若葉で使用が認められた。
「浜口先生と戸田先生の許可が下りて良かった!」
「その代わり、俺らが浜口先生と一緒の部屋になっちまった。いいな~、個室は!」
大部屋に大人2人が加わり、しかも、それが教師という事で、騒げなくなりそうなのが不満そうな瑞輝。
「私達の部屋に遊びに来ていいよ~!」
大歓迎モードで言った若葉。
詩奈も、就寝時以外は、瑞輝や凌空と過ごせた方が楽しそうに思えた。
「抜け出せるチャンスが有ったら、そっち行く」
「浜口先生、目を光らせてそうだから、難しいかも」
スリルを楽しみたそうな瑞輝に対し、警戒顔の凌空。
「瑞輝は、けっこう、先生達に無理聞いてもらってるから、点数稼げる時にちゃんと稼いでおかないとね~」
誘っておりながら、自分達は個室で安泰という事で、他人事のように言った若葉。
個室に変更される事に決まり、尚更楽しみが増していた詩奈。
「聞いて、詩奈! 昨日ね、私、瑞輝とリュックとか、林間学校の物を買い物に行ったんだけど、ナント、お揃いにしたんだ~!」
詩奈に、嬉しそうに報告してきた若葉。
「お前、そんなデカい声で、言うなよ!」
玄関にいた生徒達の視線を感じ、戸惑う瑞輝。
「そうなんだ、良かったね~! どんなのにしたの?」
お揃いという言葉に羨望を感じつつ、それを気付かせように、さり気なく尋ねた詩奈。
「あんまし可愛くないよ~、黒だし。でも、初めてのペアだから、嬉しいの!」
瑞輝と若葉にとって、初めてのペアという言葉が意外だった詩奈。
「初お揃いだったの? もっと前から持っているのかと思ってた」
「もちろん、文房具とか、細かい物とかは有ったけど、こういう大きいというか目立つ物は初めてなの! 瑞輝は、けっこう、恥ずかしがり屋だから、ペアルックとかなんか絶対やらないし」
「ジャージとかペアだから、それでいいだろ!」
面倒そうに言った瑞輝。
「そんなの私とだけじゃなくて、1年は皆、お揃いになるじゃん!」
少し口を尖らせて不満そうな若葉の顔は、女子の詩奈の目からも可愛く見えていた。
「牧田さんは、もう林間学校の準備とかしたの?」
いつも口数少なめな凌空が尋ねた。
「うん。昨日、お母さんと一緒に買い物したから」
「あっ、詩奈も昨日、買い物に行ってたの? リュック売り場に一緒にいたら、詩奈もお揃いにしたかったのに!」
若葉の言葉に、ドキッとなった詩奈。
「でも、せっかく矢本君と2人でお揃いなのに」
「別に、凌空がいても、そう言うつもりだけど。ねっ、瑞輝」
「ああ、別に誰と一緒でも構わないよ」
そういったこだわり感がゼロのような瑞輝。
(そうなんだ……若葉は、矢本君とだけお揃いでなくても良かったんだ。矢本君は、元々、そういうの構わなさそうな感じだし。そんな2人を前にして、こそこそと隠れた私の方が恥ずかしい……でも、やっぱり、買い物の時の2人の様子は、恋人同士にしか見えなかったけど……)
「……って、どう思う、詩奈?」
若葉に意見を求められたが、若葉の言葉を反芻していた詩奈には、肝心な内容が聞こえてなかった。
「あっ、ごめんね。考え事していて、聞いてなかった」
「林間学校の事だけど、大部屋に布団ぎゅうぎゅう詰めで敷かれたら、詩奈、歩き難いよね? トイレとかも行き難いし。女子だけ大勢だったら、嫌な雰囲気になるかも知れないし。それでね、トイレ付の個室有るみたいだから、浜口先生に、お願いしようか? もちろん、私も一緒だよ~!」
詩奈が思い付く前に、若菜がそこまで林間学校での事を気にかけてくれていたのを有難く感じた。
「いいのかな? 個室の方が出来れば助かるけど……」
林間学校は、研修施設の大部屋に男女別に泊まる事になっていた。
そのままだと、1クラスの女子が丸ごと泊まれるスペースに布団を敷き、雑魚寝となる。
女子だけの大部屋に泊まり、何かの機会に若葉と離れた場合、また罵声はともかく、ロフストランド杖を折られでもしたら、林間学校の残りの時間をどう乗り切るか考えられなかった。
「凌空が思い付いたんだよね! 林間学校の宿泊先の見取り図を見て」
入院時の病院案内図も、凌空が、いち早く抑えていたのを思い出した。
「北岡君、ありがとう。そんな事まで気付いてくれて」
「いや、そういうの得意分野だから」
詩奈にお礼を言われ、はにかみ笑いをした凌空。
「浜口先生は、わりと話が分かるから許可してくれるはずだけど、早目に伝えないと」
教室に向かう前に職員室に4人で寄り、浜口の所へ行った。
「えっ、個室? 有るけど、あれは、教師達が使う部屋だぞ」
困った表情を浮かべ、頭を掻いた浜口。
「先生は、俺らと寝よう!」
当然の流れのように瑞輝が言った。
「え~っ、そんな大勢の所に詰め込まれるのかよ~? もう1人、俺と一緒の個室を使う、3組の戸田先生はどうするんだ?」
「僕も、3組の生徒と同室でいいですよ~! こんな機会は滅多に無いですし、楽しそうです!」
浜口よりも一回りくらい若い、新任の戸田が快諾した。
「これで決まりだ~! 浜口先生、戸田先生ありがとう!」
個室を教師達が使用する予定だった事は予想外だったが、浜口や戸田の使用するはずだった個室を詩奈と若葉で使用が認められた。
「浜口先生と戸田先生の許可が下りて良かった!」
「その代わり、俺らが浜口先生と一緒の部屋になっちまった。いいな~、個室は!」
大部屋に大人2人が加わり、しかも、それが教師という事で、騒げなくなりそうなのが不満そうな瑞輝。
「私達の部屋に遊びに来ていいよ~!」
大歓迎モードで言った若葉。
詩奈も、就寝時以外は、瑞輝や凌空と過ごせた方が楽しそうに思えた。
「抜け出せるチャンスが有ったら、そっち行く」
「浜口先生、目を光らせてそうだから、難しいかも」
スリルを楽しみたそうな瑞輝に対し、警戒顔の凌空。
「瑞輝は、けっこう、先生達に無理聞いてもらってるから、点数稼げる時にちゃんと稼いでおかないとね~」
誘っておりながら、自分達は個室で安泰という事で、他人事のように言った若葉。
個室に変更される事に決まり、尚更楽しみが増していた詩奈。
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