願わくは、一緒にいたかった

ゆりえる

文字の大きさ
4 / 5
4.アヨンサとの日々⑵

願わくは、一緒にいたかった

しおりを挟む
 
 やっぱり思った通りだった。
 アヨンサは、都会では生きていたとしても、僕らの目からは見る事が出来ないんだ。

「それなら、僕に教えて!惣吾の精霊は、何色で、どれくらいの大きさなの?」

『それは、僕からは、とても教えにくいんだ』

 アヨンサは、かなり躊躇っていた。
 今まで見せていた陽気さとはかけ離れた表情を見せた。

「えっ、まさか、それって......惣吾は病気って事なの?」

 アヨンサは、静かに頷いた。

『君の弟の精霊は、生命力が弱い色でかなり小さくなっているんだ。君がここに1人でいるのは、弟の惣吾君がが病気と闘っているからだよ』

 僕の目からは涙が溢れて来た。
 両親は惣吾の方が可愛くて一緒にいたいから、僕が邪魔なんだとばかり思っていたのに。
 まさか、惣吾が病気だったなんて......
 
『君達は、仲良しの兄弟なんだね。弟は、いつも君を頼りにしている』

 惣吾は、僕から見ると邪魔臭いくらいに、いつだって、僕の後を付けて来ていた。
 出来ないくせに、僕の真似を一生懸命しようとしていた。
 それで、よくコケて怪我をして......

 結果、僕が、叱られていた。

 お兄ちゃんなんだから、ちゃんと面倒を看てあげてって。
 そういう事だったんだ......惣吾は身体が弱いから、少しの傷でも、親は心配してしまうんだ。

「惣吾は、不器用なくせに出来るつもりで、いつも僕の真似してまとわりつてた、面倒臭い奴なんだ......」

 そう言いながら、涙が頬を滝のようにとめどなく流れ落ちるのを感じていた。

 惣吾の事を本気で邪魔に思っていたわけじゃない!

 僕だって、周りに同い年くらいの子がいなかったから、一つ年下の惣吾は、少し物足りないけど、弟であると同時に友達のようなものなんだ。

 あいつがいなくなると、僕は困る!

「惣吾は、治らない病気なの?」

『......現代の医学だと、このままだと治らない可能性の方が強いね......』

 アヨンサは、僕の気持ちが伝わっているらしく、辛そうに言った。

「そんなのイヤだよ!惣吾はまだ4歳だよ!まだ死んでしまったらダメだよ!アヨンサ、精霊なら、何とか出来るだろう?どうにかして、惣吾を助けて!」

 『何とかならない事は、無いけど......』

 アヨンサの言葉に、僕は希望を見出した。

「そうなの?僕に出来る事なら何でもするよ!」

 惣吾の為なら、僕はキライな食べ物も文句言わないで食べるし、ここで祖母にもわがまま言って困らせたりしないようにする!

『残念ながら、君が思っているような簡単な事じゃないんだ......』

 僕の思考を読んだアヨンサは、否定した。

「まさか、僕が惣吾の身代わりに死ぬって事なの?」

『今すぐ君が死んでしまうわけではないから安心して。命っていうのは、その人が持っている命の他に、親族で上手く調整出来る命というのも有るんだ。ただし、それは、普通の人間が勝手に操作は出来ないけど』

 その時は、アヨンサの説明の意味がよく分からなかった。

「家族で調整出来るって、どういう事?」

『例えば、君の余命......残りの寿命が70年有るとして、惣吾君の命がそろそろ無くなりそうだとしたら、君の半分を惣吾君に分け与える事が出来るんだ。』

「僕の命を半分、惣吾に分けてあげるんだね!いいよ、それで!半分ずつにしたら、同い年くらいに、僕と惣吾は死ねる事になるんだね?」

 その頃の僕は、あと70年も長生きするなんて、想像もつかなかったし、惣吾にも僕と同じだけ生きてもらいたかった。

『それなら、きっと大丈夫。分け与える側、つまり君の強い意志と、お互いの精霊の合意が必要なだけだから」

 精霊の合意......?
 難しそうな言葉だけど、きっと、アヨンサと惣吾の精霊で話し合いするって事なんだと思った。

 アヨンサは、少しの間、黙って目を閉じていた。

『惣吾君の精霊と話して来た。まだ何回か、夏休みに手術する入院が必要になりそうだけど、その後は、大丈夫!君の願いは聞き届けられたよ!』

 精霊同士の会話って、なんて早いのだろう!
 もう決着がついたとは!
 さっき、アヨンサは距離は関係無いって言っていた通りだった。

「やった~!これで、惣吾とはずっと一緒にいられるんだね!」

『そうだね、それぞれの人生の分岐点が来る時までは』

 アヨンサは時々難しい言葉を使う。

「分岐点?」

『結婚とか仕事で転勤とかだよ。いずれ君達もするかも知れないだろう?』

「アヨンサは、僕の未来まで分かるの?」

 僕は知りたくてワクワクして来た。

『分からない事も無いけど、未来は変わる可能性が有るからね』

 惣吾が助かるなら、どんな未来でも、僕は構わなかった。
 僕は、ここで、アヨンサと出会ったおかげで、惣吾の命を救えたという満足感で満たされた。
 アヨンサとは、田舎の祖母の家でしか会えなかったが、僕は、アヨンサと過ごせる夏休みが楽しくて仕方無かった!
 出来る事なら、家に戻った時もアヨンサと一緒に過ごしたかった。
 
 惣吾は、アヨンサとの約束通り、数回の手術を繰り返し、病弱だった時代が嘘のように健康体になった。

 祖母の家に僕1人がお世話になる事も無くなり、アヨンサと過ごした思い出もいつしか記憶の底に沈んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月
キャラ文芸
「皇帝になったら、迎えに来る」幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。今度会ったらぶん殴ろうと思う。皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。……だというのに。皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...