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4.アヨンサとの日々⑵
願わくは、一緒にいたかった
しおりを挟むやっぱり思った通りだった。
アヨンサは、都会では生きていたとしても、僕らの目からは見る事が出来ないんだ。
「それなら、僕に教えて!惣吾の精霊は、何色で、どれくらいの大きさなの?」
『それは、僕からは、とても教えにくいんだ』
アヨンサは、かなり躊躇っていた。
今まで見せていた陽気さとはかけ離れた表情を見せた。
「えっ、まさか、それって......惣吾は病気って事なの?」
アヨンサは、静かに頷いた。
『君の弟の精霊は、生命力が弱い色でかなり小さくなっているんだ。君がここに1人でいるのは、弟の惣吾君がが病気と闘っているからだよ』
僕の目からは涙が溢れて来た。
両親は惣吾の方が可愛くて一緒にいたいから、僕が邪魔なんだとばかり思っていたのに。
まさか、惣吾が病気だったなんて......
『君達は、仲良しの兄弟なんだね。弟は、いつも君を頼りにしている』
惣吾は、僕から見ると邪魔臭いくらいに、いつだって、僕の後を付けて来ていた。
出来ないくせに、僕の真似を一生懸命しようとしていた。
それで、よくコケて怪我をして......
結果、僕が、叱られていた。
お兄ちゃんなんだから、ちゃんと面倒を看てあげてって。
そういう事だったんだ......惣吾は身体が弱いから、少しの傷でも、親は心配してしまうんだ。
「惣吾は、不器用なくせに出来るつもりで、いつも僕の真似してまとわりつてた、面倒臭い奴なんだ......」
そう言いながら、涙が頬を滝のようにとめどなく流れ落ちるのを感じていた。
惣吾の事を本気で邪魔に思っていたわけじゃない!
僕だって、周りに同い年くらいの子がいなかったから、一つ年下の惣吾は、少し物足りないけど、弟であると同時に友達のようなものなんだ。
あいつがいなくなると、僕は困る!
「惣吾は、治らない病気なの?」
『......現代の医学だと、このままだと治らない可能性の方が強いね......』
アヨンサは、僕の気持ちが伝わっているらしく、辛そうに言った。
「そんなのイヤだよ!惣吾はまだ4歳だよ!まだ死んでしまったらダメだよ!アヨンサ、精霊なら、何とか出来るだろう?どうにかして、惣吾を助けて!」
『何とかならない事は、無いけど......』
アヨンサの言葉に、僕は希望を見出した。
「そうなの?僕に出来る事なら何でもするよ!」
惣吾の為なら、僕はキライな食べ物も文句言わないで食べるし、ここで祖母にもわがまま言って困らせたりしないようにする!
『残念ながら、君が思っているような簡単な事じゃないんだ......』
僕の思考を読んだアヨンサは、否定した。
「まさか、僕が惣吾の身代わりに死ぬって事なの?」
『今すぐ君が死んでしまうわけではないから安心して。命っていうのは、その人が持っている命の他に、親族で上手く調整出来る命というのも有るんだ。ただし、それは、普通の人間が勝手に操作は出来ないけど』
その時は、アヨンサの説明の意味がよく分からなかった。
「家族で調整出来るって、どういう事?」
『例えば、君の余命......残りの寿命が70年有るとして、惣吾君の命がそろそろ無くなりそうだとしたら、君の半分を惣吾君に分け与える事が出来るんだ。』
「僕の命を半分、惣吾に分けてあげるんだね!いいよ、それで!半分ずつにしたら、同い年くらいに、僕と惣吾は死ねる事になるんだね?」
その頃の僕は、あと70年も長生きするなんて、想像もつかなかったし、惣吾にも僕と同じだけ生きてもらいたかった。
『それなら、きっと大丈夫。分け与える側、つまり君の強い意志と、お互いの精霊の合意が必要なだけだから」
精霊の合意......?
難しそうな言葉だけど、きっと、アヨンサと惣吾の精霊で話し合いするって事なんだと思った。
アヨンサは、少しの間、黙って目を閉じていた。
『惣吾君の精霊と話して来た。まだ何回か、夏休みに手術する入院が必要になりそうだけど、その後は、大丈夫!君の願いは聞き届けられたよ!』
精霊同士の会話って、なんて早いのだろう!
もう決着がついたとは!
さっき、アヨンサは距離は関係無いって言っていた通りだった。
「やった~!これで、惣吾とはずっと一緒にいられるんだね!」
『そうだね、それぞれの人生の分岐点が来る時までは』
アヨンサは時々難しい言葉を使う。
「分岐点?」
『結婚とか仕事で転勤とかだよ。いずれ君達もするかも知れないだろう?』
「アヨンサは、僕の未来まで分かるの?」
僕は知りたくてワクワクして来た。
『分からない事も無いけど、未来は変わる可能性が有るからね』
惣吾が助かるなら、どんな未来でも、僕は構わなかった。
僕は、ここで、アヨンサと出会ったおかげで、惣吾の命を救えたという満足感で満たされた。
アヨンサとは、田舎の祖母の家でしか会えなかったが、僕は、アヨンサと過ごせる夏休みが楽しくて仕方無かった!
出来る事なら、家に戻った時もアヨンサと一緒に過ごしたかった。
惣吾は、アヨンサとの約束通り、数回の手術を繰り返し、病弱だった時代が嘘のように健康体になった。
祖母の家に僕1人がお世話になる事も無くなり、アヨンサと過ごした思い出もいつしか記憶の底に沈んでいた。
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