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相葉悠一 編

第11話「夜の学校」

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 オレは作業のあと片付けもせず、呼び止める渡辺の声を振り切って、図書室を飛びたした。図書室の外の世界は、すばらしく開放的な気がした。
  
***
  
 スマホがないことに気が付いたのは、家に着いてからだった。自宅の電話からスマホにかけても、周辺からは反応がない。なんてことだ、本当にツイてないっ。

 心当たりは学校と、学校までの道乗りだ。学校に忘れたならまだいいが、途中で落としたとなると、なにかと面倒だ。背に腹はかえられない。スマホがないと本当に困る。オレはしぶしぶ、制服のまま家を出た。
  
***
  
 こんなとき、“願いが叶う本”があったらと、またアホなことを考えてしまった。本でなくてもいい、ドラ◯もんさえいてくれれば。
 
 ハハハ。ホント、オレって夢見がち。

 自分の能天気ぶりに、ちょっと嫌気がさした。
  
***

 秋の虫の鳴き声が辺りに響く。昼間のあのクソ暑さがだいぶ和らいで、空はすっかり暗くなっていた。
  
 オレにしては、だいぶ真面目にスマホを探したのだ。道路の隅に追いやられていないか、かなり丁寧に探したし、通りすがりのコンビニや、商店の人にも聞いてみたいくらいだ。
 
 結局、通学路にはスマホは落ちてなく、見つからず、そのまま学校まで辿り着いてしまった。

 一縷の望みを掛け、オレは学校の校門をくぐった。
  
***
  
 希望を捨てなければ、道はどこまでも続いている。

 そんな一文が閃いた。

 良かった、あったよっ。これも日頃の行いってやつ?

 なんて浮かれてしまったけど、日頃の行いがいいやつは、スマホをうっかり、学校に忘れたりしないものだ。

 間抜けなことに、自分の机の中にちゃっかりスマホは、置きっぱなしになっていたのだ。灯台下暗し……というか自分の迂闊さが、ジワジワとオレの心を逆撫でる。

***
 
  夜の学校って、なんでこんなに不気味なんだろう。情けないが、あまりホラー系は得意ではない。
 
 薄暗い校舎内に、ほとんど人は残っていなかったので、目の端に人の気配を感じると、オレは思わず叫びそうになった。
 
 人影に、足はある。幽霊ではなかった。


 ――渡辺明日奈だ。

 渡辺はオレに気が付かず、下駄箱から革靴を出すと手際良く履き替えて、昇降口から出て行った。

 もう七時近いぞ。
  
***
  
 前日とは違った意味で、声は掛けられなかった。

 オレは薄暗くなった景色に、吸い込まれるように一人消えて行く渡辺の姿を、黙って見送った。


つづく
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