12 / 95
1st round
第12話「告白ドッキリ 如月心乃香sideーその6」
しおりを挟む
私は図書室を出て行く八神を見送ると、委員会の仕事をしながら雨が降ってくるのを待った。降水確率通りなら、神が味方してくれているなら、きっと雨が降ってくる。
***
図書室を閉める時間になった頃、本当に雨が降ってきた。
それを望んでいたはずなのに、私の体は少し震えてきた。殺人犯が計画的に人を殺しにいく時、もしかしたら、こんな心持ちなのかもしれないと思った。
別の不安もあった。もう八神は待っていないかもしれない。帰ってしまったかもしれない。そうなれば計画は誤破産だ。また新たな計画を立てるか、そのまま祭りの日を迎えるしかない。
だが、八神は教室で待っていた。机に突っ伏して寝ていた。こいつにとっての、人を騙して笑いたいという原動力は、相当なものだと思った。
「……八神君、八神君っ」
おもむろに八神が目を覚まし、起き上がる。本当に熟睡していたのだろう。頬に指の跡が付いていた。
「ごめん、お待たせ。帰ろっか。ふふっ」
ここは何か、リアクションしておいた方がいいかもしれないと、安西先輩を思い出し「跡が付いてるよ」と、はにかんでみせた。八神は、照れ臭そうに腕で顔を覆う。なんだその可愛い子アピールは。これが演技だとしたらアカデミー賞ものだ。
***
「げ、雨っ。さっきまで降ってなかったのに」
八神は昇降口の扉越しに外を眺めて、嫌そうに呟いた。
このリアクション、傘は持っていないようだ。もし八神が傘を持っていたら、自分は傘を忘れたふりをし八神の傘に入れてもらい、八神が傘を持っていなかったら、自分の折り畳み傘に彼を入れるつもりだった。
相合傘――
古典的な方法だが、極めて自然に体を密着させられる。その為にわざわざ小さな折り畳み傘を、母から借りてきた。
正直、自分の貧相な体を密着させた所で、この男が自分を女として意識するとは思えなかったけれど、逆にその貧相さがギャップとして響くかもしれない。
いや、何を言っているか分からなくなってきた。ただやるからには、ゼロじゃないと思いたかった。何かしら効果があると、私は信じたかった。
「今日夕方から降水確率、五十パーセントだったよ」
鞄から、私は折り畳み傘を取り出した。
「……一緒に入っていく?」
私は上目遣いで聞いてみた。自分としては、精一杯ぶりっ子しているつもりだが、他人から見たらどうか分からない。八神は一瞬たじろいだ。まずい、わざとらしかったかと私は焦った。大体女子の傘に一緒に入ることに抵抗があるかもしれない。
普段の自分だったら、逆の状況だったとして、まずその誘いに乗らないだろう。男子と傘という密室に閉じ込められる拷問を考えたら、そのまま雨にうたれながら走って帰ることを選ぶだろう。
「うん。助かるよ」と八神は続けた。凄いなリア充、と私は素直に感心した。
つづく
***
図書室を閉める時間になった頃、本当に雨が降ってきた。
それを望んでいたはずなのに、私の体は少し震えてきた。殺人犯が計画的に人を殺しにいく時、もしかしたら、こんな心持ちなのかもしれないと思った。
別の不安もあった。もう八神は待っていないかもしれない。帰ってしまったかもしれない。そうなれば計画は誤破産だ。また新たな計画を立てるか、そのまま祭りの日を迎えるしかない。
だが、八神は教室で待っていた。机に突っ伏して寝ていた。こいつにとっての、人を騙して笑いたいという原動力は、相当なものだと思った。
「……八神君、八神君っ」
おもむろに八神が目を覚まし、起き上がる。本当に熟睡していたのだろう。頬に指の跡が付いていた。
「ごめん、お待たせ。帰ろっか。ふふっ」
ここは何か、リアクションしておいた方がいいかもしれないと、安西先輩を思い出し「跡が付いてるよ」と、はにかんでみせた。八神は、照れ臭そうに腕で顔を覆う。なんだその可愛い子アピールは。これが演技だとしたらアカデミー賞ものだ。
***
「げ、雨っ。さっきまで降ってなかったのに」
八神は昇降口の扉越しに外を眺めて、嫌そうに呟いた。
このリアクション、傘は持っていないようだ。もし八神が傘を持っていたら、自分は傘を忘れたふりをし八神の傘に入れてもらい、八神が傘を持っていなかったら、自分の折り畳み傘に彼を入れるつもりだった。
相合傘――
古典的な方法だが、極めて自然に体を密着させられる。その為にわざわざ小さな折り畳み傘を、母から借りてきた。
正直、自分の貧相な体を密着させた所で、この男が自分を女として意識するとは思えなかったけれど、逆にその貧相さがギャップとして響くかもしれない。
いや、何を言っているか分からなくなってきた。ただやるからには、ゼロじゃないと思いたかった。何かしら効果があると、私は信じたかった。
「今日夕方から降水確率、五十パーセントだったよ」
鞄から、私は折り畳み傘を取り出した。
「……一緒に入っていく?」
私は上目遣いで聞いてみた。自分としては、精一杯ぶりっ子しているつもりだが、他人から見たらどうか分からない。八神は一瞬たじろいだ。まずい、わざとらしかったかと私は焦った。大体女子の傘に一緒に入ることに抵抗があるかもしれない。
普段の自分だったら、逆の状況だったとして、まずその誘いに乗らないだろう。男子と傘という密室に閉じ込められる拷問を考えたら、そのまま雨にうたれながら走って帰ることを選ぶだろう。
「うん。助かるよ」と八神は続けた。凄いなリア充、と私は素直に感心した。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる