16 / 95
1st round
第16話「告白ドッキリ 如月心乃香sideーその10」
しおりを挟む
七月十三日 日曜日
祭りの当日は見事に晴れて、待ち合わせの駅前は沢山の人々で賑わっていた。皆浮かれている。いや本来祭りというものは、そういうものなのかもしれない。
私は慣れない下駄で歩きながら八神の姿を探した。来ていないかもしれない。ふっとそう思った。こんなめかし込んだ自分をどこかから見て笑っているかもしれない。それでも告白ドッキリは彼らからしたら成功と言える。
ここにきて私は少し弱気になっていた。そんな時、明るい髪の色が私の視界に入った。私服姿だが間違いなく八神だ。普段と違うその八神の姿に、私は少し動揺してしまった。いや大丈夫だ。気合いの入り方なら絶対自分の方が上だ。
「八神君、お待たせ」
八神はその声に反応して、おもむろに振りかえってきた。次には唖然とした様子で、私の姿を見て立ち尽くす。いつもと違う自分の姿に驚いているのか、引いているのか分からない。
しばらくして八神が「じゃ、行こうか」と促してきた。自分の浴衣姿に対するコメントはなかった。
ガッカリと言うか、告白ドッキリを仕掛けるなら、ここは嘘でも誉めておくところではないか。私はやはり現実とは厳しいものだと、折角自分を着飾って送り出してくれた、母親と姉に申し訳なく思った。
少し着飾ったくらいで調子に乗っていた。自分のような弱者が、世界を変えられるわけがないのだ。
***
お祭りなんか久しぶりだった。正直自分は人がゴミゴミと密集するところが嫌いだ。こんなことがなければ絶対来なかっただろう。
祭りが好き、という人たちの気がしれなかった。ただそれを悟られないように私は「凄い人だね」とわざと戯けて見せた。
慣れない下駄のせいで私はふらついてしまった。斗哉が腕を掴んで支えてきた。体に触れられて、ドキッとした。私は動揺を悟られないように「ごめん、歩き慣れなくって」と、ハハハと愛想笑いで何とか返した。八神はそのまま私の手を握ってくる。
「あ、いや、危ないからさ」
流れるように手を握られて私は言葉も出なかった。まるで優しい紳士気取りで、この後こいつは私を突き放し、笑者にするのだと思うと、怒りでどうにかなりそうだった。
悔しい、絶対負けたくないっ。
私は、負けじと八神の手を握り返した。
つづく
祭りの当日は見事に晴れて、待ち合わせの駅前は沢山の人々で賑わっていた。皆浮かれている。いや本来祭りというものは、そういうものなのかもしれない。
私は慣れない下駄で歩きながら八神の姿を探した。来ていないかもしれない。ふっとそう思った。こんなめかし込んだ自分をどこかから見て笑っているかもしれない。それでも告白ドッキリは彼らからしたら成功と言える。
ここにきて私は少し弱気になっていた。そんな時、明るい髪の色が私の視界に入った。私服姿だが間違いなく八神だ。普段と違うその八神の姿に、私は少し動揺してしまった。いや大丈夫だ。気合いの入り方なら絶対自分の方が上だ。
「八神君、お待たせ」
八神はその声に反応して、おもむろに振りかえってきた。次には唖然とした様子で、私の姿を見て立ち尽くす。いつもと違う自分の姿に驚いているのか、引いているのか分からない。
しばらくして八神が「じゃ、行こうか」と促してきた。自分の浴衣姿に対するコメントはなかった。
ガッカリと言うか、告白ドッキリを仕掛けるなら、ここは嘘でも誉めておくところではないか。私はやはり現実とは厳しいものだと、折角自分を着飾って送り出してくれた、母親と姉に申し訳なく思った。
少し着飾ったくらいで調子に乗っていた。自分のような弱者が、世界を変えられるわけがないのだ。
***
お祭りなんか久しぶりだった。正直自分は人がゴミゴミと密集するところが嫌いだ。こんなことがなければ絶対来なかっただろう。
祭りが好き、という人たちの気がしれなかった。ただそれを悟られないように私は「凄い人だね」とわざと戯けて見せた。
慣れない下駄のせいで私はふらついてしまった。斗哉が腕を掴んで支えてきた。体に触れられて、ドキッとした。私は動揺を悟られないように「ごめん、歩き慣れなくって」と、ハハハと愛想笑いで何とか返した。八神はそのまま私の手を握ってくる。
「あ、いや、危ないからさ」
流れるように手を握られて私は言葉も出なかった。まるで優しい紳士気取りで、この後こいつは私を突き放し、笑者にするのだと思うと、怒りでどうにかなりそうだった。
悔しい、絶対負けたくないっ。
私は、負けじと八神の手を握り返した。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる