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第51話「三周目〜八神家〜」
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八神の自宅は学校からさほど遠く離れてないところにあり、とあるマンションの一角にあるようだった。セキュリティバリバリの高級マンションでなくて良かったと、私はホッとした。もしそのようなところだったら、もう八神の家に辿り着くまでに臆していただろう。
男子の家どころか、女子の家にも他人の家に上がったことがない。親戚の家ですら緊張するくらいなのだ。自分にしたらここまで来たことすら、大変な勇気がいることだった。
私は八神の家のドアの前に立つと、震えている体を落ち着かせる為、まず深呼吸した。
何で自分がこんなことをしなければならないのかと言う、八神への恨み言が頭をよぎる。もし最悪なことになっていたら許さない、絶対許さない。
私は意を決して、八神家のインターホンを押した。
何の反応もない――
私は湧き上がって来る不安を掻き消すように、もう一度インターホンを押した。
誰も出ない――
もし八神が本当に体調が悪いなら、本人だけでも自宅にいる筈だ。もしくはいるのだが、体調が悪すぎてインターホンに出られない、それとも病院に行っていて誰もいないのか。
その場合どうしようもない。でももしそうでなかったら。八神の連絡先など知らない。自宅の場所を聞いた時、家電の番号も聞いておけば良かったと私は後悔した。
私は近所の迷惑を考えず、ドンドンと乱暴に八神の家のドアを叩いた。
「八神、居ないのっ? どうしたのっ、大丈夫なのっ?」
何の反応もない。これは自分の手には余ると思った。とにかく担任に連絡して八神の家のことを相談しようと、スマホで学校の電話番号を確認しようとした。
その時――
キィッと、力なく八神家の玄関のドアが開いた。その薄暗い隙間から見えたのは、変わり果てた姿の八神だった。
***
「……如月?」
姿を現した八神の顔色は大変悪く、まるで生気がない。ゾンビにでもなったと言われても疑わなかっただろう。ここ二日で、八神は何十年も老けこんでしまったかのようだった。
「ちょっ、ちょっと、あんた大丈夫なのっ?」
八神は何か言おうとしてふらついた。私は慌てて八神を支えた。
「オレ、どうしたら……」
八神は定まらない視点で、譫言のように呟いた。
***
「両親が消えたっ?」
私は八神を居間のソファーに座らせながら、八神から発せられた事実に、驚きを隠せなかった。
「どう言うこと? ちゃんと説明して」
「昨日の朝起きたら、母さんが消えてたんだ。陸や将暉が消えた時と同じように。父さんに確認しても、そんな人知らないって言うし……」
八神は俯きながら、頭を抱えて続けた。
「昨日は学校休んで、あの神社に行ってたんだ。一日中張ってたけど、あの猫にはやっぱ会えなくて。それで今日朝起きたら」
八神の声は震えていた。
「父さんも消えてた。スマホのデータからも、昔の写真からも、両親の存在が無くなってる。もうオレどうしたらいいか分かんなくって……」
八神は今にも泣き出しそうなのを、必死で堪えてるようだった。私は他人がこんなに弱っている姿を見るのは初めてだった。八神のような人間でも、こんな風になってしまうものなんだと、その姿に親近感を覚えた。
まったく自分とは、違う世界の人間のように思ってた。決して分かり合えないと思っていたのに。
「とにかく、あんたお風呂入って来なさいよ」
「……え?」
「あんた、臭うわよ」
つづく
男子の家どころか、女子の家にも他人の家に上がったことがない。親戚の家ですら緊張するくらいなのだ。自分にしたらここまで来たことすら、大変な勇気がいることだった。
私は八神の家のドアの前に立つと、震えている体を落ち着かせる為、まず深呼吸した。
何で自分がこんなことをしなければならないのかと言う、八神への恨み言が頭をよぎる。もし最悪なことになっていたら許さない、絶対許さない。
私は意を決して、八神家のインターホンを押した。
何の反応もない――
私は湧き上がって来る不安を掻き消すように、もう一度インターホンを押した。
誰も出ない――
もし八神が本当に体調が悪いなら、本人だけでも自宅にいる筈だ。もしくはいるのだが、体調が悪すぎてインターホンに出られない、それとも病院に行っていて誰もいないのか。
その場合どうしようもない。でももしそうでなかったら。八神の連絡先など知らない。自宅の場所を聞いた時、家電の番号も聞いておけば良かったと私は後悔した。
私は近所の迷惑を考えず、ドンドンと乱暴に八神の家のドアを叩いた。
「八神、居ないのっ? どうしたのっ、大丈夫なのっ?」
何の反応もない。これは自分の手には余ると思った。とにかく担任に連絡して八神の家のことを相談しようと、スマホで学校の電話番号を確認しようとした。
その時――
キィッと、力なく八神家の玄関のドアが開いた。その薄暗い隙間から見えたのは、変わり果てた姿の八神だった。
***
「……如月?」
姿を現した八神の顔色は大変悪く、まるで生気がない。ゾンビにでもなったと言われても疑わなかっただろう。ここ二日で、八神は何十年も老けこんでしまったかのようだった。
「ちょっ、ちょっと、あんた大丈夫なのっ?」
八神は何か言おうとしてふらついた。私は慌てて八神を支えた。
「オレ、どうしたら……」
八神は定まらない視点で、譫言のように呟いた。
***
「両親が消えたっ?」
私は八神を居間のソファーに座らせながら、八神から発せられた事実に、驚きを隠せなかった。
「どう言うこと? ちゃんと説明して」
「昨日の朝起きたら、母さんが消えてたんだ。陸や将暉が消えた時と同じように。父さんに確認しても、そんな人知らないって言うし……」
八神は俯きながら、頭を抱えて続けた。
「昨日は学校休んで、あの神社に行ってたんだ。一日中張ってたけど、あの猫にはやっぱ会えなくて。それで今日朝起きたら」
八神の声は震えていた。
「父さんも消えてた。スマホのデータからも、昔の写真からも、両親の存在が無くなってる。もうオレどうしたらいいか分かんなくって……」
八神は今にも泣き出しそうなのを、必死で堪えてるようだった。私は他人がこんなに弱っている姿を見るのは初めてだった。八神のような人間でも、こんな風になってしまうものなんだと、その姿に親近感を覚えた。
まったく自分とは、違う世界の人間のように思ってた。決して分かり合えないと思っていたのに。
「とにかく、あんたお風呂入って来なさいよ」
「……え?」
「あんた、臭うわよ」
つづく
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