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3rd round after
第52話「三周目、共同戦線〜消失の原因〜」
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斗哉は心乃香に言われるまま、頭からシャワーを浴びていた。ここ二日、風呂に入るどころか食事もとっていないし、何より眠れなかった。
食欲も湧かないし眠気もやって来ない。人って食べなくても、眠らなくても生きていけるんじゃないかと、斗哉は思ったくらいだ。
(如月は、何でここに来たんだろう)
疲れ切った頭で斗哉が考えられるのは、そのくらいだった。
***
斗哉が髪を拭きながら居間に戻って来ると、フワッと良い香りがした。味噌汁の匂いだ。その香りを嗅いだ途端ぐうっと斗哉の腹が鳴った。心乃香はスマホで何やら調べていた。居間に入って来た斗哉に気がつく。
「あ、出たのね。あんたこの二日、ろくに食べてないんでしょ。勝手にキッチン漁らせてもらったから」
そう言うと、心乃香はおにぎりと味噌汁を居間のローテーブルに置いた。
「レトルトのご飯とインスタントの味噌汁だから、味は大丈夫だと思う。何か温かいもの体に入れた方がいい」
斗哉はその心乃香の心遣いに、涙が溢れそうになった。
***
「なるほど。二回、戻ったわけか……」
心乃香は虚空を見つめ何やら考えていた。斗哉はおにぎりをつまみながら、心乃香を見つめていた。
「こんな話、信じるのか」
「私も時間を戻してもらったから」
「えっ」
「まあ、八神には関係ないことだよ」
心乃香はサイドソファーに座りながら、顎に手を当てて何か思い出しながら呟いた。
「私が戻してもらった時、代償は自分の一部だって言われた。でも何が持っていかれたのか分からなかったのよね。五十嵐が消失するまで、そのことを忘れていたし」
「代償……そうだな」
さらに斗哉は顔を曇らせた。心乃香は斗哉の表情を注意深く見つめた。
「二度目を叶えてもらう時、代償は更に大きくなるって言われた。もしかしら『代償』として、両親や陸や将暉が持っていかれたんじゃないかってずっと考えてた」
思い詰める斗哉を見て、心乃香はしばらく考えた。
「確かにそうかもしれない。こんな不可思議なこと、あの猫が絡んでいるとしか思えないし。結局あの黒猫とは、それから会えてないのよね?」
斗哉は素直にこくりと頷いた。
「二度目を叶えてもらう時、もうこれが最後の最後だって言ってた。だからもう会えないのかもしれない」
心乃香の頭に最悪なパターンが過った。最終的に彼の両親が消えたことで、代償を払い切ったのだろうか。心乃香はこの、人が「消えた順番」も気になっていた。
「八神にとって消えた両親と友達が、あんたを構成する、大切な何かだったと考えたら、それはあんたの『一部』とも言えるかも」
「えっ」
「一部と聞いて体の一部と思わせられてたけど、それは黒猫のフェイクだったんじゃない? そう考えれば、四人が消えたこともしっくり来る」
「そうなのかな……」
斗哉は自分の体の一部が持っていかれたり、心乃香が消失した時以上の悪いことなど想像出来ていなかった。これが「代償」なのだとしたら、自分には何の覚悟もなかったのと同じだと感じていた。
「まあこれは仮定の話だけどね。落ち込んでる場合じゃないわよ。何とかしたいなら、あんたが何とかしないと」
「でもどうすれば。神社に何度行っても、黒猫に会えないし」
「あんたは黒猫に二度も会ってる。黒猫とあった時のこと、一から細かく思い出して。何か手がかりが見つかるかもしれない。元々あんたのせいなのよ?」
心乃香は項垂れる斗哉を睨みつけた。弱ってる人間を慰めるどころか、追い討ちを掛けて来る。ただ今の斗哉には、この心乃香の容赦なさがとても頼もしかった。
つづく
食欲も湧かないし眠気もやって来ない。人って食べなくても、眠らなくても生きていけるんじゃないかと、斗哉は思ったくらいだ。
(如月は、何でここに来たんだろう)
疲れ切った頭で斗哉が考えられるのは、そのくらいだった。
***
斗哉が髪を拭きながら居間に戻って来ると、フワッと良い香りがした。味噌汁の匂いだ。その香りを嗅いだ途端ぐうっと斗哉の腹が鳴った。心乃香はスマホで何やら調べていた。居間に入って来た斗哉に気がつく。
「あ、出たのね。あんたこの二日、ろくに食べてないんでしょ。勝手にキッチン漁らせてもらったから」
そう言うと、心乃香はおにぎりと味噌汁を居間のローテーブルに置いた。
「レトルトのご飯とインスタントの味噌汁だから、味は大丈夫だと思う。何か温かいもの体に入れた方がいい」
斗哉はその心乃香の心遣いに、涙が溢れそうになった。
***
「なるほど。二回、戻ったわけか……」
心乃香は虚空を見つめ何やら考えていた。斗哉はおにぎりをつまみながら、心乃香を見つめていた。
「こんな話、信じるのか」
「私も時間を戻してもらったから」
「えっ」
「まあ、八神には関係ないことだよ」
心乃香はサイドソファーに座りながら、顎に手を当てて何か思い出しながら呟いた。
「私が戻してもらった時、代償は自分の一部だって言われた。でも何が持っていかれたのか分からなかったのよね。五十嵐が消失するまで、そのことを忘れていたし」
「代償……そうだな」
さらに斗哉は顔を曇らせた。心乃香は斗哉の表情を注意深く見つめた。
「二度目を叶えてもらう時、代償は更に大きくなるって言われた。もしかしら『代償』として、両親や陸や将暉が持っていかれたんじゃないかってずっと考えてた」
思い詰める斗哉を見て、心乃香はしばらく考えた。
「確かにそうかもしれない。こんな不可思議なこと、あの猫が絡んでいるとしか思えないし。結局あの黒猫とは、それから会えてないのよね?」
斗哉は素直にこくりと頷いた。
「二度目を叶えてもらう時、もうこれが最後の最後だって言ってた。だからもう会えないのかもしれない」
心乃香の頭に最悪なパターンが過った。最終的に彼の両親が消えたことで、代償を払い切ったのだろうか。心乃香はこの、人が「消えた順番」も気になっていた。
「八神にとって消えた両親と友達が、あんたを構成する、大切な何かだったと考えたら、それはあんたの『一部』とも言えるかも」
「えっ」
「一部と聞いて体の一部と思わせられてたけど、それは黒猫のフェイクだったんじゃない? そう考えれば、四人が消えたこともしっくり来る」
「そうなのかな……」
斗哉は自分の体の一部が持っていかれたり、心乃香が消失した時以上の悪いことなど想像出来ていなかった。これが「代償」なのだとしたら、自分には何の覚悟もなかったのと同じだと感じていた。
「まあこれは仮定の話だけどね。落ち込んでる場合じゃないわよ。何とかしたいなら、あんたが何とかしないと」
「でもどうすれば。神社に何度行っても、黒猫に会えないし」
「あんたは黒猫に二度も会ってる。黒猫とあった時のこと、一から細かく思い出して。何か手がかりが見つかるかもしれない。元々あんたのせいなのよ?」
心乃香は項垂れる斗哉を睨みつけた。弱ってる人間を慰めるどころか、追い討ちを掛けて来る。ただ今の斗哉には、この心乃香の容赦なさがとても頼もしかった。
つづく
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