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3rd round after
第62話「三周目〜白〜」
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白い空間にそびえ立つ大きな鳥居の下に、顔を黒子のように白い布で覆っている、浅葱の袴を履いた誰かが立っていた。その人物が行燈を持ちながら、こちらに近づいて来る。固まっている斗哉と心乃香の前まで来ると、ふっと頭を下げた。
「お待ちしておりました。此方へお越しください」
その人物は再び鳥居へ向かうと、そのまま鳥居の向こうへ消えて行った。
二人はお互い顔を見合い、次には大体ここは何処なのだと周りを見渡す。さっきまで大社の境内にいたはずなのだ。だがその境内の景色は見る影もなく、何処までも白いのだ。だが斗哉には見覚えがあった。いつか夢で見た、黒猫と再開した場所によく似ている。
「行こう」
斗哉は心乃香の返事を待たず彼女の手を取ると、そのまま鳥居へ向かった。
鳥居を潜ると中は何故か真っ暗で、石段が遥か先まで続いていた。一歩石段を登ると、先の方まで左右に石段を照らすように灯籠が現れた。
遥か先に先程の人物が見える。斗哉は心乃香の手を握る力を強めて、意を決してその石段を登り始めた。
***
石段を登り切った所で、あの人物が待っていた。よくよく見ると、人ではないのではと斗哉は思った。
その人物が行燈を掲げると、大きな門が現れた。導かれるようにそこを潜ると、大社境内とよく似た景色が広がった。ただ何処か違う。何というか、この世のものとは思えないのだ。
「その通り。ここは現世ではないですよ」
心を読まれたのかと斗哉はビックリして、その人物を見遣った。
「ここは『神』の集う場所ですから」
その人物は抑揚なく答えた。
***
「わたくし、『白』と申します。以後お見知りおきを」
そう自己紹介されて、斗哉は慌てて返事をした。
「あ、オレは八神斗哉です。で、こっちは如月……心乃香です」
「存じておりますよ」
「えっ。あのさっき『お待ちしておりました』って言いましたよね。どう言うことですか」
「まあ、それは追々……とりあえず、お二人ともずぶ濡れなので、湯殿にご案内します」
そう言えば、さっき雨に降られてずぶ濡れだった。
「お二人、ご一緒に入りますか」
「えっ」
斗哉は何を言われてるか分からなかった。二人で? そう頭に浮かんで、心乃香の手を繋ぎっぱなしだったのに気が付いた。心乃香がやっと気が付いたかと、冷ややかに斗哉を睨んで来る。
「いつまで握ってるの」
「わっ、ごめんっ」
斗哉は慌てて、心乃香の手を離した。
「別でお願いします」
心乃香は冷静に、白に申し出た。
***
斗哉が案内された湯殿は、赤い屋根付きの大変広い露天風呂で、白濁した湯面に、桃色の花が幾つも浮かんでいた。あまりに現世離れした光景に、斗哉はあの世にでもいるんじゃないかと錯覚した。
斗哉は恐る恐る湯に足を入れてみる。変な感じはしない。そのまま意を決してゆっくり肩まで浸かってみる。
(はっー、生き返る)
今までの疲れが湯に溶けて行くようだと斗哉は感じた。真夏だと言うのに、あの境内は大変寒く感じた。雨のせいかもしれないが、斗哉は既にあの時、別の世界に足を突っ込んでいたんじゃないかと身震いした。
斗哉は湯を掬い顔を洗って、天を見上げる。
(絶対まともじゃない。さっきまでは夕方だったのに)
露天の空は、輝くばかりの星空だった。
もう自分は、死んでしまっているんじゃないかと斗哉は心配になった。
風呂は命の洗濯と言うけれど、斗哉は風呂に浸かる時、嫌なことを思い出すことが多かった。このじっくり考えられる時間が、好きじゃない。途端に両親や友人のことを思い出す。
(大丈夫。絶対、大丈夫……)
斗哉は頭まで湯に浸かり、暗示をかけるように心の中で呟いた。
つづく
「お待ちしておりました。此方へお越しください」
その人物は再び鳥居へ向かうと、そのまま鳥居の向こうへ消えて行った。
二人はお互い顔を見合い、次には大体ここは何処なのだと周りを見渡す。さっきまで大社の境内にいたはずなのだ。だがその境内の景色は見る影もなく、何処までも白いのだ。だが斗哉には見覚えがあった。いつか夢で見た、黒猫と再開した場所によく似ている。
「行こう」
斗哉は心乃香の返事を待たず彼女の手を取ると、そのまま鳥居へ向かった。
鳥居を潜ると中は何故か真っ暗で、石段が遥か先まで続いていた。一歩石段を登ると、先の方まで左右に石段を照らすように灯籠が現れた。
遥か先に先程の人物が見える。斗哉は心乃香の手を握る力を強めて、意を決してその石段を登り始めた。
***
石段を登り切った所で、あの人物が待っていた。よくよく見ると、人ではないのではと斗哉は思った。
その人物が行燈を掲げると、大きな門が現れた。導かれるようにそこを潜ると、大社境内とよく似た景色が広がった。ただ何処か違う。何というか、この世のものとは思えないのだ。
「その通り。ここは現世ではないですよ」
心を読まれたのかと斗哉はビックリして、その人物を見遣った。
「ここは『神』の集う場所ですから」
その人物は抑揚なく答えた。
***
「わたくし、『白』と申します。以後お見知りおきを」
そう自己紹介されて、斗哉は慌てて返事をした。
「あ、オレは八神斗哉です。で、こっちは如月……心乃香です」
「存じておりますよ」
「えっ。あのさっき『お待ちしておりました』って言いましたよね。どう言うことですか」
「まあ、それは追々……とりあえず、お二人ともずぶ濡れなので、湯殿にご案内します」
そう言えば、さっき雨に降られてずぶ濡れだった。
「お二人、ご一緒に入りますか」
「えっ」
斗哉は何を言われてるか分からなかった。二人で? そう頭に浮かんで、心乃香の手を繋ぎっぱなしだったのに気が付いた。心乃香がやっと気が付いたかと、冷ややかに斗哉を睨んで来る。
「いつまで握ってるの」
「わっ、ごめんっ」
斗哉は慌てて、心乃香の手を離した。
「別でお願いします」
心乃香は冷静に、白に申し出た。
***
斗哉が案内された湯殿は、赤い屋根付きの大変広い露天風呂で、白濁した湯面に、桃色の花が幾つも浮かんでいた。あまりに現世離れした光景に、斗哉はあの世にでもいるんじゃないかと錯覚した。
斗哉は恐る恐る湯に足を入れてみる。変な感じはしない。そのまま意を決してゆっくり肩まで浸かってみる。
(はっー、生き返る)
今までの疲れが湯に溶けて行くようだと斗哉は感じた。真夏だと言うのに、あの境内は大変寒く感じた。雨のせいかもしれないが、斗哉は既にあの時、別の世界に足を突っ込んでいたんじゃないかと身震いした。
斗哉は湯を掬い顔を洗って、天を見上げる。
(絶対まともじゃない。さっきまでは夕方だったのに)
露天の空は、輝くばかりの星空だった。
もう自分は、死んでしまっているんじゃないかと斗哉は心配になった。
風呂は命の洗濯と言うけれど、斗哉は風呂に浸かる時、嫌なことを思い出すことが多かった。このじっくり考えられる時間が、好きじゃない。途端に両親や友人のことを思い出す。
(大丈夫。絶対、大丈夫……)
斗哉は頭まで湯に浸かり、暗示をかけるように心の中で呟いた。
つづく
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