【完結】遠くて近きは幼なじみ

カムナ リオ

文字の大きさ
12 / 23
第二章

第12話「情欲の延長線にある」

しおりを挟む
「うわっ! いたのか⁉︎  ……翔太、お前電気も点けけないで、何やってるんだよ」

「あ……兄貴」

 翔太は、居間のソファから気怠そうにむくっと体を起こした。

「なんだ? 具合悪いのか?」
「違う……大丈夫……。あ、ごめん、飯の支度してない。今からやるよ」

 翔太は視点の定まらない眼差しで、台所を見遣った。

「いや、いいって。……腹減ったしさ、もう、ピザでも取ろうぜ」

 そう言うと、兄の陽太ようたはスマホのピザ屋のアプリを立ち上げた。


***

「マジ、美味そう‼︎  ピザ屋のピザはやっぱ至高だよな!」

 そう言いながらピザを切り分けると、陽太はピザを口にめいいっぱいに頰ばった。

「……」

 陽太は、翔太が先程から一口もピザに手を付けないどころか、一言も口を開かない事が、流石に気になった。

「……なんか、あった?」
「……」
「……」
「……俺、腹減ってないから、もう部屋行くわ……」

 そうこの場を逃げようとする翔太に、陽太は更にピザに手を伸ばしながら、質問した。

「お前さ、華ちゃんと付き合ってるの?」

 翔太は、その質問にギョッと振り向いた。

「……な、なんで……」
「金曜の朝方、華ちゃんがウチから飛び出して来るの見たんだよね」
 


(見られてた⁉︎)

 翔太は、心臓が凍りつきそうになった。

「オレあの日、始発で朝方帰って来たの。で、もうすぐ家着くわーと思ったら、家から女の子、飛び出して来るじゃん? マジびびったわ。よく見たら華ちゃんじゃん、あれ? と思ってさ……」

 その頃自分は眠っていて、兄の帰宅に全く気が付かなかった。翔太はゾッとしたが、兄はピザを食べながらニヤニヤと続けた。

「お前の今日のその感じ、何? フラれたの?」
「そんなんじゃないって‼︎」

 翔太が珍しく声を荒らげたので、陽太はピザを食べるのをやめて、冷ややかに目を細めた。

「付き合ってるにしても、してないにしても、いい加減な事してんなよ。あの時、近所の他の誰かに見られてたら、噂になんぞ」

 先程までの、陽気で穏やかな風態の陽太はもういなかった。冷厳な顔をした兄だった。

「ご近所で噂になってさ……傷が付くの女の子の華ちゃんだろ? そんな事も、分からない訳じゃないじゃないだろ」

 その厳しい眼差しの兄の前で、翔太は何も言えなくなった。

 あの日――なんで、華のメッセージに返信してしまったんだろう?

 なんで、家に上げてしまったんだろう?
 それに加えて、さっきまた別れ際傷つけて、もしあの日ウチから出て行く華が、兄以外の誰かに見られてたらと思うと、ゾッとした。

 何処までも、華を傷つけてしまう自分が本当に嫌だった。

「……って、まあオレが偉そうに、言えた事じゃないけど。父さんには黙っててやるから、来週の家事当番替わってよ」

 弟にそう強請る陽太は、いつものおちゃらけた兄だった。

「まあ、とにかくちゃんと避妊しろよ」
「……は⁉︎  だから、そんなんじゃないって!」
「でも、お前、華ちゃんの事好きなんじゃないの?」

 翔太はその言葉を聞いて、うっとなった。

 違う――

「そんな、綺麗な感情じゃない……」

 項垂れる翔太を見遣って、陽太はウーロン茶のペットボトルを手に取った。

「恋愛感情が綺麗だと思ってるなんて、まだまだガキだな」

 そう告げると、陽太は呆れながらハハっと笑った。


つづく
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...