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第二章

第12話「情欲の延長線にある」

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「うわっ! いたのか⁉︎  ……翔太、お前電気も点けけないで、何やってるんだよ」

「あ……兄貴」

 翔太は、居間のソファから気怠そうにむくっと体を起こした。

「なんだ? 具合悪いのか?」
「違う……大丈夫……。あ、ごめん、飯の支度してない。今からやるよ」

 翔太は視点の定まらない眼差しで、台所を見遣った。

「いや、いいって。……腹減ったしさ、もう、ピザでも取ろうぜ」

 そう言うと、兄の陽太ようたはスマホのピザ屋のアプリを立ち上げた。


***

「マジ、美味そう‼︎  ピザ屋のピザはやっぱ至高だよな!」

 そう言いながらピザを切り分けると、陽太はピザを口にめいいっぱいに頰ばった。

「……」

 陽太は、翔太が先程から一口もピザに手を付けないどころか、一言も口を開かない事が、流石に気になった。

「……なんか、あった?」
「……」
「……」
「……俺、腹減ってないから、もう部屋行くわ……」

 そうこの場を逃げようとする翔太に、陽太は更にピザに手を伸ばしながら、質問した。

「お前さ、華ちゃんと付き合ってるの?」

 翔太は、その質問にギョッと振り向いた。

「……な、なんで……」
「金曜の朝方、華ちゃんがウチから飛び出して来るの見たんだよね」
 


(見られてた⁉︎)

 翔太は、心臓が凍りつきそうになった。

「オレあの日、始発で朝方帰って来たの。で、もうすぐ家着くわーと思ったら、家から女の子、飛び出して来るじゃん? マジびびったわ。よく見たら華ちゃんじゃん、あれ? と思ってさ……」

 その頃自分は眠っていて、兄の帰宅に全く気が付かなかった。翔太はゾッとしたが、兄はピザを食べながらニヤニヤと続けた。

「お前の今日のその感じ、何? フラれたの?」
「そんなんじゃないって‼︎」

 翔太が珍しく声を荒らげたので、陽太はピザを食べるのをやめて、冷ややかに目を細めた。

「付き合ってるにしても、してないにしても、いい加減な事してんなよ。あの時、近所の他の誰かに見られてたら、噂になんぞ」

 先程までの、陽気で穏やかな風態の陽太はもういなかった。冷厳な顔をした兄だった。

「ご近所で噂になってさ……傷が付くの女の子の華ちゃんだろ? そんな事も、分からない訳じゃないじゃないだろ」

 その厳しい眼差しの兄の前で、翔太は何も言えなくなった。

 あの日――なんで、華のメッセージに返信してしまったんだろう?

 なんで、家に上げてしまったんだろう?
 それに加えて、さっきまた別れ際傷つけて、もしあの日ウチから出て行く華が、兄以外の誰かに見られてたらと思うと、ゾッとした。

 何処までも、華を傷つけてしまう自分が本当に嫌だった。

「……って、まあオレが偉そうに、言えた事じゃないけど。父さんには黙っててやるから、来週の家事当番替わってよ」

 弟にそう強請る陽太は、いつものおちゃらけた兄だった。

「まあ、とにかくちゃんと避妊しろよ」
「……は⁉︎  だから、そんなんじゃないって!」
「でも、お前、華ちゃんの事好きなんじゃないの?」

 翔太はその言葉を聞いて、うっとなった。

 違う――

「そんな、綺麗な感情じゃない……」

 項垂れる翔太を見遣って、陽太はウーロン茶のペットボトルを手に取った。

「恋愛感情が綺麗だと思ってるなんて、まだまだガキだな」

 そう告げると、陽太は呆れながらハハっと笑った。


つづく
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