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第六章
第23話「祭りの夜」
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華は反射的に、その声から逃れようとして、ジャングルジムを踏み外しそうななった。
「わっ!」
「ばっ、ばか!」
その声の主が、慌てて駆け寄って来た。
「……ごめん、急に声掛けて。大丈夫か?」
華は何故だか、その声の主の顔をまともに見られなかった。
「だ、大丈夫」
心臓が早鐘を打ってる。きっと、ジャングルジムを踏み外しそうになったからと思いたいが、そうじゃない。ここからすぐに離れなければ、どうにかなると華は感じた。
「……私、もう、帰るね」
そう言うのが精一杯だった。何とかその場から離れようと思ったが、声の主は逃さないと華の手を掴んで来た。
「待って、華!」
掴んで来た手の力が思いの外強くて、華はドキリとした。
「逃げないで。この前の事……ごめん」
華はその事が思い浮かんで、ギクリとした。
「……あんな、形で……キスなんかして」
華はあの時の事が鮮明に思い出され、カァっと首元が熱くなった。何で謝るの?私が悪いのに……華は何故だか、涙が溢れそうになった。
「でも、俺、ハッキリ分かったよ。あれからもずっと考えてたけど、やっぱり華の事が好きだ」
華は、その言葉に悲しさと嬉しさがないまぜになって、どうしていいか分からなくなった。
「多分、ずっと好きだった。ここで逢った頃からずっと。今は少し……形が変わったかもしれないけど、それでも好きだよ」
私だって、ずっと昔から翔太が好きだった。でもそれは、翔太の好きとは違うのだ。違う筈なのだ。
「華は、俺の事、どう思ってるの?」
「……好きだよ。でも、そう言う好きじゃない」
翔太は一瞬切なそうな顔をしたが、暫くして顔を上げない華を覗き込んで来た。
「本当に?」
普段の翔太なら、そんな風に切り込んで来ない。華はビックリして、思わず顔を上げてしまった。翔太の真剣な目が華を捉えて離さない。
華は動けなかった。
「俺とキスして、何とも思わなかった?」
「……っ」
何とも思ってなかったら、今こんな状態になってない。テストだってあんな悲惨な事になってないし、翔太の事が、頭から離れないなんて事なかった筈だ……それなのに……
華は、翔太に全て見透かされてるみたいで、怖くなった。
「……な、何とも、思って……ない」
華はそう絞り出すと、何とか翔太から目を逸らした。
「……もう一度、試してみる?」
「え?」
翔太はそう言うと、華の両肩を掴んだ。
「まっ、待って‼︎ もうダメ!」
「どうして、ダメなの? ……何とも思ってないんじゃないの?」
華は体がどうしようもなく、熱くなった。無理だ、もう一度されたら、私……
「……嘘だよ……ずっと、忘れられなかった。私……ごめん、あんな事言い出して。謝るのは私の方なのに……ごめん」
華は堪えられずに、ポロポロと涙を溢した。
私、ずるい。でも何故だが涙が止まらない。
すると、翔太が華の涙を優しく拭った。
「俺の方こそ、ムキになってごめん。でも、華も忘れられなかったんだ? ちょっとは脈あるって事?」
翔太はそう言うと、華を覗き込む。
華は真っ赤になった。
「分かんない……これが、翔ちゃんと同じ好きなのか。ずっとずっと、大切な友達だったから。本当に大切だったから」
「俺もそうだよ。でも、それだけじゃなくなったっていうか……それが華に嫌がれると思ってたから、自分でも認めたくなかったけど、華とキスして……嫌って程、自分の気持ちに気付かされた。そう言う意味では、責任取って欲しいけどね」
ハハっと、翔太は困った様に笑った。
ムキになってた――自分を正当化したいだけで、翔太の気持ちも無視して。
自分は我を通したいだけだ。それで何が「大切だ」と華は感じた。
「……する? もう一度?」
「え?」
「……あ……えっと、キス……」
「いいの? ……多分俺、もう一度したら、華の事絶対離したくなくなると思うけど」
華はとんでもない事を翔太に言われてる気がしたが、ずっと離れたくないと思ってるのは自分も同じだと思った。
「……私も、離れたくないよ」
「そんな事言われると、勘違いしそうになるんだけど……勘違いじゃないって思っていいの?」
「わ、分かんない……だから、もう一回キスして?」
翔太は、やれやれと少し呆れた様に微笑んだ。
「目、閉じて……いや、やっぱいいや」
そう言うと優しく華に口づけた。あの柔らかな感触がまた押し付けらて、華は心臓が飛び出しそうだった。翔太は一度口を離して、もう一度唇を重ねる。もう一度……
「どう?」
華は、耳まで真っ赤だった。
無理……こんなの無理。翔太の顔を見られない。
恥ずかしいのに、何だか幸せな気持ちが心の底から溢れて来る様だった。何これ?
「……無理、恥ずかしくて、死にそう……」
「嫌だった?」
「……嫌じゃない、どうしよう……どうしよう」
オロオロと顔を赤らめ、必死に狼狽える華を見て翔太は可笑しくなると同時に、満たされた気分になったら。
「もう、俺の事好きって事じゃない?」
「……っうううう‼︎」
更に華は慌てた様子で、涙目で茹蛸みたいに真っ赤になる。それが可愛く思えて、翔太はもう一度華に口づけた。
次の瞬間、辺りがぱあっと明るくなった。
目を開けると、花火の光にお互いの顔が照らされた。翔太は華を真っ直ぐ見つめ、華も翔太を真っ直ぐ見つめ返していた。そして、空を見上げる――
「花火……こんな所でも、ちゃんと見られるんだな」
「……そうだね」
賑やかな喧騒から離れた場所から、こんな風に二人だけで花火を見上げるのも、悪くないと華は思った。
翔太は黙って、華の手を繋いで来た。
もう昔の様な小さくて可愛い手ではないけれど、それは確かに翔太の手だった。
マスターに言われた、あの言葉が蘇る。
「『友情』とか『そうじゃないとか』こだわる事ってそんな大切かしら?」
そうだ、そんな事どうだって良かったんだ。
翔太の事が大切で「好き」と言う気持ちは揺るぎようのない事なんだ。
今、翔太が隣に居てくれる……もう、私はそれだけで幸せなんだと、華はそんな当たり前の事に、やっと気がついた。
華は戸惑いながらも、翔太の手をぎゅっと握り返した。
おわり
「わっ!」
「ばっ、ばか!」
その声の主が、慌てて駆け寄って来た。
「……ごめん、急に声掛けて。大丈夫か?」
華は何故だか、その声の主の顔をまともに見られなかった。
「だ、大丈夫」
心臓が早鐘を打ってる。きっと、ジャングルジムを踏み外しそうになったからと思いたいが、そうじゃない。ここからすぐに離れなければ、どうにかなると華は感じた。
「……私、もう、帰るね」
そう言うのが精一杯だった。何とかその場から離れようと思ったが、声の主は逃さないと華の手を掴んで来た。
「待って、華!」
掴んで来た手の力が思いの外強くて、華はドキリとした。
「逃げないで。この前の事……ごめん」
華はその事が思い浮かんで、ギクリとした。
「……あんな、形で……キスなんかして」
華はあの時の事が鮮明に思い出され、カァっと首元が熱くなった。何で謝るの?私が悪いのに……華は何故だか、涙が溢れそうになった。
「でも、俺、ハッキリ分かったよ。あれからもずっと考えてたけど、やっぱり華の事が好きだ」
華は、その言葉に悲しさと嬉しさがないまぜになって、どうしていいか分からなくなった。
「多分、ずっと好きだった。ここで逢った頃からずっと。今は少し……形が変わったかもしれないけど、それでも好きだよ」
私だって、ずっと昔から翔太が好きだった。でもそれは、翔太の好きとは違うのだ。違う筈なのだ。
「華は、俺の事、どう思ってるの?」
「……好きだよ。でも、そう言う好きじゃない」
翔太は一瞬切なそうな顔をしたが、暫くして顔を上げない華を覗き込んで来た。
「本当に?」
普段の翔太なら、そんな風に切り込んで来ない。華はビックリして、思わず顔を上げてしまった。翔太の真剣な目が華を捉えて離さない。
華は動けなかった。
「俺とキスして、何とも思わなかった?」
「……っ」
何とも思ってなかったら、今こんな状態になってない。テストだってあんな悲惨な事になってないし、翔太の事が、頭から離れないなんて事なかった筈だ……それなのに……
華は、翔太に全て見透かされてるみたいで、怖くなった。
「……な、何とも、思って……ない」
華はそう絞り出すと、何とか翔太から目を逸らした。
「……もう一度、試してみる?」
「え?」
翔太はそう言うと、華の両肩を掴んだ。
「まっ、待って‼︎ もうダメ!」
「どうして、ダメなの? ……何とも思ってないんじゃないの?」
華は体がどうしようもなく、熱くなった。無理だ、もう一度されたら、私……
「……嘘だよ……ずっと、忘れられなかった。私……ごめん、あんな事言い出して。謝るのは私の方なのに……ごめん」
華は堪えられずに、ポロポロと涙を溢した。
私、ずるい。でも何故だが涙が止まらない。
すると、翔太が華の涙を優しく拭った。
「俺の方こそ、ムキになってごめん。でも、華も忘れられなかったんだ? ちょっとは脈あるって事?」
翔太はそう言うと、華を覗き込む。
華は真っ赤になった。
「分かんない……これが、翔ちゃんと同じ好きなのか。ずっとずっと、大切な友達だったから。本当に大切だったから」
「俺もそうだよ。でも、それだけじゃなくなったっていうか……それが華に嫌がれると思ってたから、自分でも認めたくなかったけど、華とキスして……嫌って程、自分の気持ちに気付かされた。そう言う意味では、責任取って欲しいけどね」
ハハっと、翔太は困った様に笑った。
ムキになってた――自分を正当化したいだけで、翔太の気持ちも無視して。
自分は我を通したいだけだ。それで何が「大切だ」と華は感じた。
「……する? もう一度?」
「え?」
「……あ……えっと、キス……」
「いいの? ……多分俺、もう一度したら、華の事絶対離したくなくなると思うけど」
華はとんでもない事を翔太に言われてる気がしたが、ずっと離れたくないと思ってるのは自分も同じだと思った。
「……私も、離れたくないよ」
「そんな事言われると、勘違いしそうになるんだけど……勘違いじゃないって思っていいの?」
「わ、分かんない……だから、もう一回キスして?」
翔太は、やれやれと少し呆れた様に微笑んだ。
「目、閉じて……いや、やっぱいいや」
そう言うと優しく華に口づけた。あの柔らかな感触がまた押し付けらて、華は心臓が飛び出しそうだった。翔太は一度口を離して、もう一度唇を重ねる。もう一度……
「どう?」
華は、耳まで真っ赤だった。
無理……こんなの無理。翔太の顔を見られない。
恥ずかしいのに、何だか幸せな気持ちが心の底から溢れて来る様だった。何これ?
「……無理、恥ずかしくて、死にそう……」
「嫌だった?」
「……嫌じゃない、どうしよう……どうしよう」
オロオロと顔を赤らめ、必死に狼狽える華を見て翔太は可笑しくなると同時に、満たされた気分になったら。
「もう、俺の事好きって事じゃない?」
「……っうううう‼︎」
更に華は慌てた様子で、涙目で茹蛸みたいに真っ赤になる。それが可愛く思えて、翔太はもう一度華に口づけた。
次の瞬間、辺りがぱあっと明るくなった。
目を開けると、花火の光にお互いの顔が照らされた。翔太は華を真っ直ぐ見つめ、華も翔太を真っ直ぐ見つめ返していた。そして、空を見上げる――
「花火……こんな所でも、ちゃんと見られるんだな」
「……そうだね」
賑やかな喧騒から離れた場所から、こんな風に二人だけで花火を見上げるのも、悪くないと華は思った。
翔太は黙って、華の手を繋いで来た。
もう昔の様な小さくて可愛い手ではないけれど、それは確かに翔太の手だった。
マスターに言われた、あの言葉が蘇る。
「『友情』とか『そうじゃないとか』こだわる事ってそんな大切かしら?」
そうだ、そんな事どうだって良かったんだ。
翔太の事が大切で「好き」と言う気持ちは揺るぎようのない事なんだ。
今、翔太が隣に居てくれる……もう、私はそれだけで幸せなんだと、華はそんな当たり前の事に、やっと気がついた。
華は戸惑いながらも、翔太の手をぎゅっと握り返した。
おわり
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おもしろい!
感想ありがとうございます!
第二十三話まで読みました。
幼馴染の男女が「友情」と「愛情」の間で戸惑いながら、親しくなっていく関係性をよく書けていたと思います。
作品の方、読んでくださりありがとうございました!
男女間の幼馴染のもどかしい感じが、伝わった様で嬉しいです。
今回は、感想ありがとうございました!
お互いに想いあっているのにね(✿☉。☉)中々‥
じれったい!
両片想いの醍醐味ですね!w