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月夜と王宮のマグノリア

第十二話

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「ユエでしたらハイブリッドとはいえ、半分はひとであるオーウェンの血が流れているのですもの、きっと理に反することはないのではないかしら」

 王妃の言葉にアンジェラスの肩が揺れる。

 十四歳になった王女は結婚適齢期。十八歳であるユエもまた然り。それにユエであれば身分も申し分なく、エレノアの結婚相手には最適であった。

 初代グランディー国王がティグリスの許に訪れ、国に加護をもたらさんと乞うたいにしえの昔。人間と獣が伴侶となることを禁じたのはティグリスだ。

 それは近親間での契りで遺伝子に異常をきたすように、人間と獣のあいだであっても同じく異常をきたす恐れがあると危惧したため。

 よって両親ともに聖獣の血を引くアンジェラスが、人間と婚姻することはできないのだ。

 殊にユエはというと、母親がルーの姉ティア、父親は人間であるオーウェンだ。過去にふたりも反対にあったが、紆余曲折あり今は幸せな家庭を築いている。

 そのふたりから血を受け継ぐユエは金色こんじきのオーラを発し、血の交わりから彼が特別であることを物語っていた。

 獣の血を引いてはいるが、半分が人間であるユエならば王女と婚姻できるかもしれない。王女とユエがより添うすがたに想像をめぐらせ、名案とばかりに王妃はエレノアに話をふる。

「どうかしらエレノア、ユエでしたら申し分なくてよ」

 対する王女も頬を染めると、うつむき加減に淑やかな視線をユエに送っていた。
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