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月夜と王宮のマグノリア

第十六話

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 本日より中位魔術書から高位魔術書へと教学が移る。

 グランディーでも数の少ない、扱いには細心の注意が必要な書。悪魔や精霊それに天使の力を借りて自身の魔力を転化させ発動させる、黒の書とも呼ばれるグリモワール。

 なかには危険な奥義なども含まれており、術の使用は厳しい規定がされている。

 その他にも魔術陣の描きかたや、魔法障壁で身を守る方法など事細かに記されていて、すべてを読み解くにもひと苦労だ。

 まずは触りから目を通す。重要な部分はその都度羽ペンでルーズリーフに書き込み、文字を脳に刻んでゆく。魔力を秘めた羽ペンは、書いた文字がするりと剥がれ脳に吸収されるのだ。

「こんにちは。アンジェラス」

 小一時間ほど経過した頃か。部屋の角に置かれた書架のあいだより、アンジェラスに向け小さな挨拶の声が耳に届く。

 即座に反応をしたアンジェラスは、書架の足許に視線を落とすと返事をする。

「やあ、ロッタさん。こんにちは」

 アンジェラスが挨拶をするのは、礼拝堂の住獣であるねずみのロッタ。よわいが不詳の大ねずみ、ハリマウの森に住む小獣族の長老だ。

 幼い頃のこと。度々ベッドを抜け出しては神殿内にある礼拝堂に小さな冒険へくり出していたアンジェラスは、そこでロッタと出会い様々な話を聞かせてもらった。

 それ以後もロッタと交友を育み、変わらず話をねだっている次第だ。今は義務を果たすため時間の制限されたアンジェラスの代わりに、こうしてロッタが顔を見にやってくる。
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