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第一章 変貌
第五十三話
しおりを挟む「櫂──おまえ何を……」
さすがに周防の趣向に気がついたのか、驚きに表情を歪めた西園寺がわななく。それ以上は言ってくれるなとても訴えるかのように、周防に慈悲を求めてつぶやいた。
早速蒔いた種が芽吹いたようだ。周防と夫を交互に見つめる妻、聞き捨てならない内容に朗らかな表情を硬化させ周防に問う。
「えっ、意味が分からない。周防さん、それどういうこと? 夫から何を聞いているのか詳しく教えて下さいますか」
「あーごめんなさい、もしかしなくても言っちゃ不味かったすか。つか男なんて多かれ少なかれ気の多い生き物なんで、あんまり責めねえでやって下さい。
ほら”飲む、打つ、買う”って言うじゃないですか。聞くかぎりじゃもっと深刻かと思ってたんですが、今日もデートに出かけたりとか仲良さ気みてえだし」
「水緒さんいい嫁じゃん。藤隆おまえ適当なこと言ってンなよ」と不意にボールを投げてやれば、今度こそ絶望の色を浮かべ西園寺は頭を抱える。
周防は男だ端から不倫相手として勘ぐられることはないだろう。
これで妻には”夫に女の影が”と匂わせることができたはずだ。あとは言い合うなり罵るなり、勝手に自爆してくれと腹でせせら笑う。
血の気が失せた顔、助けを乞うような目を周防に向ける西園寺。それまで絶やすことのなかった笑顔から一転、無表情に努める周防。妻に至っては能面のようだ。
最後に西園寺と視線を合わせ「夕方からの予定、あれもうパスすっから」と関係を拒絶し、妻には「これ僕のアドレスです。何かあれば連絡を」と名刺を渡して席を立つ。
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